ヒトとロボットの協調、外力に対して受動的(パッシブ)に動くロボットのメリットとは~パッシブロボティクスが実現させる新しい世界(前編)

INTERVIEW

東北大学大学院
工学研究科 ロボティクス専攻
ロボットシステム講座 知能機械デザイン学分野

教授 平田 泰久

ロボット工学の分野は、ここ十数年で多種多様な研究テーマに分岐しています。2足歩行のヒューマノイドから、産業用ロボットや医療用ロボットなどのより実体経済や実生活・実社会と親和性の高い技術が進化しつつあります。

東北大学大学院 工学研究科ロボティクス専攻、知能機械デザイン学分野の平田泰久教授らが率いる研究室では、パッシブロボティクスとよばれる概念に基づいて開発された非駆動型ロボットをメインに研究を続けています。

これはヒトの力を駆動力とし、ブレーキで台車の速度を制御したり進行方向を制御したり、と運動を制御することで、多機能でありながら、エネルギー消費量とコストを抑え、安全性を向上させることができるロボティクスで、モーターや発電機、アクチュエーターなどの周辺分野も含めた技術の研究開発をより活性化させるために創設された第6回「永守賞」を受賞している技術です。

今回から3回にわたり、平田教授にパッシブロボティクスやそのほかの研究成果について詳しくお伺いしました。

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パッシブロボティクス、外力に対して受動的(パッシブ)な運動特性を持つロボットの設計概念

────平田先生はずっとロボットのご研究を続けてきたのでしょうか。

平田教授(以下同)
そうですね。私は学生の頃からずっとロボットを研究し、2000年に修士をとって当時の助手になり、その後に研究成果が認められて博士を取りました。私が修士と博士を取ったときのテーマが、複数台のロボットを用いて単一の物体をハンドリングしようという複数ロボットの協調に関する研究でした。


────その後研究がパッシブロボティクスにつながっていくのでしょうか。

最初の頃は、1台のロボットでは運べないようなそれなりに大きな物体を3台、4台のロボットで運んでいくという研究をしていました。そのときは、ロボットがリーダーとフォロワーの役割を担い、リーダーロボットに与えられた軌道に基づいてフォロワーが協調して物体を運ぶというものでした。

その後、ヒトとロボットの協調に関する研究を始めたのですが、これはヒトがリーダーで複数台のロボットがフォロワーとなり、互いに協調してなにか作業をするという研究テーマでした。ロボットが重い物体を把持し、ヒトは軽く方向を指示するように力を加えるだけでうまく物体をハンドリングして運ぶことを目的にしました。そこから発展してヒトを支援する福祉ロボットの研究テーマにもつながっていったというわけです。

平田泰久教授(東北大学大学院 工学研究科 ロボティクス専攻 ロボットシステム講座、知能機械デザイン学分野)。1975年、宮城県生まれ。博士(工学)。日本ロボット学会研究奨励賞(2001年)、日本機械学会賞(論文、2005年)、日本ロボット学会 論文賞(2005年)、Advanced Robotics Best Paper Award(2016年)、科学技術分野 文部科学大臣表彰 若手科学者賞(2014年)、第6回永守賞(2020年)など。
平田泰久教授(東北大学大学院 工学研究科 ロボティクス専攻 ロボットシステム講座、知能機械デザイン学分野)。1975年、宮城県生まれ。博士(工学)。日本ロボット学会研究奨励賞(2001年)、日本機械学会賞(論文、2005年)、日本ロボット学会 論文賞(2005年)、Advanced Robotics Best Paper Award(2016年)、科学技術分野 文部科学大臣表彰 若手科学者賞(2014年)、第6回永守賞(2020年)など。


────ヒトが介在せずに動作するのがパッシブロボティクスというわけですか。

いえ、違います。ヒトとロボットの協調に関する研究は、むしろヒトが積極的に介在することになります。そのため安全性という観点が重要な要素でしたが、モーターを使ったロボットは安全性の確保がなかなか難しいのです。高齢者や障がい者をサポートするロボットが勝手に動き出してしまうと大変なことになってしまいます。

それならモーターを使わないロボットができないかという研究テーマが始まったのが2004年くらいです。例えば、このモーターを使わないというシンプルな考え方を基礎にし、力に対して受動的(パッシブ)という特性に注目したロボットの設計概念がパッシブロボティクスです。


────具体的にはどのような概念になりますか。

まず2004年に歩行器を作ってみました。実際に作ってみると技術的にいろいろなことがわかったのですが、理論的な解析をしようとしてオムニホイールの全方向移動ロボットにブレーキをつけてみたところ、ブレーキのコントロールでロボットを制御することが可能であるとわかりました。ブレーキで制御するロボットを複数台作って、ヒトが引っ張ってみると引っ張られた複数のロボットのフォーメーション制御ができたのです。


パッシブブレーキ、ブレーキによってロボットの運動特性を制御

────ブレーキを使ったパッシブロボティクスということでしょうか。

パッシブロボティクスという概念は、米国の研究者が最初に提唱したものですが、私自身のオリジナリティとしては、パッシブブレーキがメインの研究になります。ブレーキを使ってロボットの速度を制御する研究はすでにありましたが、我々のようにブレーキによってロボットの進む方向を制御したり、ロボットの運動特性を変化させたりすることは新しい技術です。日本でも最近、同様の研究が増えてきている分野です。


────ブレーキによって制御するということがパッシブという意味なのでしょうか。

そうですね。複数ロボットの協調制御の例で考えますと、リーダーロボットがフォロワーロボットを引っ張っています。引っ張られている側には、ブレーキのみがついており、能動的な駆動力をもっていない、すなわち受動的(パッシブ)な特性となっています。そして複数のブレーキをうまく制御することで操舵ができれば、結果として複数ロボット全体の運動を制御することができるようになります。


────平田先生のパッシブブレーキのメリットはどのようなところにありますか。

例えば、ロボットで広い面積を探査しようとする場合、従来は一台のロボットの機能を上げて精緻に作り込み、そのロボットを使って縦横無尽に動かすか、ロボットの台数を増やしていく方法が主流でしたが、それではロボットを開発したり増やしたりするコストが高くなってしまいます。そのため、なかなか実現が難しかったのですが、やはりロボットを使って広範囲の情報を得たいという要望はなくなりません。

しかし、我々の方法ですと、陸上でも水上でもリーダーのロボットに引っ張られたフォロワーの位置を制御することができるようになりますから、コストの安い個々のフォロワーのロボットを扇形に展開し続けることで広い範囲の情報をいっぺんに収集することができるのです。

1台の推進力をもつ船(リーダー)がほかのフォロワー船を牽引するコンセプト図です。フォロワー船のラダーを制御することで、リーダー船とフォロワー船の位置関係を制御し、複数台のフォロワー船でどの程度の範囲を探査できるかという探査可能領域を解析しています。
1台の推進力をもつ船(リーダー)がほかのフォロワー船を牽引するコンセプト図です。フォロワー船のラダーを制御することで、リーダー船とフォロワー船の位置関係を制御し、複数台のフォロワー船でどの程度の範囲を探査できるかという探査可能領域を解析しています。


────どのようにして複数のロボットをパッシブブレーキによって制御して引っ張る発想が生まれたのですか。

そうですね。私のもともとの研究テーマは物体搬送でしたが、このフォーメーションを使っていざ物体を搬送させようと考えたときにそんなに多様な用途、アプリケーションがあるのかどうか疑問でした。確かに理論的にブレーキをコントロールすれば、複数ロボットのフォーメーションなどを制御できることはわかったのですが、いいアプリケーションが思いつかなかったというわけです。

その後、この複数ロボットのフォーメーション制御の研究はしばらくインターバルが空いて、そのほかの研究テーマを続けているうちに、ふとこの概念を例えば水上ロボットでやれば大量のロボットによるセンシングができるようになるのではないかということに思い至ったのです。水上ロボットでの応用を考えたのは、ちょうど東日本大震災のあとぐらいの時期で、海や湖面での調査のニーズなども出てきていたのも大きかったと思います。


水上ロボットへの応用、海や湖面での調査ニーズに答えて

────水上ロボットの場合、パッシブブレーキを使っているのでしょうか。

水上ロボットのほうはブレーキの制御ではありません。フォロワーが自力で推進できないのはパッシブブレーキを使った陸上タイプと同じですが、ラダーがついていてラダーをコントロールすることで進行方向を制御することができます。ですから、水上ロボットのほうが先にできて、その後、陸上でも環境探査という観点から応用してみようということになったのです。


────水上ロボットの仕組みを教えてください。

水上ロボットの場合、フォロワーのロボットはヨットのような構造になっています。底面にキール(竜骨)がついていて、ヨットならマストに帆を張って風を受けますが、水上ロボットではこの風の力がリーダーのロボットが引っ張る力になります。ラダーの向きを変えるだけではフォロワーをうまくコントロールできず、キールに当たる水流の抵抗とラダーによる抵抗力との力のバランスによって動きを制御する仕組みになっています。このキールが重要ですが、ヨットの原理とラダーのコントロールを応用して動かしていることになります。

広域の水上調査を目的として、複数のパッシブ型ボートをフォロワーとして引っ張ります。これはキールとラダーを備えたフォロワーのロボット。
広域の水上調査を目的として、複数のパッシブ型ボートをフォロワーとして引っ張ります。これはキールとラダーを備えたフォロワーのロボット。


────フォロワーのロボットの制御はどのようにしているのでしょうか。

リーダーから引っ張られるフォロワーのロボットは、引っ張られるワイヤーの角度をセンシングするだけです。ある一定の角度になるように制御することで扇状のフォーメーションを維持し続けることができるというわけです。

このプログラミング自体はそれほど難しい制御をしているわけではありません。速度や引っ張られる角度がリアルタイムで変わってくるので、それを計算した上で最適なラダー角度を決める部分にオリジナリティがある程度で、完全自律ロボットが目標経路を正確にトレースするよりずっと単純な制御となります。


──── 複数台のフォロワーロボットを単純な機構で引っ張ることができる点がメリットというわけですね。

そうです。しかし、数多くのフォロワーロボットを引っ張りたいということになった場合、リーダーロボットから見て、三角形のフォーメーションを扇状に広げなければなりません。三角形の角度が広くなれば引っ張ることのできるフォロワーロボットの数を増やすことができますが、フォロワーのロボットに加わる力、すなわち、水上ロボットなら水の抵抗、陸上ロボットなら地面との摩擦を考慮してどのくらい広い範囲まで扇を広げることができるか考える必要があります。

陸上型のパッシブブレーキを利用したフォロワーロボット。部品のほとんどは汎用のもので、リーダーロボットが複数台のフォロワーを引っ張ります。
陸上型のパッシブブレーキを利用したフォロワーロボット。部品のほとんどは汎用のもので、リーダーロボットが複数台のフォロワーを引っ張ります。


──── フォロワーロボットは何台くらいまで増やすことができるのでしょうか。

牽引するリーダーロボットが何台のフォロワーを引っ張るべきかは、それぞれの用途にもよります。また、単純にリーダーが複数のフォロワーを引っ張るパターンもあれば、フォロワーをさらに分岐させて孫のフォロワーを引っ張って台数を稼ぐパターンなどが考えられるでしょう。

理論的には無限に増やしていくことは可能ですが、台数が増えていったときにリーダーの牽引するパワーやフォロワー自体の重さなどが影響していきますから、現実的にはフォロワーをどんどん増やしていくのには限界があると思います。また現在は、2次元平面において、あるラインにフォロワーを沿わせて移動させることができていますが、現実世界の凸凹した面になったとき、ラインにどうきれいに沿わせることができるかはこれからの課題になるでしょう。




複数台のフォロワーロボットの動きをブレーキによって制御するのがパッシブブレーキの概念というわけですが、リーダーのアクチュエーターの動力だけで全体を制御できるというのもパッシブロボティクスの概念でもあるようです。次回はパッシブブレーキの応用としての足漕ぎ車椅子と永守賞の受賞コンセプトについて伺います。

文/石田雅彦


≪中編に続く≫

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