『計測展2020 OSAKA』現地レポート

計測展は、2年に1回、大阪で秋に開催されてきました。「未来のものづくり社会を支える計測と制御技術の総合展」をコンセプトに開かれた今年は、新型コロナの影響もあって人数制限をして3密を避け、入場時の体温測定・アルコールでの手指衛生などを講じていました。来場者数も前回(2018年)の1万2,622人(前々回2016年は1万268人)より少なく、出展社数も前回よりかなり減っている印象を受けました。

また今回は、リアルと講演・セミナーなどのコンテンツを2021年1月16日まで視聴可能な「計測展オンライン・プラス」(事前登録者のみ)というオンラインのハイブリッド開催になっていました。計測展という名称のため、計測と測定、制御関連デバイスなどの技術展示が多かったものの、省エネ、環境、SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)、産学連携、自治体ブースといった出展もあり、バリエーションに富んだ展示会になっていたのも興味深かったです。

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資源リサイクルに役立つ、テラヘルツ波を用いた廃棄プラスチック素材の識別

廃棄プラスチックや電池類などの分別は資源のリサイクルにとって重要ですが、芝浦工業大学デザイン工学部リサイクルデザイン研究室(東京都港区)のブースでは、テラヘルツ波の反射波と透過波を用いて素材を識別する発信・受信装置を展示していました。説明してくださった同研究室の田邉匡生(たなべ・ただお)教授によると、廃棄プラスチックはきちんと分別できないため、そのまま埋め立てられたり燃料エネルギーとして焼却されていますが、これが環境中のプラスチック汚染や地球温暖化などを引き起こしているそうです。

廃棄プラスチックや電池類などは目視によって分別していますが、環境汚染以外にも、リチウムイオン電池などは磁気による識別が難しい非磁性で可燃廃棄物の中へ紛れ込んで発火し、火災事故などを引き起こすと言います。また、廃棄プラスチックの有効利用は着実に進んでいますが、PET樹脂、ポリエチレン、塩化ビニール、ポリプロピレンなどの識別ができないと難しく、最近、多用されているラミネートフィルムは材料リサイクルには向かないそうです。

このため、田邉教授らは、スマホの5Gよりも高い周波数のテラヘルツ波と透過波を使い、プラスチック素材とプラスチックにラミネートが蒸着されている素材の違いを識別するシンプルでメンテナンスが容易な発信・受信装置を開発したと言います。例えば、透過波を当てるとポリエチレンは透過して反射しませんが、塩化ビニールは透過せずに反射し、テラヘルツ波を当てると近赤外線分光で黒色など色付きのプラスチックはある程度、透過するため識別できるそうです。

こうした素材識別だけでなく、リチウムイオン電池などの非磁性の廃棄物が混じっていても、この装置を使うとボタン電池は丸かったりといった形状による金属検出で識別することができると言います。田邉教授はもともとコンクリート内部の含水係数をテラヘルツレーザー光源(60GHz)によって測定し、非破壊的に検査する技術の研究をしていたそうです。

今後は、廃棄プラスチックの手選別工程での安全性を高め、効率を良くするため、素材識別をデータベース化して機械学習によって補助する技術研究を進めていくと言います。


芝浦工業大学リサイクルデザイン研究室が出展していた小型計測器。テラヘルツ波の発振器により色付きの廃棄プラスチックに投射し、跳ね返ってきた情報を受信機で識別し、パソコン上のソフトウエアで確認できるそうです。
芝浦工業大学リサイクルデザイン研究室が出展していた小型計測器。テラヘルツ波の発振器により色付きの廃棄プラスチックに投射し、跳ね返ってきた情報を受信機で識別し、パソコン上のソフトウエアで確認できるそうです。


パン屋さんのレジ作業を補助、画像識別技術でパンの種類を識別

パンを並べた目を引く展示をしていたのは、株式会社ブレイン(兵庫県西脇市)のブースです。説明してくださった同社事業推進部の水野寿教(みずの・ひでのり)氏によると、街のパン屋で焼いた製品は包装されていないことが多く、トングなどで選んで客自身がレジへ運んで精算する方法がとられているそうです。

この場合、パンごとにバーコードなどをつけることができず、100種類以上にもなるパンの値段を店員がレジに打たなければなりません。店員のスキルに依存する部分が大きく、小規模な街のパン屋にとって負担になっていたと言います。

パンは焼き加減の色や形が違っても同じ製品であったり、色や形が似ていても違う種類のパンだったりすることがあります。当社の製品は、トレイの上の微妙に異なるパンの種類や値段をカメラによって識別するシステムで、画像識別と強化学習でパンを登録し、間違えた場合、店員が修正し、AIがそれを学習して識別精度を向上させていくそうです。

水野氏によると、同じシステムによってバーコードなどの情報をつけられず、メニューの入れ替わりの激しい学生食堂や社員食堂での導入も始めたと言います。


画像識別と強化学習でパン屋さんのレジ作業を補助する。パン屋という業種業態に特化した専用のPOSシステムを用意し、新商品も短時間で簡単に登録することができると言います。
画像識別と強化学習でパン屋さんのレジ作業を補助する。パン屋という業種業態に特化した専用のPOSシステムを用意し、新商品も短時間で簡単に登録することができると言います。


同社ブースには、テキスタイルのパターン分析とモンテカルロ法で円周率の近似値を求める「ビュフォンの針」の法則を使った「ビュフォンおみくじ」というユニークな展示もありました。
同社ブースには、テキスタイルのパターン分析とモンテカルロ法で円周率の近似値を求める「ビュフォンの針」の法則を使った「ビュフォンおみくじ」というユニークな展示もありました。


匂いを数値化、400種類のヒトの嗅覚受容体を用いて分析

大阪大学は産業科学研究所がブースを出していました。その中に「ヒト嗅覚受容体センサーを用いた匂い解析手法」という展示があり、大阪大学発のベンチャー、株式会社香味醗酵(大阪市西区)がこの特許取得技術を事業化したそうです。

説明してくださった同社、研究開発担当の浅井直人氏によると、従来の匂い解析は、調香師などヒトが嗅いだ嗅覚の官能試験とガス・クロマトグラフィーなどの解析機器による測定が主なものでしたが、再現性が低かったり特定の物質しか測定できないのなどの欠点があったと言います。

同社の技術は、ヒトの鼻腔にある400種類の嗅覚受容体を発現させ、活性化するとリアルタイムに蛍光発色するように仕組んだ細胞をマイクロアレイチップ20×20に並べ、匂いマトリックスとして解析、定量化するそうです。定量化は、嗅覚受容体の応答強度の時系列データを評価して行うと言います。

この技術によって、実際の香りに近い物質を簡単に開発できたり、安価な成分で高価な香料を代替させたり、嗅覚の原理の解明などが可能になると言います。また、今後は個人差や人種差、文化的な官能差などを反映させ、AIで匂いを関連付けして解析できる匂いの幅をより広げていくそうです。


400種類のヒトの嗅覚受容体を発現させ、蛍光発色するように仕組んだ細胞を並べ、匂い分子にさらして反応の強度を評価して数値化するそうです。
400種類のヒトの嗅覚受容体を発現させ、蛍光発色するように仕組んだ細胞を並べ、匂い分子にさらして反応の強度を評価して数値化するそうです。


ボルト単体で緩みにくい、ネジ山の形状に工夫を

緩みにくいボルトやネジには、これまでもいろいろな工夫や技術がありました。有限会社アートスクリュー(名古屋市北区)が出展していた緩み防止ボルトは、クサビなどを使わずボルト単体で緩みにくくし、ダウンサイジングによる軽量化や検査が軽減されるためにコスト削減に貢献できる技術だそうです。

説明してくださった同社代表取締役の松林興(まつばやし・こう)氏によると、これまでのボルトやネジの緩み防止技術には、ナットを複数使ったり、接着剤を使うことでコンタミが生じたり、摩擦接触によって雌ネジ側が変形したり、弾性影響で軸力が低下したり、頭飛びや片当たりが生じたりするといった欠点があったと言います。同社は名古屋市工業研究所と共同で、ネジ山の形状を工夫し、独自の緩みにくいボルトを開発したそうです。

雄ネジの山頂部から徐々に雌ネジに接触させ、締付けトルクが加わって軸が座面(上)側へ引き上げられることで雄ネジと雌ネジが平面で接触し、座面とネジ面の全面で反発力が働いて緩みにくい状態になると言います。応力が分散するため、疲労強度も上がり、軸力も安定してボルトやネジ単体で緩みにくい状態を維持するといったメリットがあるそうです。


同社のネジ。世界11カ国で特許を取得済みだそうで、すでにオートバイ、駅のホームドア、半導体や金型、家具の製造装置などに採用されていると言います。
同社のネジ。世界11カ国で特許を取得済みだそうで、すでにオートバイ、駅のホームドア、半導体や金型、家具の製造装置などに採用されていると言います。


大阪では2025年に万博が開催される予定ですが、コロナ後に向かい、東京以外での展示会も次第に始められてきました。すでにハイブリッド展示として、11月6日からオンラインでの開催が始まっている今回の計測展ですが、講演や出展社によるセミナーなどがオンデマンドで配信されているそうです。


文/石田雅彦


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