大学発ベンチャーが「死の谷」を越えるためには。九州地域の大学発ベンチャーを支援するファンド

INTERVIEW

QBキャピタル合同会社
代表 坂本 剛

経済産業省が実施した「令和元年度産業技術調査(大学ベンチャー実施等調査)」によれば、2019年9月時点で大学発ベンチャーの数は2,566社を記録。2018年度で確認された2,278社から288社増加するなど、過去最高を記録しています。

そうした中、九州地域から新たな産業を生み出すべく、九州大学を筆頭に九州の国公立大学・私立大学など九州全域の大学発ベンチャーを支援するファンドが「QBファンド」です。同ファンドを設立した経緯について、運営元のQBキャピタル代表の坂本剛(さかもと・つよし)氏に話を聞きました。


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ファンドを立ち上げたきっかけ、事業化に結びつくためのリスクマネー供給

QBキャピタル代表 坂本剛氏
QBキャピタル代表 坂本剛氏


福岡出身の坂本氏がQBキャピタルを立ち上げたのは2015年4月。同年9月には、西日本シティ銀行などの地元企業の出資によって、総額31億円の「QB第1号ファンド」を組成しました。投資先は創薬、素材、ナノテクなど多岐にわたっており、ファンドの立ち上げから5年で合計25社へ投資を実行しています。

QBキャピタル代表の坂本氏は九州大学工学部を卒業後、リコーなどを経て2004年から九州大学知的財産本部特任准教授に就任し、6年ほど大学発ベンチャーの支援を担当。その後、2010年からは産学連携機構九州(九大TLO)の代表取締役として、大学発ベンチャー支援、産学連携ビジネスの開発に携わってきた人物です。

九州大学知的財産本部、産学連携機構九州での大学発ベンチャーの支援を通じて坂本氏が感じた課題が「どれだけ研究内容がすばらしくても、リスクマネーの供給が少なければ、なかなか事業化に結び付かない」というものでした。

「よく“死の谷”と言われますが、研究開発型ベンチャーが研究成果を事業化するには、いかにリスクマネーを供給するか、が重要になります。しかし、地方には研究開発型のベンチャーにリスクマネーを供給するファンドがなかったんです。その結果、ヒト、モノ、カネが集まりづらく、地方にはエコシステムが構築できずにいました」(坂本氏、以下同)

その一方、15年ほど前から研究開発型ベンチャーのエコシステムづくりに着手し、今や成功モデルとして語られているのが東京大学です。同大学は東大発をはじめとする大学発ベンチャーに投資を行うベンチャーキャピタル「UTEC(東京大学エッジキャピタルパートナーズ)」を2004年に設立し、これまでに100社以上に投資を実行しています。

「東京大学のようにリスクマネーを供給し、研究開発型ベンチャーの事例が生まれることで、そこにヒトとモノが集まってきます。その結果、エコシステムができるのです。研究開発型ベンチャーの多くは“資金”がボトルネックになっているので、そのボトルネックを解消するファンドが必要だと前からずっと思っていました。ただ、誰もファンドの組成に着手しなかったので、結果的に自分でファンドを立ち上げることにしました」


ファンドの資金集めのために、大学の研究関連データを分析し技術シーズをアピール

産学連携機構九州の代表取締役を退任後、坂本氏はファンドの設立に取り組み始めますが、ファンドの資金集めに苦労します。坂本氏にはベンチャーキャピタリストとしてのトラックレコード(IPOやM&Aによる投資先のEXIT実績)がありませんでした。また、企業や金融機関など訪問しても「大学発ベンチャーの成功事例がない」という理由でファンドにお金を預けてくれる企業や金融機関がなかなか集まらない状況が続きました。

「当時から『有望な会社はあるの?』と言われることが多かったのですが、個人的には『探していないだけ』だと思っていました。東京大学では年平均600件以上の発明が生まれていて、発明の数では劣りますが、研究成果に圧倒的な差があるわけではありません。現場にいたからこそ有望な発明のシーズ(種)があることは知っていました。エコシステムさえ構築すれば、研究成果は事業化に結びつくと思っていたんです」

資金集めに苦戦しながらも、坂本氏は知人経由でベンチャーキャピタル経験者の本藤孝(ほんどう・たかし)氏と組み、最終的に西日本シティ銀行などの地元企業から出資を取り付けることができました。

「ベンチャーキャピタリストとしての実績がなかったからこそ、九州大学でどれだけの研究費が獲得されているのか、また研究者の数や特許の数などのデータをまとめて見せることで、有望な技術のタネがあることを理解してもらえました」


事業化を見極めるギャップファンド(プレ投資)機能、大学発ベンチャーの失敗事例から

このようなプロセスを経て、2015年9月に組成されたQBファンド。同ファンドは1社あたり数千万から3億円程度のエクイティ(Equity)投資を行うとともに、事業化プロジェクトの段階から数百万円程度の少額投資を行い、事業化を見極めるギャップファンド(プレ投資)機能を持ち合わせているのが大きな特徴となっています。

プレ投資プログラムは会社設立以前の事業化プロジェクトに1件あたり100〜500万円の投資を実施し、その資金をもとにプロジェクト期間中(半年〜1年)に、PoC(Proof of Concept、概念実証)や経営人材の探索を行い、大学発ベンチャーの創出に繋げていくものです。


「私がこれまで見てきた大学発ベンチャーの失敗事例は、補助金や助成金を得る目的で起業したり、教授が知り合いの社長に経営を任せたケースが多かったり、とにかく人材と資金がボトルネックになっていました。だからこそ大学発ベンチャーの課題の一つといわれる研究費と民間投資の間にある資金的ギャップを埋め、地域において有望な大学発ベンチャーの創出を目指すプレ投資プログラムを実施しています」

実際、QBキャピタルの投資先でもある、小型・軽量・安価な手指リハビリ用ロボット装具「SMOVE」の開発および事業化に取り組むメグウェルは、このプレ投資プログラムを経て生まれた大学発ベンチャーです。

また、QBキャピタルは有機半導体レーザー技術を手がける研究開発型の九州大学発のスタートアップ「KOALA Tech」や、糖鎖ナノテクノロジーを用いた超高感度・迅速・非侵襲性のウイルス遺伝子検査を可能にするウイルス検査トータルシステムなどの開発を手がける鹿児島大学発のスタートアップ「スディックスバイオテック」などにも投資を行っています。スディックスバイオテックは最近、澁谷工業と共同で新型コロナウイルス感染症とインフルエンザウイルスA型およびB型を同時検査する、高速PCR検査装置を開発する発表しており、1つの唾液検体から短時間での同時検査診断の実現を目指しています。

「大学発ベンチャーを生み出していくためには、起業する前の段階で躓いてしまい、ビジネス競争のスタート台にも立てないような事態を防ぐことが重要です。いきなり砂漠に放り出し、がんばってオアシスを目指して、というのではなく、ラクダと水を用意するから一緒にがんばっていこう、という仕組みを構築するのがQBキャピタルの役割です」

QBキャピタルは九州地域の大学から生まれた有機ELやICT、エネルギー関連、ヘルスケア、アグリバイオなどの領域を中心に投資を実施。すでに投資先の6社が経済産業省が推進するスタートアップ企業育成支援プログラム「J-Startup」に選出されています。

現在、2号ファンドの組成にも取り組み始めているQBキャピタル。同社が目指すのはアカデミアの世界とビジネスの世界の架け橋になることです。

「QBキャピタルの“QB”は九州の“Q”と橋の“B”をつなぎ合わせた言葉です。研究開発型ベンチャーが“死の谷”に落ちてしまわないように、機動的な投資をしていき、資金的ギャップを埋める架け橋のような存在になっていけたらと思っています」


文/新國翔大


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