『N+ エヌプラス2020(新たな価値をプラスする素材・技術・機械の展示会)』現地レポート

軽量化や高強度化、耐熱、放熱、断熱、コーティングと表面処理、セルロースナノファイバー、環境対応技術といった展示構成で出展社や団体がピンポイントで自社の技術力やサービスを展示できるのがN+(以下、エヌプラス)です。2019年の来場者数は2万9,075人(3日間、同時開催展含む)、今回2020年は1万1,276人(同)と新型コロナの影響で少なくなったものの、出展社と来場者、関係者らが熱心に商談や情報交換などを行っていました。

また、エヌプラスはいわゆる「空飛ぶクルマ」であるフライングカーテクノロジーの展示会、EV・PHV普及活用技術展(EVEX)、衛星測位・位置情報展(SATEX)が併催され、異業種間の情報交換や新たな顧客創出など相互に影響し合う展示会となっています。

特に、フライングカーテクノロジーは各社・団体によって有人による飛行試験が盛んに行われ始め、空飛ぶクルマは自動運転技術が共通する自動車関係の業界からも注目を集めている技術で、移動手段の自動化には衛星通信や測位技術が欠かせません。実際、会場ではEV関係や衛星通信のブースも隣接し、ほかの業種から興味深そうに足を向ける出展社の方も見受けられました。そんな本展示会から興味深い技術をいくつか紹介しましょう。


▽おすすめ関連記事

CFRP用アルミ合金ナットとボルトの電食を防止する表面処理技術

CFRP(炭素繊維強化プラスチック)用のインサートナットを展示していたのは、1917年創立時からネジ製造を始めた株式会社ヤマシナ(京都市山科区)です。CFRPは熱可塑性樹脂を使う技術が広がり、量産化による低コスト化が図られはじめていますが、接着による接合以外のボルト締結に問題があると言います。

説明してくださった同社取締役マーケティング本部長の古川泰司(ふるかわ・やすし)氏によると、例えば自動車に使うCFRP同士をアルミ合金などの金属製ナットやボルトで締結する場合、雨水や塩水などにさらされると電位差による電食が生じてナットやボルトが腐食し、CFRPに食い込んだ部分が変化して強度を保ちにくくなるそうです。

同社では電食を防ぐため、アルミ合金のナットの表面に特殊な硬質アルマイト皮膜をベースにした処理を施して電気絶縁性をもたせる技術を確立しました。炭素繊維を40%含んだCFRP(PA-CF40)に同社のナットをインサートし、浸漬10分、大気ばく露50分の合計1時間サイクルで行う塩水交互浸漬試験を3,000時間行っても電食によるナットの腐食はみられなかったそうです。

また、古川氏によると、CFRPにインサートしての電食を防ぐと同時に、鉄の1/3というアルミ合金の軽量性、ネジ製造メーカーとして培った高い締結力とCFRPからの高い引き抜き強度などの利点があると言います。このアルミ合金ナットの開発は6年前くらいから始め、従来の皮膜技術ではネジ山や食い込む角などに薄い被膜が生じ、そこから応力腐食割れが生じたのを均等に皮膜することで解決したそうです。さらに、ナットを皮膜する硬質アルマイトの特殊陽極酸化処理の技術はすでに特許取得済みだとのことです。


同社のCFRPにインサートするアルミ合金ナット(左)と従来のナット(右)。従来のナットが電食によって腐食しているのに比べ、同社のナットにはそれが見られないのがわかります。
同社のCFRPにインサートするアルミ合金ナット(左)と従来のナット(右)。従来のナットが電食によって腐食しているのに比べ、同社のナットにはそれが見られないのがわかります。


ファイバーレーザーを用いた焼けや歪みの少ない薄板溶接技術

市販のファイバーレーザー溶接機を自社でカスタマイズし、肉厚0.05㎜の薄板溶接の技術を展示していたのは株式会社マツダ(静岡県富士市)です。同社ブースには、板厚0.1㎜のステンレスで作られた32面の直径6㎜のサッカーボール、トーチが入りにくい角度でフィンが溶接された円筒型ステンレスの放熱板などを出展していました。

同社の代表取締役社長、松田洋一(まつだ・よういち)氏によると、薄板の場合、接合したい接点とファイバーレーザー光の焦点のズレが少しでもあると溶接できないためマイクロスコープを導入したと言います。また、ワークが小さくなればなるほど焦点ズレが起きるので、治具を粘土にするなどして工夫し課題を克服してきたそうです。

溶接技能の審査会でグランプリを受賞するなど評価を受ける同社の溶接技術によって作られた円筒型ステンレス(SUS304)は、0.3㎜厚の円筒型に0.1㎜の放熱フィンを溶接したものです。通常、部分溶接にして歪みを少なくするそうですが、それだと熱伝導率が低くなるため、同社はTIGレーザーやYAGレーザーではなくファイバーレーザーを使うことで全周溶接を行いつつ、ほぼ歪みのない熱伝導率の高い製品を作ったそうです。

松田氏によると、YAGレーザーはステンレスの溶接で0.5㎜厚までが限界だといい、ビーム径が約0.1㎜と小さいファイバーレーザー溶接を使うことで焼けや歪みの少ない溶接が可能になると言います。ただし、溶接したい母材同士の合わせ面に隙間があると溶接できないため、溶接面が密着していることが重要です。そのため、溶接前の切断などの加工でもファイバーレーザーを使い、精度を高めていると言います。

こうした薄板の溶接は医療や半導体などの分野でニーズが高まっているそうですが、例えば医療用の段階的に細くなるパイプを、絞りではなく径を変えたパイプを溶接し、細い先端が長く伸びるパイプを作ったそうです。また同社の溶接技術では、銅とステンレス、インコネル(R)600とイリジウム、ニッケルとイリジウムといった異材溶接の実績もあると言います。


同社の円筒型ステンレス製放熱板。ファイバーレーザー溶接の場合、円筒の本体とフィンの間に隙間があると溶接できないため、密着させる必要があります。このような全周溶接では歪みが生じやすいのですが、ファイバーレーザーによってその課題を克服したそうです。
同社の円筒型ステンレス製放熱板。ファイバーレーザー溶接の場合、円筒の本体とフィンの間に隙間があると溶接できないため、密着させる必要があります。このような全周溶接では歪みが生じやすいのですが、ファイバーレーザーによってその課題を克服したそうです。


軽量・難燃性ヘルメットに採用、燃えない発泡スチロール

本展示会には各自治体のブースもありました。愛媛県の公益財団法人えひめ東予産業創造センターのブースでは、ウシオマテックス株式会社(愛媛県今治市)が燃えない発泡スチロールという技術を出展していました。この技術はすでにヘルメットメーカーの株式会社アライヘルメットと共同開発した軽量・難燃性ヘルメットとして東京消防庁に採用されているそうです。

説明してくださった同社東京支店の大原伽園(おおはら・かのん)氏によると、発泡スチロールの原料となる発泡性スチレン樹脂を予備的に加熱し、それに特殊コーティングすることでビーズ状にした後、金型で圧縮成形するそうです。

この技術で作られた発泡スチロールを火炎温度1,300℃で火炎燃焼試験したところ、表面は焦げたものの、従来の発泡スチロールのように燃焼することはなかったと言います。実用新案は取得済みですが、特殊コーティングなどの技術はノウハウにあたるため外部には出していないそうです。


同社の燃えない発泡スチロール。コストは従来の発泡スチロールに比べて高価ですが、難燃性素材として鉄道の断熱車両に使われはじめていると言い、量産効果で将来的にはコストも下がってくるそうです。
同社の燃えない発泡スチロール。コストは従来の発泡スチロールに比べて高価ですが、難燃性素材として鉄道の断熱車両に使われはじめていると言い、量産効果で将来的にはコストも下がってくるそうです。


海上救難などの人命救助向けトラス構造の有人大型ドローン

本展示会の併催展であるフライングカーテクノロジーの出展エリアには、何台も大型の実機が展示されていました。中でも、無骨なトラス構造の骨組みだけで作られた機体が目立ちました。これは、2020年1月にすでに有人で飛行試験機による実証実験をすませた機体です。

この有人大型ドローンは、テクノシステム株式会社(東京都中央区)、湘南航空研究所(神奈川県鎌倉市)、サレジオ工業高等専門学校(東京都町田市)が共同で開発したもので、説明してくださったテクノシステムの代表取締役、守屋弓男(もりや・ゆみお)氏によると主に海上救難などの人命救助のために使うと言います。

アルミ合金フレームによる構造で軽量かつ堅牢性に富み、分割輸送と組み立てが容易で、空気抵抗が少なく、さらにプロペラ・スクリューがフレーム内に格納されているため安全性も高いことが特徴です。最大離陸重量は240㎏、ペイロードは120㎏で、この範囲内なら法規制を除外すれば人間を運ぶこともできるそうです。

市販のプロポで有視界操作ができ、将来的には有人飛行も対応できるといいます。リチウムイオン・バッテリーの重量は2.5㎏、浮揚用モーターに40インチ(約102cm)のプロペラ、推進用に28インチ(約71cm)のプロペラが付くといい、浮上用モーターの数も目的によって可変できます。大型化によってペイロード能力が格段に向上したそうで、下部にフロートが付き、柔軟な着地、着水が可能です。


同社のトラス構造の機体。トラス構造に囲まれてカゴ状になった中央に人間も搭乗できる可搬スペースがあります。
同社のトラス構造の機体。トラス構造に囲まれてカゴ状になった中央に人間も搭乗できる可搬スペースがあります。


フライングカーテクノロジーのエリアには、ほかに株式会社SkyDriveの実機も展示され、多くの来場者が興味深そうに眺め実機に搭乗したりしていました。同社の広報担当、和田貴子(わだ・たかこ)氏によると、2023年度に向けて事業化スキームを立ち上げ、今後は大阪府で海上での社会実装の試験飛行を行う予定だそうです。


同社の実機展示。2023年度には実機の販売を始める予定。2030年度には自動運転によってクルマとして地上を走り、必要に応じて飛行する空飛ぶクルマを実現させると言います。
同社の実機展示。2023年度には実機の販売を始める予定。2030年度には自動運転によってクルマとして地上を走り、必要に応じて飛行する空飛ぶクルマを実現させると言います。


多種多様な技術が集結したエヌプラスでしたが、空飛ぶクルマ、フライングカーテクノロジーに大きな注目が集まり、盛り上がっていた印象がありました。今後、この技術はどう進化発展していくのでしょうか。


文/石田雅彦


参考情報
・インコネルは、ハンティントン アロイズ コーポレイションの登録商標です。

▽おすすめ関連記事

こちらの記事もおすすめ(PR)