アルミダイカストの欠陥を減らせ!「半凝固ダイカスト法」が開発されるまで~ダイカスト加工品の高精度化に向けて(前編)

INTERVIEW

株式会社HGプレシジョン
代表取締役社長
赤星 直樹

アルミ溶湯を固相線と液相線の境に位置する温度帯「固液共存域」(540℃~580℃)に電磁攪拌を加え、半凝固状態にした金属「半凝固スラリー」を用いて高圧鋳造する方法が「半凝固ダイカスト法」です。こうした半凝固スラリー工法によるアルミ製品の製造販売を手がけているのが株式会社HGプレシジョンです。

今回、代表取締役社長の赤星直樹(あかほし・なおき)氏に現在に至るまでの経緯、半凝固ダイカスト法の特徴について話を聞きました。


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アルミニウムの「半凝固」状態に注目、従来のダイカスト法の短所を改善するため

HGプレシジョン代表取締役社長 赤星直樹氏
HGプレシジョン代表取締役社長 赤星直樹氏


鉄やアルミ合金、超合金などの金属材料の鋳造法として、多くの人が知っているのは「ダイカスト法」でしょう。普通ダイカスト法は670~700℃のアルミ溶湯を油圧(高圧)の力で低速→高速→増圧の順番で射出し、金型内に鋳込む製法です。

複雑な形状の製品をひとつの工程で量産できるため生産コストは低く抑えられるほか、他の鋳物と比較して寸法精度が良いことが特徴となっています。また、高圧で金型に注入するため、薄肉鋳物の生産も可能です。

その一方で、ダイカスト法には短所もあります。ダイカスト法は溶湯(溶解したアルミニウム)を高速・高圧で充填するため、金型に溶けた金属を流し込んだ際にガス、空気などを巻き込む「気泡巻き込み」が発生したり、金属が冷えて固まるときに起きる隙間がそのまま冷えて固まる「引け巣」が発生したりします。欠陥が発生してしまう可能性が高いため、部品の強度が低くなるといいます。

そんなダイカスト法の短所に課題を感じていたのが、赤星氏でした。

「前職ではダイカスト製品の鋳造を手がける会社で働いていたのですが、顧客からの要望で『製品の精度を上げたい』という声が多くあったんです。また、ダイカストもコストダウンの波を受けて気密性を求められるようになっていました。そんなニーズに応えるにはどうすればいいか。

個人的にダイカストについて調べていくうちにアルミニウムの半凝固状態に可能性があることを知りました。半凝固状態の時にアルミを成形すると製品精度を飛躍的に高めることができる。ただし、同時にアルミニウムの半凝固状態を作ることが難しいことがわかった。さらに調べていくと、半凝固状態を安定的に作り出すことを可能にした二軸電磁撹拌装置を東北大学が開発していることを知ったのです」(赤星氏)


次に半凝固状態を作り出せる「電磁撹拌装置」を研究してる大学にコンタクト

加工前のアルミニウム(インゴット)
加工前のアルミニウム(インゴット)


金属溶湯を冷却してアルミニウムを固液共存状態にする「半凝固」の研究は今から約40年前、1970年頃からスタートしていました。半凝固はダイカストの品質を良くするために開発されたもので、「高粘性」が大きな特徴となっています。

主なメリットは金型寿命が長いほか、寸法精度が良い、空気の巻き込みや引け巣欠陥が少ない、加工性が良いことなどですが、これまで半凝固を安定的に作る技術がなく、なかなか鋳造における応用が進んできませんでした。

そうした中、東北大学大学院 工学研究科の安斎浩一(あんざい・こういち)教授と板村正行(いたむら・まさゆき)准教授が、独自で回転と垂直による「二軸電磁撹拌装置」の研究開発を進めており、安定的に半凝固状態を作り出せるようにしていました。

そんな研究開発の内容を知った赤星氏は、東北大学の安斎教授に連絡をとり、実際に会って話をすることにします。その結果、安斎教授の研究室で研究開発を進めていた二軸電磁撹拌装置を使わせてもらえることになり、赤星氏はそれをもとに半凝固ダイカスト法についてさらに個人で研究を進めていきます。


アルミニウム半凝固スラリーの生成方法と特長 (提供:HGプレシジョン)
アルミニウム半凝固スラリーの生成方法と特長 (提供:HGプレシジョン)


そして、赤星氏は勤めていた会社の下請け先だった「タナサワ電波工業」と共同で、経済産業省が手かげる「戦略的基盤技術高度化支援事業(以下、サポイン事業)」に応募。結果的に、2009年のサポイン事業に採択されます。

サポイン事業の補助金をもとに、赤星氏はダイカストマシンを購入。タナサワ電波工業が保有していた量産工場の跡地を貸してもらい、そこで試作を繰り返していきます。

「二軸電磁撹拌を使った半凝固ダイカストは形にはなるものの、最初の頃は8〜9割の確率で形が崩れるなど、精度にバラつきが出てしまっていたんです。ただ、精度がバラついてしまう原因も分からず、その原因を教えてくれる人もいませんでした。とにかく自分たちで試作を繰り返しながらデータを集め、安定化させていきました」(赤星氏)


「半凝固ダイカスト法」を開発、安定して半凝固状態を作るカギは「攪拌力」

半凝固スラリーは柔らかく、ナイフで簡単に切断ができる
半凝固スラリーは柔らかく、ナイフで簡単に切断ができる


安定して半凝固状態を作り出すにあたって、鍵を握っていたのが「攪拌力」でした。東北大学が研究開発を進めていた二軸電磁撹拌は攪拌力が足りなかったため、赤星氏は試作でのデータをもとに独自で電源部分を改造。攪拌力を高めたことで、安定して半凝固状態を作り出すことに成功し、半凝固ダイカスト法へと繋げていったのです。

また、当初はタナサワ電波工業として研究開発に取り組んでいた赤星氏ですが、二軸電磁撹拌によって安定して半凝固状態を作り出せるようになったタイミングで、半凝固ダイカストの実現を目的とした、R-CAST(アールキャスト)株式会社を2012年に立ち上げます。

二軸電磁撹拌装置を使用した半凝固ダイカストは、二軸電磁撹拌装置を使用して半凝固状態を生成して金型内に鋳込む方法。普通ダイカスト法に比べて、巣や偏析が少なく、微細で均一な組織になるため高耐圧、高強度、高靭性が求められる製品に使えます。

「半凝固ダイカスト法では540~580℃で鋳込むため収縮率も低く、高い寸法精度が期待できるほか、機械的特性が30~50%アップするため金型の寿命も⾧くなります。また、撹拌によって結晶の成⾧を制御することで結晶が微細で均一な組織になるため、内部欠陥が5~8%ほど減少することも大きな特徴となっています」(赤星氏)

その一方、二軸電磁撹拌装置を使用した半凝固ダイカスト法は設備が高価であるなどの課題もあったため、赤星氏は東北大学と共同で、材料を溶解した後にスリーブ内で半凝固状態を生成する方法も生み出します。それがスリーブ内半凝固ダイカスト法です。

これは、アルミの特性でもある鉄との反応によって核が発生することを活かした方法で、二軸電磁撹拌と同様に結晶が微細で均一な組織になり、巣の減少が期待できます。

内部欠陥については5~15%と幅が広く、強度・耐圧・靭性も二軸電磁撹拌には劣りますが、コストは安く普通鋳造品からの置き換えも可能となっています。

「金属は組織から形成されているので、一つひとつ結晶があります。組織の結晶を小さくすると金属の性質が向上することは昔から分かっていたのですが、それを実現する方法がありませんでした。スリーブ半凝固ダイカストは液体が固体になるときに、結晶が成長をしないように攪拌しながら半分固めて固相を増やしていくことで、結晶を小さくすることに成功しました」(赤星氏)

二軸電磁撹拌装置とスリーブ半凝固ダイカスト法の実用化に成功したHGプレシジョン。さらに、彼は山梨大学の研究者と共同で、新たに半凝固プレス法を開発し、さまざまな結晶組織の制御に取り組んでいます。後編では、その取り組みについて紹介します。


《後編に続く》

文/新國翔大

 

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