患者さんの筋電を感知し手指の動きをサポート、地場企業と大学がタックを組んで開発している「手指リハビリ用ロボット装具」

INTERVIEW

株式会社メグウェル
代表取締役 田名部 徹朗
CTO 荒田 純平氏(九州大学教授)

厚生労働省が発表している2017年の人口動態統計によれば、日本人の死因の第3位は「脳血管疾患」で、同年における脳血管疾患の患者数は111万5,000人でした。

また寝たきり患者の4割は脳血管疾患が原因であり、多くの場合は手指に麻痺が残り日常生活への影響が大きいと言われています。そうした状況にも関わらず、手指は関節が多く骨格が複雑なため、手指リハビリ用装具は技術的ハードルが高く実用化が難しい、と言われてきました。そんな課題を解決すべく、九州大学発のスタートアップ「メグウェル」が手指のリハビリ機器「SMOVE(スムーブ)」の開発・実用化に取り組んでいます。

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リハビリ用ロボット装具、筋電を感知し手指の動きをサポート

メグウェル代表取締役 田名部徹朗氏
メグウェル代表取締役 田名部徹朗氏


SMOVEは筋肉を動かす際の電気を感知し、手指の動きをサポートするリハビリ用ロボット装具です。タッチパネルで操作する本体とグローブのような装置がセットとなっており、前腕3か所に電極を取り付けると、センサーが手指を動かす筋肉の電気「筋電」を感知。それをもとに5本の指の合計13関節を自動で動かします。

「脳血管疾患によって、手指に麻痺が残り動かない状態になると『動け、動け』と思っていても脳の大脳皮質から出た電気信号は手指まで届きません。

ただ、筋肉には電気信号が届いているので筋電をSMOVEに伝えることでグローブが動き、手が開閉できるようになります。生身の手指は動かないのですが、ロボット装具が手指の屈曲・進展をサポートすることによって、人間の身体はおもしろいもので次第に神経回路がつながっていくのです。最終的には手指の機能を回復させていくための道具がSMOVEです」

SMOVEについて、メグウェル代表取締役の田名部徹朗(たなべ・てつろう)氏はこのように語ります。SMOVEの特徴は「小型」「軽量」「安価」の3つです。

これまでにも手指のリハビリ機器はありましたが、既存の海外製品はコンプレッサーなどを使用していることから大型の固定式が多く、価格も1,000万円以上します。一方のSMOVEは重量を約200グラムに抑え、卓上でも使えるほか価格も数百万円ほどを目指しています。


ロボット工学を医療に応用、ばねを⽤いた柔軟機構

メグウェルのCTO(最高技術責任者)、九州大学工学研究院教授の荒田純平氏
メグウェルのCTO(最高技術責任者)、九州大学工学研究院教授の荒田純平氏


そんなSMOVEのコア技術となっているのが、ばねを複合的に⽤いた動⼒伝達・変換機構です。これまでのベアリングや軸を多⽤する機械構成を改め、ばねの⼤変形を⽤いて「機構」として動作させることで、小型・軽量・安価を実現しています。

実際、グローブのような装置の5本の指には柔軟な板状ばねが取り付けられていて、これを活用することで本体のモーター1台だけで手を握ったり、開いたりする動きができるようになっています。

SMOVEの開発がスタートしたのは、今から10年前。「ロボット工学を医療に応用し、病気などで困っている人の役に立たせたい」という、メグウェルのCTO(最高技術責任者)を務める九州大学工学研究院教授の荒田純平(あらた・じゅんぺい)氏の思いが開発のきっかけとなっています。

荒田氏はもともと、ロボット工学の医療応用についての研究・開発を行ってきた人物。「手のリハビリ分野にロボット工学があまりに活用されていなかった」ことを課題に感じた荒田氏は2010年からチューリッヒ工科大学との共同研究で基礎技術を開発。そして、2011〜2012年にかけて、スライドばねによるハンドリハビリテーション装置を開発します。

「脳血管疾患の患者さんは自分の手指が動かないことに戸惑い、中には泣き出してしまう人もいます。そうした中、認可をとった上でハンドリハビリテーション装置を試しに患者さんに使ってもらったら、笑顔になって喜んでもらえたんです。試作段階で苦しんでいた人が笑顔になる姿を見て、実際に使ってもらえるまで技術を伸ばしたいと思いました」(荒田氏)

その後、荒田氏は医学研究院の飯原弘二(いいはら・こうじ)教授や九大病院の迎伸孝(むかえ・のぶたか)助教と相談するなど「医工連携」で手指リハビリ用ロボット装具の開発を進めていきます。


地元金属加工企業と連携、産の足りない部分を学の知見で補う

SMOVE。腕につけたセンサーが筋肉の電気信号を読み取り、機械が動く。
SMOVE。腕につけたセンサーが筋肉の電気信号を読み取り、機械が動く。


そんな荒田氏の研究に目をつけたのが、QBキャピタル代表の坂本剛(さかもと・つよし)氏でした。九州大学には手指リハビリ用ロボット装具に必要な知見はありますが、実際に装置を開発するアセットはありません。そこで坂本氏は各種機械装置の金属部品加工や装置開発の受託を手がけている福岡県の企業「三松」に声をかけたのです。

「坂本さんから『御社が何か手伝えそうな仕事があるので九州大学先端医療イノベーションセンターに来てもらえないか?』と声をかけてもらったんです。それで実際に足を運び、荒田さんと話をする中で、まずはパーツの開発を手伝うことになりました」(田名部氏)

こうして2013年に三松がSMOVEの開発に参画。その後、研究開発が進み、従来にない柔軟機構を活用した小型・軽量・安価な手指リハビリ用ロボット装具のアイデアに行き着いたタイミングで、三松はパーツだけでなく、全体部分の開発も請け負うことになります。

「グローブの形状をつくるのはリハビリ用ロボット装具のシステムを開発する上でも大事な部分です。荒田さんたちから知恵をいただきつつ、産業ロボットの開発部分は三松が担当する。まさに産学連携における、産の足りない部分を学の知見で補いながら開発を進めていき、2016年に現在のSMOVEの開発に至りました」(田名部氏)


リハビリで毎日継続できるように安価で軽量な装具を

産官学連携で開発を進めているメグウェル
産官学連携で開発を進めているメグウェル


国の助成金を受けながら九州大学でスタートさせた研究開発を、途中からは三松も参画し民間のノウハウを活用しながら開発を進めていったSMOVE。2016年には臨床試験として可能性探索試験(フィージビリティ試験)によって可能性が確認されたことで、実用化に向けて動き出します。

「実際に使っていただくにあたって、グローブの使い勝手などプロダクトデザインなどの部分も重要になってきますので、そこは三松の人たちと協力しながら試行錯誤を繰り返しました。数え切れないくらいのパターンを試し、現在の形になっています」(荒田氏)

その後、三松の田名部氏が代表取締役に就任し、九州大学の荒田氏がCTOに就任する形で2018年9月にメグウェルを創業。2019年には日本医療研究開発機構(AMED)の「医工連携事業化推進事業(開発・事業化事業)」に採択され、資金面での支援を受けながらSMOVEの実用化に向けて歩みを進めています。

「こうした医療機器は実際に使ってもらえなければ意味がありません。ですから、SMOVEの販売に関しては帝人ファーマに加わっていただき、全国規模で販売できる体勢の整備も進めているところです」(田名部氏)

現在、SMOVEは治験の一歩手前にある臨床試験のフェーズ2にあたる「第2相試験」を実施しており、2023年での市場投入を目指しています。まずは全国で5,200か所ある、リハビリと名のつく施設への導入を進めていくとのことです。

「まずはリハビリ施設に導入していただき、医師や理学療法士の指導のもとSMOVEを使ってもらえたらと思っています。ただリハビリは毎日継続していくことが大事ですので、安価で軽量なものの開発も進めていき、将来的には自宅で使ってもらうなど、在宅医療に結び付けていけたら、と思っています」(荒田氏)


文/新國翔大


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