生体データを用いて社会課題に挑む。多様な組織との協業を通じて実現できる秘訣とは~老舗企業の転身事例から学ぶ(後編)

INTERVIEW

ミツフジ株式会社
執行役員 プロダクト部長 戦略統括
伊藤 瑞喜
プロダクト部 情報技術担当主任 情報技術エンジニア
松本 健志

ミツフジの強みの一つは、多様な業界・団体との提携を可能にするコラボ力。これまでワコールやソフトバンク、行政機関などと協業してきたミツフジ。規模も業界も異なるさまざまな組織とのコラボを実現させる秘訣は、どこにあるのでしょうか。執行役員 プロダクト部長 戦略統括の伊藤瑞喜(いとう・みずき)氏、プロダクト部 情報技術担当主任 情報技術エンジニアの松本健志(まつもと・たけし)氏にお話を伺いました。

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サービス業、製造業など作業者の日々の体調管理に~協業事例①

ワコールと共同開発したブラ(中央上)や、子どもの見守り用ウェア(左)など
ワコールと共同開発したブラ(中央上)や、子どもの見守り用ウェア(左)など


前編で紹介したように、ミツフジの「hamon(R)」はシャツやバンドなどが装着者の生体データを取得し、取得したデータを用いて企業や社会が抱える課題を目指すソリューションサービス。データを収集するデバイス本体はもちろん、その素材となる繊維や生体データを送るためのトランスミッター、閲覧・管理するためのアプリやクラウドサービスを含めた生体データの管理プラットフォームです。つまり、生体データを取得するハードウェアからそれを扱うソフトウェアまでを、一気通貫で扱っています。

hamonでは、デバイスで測定した心拍の波形を元に、心拍数やストレス、深部体温上昇変化、その日の体調指数(元気度)、眠気を数値化。また、デバイスに搭載された加速度センサーによって転倒などの姿勢変化なども察知できます。では、こうした情報はどのような事業に活用できるのでしょうか?

まず挙げられるのが、日々の体調管理です。建設業や製造業など、身体への負荷が大きい現場の作業員にhamonを装着してもらうことで、体調の悪化や眠気を事前に察知。事故防止や生産性の向上を狙うことができます。

また、「手首に装着するだけで脈拍情報から深部体温上昇変化を感知し、熱中症のリスクを知らせてくれるバンド型のデバイスを現在開発中です。近い未来には、酷暑での作業員はこうしたデバイスを身につけることが当たり前になるかもしれません」と松本氏は言います。

こうした用途でのhamonの協業事例として挙げられるのが、格安航空として知られるPeach Aviation(ピーチ)、そして下着メーカーとして有名なワコールホールディングスが共同で進めた「働く女性向けウェアラブルプロジェクト」です。

女性の健康管理に関心の高いピーチの依頼で、女性の働きやすい環境構築を目的として始まったプロジェクト。商品開発には高い専門性を持つワコールの協力のもと、ウェアラブルのブラジャー「iBRA(アイブラ)」を開発しました。これを勤務時のキャビンアテンダントに着用してもらい、どのような行動時にストレスが貯まるのかを計測しました。

また、洋菓子の製造・販売で有名な不二家の平塚工場でもhamonを導入。工場勤務の従業員に着用してもらい、体調を可視化。暑熱リスクの表示が熱中症の危機管理に役立ったほか、従業員も数値化される自分の体調データに興味を持つようになったそうです。

高齢者や生徒、児童の体調管理、見守りに~協業事例②

ウェアに取り付けられたhamonデバイス。心拍の波形を測定し、送信する。
ウェアに取り付けられたhamonデバイス。心拍の波形を測定し、送信する。


hamonの用途として次に挙げられるのが、高齢者や児童の体調管理、見守りです。「託児所や介護施設にhamonを導入すれば、赤ちゃんのうつぶせ寝による事故、突然の転倒や熱中症などの察知が期待できます。また、データ収集の精度が上がれば命に関わる病気を未然に発見できるかもしれません」(松本氏)。

この用途でミツフジと提携しているのが、奈良県生駒市です。hamonを着用した生徒の生体データをスマートフォン等でモニタリングするほか、天気予報で知られる株式会社ウェザーニューズの協力で各地点の温度や湿度の気象データを取得し、教員側へアラートも実施。熱中症の危険がある生徒を事前に発見できるだけでなく、危険度の高い日は教員が事前に周知をしやすい環境を構築しています。

自治体との協業の中でも、福島県の川俣町は自治体ぐるみで提携。ミツフジの工場の所在地でもあるこの町では「川俣町見守りプロジェクト」を2019年から実施しており、これまで町民数百人に日常的にhamonを身につけてもらって、継続的に生体データを収集しています。

収集したデータは、高齢者の健康促進や高騰する医療費の節制につながるサービス開発に向け利用。心臓病などの危険な病状をすぐに察知して医療機関・介護施設に知らせたり、オンライン受診の間口にしたりするなど、医療機関と患者がつながりやすくなるシステムが想定されているそうです。このほかにも、医療機関と協力しててんかんの発作を事前に検知する仕組みの研究にもhamonウェアが使用されました。

スポーツ選手の体調管理、トレーニングへの活用に~協業事例③

また、hamonはスポーツマネジメント分野での活用も期待されています。これは、選手の体調管理だけでなく、パフォーマンス向上や効率的なトレーニングプログラムの構築などが目的です。

近年、最新テクノロジーをスポーツに導入する「スポーツテック」が、アメリカなどで急速に発展し、日本でも普及しつつあります。根性論や詰め込み式のトレーニングはすでに過去のものになり、綿密な栄養バランスや理論に基づいたトレーニングといった科学的な選手のマネジメントが主流になっています。

そんな中、最新の生体データを逐一取得できるウェアラブルデバイスは強い味方です。また最近のスポーツテック分野ではトレーニング時以外の生体データが選手のパフォーマンスに密接に関係していることがわかっています。睡眠中や普段の生活でも選手の生体データが測定できるのがhamonの強み。どのような生活習慣がパフォーマンスに影響するのかまで関連付けを調べ、マネジメントすることができます。

協業実現の秘訣、「データの価値を知っているから」

ミツフジ株式会社 プロダクト部 情報技術担当主任 情報技術エンジニア 松本健志氏(左)と、執行役員 プロダクト部長 戦略統括 伊藤瑞喜氏(右)
ミツフジ株式会社 プロダクト部 情報技術担当主任 情報技術エンジニア 松本健志氏(左)と、執行役員 プロダクト部長 戦略統括 伊藤瑞喜氏(右)


また、2020年10月からはソフトバンクとの協業を開始。同社が開発する高精度測位サービス「ichimill(R)」と、ミツフジの生体データを組み合わせて、建設現場をはじめとする作業員の危険予測や労働環境に向けたウェアラブルソリューションを開発予定です。

このように、大企業や行政機関などとも積極的に協業をするミツフジですが、「自社から協業を持ちかけているのは半数程度。「半数は先方からお声かけをいただいています」と伊藤氏は言います。では、なぜミツフジは大企業や行政機関と協業できるのでしょうか?

伊藤氏は、ミツフジはこれまでのさまざまな業種のお客様と数多く対話を繰り返してきたことが要因だと話します。ウェアラブルを使った協業の多くは主に、新規事業の開始、またはコスト削減が多い。しかし、ウェアラブル市場が流行中の現在は、とりあえずなにかをやりたいという企業も多く、「新しいことがやりたい」「健康管理がしたい」くらいのざっくりした要望しかない場合も少なくないそうです。

「弊社がお客様からお声がけをいただく理由は、『データの価値を知っているから』だと捉えています。素材の製造から生体データの管理までをワンストップでやっているミツフジは、端末からどのようなデータが取得でき、そこからどのようなことがわかるかまで把握している。だからこそお客様のニーズにしっかりと耳を傾け、課題を抽出してしっかり掘り下げた上で、プロジェクトを実行できるのだと思います。もちろん、あらかじめやりたいことが具体的に決まっているお客様の方が、より精度は高まります」(伊藤氏)

これから生体データの研究・活用はさらに発展するはず。その中でミツフジは、センシング可能な範囲を広げるなどのアップデートを図りつつ、生体データを求める人に最適な形でデータを渡す存在を目指していくそうです。

「可能性に溢れた生体データやウェアラブルデバイスですが、これらのソリューション導入自体が目的になっているケースが多いと感じています。生体データによって実現したい姿から議論を始め、エンドユーザー様に対するゴールを共有することこそが素晴らしいプロジェクトにするための要素であると考えています」(伊藤氏)


文/野口直希


参考情報
・hamonは、ミツフジ株式会社の登録商標です。
・ichimillは、ソフトバンク株式会社の登録商標です。

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