株式会社ハイボット
代表取締役
ミケレ・グアラニエリ氏
執行役員
パウロ・デベネスト氏

株式会社ハイボット(東京都品川区)は、2004年にレスキュー・ロボットなどの過酷環境で作業するロボットの研究をしてきた広瀬茂男(東京工業大学 名誉教授)と広瀬研究室の大学院生が中心になって設立されました。現在、共同創業者で代表取締役のミケレ・グアラニエリ(Michele Guarnieri)氏と共同創業者で執行役員のパウロ(波雨露)・デベネスト(Paulo Debenest)氏が主に会社のマネジメントを行い、会長の広瀬氏は技術的なアドバイザーとなっています。
同社は、パイプや配管内などの狭い環境を探査・測定するロボットを開発し、その技術とサービスは高く評価されています。こうしたロボットは、できるだけコンパクトにする必要がありますが、同時に高温、高湿度の環境下での安定性、防水性や放射能への耐性などが求められると言います。3回にわたってお届けするハイボットの技術、前編では、同社のロボット技術とサービスについて、グアラニエリ氏にお話をうかがいました。
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インフラ・ロボット開発を通じて、危険な作業や重労働作業から人を守り、人を助ける
────ハイボットの企業としてのミッション、目的は何でしょうか。
グアラニエリ(以下同様)
私たちはこれまでさまざまなインフラ・ロボットを開発してきましたが、その目的は危険な作業や重労働作業から人を守り、人を助けることです。そのためには、社会にどういうニーズがあるのかを探り、社会に役立つテーマの中で実際に実現可能な技術を開発できるかどうかが重要です。
────どのようにしてニーズを探っているのでしょうか。
お客様によって要求することは違ってきます。どういうニーズがあるのかをお客様、あるいは現場のオペレーターと話し合いを重ねながらロボットの開発を進めています。

────ハイボットのロボットのラインナップはどのようなものがありますか。
これまで、Expliner(R)という超高圧架空送電線点検ロボットなどによってサービスを提供してきましたが、現在は弊社独自のプロダクトとして主にFloat Armというインフラ点検用ヘビ型ロボットアーム、Soryu-Cという直径10cmのパイプ内を移動して点検できるヘビ型ロボット、THESBOT(R)-Dual(テスボット・デュアル)というパイプ点検ロボット、SQUIDというボイラー点検用ロボットがあります。

────こうしたロボットで、これまでどのようなサービスを提供してきたのでしょうか。
創業して10年から12年間くらい、お客様のためにシンクタンクやコンサルタントとしての役割もしつつ、送電線点検ロボットなど私たちのノウハウを活かしていろいろなロボットを開発してきました。それは一種の研究所のようなイメージですが、そうした経験を蓄積してきた過程で、そのロボットを導入したら本当にコストが削減できるのか、本当に時間を短縮できるのかといった現実的な課題をクリアしてきたわけです。このようにして蓄積してきた経験や技術があるので、弊社は今、第二の創業期を迎えているのです。
サードパーティ向け以外に、ロボットが収集したデータを使ったRaaSも
────第二の創業期はコンセプトになっているのでしょうか。
これまでは、お客様の要求に応じたロボットを作ってきました。現在では、そうしたサードパーティのためのビジネスもやりながら、自分たちで自分たちの考えるロボットを作ろうとしています。サードパーティへのビジネスは、プロジェクトにけっこう時間がかかりますし、担当する社員もたくさんつけなければならなかったりします。実際にロボットを作ってみたところ、そのロボット自体を販売するのは高額になってしまって現実的ではないことに気づきました。ですから、そのロボットを使った新しいサービスを提供させていただくというスキームを構築したいと考えています。
────新しいサービスというのはどのようなものでしょうか。
お客様が、私たちが提供するロボットやセンシング技術を使ってデータを収集し、そのデータから故障予測を判断できるようになるというサービスです。私たちのロボットによって収集したビッグデータをAIによって解析にするデータ・マネジメントのサービスになります。

────具体的にはどのようなことになりますか。
具体的には私たちが開発したSmart toolsというロボットの実機のレンタルや販売、そして数十TBにもなる、ある意味でのビッグデータをマネジメントし、データと作業レイヤーをもとにしてソフトウエアやアプリケーションによって問題を解決するサービスです。
お客様のニーズも多種多様なので、それぞれのニーズに合わせたサービスを提供できるようなロボットを開発して作っていこうと考えていますが、すべてのロボットやマシンから得られるデータと、それを扱うHiBoxというプラットフォームを開発しました。
────HiBoxとはどんなものなのでしょうか。
実体としてはロボットを操作するコントローラとロボット本体につながっている小さな箱ですが、自動ナビゲーション、ソフトウエア、メンテナンス・データ、ロボットの状態把握、データ・レポートのマネジメントなどを行うプラットフォームです。ロボットが収集したデータをハイボットがクラウドへ送り、クラウドを介してAIによってデータ解析を行うことができます。
私たちはこれをSmart Service(スマート・サービス)と名付けていますが、全体のコンセプトはRobot as a Service(ロボット・アズ・ア・サービス、RAAS)という考え方になります。つまり、単にロボットやセンサーなどの機器を売るだけでなく、ロボットによるデータ収集、データ解析、データ・マネジメント、AIによるデータ解析など、お客様の必要なものを必要な時にデジタル・ツインとして提供しようというものです。

デジタル・ツインの実現で、インフラ施設などでの点検コスト削減に
────HiBoxによって何ができるのでしょうか。
HiBoxを活用すれば、点検時間や作業に伴うインフラの停止期間が短縮されます。詳細な測定データは、追加の点検作業を減らすことにもつながり、それは点検にかかるコストの大幅な削減をもたらすことができるでしょう。私たちはすでに電力、航空、化学といった複数のグローバル企業と共同で、いくつかの点検用ロボットの活用とHiBoxの試験的な導入に取り組んでいますが、これによって安全で効率的なインフラ整備、維持管理が実現できると思っています。
────HiBoxが作成するデジタル・ツインはどのようなものですか。
デジタル・ツインというのはリアル空間を仮想世界に再現する一種の仮想現実ですが、私たちのデジタル・ツインは単に3Dデータというだけでなく、既存の図面などのアップセットを含め、ロボットが収集した多種多様なデータをリアルタイムに統合したものになります。また、クラウドを介した転送データにより、遠隔から点検結果を確認することも可能です。


基本的に私たちが提供するサービスについては、お客様が使っていただけるために弊社の技術で得たデータで十分なケースもあれば、お客様が自社のIoTと組み合わせたいということでそのお手伝いをするケースもあります。お客様のいろいろなニーズにケースバイケースで対応しています。例えば、タンクの内部点検の場合はヘビ型マニピュレータのFloat Armが中に入って収集するデータで十分の場合もあれば、足りなかった場合、さらにドローンを飛ばして収集するデータを加えたりすることもあるのです。
第二の創業期というハイボットは、実際のロボットのものづくりをベースにして収集データのマネジメントというサービスを新たに展開しようとしているようです。次回中編は、ロボットづくりの苦労などについてお話をうかがいます。
文/石田雅彦
参考情報
・Explinerは、株式会社ハイボットと株式会社日立ハイテクファインシステムズの登録商標です。
・THESBOTは、株式会社ハイボットの登録商標です。
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