『第3回 医療と介護の総合展 [東京](メディカル ジャパン)』現地レポート

東京と大阪でそれぞれ1回ずつ年に2回、開催されている医療と介護の総合展(通称、メディカル ジャパン)は、病院・クリニックの運営支援、医療機器、設備、ITなどを含む医療分野と介護、看護、地域包括ケア、薬局向けなどを含む介護分野に関わる製品、技術、サービスなどが出展する展示会です。コロナ禍の中、東京で3回目の同展が幕張メッセで開催され、379社が出展し、病院、クリニック、介護事業者、調剤薬局の経営者や団体トップ、職員、関係者らが来場。出展社や団体が来場者へ特徴をアピールしていました。

2020年2月に大阪で開催された同展を取材しましたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大を防ぐために政府・行政が要請したイベント自粛時期に重なりました。そのため、展示を取りやめたり展示内容を変更する出展社も多く、来場者も激減するなど、大きな影響を受けていたのが印象的でした。

大阪展から約8か月が経った東京での開催となったわけですが、会場入口で体温測定による入場制限が行われ、マスク着用が義務付けられるなど効果的な感染対策が共有されてきた感があります。もちろん、感染が拡大してから出展判断の期間があったこと、前回(2019年10月)の来場者(3日間で2万3,101人)より約1万人少なかった(3日間で1万4,377人)ことなどまだまだ元通りとはいえないものの、2月の大阪展と比べると出展を取りやめる掲示を出す出展社のブースも少なく、来場者もかなり戻ってきているようでした。


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要介護者のためのトイレ支援補助機器と、とろみ自動調理器、そして介護用見守りセンサー

超高齢化社会で老老介護の問題もクローズアップされ、介護業界の人手不足も深刻ですが、加齢による肉体疲労や精神的な疲弊が介護者の大きな負担になっています。また、要介護者の側の尊厳やプライドが軽視されることのない解決策が求められています。

創業75年の物流会社、月島倉庫株式会社(東京都中央区)が、初めて手掛ける介護事業として出展していたのが、自宅での介護者の負担軽減を目的にした車椅子使用者のための補助機器「ツキソークレーン」です。荻窪の特養施設で傾聴ボランティアをしている同社元社長で現最高顧問の北川洋子(きたがわ・ようこ)氏の発案で2年前から開発し、要介護者が一人でトイレへ行くことができる機器だそうです。

この機器は、介護者自宅のトイレのドアを外し、12㎜厚の鋼板を床に敷いてベースとし、油圧で昇降する3段式の回転クレーンを設置すると言います。あらかじめ底部に排便排尿用の穴の空いた専用のハンモックを車椅子にセットし、車椅子使用者が自分でハンモックのヒモをクレーンのフックにかけてスイッチで昇降。クレーンを回転させてトイレまで移動し、用を足すという仕組みになっているそうです。

まだ試作段階での出展ですが、特許出願中で早期に販売できる体制を整えると言います。同社は今後も介護機器の開発に取り組んでいくそうです。


荷重100kgのクレーンは1tクラスの油圧式で昇降させるそうです。苦労したのはクレーンのブーム部分で、一般家屋のトイレに設置でき、要介護者をトイレへスムーズに移動させるための堅牢なスイング機構に工夫を重ねたと言います。
荷重100kgのクレーンは1tクラスの油圧式で昇降させるそうです。苦労したのはクレーンのブーム部分で、一般家屋のトイレに設置でき、要介護者をトイレへスムーズに移動させるための堅牢なスイング機構に工夫を重ねたと言います。


自販機メーカーの株式会社アペックス(東京都千代田区)が出展していたのは、とろみを自動でつけることのできる調理器です。説明してくださった同社事業推進本部ヘルスケア事業推進部の臼井翔一(うすい・しょういち)係長によると、医療機関でも採用されているとろみ剤を使用し、人の手を介さずに衛生的にとろみがついた飲料を提供できる機器だそうです。

肺炎で亡くなる65歳以上の高齢者の死亡率は高く(96%)、誤嚥により肺炎を引き起こす誤嚥性肺炎の予防のため、介護の現場では飲料にとろみをつける試みが行われていると言います。とろみをつけることで嚥下する速度が遅くなり、誤嚥のリスクが少なくなるとされているからだそうです。

開発した同社開発部によれば、苦労した点は「とろみ粘度の安定の再現」「ダマにならずに攪拌すること」「原料の溶け残りと粘度のバランス」だったと言います。粘度は、日本摂食嚥下リハビリテーション学会の分類に応じて3段階に調整でき、温度も20℃(COLD)と45℃(HOT)、調理時間も約1分だそうです。


提供できる飲料は、ほうじ茶、抹茶、麦茶、味噌汁、ライチジュースの5種類。紙コップ用と最大2ℓまでのサーバーもあると言います。これらはリース契約(2万3,000円〜3万円/月)で提供しているそうです。
提供できる飲料は、ほうじ茶、抹茶、麦茶、味噌汁、ライチジュースの5種類。紙コップ用と最大2ℓまでのサーバーもあると言います。これらはリース契約(2万3,000円〜3万円/月)で提供しているそうです。


最近、センサーを内蔵したベッドが介護の現場に導入され始めています。株式会社シンセイコーポレーション(東京都千代田区)が出展していたのは、既存のベッドのマットレスの下に敷く介護用の見守りセンサーです。

寝ている人の寝起き、離床、入眠、覚醒といった体動、心拍や呼吸などの情報を検知し、これをスタッフルームのPCやスタッフのタブレットなどへリアルタイムで送り、モニタリングすることができるそうです。体動のアルゴリズムの開発で苦労したそうで、マットの厚みの違いによる感度の設定も難しかったと言います。

睡眠の状態を、覚醒、浅い睡眠、中度の睡眠、深い睡眠の4段階で記録することで、おすすめの就寝時間や就寝前の行動などをアドバイスすることもできるそうです。また、呼吸数や心拍数の推移を見守ることで、体調変化を早期に発見し、対処することにつながる可能性もあると言います。


厚さ8㎜の細長いセンサー部と四角いコントローラー部に分かれ、スタッフルームなどへはWi-Fiで接続すると言います。また、マットの厚みは最大20㎝まで対応可能だそうです。
厚さ8㎜の細長いセンサー部と四角いコントローラー部に分かれ、スタッフルームなどへはWi-Fiで接続すると言います。また、マットの厚みは最大20㎝まで対応可能だそうです。



医療現場で使うスマートグラスと、乳がん治療に役立つ磁気ナノ粒子を利用した診断技術

製造や物流、建設などの現場で作業する人へ遠隔で細かく指示したり情報を送るために開発されたスマートグラスを、手術室などの医療現場でも利用してもらおうと出展していたのがウエストユニティス株式会社(大阪市北区)です。

これは同社のスマートグラス「InfoLinker3」と、映像配信小型ボックス「InfoCast」、そして現場効率化ソフトウェア「LinkerWorks」がセットになったシステムで、スマートグラスはLTE(Long Term Evolution)通信で無線LANが届かない場所でも遅延0.2秒以下のリアルタイムの使用が可能と言います。

説明してくださった同社の羽生和之(はにゅう・かずゆき)代表取締役社長によると、このスマートグラス、首にかけるタイプのバッテリーが長時間の手術者への負担と疲労を軽減し、作業ナビは骨伝導スピーカーで明瞭な応答ができるそうです。最大8人までの手術室のチーム医療で使用でき、音声コマンドとタッチパネルの両方で操作し、ディスプレイは非透過型なので画面が見やすく、4Kカメラにはブレ防止の補正機能がつけられているといい、無影灯での白飛び、微小な血管などを撮影できるオート露出なども改良を重ねているそうです。


実際に装着してみると首にかけたバッテリーによりスマートグラスの負担が軽減されていました。現バージョンは2019年2月から開発を始め、2021年3月に市場へ出す予定と言います。
実際に装着してみると首にかけたバッテリーによりスマートグラスの負担が軽減されていました。現バージョンは2019年2月から開発を始め、2021年3月に市場へ出す予定と言います。


がんは日本での死因第一位ですが、技術革新や診断・健診によって早期発見が可能になってきています。がんが発見された場合、すぐに治療方針を立てて治療を開始できれば、がん征圧と縮小、転移抑制、さらには患者のQOL(Quality of Life)低下を防ぐことができます。株式会社マトリックス細胞研究所(東京都千代田区)が今回の展示会に出展していたのは、乳がんの治療に役立てることのできる磁気ナノ粒子を利用した診断技術と装置です。

同社は医学博士で獣医師でもある日下部守昭(くさかべ・もりあき)東京大学大学院農学生命科学研究科附属食の安全研究センター特任教授が2001年に創業(代表取締役社長)したベンチャーで、説明してくださった日下部氏によれば、この装置は一種の金属探知機だそうです。

乳がんの治療方針を進める上で重要なのは、リンパ節へ転移しているかどうかで、転移の有無はがん細胞がリンパ管を取って最初に到達するセンチネルリンパ節というリンパ節を探し出して摘出・検査し、そのリンパ節に転移がなければ転移していないことがわかり、ほかのリンパ節を予防的に摘出する必要がなくなると言います。

現在、放射性の薬剤を使ってセンチネルリンパ節を同定する方法が一般的だそうですが、放射性薬剤を扱える医療機関が限られ、放射線被ばくの危険もあるそうです。この技術では、リンパ節に磁気を帯びさせたナノ粒子を流し、量的に測定してセンチネルリンパ節を探し出すことで放射線被ばくのリスクを解消し、磁気免疫染色を用いて短時間での転移診断が可能と言います。

ただし、日本で侵襲性のある粒子は薬剤のカテゴリになり、薬機法で認証されているナノ粒子は限られ、技術としては確立しているものの、日本で使うためにはまだハードルが高く実現には時間がかかるそうです。そのため、同じ技術を使い、がん細胞へ金属マーカーを打ち込むという低侵襲の早期発見の測定法を先に実現させようとしていると言います。


この金属探知機のような磁気プローブによって磁気ナノ粒子をセンシングし、センチネルリンパ節を同定するそうです。リンパ節がわかると磁気プローブと非磁性筋鈎によって摘出し、磁気ナノ粒子集積量測定器とリンパ節非破壊検査装置で磁気免疫染色によって転移の有無を調べると言います。
この金属探知機のような磁気プローブによって磁気ナノ粒子をセンシングし、センチネルリンパ節を同定するそうです。リンパ節がわかると磁気プローブと非磁性筋鈎によって摘出し、磁気ナノ粒子集積量測定器とリンパ節非破壊検査装置で磁気免疫染色によって転移の有無を調べると言います。


幕張メッセで開催された3回目になる医療と介護の総合展は、感染対策も手慣れてきた感があり、出展社や来場者も比較的、安心して対応できていたのではないかと思います。出展社もマスクやフェイスガードをつけ、来場者も密を避けた行動をすることで、従来と同じような展示会になっていたようです。医療と介護は今後ますます重要になってくる分野ですが、実際的・具体的な製品や技術も多く、患者さんや家族、医療介護関係者の問題解決のための多種多様な出展が興味深い展示会でした。


文/石田雅彦


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