鍛造並みの強度と鉄並みのコストレベルを目指す、「半凝固プレス法」の可能性とは~ダイカスト加工品の高精度化に向けて(後編)

INTERVIEW

山梨大学
教授
中山 栄浩

2016年に設立された株式会社HGプレシジョン。同社は現在、半凝固スラリーを用いたプレス成形製品に取り組んでいます。これにより、顧客が要求する製品特性にあわせて結晶組織を制御できるようになっています。

後編では、半凝固プレス法とは何か。そして今後HGプレシジョンが目指すものについて、HGプレシジョンの研究開発に参加する山梨大学の中山栄浩(なかやま・よしひろ)教授と、代表取締役社長の赤星直樹(あかほし・なおき)氏に話を聞きました。

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「半凝固ダイカスト法」を更に改良、鍛造並みの強度を得るため

山梨大学 中山栄浩教授
山梨大学 中山栄浩教授


「2012年にR-CAST(アールキャスト)株式会社を設立し、半凝固ダイカスト法の実用化に取り組んできました。それがある程度の形になってきたので、半凝固に関する取り組みをワンステップあげるために2016年にHGプレシジョンを設立しました」(赤星氏)

2016年3月、東北大学ベンチャーパートナーズ(THVP)1号投資事業有限責任組合から出資を受け、事業を本格的にスタート。そのタイミングで山梨大学の中山栄浩(なかやま・よしひろ)教授がHGプレシジョンの研究開発に参画することになりました。

中山教授は、アルミニウム合金をはじめとする軽金属材料の機械的性質の改善を目指し、材料のミクロ組織状態と機械的性質の相互関係を体系的に精査する基礎研究を行ってきた人物です。そんな中山教授の知見をもとに、半凝固スラリーを用いたプレス成形製品の実製品化を目指す研究開発に取り組み始めます。

「金属はきめ細かく均一な組織にすれば機械的特性があがります。ただ、半凝固ダイカスト法ではなかなか組織の結晶をきめ細かく均一にできません。一方で、機械的特性をあげる方法として昔から鍛造がありますが、これは部品ひとつを完成させるのに必要な時間が大きく、コストも高くなってしまうので適用範囲が限られます。それを両立する方法として、半凝固スラリーに圧力をかけるプレス成形がいいのではないか、となったのです」(中山氏)

同社は固相成分と液相成分を共存させた半凝固状態にある半凝固スラリーを用いて高圧鋳造する「半凝固ダイカスト法」を開発していました。ただし、そもそもダイカストは金型に注入する手法のため、組織を均一な状態にするのが困難というデメリットがあります。半凝固にしたことで品質と精度は高まったとはいえ、成形品に生じる微細な凝固巣、ガスホールなどの欠陥を防止できず、高いレベルで安定した品質が実現できなかったのです。

アルミニウムの加工法には、もう一つ、鍛造という加工法があります。これは、固体のアルミニウムを超高圧のプレスで叩き潰しながら成形していく方法です。鍛造では、組織を決め細かく均一な状態にでき、ガスの巻き込みや酸化膜の混入、引け巣のない機械的特性に優れた製品を成形できるため、安定して高い強度を持つことができます。ただし、硬い固体のアルミニウムを変形させるために、数千トンから1万トンを超えるほどの非常に大きなプレス機で何度も打ち付ける必要があり、ダイカストに比べて格段に大きなエネルギーとコスト、時間がかかります。

そこで赤星氏と中山氏が考えたのは、半凝固スラリーの状態でプレス成型を行うというものでした。この方法では、ダイカスト法では実現できなかった「緻密性」を実現でき、なおかつ固体のアルミニウムの鍛造よりははるかに低い圧力で成型できるのではないかと考えたのです。赤星氏と中山氏は半凝固スラリーを用いたプレス成形の実現を目指し、研究開発に取り組みます。


アルミニウムの半凝固スラリーを用いたプレス成型製法を開発

HGプレシジョン代表取締役社長 赤星直樹氏(左)と山梨大学 中山栄浩教授(右)
HGプレシジョン代表取締役社長 赤星直樹氏(左)と山梨大学 中山栄浩教授(右)


研究開発を進めた結果、HGプレシジョンは半凝固プレスの開発に成功します。同社が実現した半凝固プレスは、溶解した後に攪拌を行ってできた半凝固スラリーをプレス成形するというもの。想定した以上の成果が出ました。200トンのプレス機で1回のプレスで成型が可能となったのです。

「鍛造に比べプレス機の1/10以下のダウンサイジングが実現されることで、工場内の省エネ化、製品のコストダウンも実現することが可能となります」(中山氏)

中山氏によれば、具体的にはA6061材(アルミニウム)で引張り強さは480MPa(熱処理無し)、寸法精度は±0.03mm、硬度(HV)は85、粒径は10〜50μm球状結晶、コストレベルは鋳鉄部品比で1.3倍程度のコストを実現するとのこと。

「加工メーカーは、きめ細かく均一な組織の半凝固スラリー加工製品を採用することで、転写性(精密)が良い、巣が少ない、流動性が良い、凝固収縮が小さいなどのメリットを得られます。またエンドユーザーは軽量化・薄肉化、複数部品の一体化、異種材のインサート化、設計自由度の向上といったメリットがあります」(中山氏)

実際、半凝固プレスで成形したコンプレッサー用スクロール部品は面粗度がRa 0.6程度、加工精度は0.05以内となっており、加工上がり状態でシャープなエッジが確保できます。

2017年には自転車部品企業とタイアップした量産化が一部実現したほか、半凝固プレス製法に取り組む国内企業に先駆け、2020年6月には弱電部品での製品出荷を実現しています。

「ここ2〜3年、半凝固スラリーの研究開発を進めていく中でさまざまな結果が得られるようになり、組織もきめ細かく均一に制御できるようになってきました。そこで私たちは新たに、アルミ合金に求められる機械的特性にあわせて組織制御できる会社になるべく、量産対応の半凝固プレス技術にさらなる改良を加え、自動車構造部品のアルミ合金化の研究開発に取り組んでいるところです」(赤星氏)


「半凝固プレス法」で、加工コストダウンと高精度化へ

半凝固プレスによって加工されたギア。細部までエッジがはっきりとしている。
半凝固プレスによって加工されたギア。細部までエッジがはっきりとしている。


半凝固プレスは鍛造並みの強度を得られるほか、1ショット連続溶解の高生産性によって、鋳鉄製品を上回る低コストも実現できると言います。鉄は強度が高く、素材としてはアルミニウムよりも低価格ですが、鉄を切削加工する場合にはそれなりの時間とコストがかかります。切削加工に比べてアルミニウムの半凝固プレスの方が加工コストが低く、製品に求められる形状や精度によっては、トータルでコストが下がるケースがあると言います。

「自動車のさらなる軽量化を進めるためにアルミ合金部品の製法に求められているのは、鍛造と同等以上の強度と、ダイカストに近い生産性、そして鉄と同等以上のコストレベルです。それを実現するため、製品ベース(弱電分野)での量産に成功した『半凝固スラリーを用いたアルミ合金のプレス成形』製法の強度面、生産性の改良開発を実現し、将来的に自動車分野への製品投入を可能にしていけたらと考えています」(赤星氏)

HGプレシジョンの取り組みは、2020年のサポイン事業(戦略的基盤技術高度化支援事業)に採択され、研究開発に取り組んでいるところです。


自動車の軽量化を実現すべく、現在の鉄製からアルミ化を目指して

冷間鍛造品(左)、熱間鍛造品と(中)、半凝固プレス品(右)との比較。鍛造品に比べて仕上がりが良いことがわかる。(提供:HGプレシジョン)
冷間鍛造品(左)、熱間鍛造品と(中)、半凝固プレス品(右)との比較。鍛造品に比べて仕上がりが良いことがわかる。(提供:HGプレシジョン)


自動車分野は年々、厳しくなる排ガス規制への対応、安全性の向上(衝突安全、歩行者保護性能)や走行性、快適性の向上、自動化技術の進展など消費者ニーズへの適合に伴う車両重量の増加に対応するため、軽量化が大きな課題となっています。

特に排ガス規制に関しては、地球環境に対応するためCO2(二酸化炭素)やNOX(窒素酸化物)などの排出量を厳しくする傾向にあり、自動車の低燃費化は必須です。昨今、国内外でHEV、EV、PHVなどのパワートレインの開発が進められていますが、年々車両の総重量は増加していっています。

「軽量化という言葉をよく聞くようになりましたが、30年前に比べると車両の総重量は300kg以上重くなっています。私たちは自動車の軽量化を実現すべく、新技術の開発によって現在鉄製となっている自動車の骨格を『アルミ化』しようと思っています」(赤星氏)

現在、HGプレシジョンが実現している半凝固プレス技術の実力値と自動車分野での軽量化部材に要求される数値のギャップを埋めるために、赤星氏は成分の偏りの解消、溶解・攪拌・急冷・再加熱の連続ワンショット供給の実現に取り組んでいます。

現在の半凝固プレス技術は圧力を加える過程において、流れやすい液体と動きにくい固体が分離してしまい、製品内で元素の偏りが発生し、若干ですが強度が落ちてしまうという課題があります。そこでHGプレシジョンは半凝固によって作られる微細な球状結晶の優位性を保つため、一旦完全凝固させ、再度成形可能な温度帯まで加熱することで微細球状結晶に固溶効果を生じさせ元素の配分を整えた上でプレス成形を行う方法を考えています。

「これによって半凝固スラリーのプレス成形時に発生していた液体部と固体部の分離を抑制し、製品内の組織を安定させ、自動車メーカーが要求する580MPa以上の強度を狙うことができると思っています」(中山氏)


東北大学の研究成果である半凝固スラリーを用いたアルミ合金の成形加工を、独自の工夫によって大学の研究以上の強度を実現させたHGプレシジョン。現在は自動車部品のアルミ合金化に取り組んでいますが、今後はさらにいろいろな分野への応用が期待されています。


文/新國翔大

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