『エンジンフォーラム神戸2020』現地レポート

エンジンフォーラム神戸は、航空エンジンなどのエンジンと産業用ガスタービンエンジンに特化した国際的な展示商談会で日本での開催は初めてになるそうです。主催はフランスのadvanced business events(abe)とBCIエアロスペースで、三菱重工業(神戸造船所)、住友精密工業、神戸製鋼所、川崎重工業(明石・西神工場)、新明和工業といった航空機産業が集積する兵庫県で開催されました。

国内外のエンジンメーカー、ガスタービンメーカー、各種サプライヤーなどの関係者、関係機関が参加し、出展企業が102社と地域の航空機産業や行政の航空機クラスターのブースも目立っていました。本展示会は、新型コロナの影響で当初予定されていた日程(10月6日、7日)から2週間開催を遅らせ、また航空機産業も新型コロナで需要が急激に落ち込む中、どう生き残るのかを模索し、コロナ後を見すえた企業戦略をどうたてるのか、他社の動向を探る機会にもなっていました。

また本展示会に多く参加していたのはやはり航空機関連企業で、海外からの参加社や団体も多く見受けられました。世界的に航空機産業は、米国やヨーロッパに大手の完成機メーカーがあり、その下にTier1とよばれる大手機体メーカー、Tier2に部品サプライヤーが位置し、最下部を材料、加工などのメーカーが支えるという構造になっています。参入障壁の高い産業であり、大手企業と国内の他産業とのマッチングも本展示会の目的の一つになっていたようです。

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時計の修理・改造の技術から、航空機の精密小型機械部品制作に

神戸で1901年(明治34年)に時計の修理・改造の会社として創業された株式会社前田精密製作所(神戸市中央区)は、1960年代から航空機用の部品や医療機器部品を製作するようになり、現在では航空機の計測器やアクチュエーターなどに使われる精密小型機械部品や精密小型歯車などを作っている企業です。

同社のブースには平歯車、ヘリカルギア、内歯車といった歯車が展示され、ハステロイ(R)やインコネル(R)といったニッケル合金、モリブデンなどの難削材の加工も得意としています。ISO9001に航空・宇宙、防衛分野の要求事項が加えられたJIS Q 9100認証も取得し、これまでも航空機産業で実績を積んできたそうです。


同社では航空・宇宙産業の要望に応えるため、特に航空機の景気部品などのために高精度の薄肉加工による軽量化や複雑形状加工による部品一体化、難削材の加工による耐熱性部品などを製作していると言います。
同社では航空・宇宙産業の要望に応えるため、特に航空機の景気部品などのために高精度の薄肉加工による軽量化や複雑形状加工による部品一体化、難削材の加工による耐熱性部品などを製作していると言います。


有人・自動運転航空機向け、金属3Dプリンターでマイクロガスタービンを

本展示会の出展企業には株式会社J・3D(名古屋市港区、あいち・なごやエアロスペースコンソーシアムのブース)などのように金属3Dプリンターの技術が特徴の企業も多く、伊福精密株式会社(神戸市西区)のブースでは金属3D金属プリンターの技術を出展していました。同社も参加する「3DHubs化構想」というコングロマリットがあり、これは金属3Dプリンターの技術をもつ全国4社が参加し、まだ未成熟な金属3Dプリンターの技術を確立し、従来の加工工法と組み合わせたものづくりを目指していると言います。

説明してくださった同社代表取締役社長の伊福元彦(いふく・もとひこ)氏によると、神戸を拠点にする航空機部品の製造に実績がある企業や航空機産業参入を目指す企業22社が立ち上げた神戸エアロネットワーク(KAN)という団体があるといいます。同団体が進める自動運転による有人飛行可能な空飛ぶクルマの開発に欠かせない、マイクロガスタービンのローターの金属3Dプリンターによる製作に同社が携わっているそうです。


神戸エアロネットワーク(KAN)のブースに展示されていた同団体とスカイリンクテクノロジーズが開発を進める「空飛ぶクルマ」の1/25サイズのモックアップ。伊福精密はチルト式ウイングについた4基のガスタービンのブレードやケースを金属3Dプリンターで製作すると言います。
神戸エアロネットワーク(KAN)のブースに展示されていた同団体とスカイリンクテクノロジーズが開発を進める「空飛ぶクルマ」の1/25サイズのモックアップ。伊福精密はチルト式ウイングについた4基のガスタービンのブレードやケースを金属3Dプリンターで製作すると言います。


空飛ぶクルマを実現するためには、モーター駆動では重量の約60%がバッテリーとなって現実性が低く、伊福氏はガスタービンエンジンで飛ばすのが最適解ではないかと言います。現在、1/8サイズのマイクロガスタービンの開発中で、2021年4月の完成を目指しているそうです。


神戸エアロネットワーク(KAN)のブースでは、伊福精密が製作した金属3Dプリンターによるマイクロガスタービンとステンレスやチタンなどによる航空機のミニチュアが展示されていました。
神戸エアロネットワーク(KAN)のブースでは、伊福精密が製作した金属3Dプリンターによるマイクロガスタービンとステンレスやチタンなどによる航空機のミニチュアが展示されていました。


航空機エンジン点検の自動化、ジェットエンジンのブレードを自動的にコマ送り

株式会社ジュピターコーポレーション(千葉県富津市)は、航空・宇宙・船舶・医療などの機械商社であると同時に光信号ハーネスや搭載用耐環境性電気ケーブルなどを製造するメーカーでもある企業です。また、同社は「空飛ぶクルマ」を目指す有志団体、CARTIVATORに参加しているそうです。同団体は「SkyDrive」の開発を進め、現在は屋外での有人飛行を成功させています。

同社が展示していたのは、航空機エンジンの点検に使われるターニングツールという装置で、内部の見えにくい部分を観察するボアスコープ・インスペクション(BoreScope Inspection:BSI)という装置の補助機材となると言います。

説明してくださった同社の新川幸司(しんかわ・こうじ)営業課課長によると、ジェットエンジンを点検する際、ギヤ比によって非常に重くなる回転軸を手動で回し、多いものでは80枚以上もあるジェットエンジンのブレードを1枚1枚目視で止めていたことを、電動で回して自動的にコマ送りし、所定の点検位置に設定する装置だそうです。これにより、手動では3人がかりだった作業が1人で可能となるそうです。


ジェットエンジンの模型を使ったターニングツールのデモ。位置決めをするステッピングモーターとハーモニックギアが組み込まれた本体とパワーユニット、コントローラーで構成されています。本体はほとんどのジェットエンジンのボアスコープ・インスペクション(BSI)に対応できるそうです。
ジェットエンジンの模型を使ったターニングツールのデモ。位置決めをするステッピングモーターとハーモニックギアが組み込まれた本体とパワーユニット、コントローラーで構成されています。本体はほとんどのジェットエンジンのボアスコープ・インスペクション(BSI)に対応できるそうです。


各地の航空機クラスター、コロナ感染の収束後に備えて

本展示会では、全国各地の航空機クラスターのブースも目立っていました。

あいち・なごやエアロスペースコンソーシアムでは、航空機部品メーカーの熱田起業株式会社(名古屋市中川区)、航空機機体組み立て・艤装の株式会社エアロ(愛知県弥富市)、航空・宇宙用バルブの高砂電気工業株式会社(名古屋市緑区)、前述の株式会社J・3Dなどが出展。

また、新潟のNIIGATA SKY PROJECTのブースでは、受注や産学連携のとりまとめや生産管理などをする新潟エアロスペース(新潟市南区)とリング鍛造や旋削加工のタンレイ工業株式会社(新潟市北区)が出展、岐阜県のブースには精密部品の金属加工の今井航空機器工業株式会社(岐阜県各務原市)や油圧機器の株式会社水野鉄工所(岐阜県関市)が出展していました。


あいち・なごやエアロスペースコンソーシアムのブース。商談も盛んに行われていたようです。
あいち・なごやエアロスペースコンソーシアムのブース。商談も盛んに行われていたようです。


石川県航空機産業クラスター「AC Ishikawa」のブースでは、株式会社マルショー(石川県白山市)の自動車用ターボタービンの精密加工部品や参考出展として航空機エンジン用の削り出し部品が出展されていました。同社は、難削材のインコネル(R)などニッケル合金によるファンブレードやタービンベーン(羽)の加工技術をもち、現在はJIS Q 9100に準拠した品質マネジメントを構築し、エンジンの精密鋳造部品の仕上げ加工で航空機産業へ参入しているそうです。

同クラスターの事務局参事である本多保夫(ほんだ・やすお)氏は、石川県には高度な機械加工技術をもつ企業が集積しているため、航空機産業のニーズに十分対応できると言います。ただ、取りまとめるクラスターが参加企業へバランスをとって仕事を割り振るのではなく、やる気のある企業に手を上げてもらいその企業を中心にして主体的・積極的に取り組んでもらうようにしているそうです。


マルショーの航空機エンジン(参考出展)の加工部品。仕上げも手仕事による研磨によって高い品質を保っていると言います。
マルショーの航空機エンジン(参考出展)の加工部品。仕上げも手仕事による研磨によって高い品質を保っていると言います。


また、近畿経済産業局などが取りまとめる関西航空機産業プラットフォームNEXT、兵庫県のひょうご航空ビジネスプロジェクト、神戸市の神戸航空機クラスター(KAN)といった地域の航空機産業を盛り上げるための3団体が出展していました。狭い地域に3団体は多いのではないかと思いましたが、相互に連携して情報交換しつつ取り組んでいると言います。

NEXTの航空機産業コーディネーター、長谷川壽男(はせがわ・ひさお)氏によると、関西地域は全国の工業の約10%であり、そのうちの90%が兵庫県にあるそうです。現在、新型コロナで航空機産業は大きな打撃を受けていますが、長谷川氏は中型・小型機の需要は長期的に見込まれ、今のうちから感染が収束した後に備えるべきだと言います。

 

コロナ禍の中、開催されたエンジンフォーラム神戸でしたが、コアな航空機産業関連の来場者も多く、出展社のブースを熱心に見回っていました。またセミナーも盛況で、随所で活発に商談が行われていたという印象があり、コロナの影響で打撃を受けている業界とは思えないような前向きな空気を実感しました。


文/石田雅彦


参考情報
・ハステロイは、ヘインズ インターナシヨナル インコーポレーテツドの登録商標です。
・インコネルは、ハンティントン アロイズ コーポレイションの登録商標です。


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