CTスキャンやX線イメージングなど見える化技術が注目を集める理由〜独自技術で存在を示すベンチャー企業たち(3)

今まで見ることのできなかった対象や現象を「見る」ことで理解が進んだり、新しい応用分野、産業が拓けていくことも多くあります。今回は見える化を可能とするキーテクノロジーである「センサー」の最前線を紹介します。

▽おすすめ関連記事

センサーとは

センサーとは、物理的、化学的な現象を別種の取り扱いやすい形にするデバイスや装置のことです。例えば、温度を測定するセンサーについて考えてみましょう。<図1>に示す温度計は「水銀や赤色に着色した灯油といった液体が温度によって体積が変わる」ことを利用したものですし、<図2>に示すサーミスタ式温度計は「温度変化による電気抵抗の変化」を利用しています。体積や電気抵抗を温度という尺度で数値化することで、我々は「暖かい、冷たい」といった主観的な表現でなく、「○○℃(°F)」という客観的な数字のデータを得ることができるのです。さらに、センサーデバイスによって得られた客観的な数字データは時系列で並べたり、空間的な変化を見ることにより、様々な情報をもたらしてくれます。

<図1>水銀温度計
<図1>水銀温度計


<図2>サーミスタ式温度計
<図2>サーミスタ式温度計


上記の例以外にも、圧力や湿度、距離、(ものの)傾き・加速度といった物理量が測定できるセンサーも多く開発されています。身近なところではスマートフォンや各種ウェアラブルデバイスでも使われるほど小さく軽く、そして安価なものになっています。また、従来では微小すぎて測定できなかったものを測定するセンサーも現れ始めています。


医療向け患者の体内の様子をリアルタイム測定、「CTスキャン」

空間中の温度やガス濃度などをリアルタイムで3D空間分布計測する方法があります。例えば、燃焼しているエンジン内部や化学反応を起こしているプラント内の状態を知るために、熱電対(Thermocouple)などを使用した一点での温度測定や、ガスをサンプリングすることによる濃度測定が行われています。しかし、それらは時間的・空間的な一点を切り取ったものであり、系全体の実態を把握することは難しいものでした。エンジンや化学合成プロセスでは、原料成分や各プロセスの濃度・温度分布の管理・制御、排出物の管理などが性能に大きな影響を及ぼします。そのため、これらの測定には非常に高いニーズがあります。 
 
このセンシングを可能にしたのがCT(Computed Tomography:コンピュータ断層撮影)半導体レーザー吸収法と呼ばれている技術です。CTとは医療現場でよく使われている、CTスキャンと同じ用語です。
CTスキャンは患者の体内の様子を知るため、人体に向けてX線を様々な方向から照射し、それぞれのX線ビームが人体の各部を透過した後の強度を測定しています。その膨大な数値データを元にして、体内の各所を小さなブロックに分けて、それぞれの場所がどのようなX線吸収特性を持っているかを計算します。その小さなブロックごとの計算結果と既知の物質のX線吸収特性を比較し、画像として組み上げることで人体を輪切りした映像を取得することができるのです。


<図3>CTスキャン外観
<図3>CTスキャン外観


上記のようなCTスキャンの工業版とも言えるのが上述したCT半導体レーザー吸収法です。X線ではなく半導体レーザーを使用し、空間中のガス中温度・濃度をリアルタイムで時系列に計測することができます。また、すでにエンジン・ボイラなどに適用可能な状態になっています。

工業製品向け非破壊の内部観察、「X線イメージング技術」

大量の工業製品を作り出荷するには、不良品を出さないことが必要ですが、すべての製品を分解して中身を確認するわけにはいきません。そのような用途でもX線を用いた非破壊の内部観察は有効です。しかしながら、従来のX線での非破壊試験が万能というわけではありません。例えば、従来のX線センサーではX線を大まかな波としてしか捉えることができず、強度のみを活用してイメージングしていました。そのため、X線が持つ情報の多くは活用できないままでした。また、多量の放射線を用いることによる被曝リスクや、画像が鮮明でない・複雑な情報まで取得できない、測定に時間がかかるといった問題が生じていました。

<代表的なX線イメージング技術>

X線イメージング技術 概 要
フィルム X線と感光体の反応により像を作成します。X線自体が透過性が非常に高いという特性(すなわち、反応しづらい)があるので、感度を上げようとすると線量を増やす必要があるといった問題もあります。
シンチレーター +
光検出器
「荷電粒子が通過するときに発光する」物質の総称をシンチレーターと呼びます。その際に発生するシンチレーション光を光検出器を用いることでイメージを作ります。シンチレーターを介しての測定になるため、「効率が悪い」、「シンチレーション光は全方向に放射されるため、画像にぼけが発生しやすい」という課題もあります。
ガスカウンター ヘリウムなどの希ガスを閉じ込めた容器に陽極と陰極を取り付けます。そのガス分子に十分なエネルギーのX線が衝突すると電離が発生し、その電子の移動を計測することによりX線の強度を測定します。
半導体カウンター 気体よりも高密度な半導体(SiやGeなど)を活用して、X線との衝突による電離を電子の移動を計測することにより、X線の強度を測定します。

 

<図4>X線イメージング技術の例。ガスカウンターを用いたX線センサー(左)と半導体カウンターを用いたX線センサー(右)
<図4>X線イメージング技術の例。ガスカウンターを用いたX線センサー(左)と半導体カウンターを用いたX線センサー(右)


従来のSiを用いたX線センサーでは、物質を透過しやすいというX線特性もあり、1%程度しかX線を捉えることができず、感度や解像度も低いものとなっていました。そのため、医療や工場での検査のために必要なX線線量が多くなったり、装置が大型化するなどの課題もありました。

それらの課題を解決する高解像度のX線イメージセンサーの鍵となる技術がCdTe(Cadmium Telluride:テルル化カドミウム)半導体素子を使用するものです。半導体素子はX線を照射することで電子を発生させることができます。ただし、そのためには結晶内の原子とX線の衝突を発生させることが必要です。従来の素子に用いられていたSiではX線を受け止める能力が低く、また食品などの用途で使用されているGeでは熱によるノイズが大きいため、冷却プロセスが必要になるなどの問題がありました。


<半導体素子に使用する元素と特徴>

半導体素子に使用する元素 特 徴
Si(シリコン) X線センサーとしても多くの用途で使われています。また、半導体の加工という側面でも様々な加工技術の蓄積もあるため、多様な製品も作製しやすいです。ただし、原子番号14と小さいため、放射線の吸収能力が低く(X線の透過性高)センシングの効率は悪いです。
Ge(ゲルマニウム) Geの原子番号は32であり、Siの14と比較して大きいためX線の吸収能力は高く、分解能も高いです。食品の放射能検査などでの活用事例があります。ただし、バンドギャップが0.67eVと低いために熱によるノイズの影響が大きく、使用時に液体窒素などでの冷却が必要です。
CdTe(テルル化カドミウム) 原子番号が大きく、X線の吸収能力は高いです(高検出感度)。また、比較的大きなバンドギャップが 1.44eV)を有するため、室温で動作が可能です。

 

上記の技術により、従来のX線強度に加え、波長情報を取得することにより、従来の1,000倍の感度を実現できています。また、一つ一つの光子(フォトン)を計数してX線を測定する感度の高い測定であるフォトンカウンティング技術を用いることにより、ピクセル毎に高いエネルギー分解能でエネルギースペクトルを取得できます。これまで影絵であり白黒であった X 線のイメージングを透過する物質を区別してカラー表現することもできるようになってきています。

センサーのさらなる社会実装のため乗り越えるべき課題

社会により多くのセンサーを実装していくことで、我々の生活を便利にすることができますし、インフラの不具合や災害などを事前に検知することで予防措置を講じたり、起こってしまった後でも被害を軽減させるような施策を打つこともできます。しかし、多くのセンサーを社会の中で活用していくには課題もあります。

例えばセンサーを作動させたり、得られたデータを送信する際には「電力」が必要となります。しかしながら、各種インフラや自然環境内など電池の取り替えなどが現実的でない場合も多くあります。そのため、太陽光や温度差など環境中のエネルギーを活用する手法も検討されています。

加えて、センサーデバイスの製造上で重要かつネックとなるプロセスが、「実装」です。近年ウェアラブルデバイスなど新たな機能性を持つ製品も増えていますが、安価な基板や電子部品を使用する際などは、低温・低圧力での実装技術が必要となることもあります。

一方で近年、大きく発展した技術であるAIをセンサーと組み合わせて使うという発想で、原理的に実測定が難しい測定を行えるようにするソフトセンサーという取り組みも始まっています。前述した温度、圧力や湿度、距離、(ものの)傾き・加速度などの物理量を直接測る装置を「ハードセンサー」と呼びます。一方で、化学プラントで化学反応が進んでいく最中の密度や重合度といった直接測定することができないパラメータをリアルタイムで推定する装置のことを「ソフトセンサー」と呼んでいます。


独自の見える化技術をもつベンチャー企業

ボールウェーブ株式会社、超微量水分の検出が可能なセンシング技術

東北大学発ベンチャー企業であるボールウェーブが開発するボールSAWセンサーは、非常に微量なガス分子を検出することができます。半導体製造プロセスなどのppmオーダーの超微量水分の検出など他では実施できない使用条件への適応や高速応答性を持っています。また、ボールSAWセンサーに使用する直径わずか3 mmの単結晶水晶を覆う有機物薄膜を変化させることで、水だけでなく様々な種類のガス分子のセンシングが可能となっています。同一の機構で様々な微量センシングを可能とするプラットフォームができつつあるのです。

>ボールウェーブ株式会社、詳しい情報はこちら

 

<図5>ボールSAWセンサー原理(提供:ボールウェーブ株式会社)
<図5>ボールSAWセンサー原理(提供:ボールウェーブ株式会社)

株式会社Smart Laser & Plasma Systems、反応場の温度・濃度を非接触計測可能なCT半導体レーザー吸収法

徳島大学発ベンチャー企業であるSmart Laser & Plasma Systemsは、反応場の温度・濃度を非接触、時系列2次元・3次元計測可能なCT半導体レーザー吸収法を独自に開発しています。徳島大学を中心として立ち上げられた「CT半導体レーザー吸収法コンソーシアム」では本技術の研究開発が進められており、多くの企業との共同研究も行われています。実際にエンジン開発やプラント内の化学反応の把握、さらには半導体などの超高精度な製造プロセスなどへの応用も進んでいます。また、本技術を用い、次世代産業プロセスプロセス制御(産業プロセスの自動運転化)へ向けた取り組みもなされています。

>株式会社Smart Laser & Plasma Systems、詳しい情報はこちら

 

<図6>CT半導体レーザー吸収法のエンジンへの取り付けと測定原理(提供:株式会社Smart Laser & Plasma Systems)
<図6>CT半導体レーザー吸収法のエンジンへの取り付けと測定原理(提供:株式会社Smart Laser & Plasma Systems)

株式会社ANSeeN、革新的な放射線センシングデバイスを実現

静岡大学発のベンチャー株式会社ANSeeNは、従来の1000倍の感度を実現したX線センサーデバイスの研究開発を行っています。各種のインフラの非破壊検査の迅速化・高度化ならびに低被曝での医療検査などの応用を目指しています。医療を含む検査コストの大幅な削減 ・医療画像診断の自動化、かつ高精度化 ・金属構造物の正確な画像化を期待でき、非侵襲で大量の情報を高速で得ることができるため、活用用途は非常に大きいといいます。

>株式会社ANSeeN、詳しい情報はこちら

 

<図7>株式会社ANSeeNのコア技術(提供:株式会社ANSeeN)
<図7>株式会社ANSeeNのコア技術(提供:株式会社ANSeeN)

まとめ

医療や介護、インフラ管理さらには製造業などの様々な課題に対して、見える化技術への期待は高まっており、センサーに関してはソフトウェアとハードウェアの両側から研究・開発は大きく進んでいます。その進化は大きな資本を持つ大企業だけが推進するだけでなく、本稿で紹介したような大学や技術ベンチャーが握っているのかもしれません。


▽独自技術で存在を示すベンチャー企業たち

▽おすすめ関連記事

こちらの記事もおすすめ(PR)