デジタル化社会の実現には、OMO(Online Merges with Offline)といった企業の価値提供の革新から、UBI(Universal Basic Income)のような新たな社会制度まで、多岐にわたる議論が必要だ。しかし、企業の現場からは、いきなり「デジタル化」と言われても、具体的に何から手をつければいいのかわからないという声も聞こえてくる。実際の現場におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)は、どのように進めればいいのだろうか。
DXはデジタル技術を活用した「カイゼン」活動

『未来IT図解 これからのDX デジタルトランスフォーメーション』
内山 悟志 著
エムディエヌコーポレーション
2020/06 160p 1,500円(税別)
DXは「社内業務の変革」から取り組むべき
企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を進める上でのよりどころに、経済産業省が2018年12月に発表した「DX推進ガイドライン」がある。
だが、その盛りだくさんな内容に、「いったい何から手をつければいいのか?」と途方にくれた経営者やIT担当者も多いのではないだろうか。
本書『未来IT図解 これからのDX デジタルトランスフォーメーション』は、そんな悩みを解決するのにオススメの一冊だ。DXをゼロから始める上で必要となる考え方が、図解をまじえて、体系的に分かりやすく解説されているからだ。
著者の内山悟志氏は、株式会社アイ・ティ・アール会長兼エグゼクティブ・アナリストである。
本書で内山氏は、DXによる変革の対象領域を、(1)新しい顧客価値を創造する、(2)新規ビジネスを創造する、(3)社内業務のあり方を変革する、(4)新規市場を開拓する、の四つに整理している。
もし、DXにおいて「何から始めればいいか分からない」というのなら、まずは(3)から手をつけてみてはいかがだろうか。(3)ならば、市場もビジネスも変えなくていい。ただ、ITを使って既存業務を変革すればいいのだから、他の三つよりは取り組みやすい。
DXの基本プロセスの根底にあるトヨタ生産方式
では、(3)に取り組んでみよう。本書によると、まず改善したい業務の課題や目標を決め、以下の「DXの基本プロセス」を実施する。
1.課題をITの活用により解決する方法を検討し、その実施概要をコンセプトとしてまとめる。
2.1でまとめた解決策の有効性をすばやく確認するための簡易なシステムを作り、「コンセプト検証」を行う。
3.コンセプト検証で有効性が確認できれば、次に、その解決策が業務として実行可能か、また事業としてメリットがあるかどうかの「ビジネス検証」を行う。
1〜3を、あまり費用をかけず短期間で繰り返し、アイデアをブラッシュアップしていくのがポイントだ。うまくいかなければ、どの段階でも1に戻ってやり直せばいい。
実はこのDXの基本プロセスは、多くの米国シリコンバレーベンチャーが採用する「リーン・スタートアップ」の手法をDXに適用したものだ。
内山氏は、さらにその根底に、現場のプロセスを徹底的に効率化し、無駄を排除することで「カイゼン(改善)」を繰り返す「トヨタ生産方式」があると指摘する。
ITを活用することで、人手でやっていたものを自動化し効率化できる。また、業務やビジネスの状況を全て数値で「見える化」し、カイゼン活動を遂行できる。
DXといっても、その考え方は「カイゼン」活動と同じだと思えば、とりわけ製造業にとっては馴染み深く、自社にも実施できそうな気がしてくるのではないだろうか。