業界構造の変遷に注目。日本企業が半導体ビジネスで没落した理由とは〜半導体入門講座(15)

半導体は“産業のコメ”とも呼ばれ、日本に始まって、世界中の経済を支えてきました。複雑な工程が必要とする高集積半導体ICですが、1960年代くらいまでは半導体メーカー1社がほぼ設計から製造まですべての工程を担ってきましたが、1970年代から分業化が進み、現在の「デザインハウス」、「ファブレス」、「ファウンドリ」などの分業体制が確立します。今回は、半導体産業の業界構造の変遷に注目し、日本企業が半導体ビジネスで没落した理由を詳しくご紹介します。

 

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1970年代から半導体産業の分業化が進む

前回ご紹介したように、半導体集積回路(Integrated Circuit:IC)を作るのには、設計から製造まで複雑な工程が必要である。しかしこれも極めて単純化した工程であり、高集積ICだとこの数十倍もの長い工程を通るほどもっと複雑で時間がかかる。だからこそ、さまざまな業界が参入し、手分けして製造工程を分担してきた。簡単に半導体産業の分業化の歴史を見てみよう。

半導体の集積度は1960年代から毎年上がってきており、ムーアの法則と呼ばれてきた。それはICがますます複雑になっていくことを意味した。そうして半導体メーカーは、1社ですべてを賄おうとせず、分業体制が確立していく。1960年代くらいまでは半導体メーカーがほぼ1社ですべての工程を担ってきたが、1970年代から分業が進み始めていた。最初に始まったのは製造装置やテスターを請け負う産業が生まれた。そして、後工程の組み立て・パッケージのアセンブリ工程が別会社となったり、独立会社が生まれたりした。<図1>


<図1>半導体産業は分業の歴史
<図1>半導体産業は分業の歴史


設計だけの「ファブレス」、製造だけの「ファウンドリ」の登場

1980年代までは半導体メーカーは設計と製造プロセスが一体となって行われていた。1980年代の終わりには半導体工場を建てるのにも資金が大きくなってきたため、工場を建てられない半導体企業も現れた。彼らは半導体設計に特化し、「ファブレス(Fabless)」と呼ばれるようになった。

ファブレスは製造を「IDM(Integrated Device Manufacturer、設計から製造まで請け負う半導体メーカー)」に依頼していた。ほぼ同時に、製造だけを請け負う「ファウンドリ(Foundry)」、TSMC社が誕生した。設計するためのソフトウエアツール(EDA、Electronic Design Automation、電子設計の自動化)だけを扱う企業も登場した。

1990年代はファウンドリが雨後のタケノコのように続々生まれた。米国のあるジャーナリストは「スタートアップ・フィーバー」と呼んだ。ファブレスの設計の中には、ARM社のように半導体集積回路の中の一部の重要な回路だけを扱う企業も現れた。この一部の重要な回路をIP(Intellectual Property:知的財産)と呼び、IPをライセンス販売するというビジネスが生まれた。

さらに2010年以降になると、分業化はさらに進み、設計コードが機能を正確に表しているか、コーディングのミスがないか、タイミングは要求された性能を満足しているか、など検証だけを扱う企業が生まれた。さらに、チップとチップを3次元的に重ねていきIC間を貫通孔で接続するという3次元ICを担う業者も生まれた。また、最新のパッケージに使われるハンダボールがプリント回路基板にすべて正確に付いているかどうかをチェックするJTAG(Joint Test Action Group)検査を担う業者も出ている。



日本が分業化に手遅れた理由

半導体は水平分業の歴史でもあったが、日本の半導体業界はこのことをなかなか理解しようとしなかった。これは、日本が没落した理由の一つでもあった。

現在もIDMを続けている企業は、大量生産が必要なメモリメーカーと、アナログやパワー半導体を扱うメーカー、そしてIntel社だけである(注1)。かつてIDMだったほとんどの半導体メーカーはファブレスかファウンドリに分かれた。メモリはDRAMにせよNANDフラッシュにせよ、昔ながらの大量生産の製品だけに、設計というよりも製造が主体のビジネスである。Intel社でさえも、7nm以下の超微細化技術となると外部(TSMC社)に委託する可能性をほのめかしている。

注1)

Intel社はCPUコアを事業の中心とする半導体メーカーで、一部NANDフラッシュとOptaneメモリ(Intel社とMicron社が共同で開発した高速不揮発性メモリ技術「3D XPoint」を採用したもので、DRAMとNANDフラッシュの間を埋める速度を持つ)事業を行うメモリ事業もある。しかし、メモリ事業は、2020年第3四半期における売り上げ全体の3%しかないため、メモリメーカーと見なされていない。そのIntel社がメモリ事業の内、NANDフラッシュメモリをSK Hynix社に売却することを発表している。独自技術のOptaneメモリは手放さない。

 

 

またアナログとパワー製品は、製造プロセスと今も密接に関係しているだけではなく、デジタル製品と違い超微細化技術は必要ない。このため生産設備は、微細化するほどの高価なものはいらないため、工場を持ち自分で最適化して性能を上げる企業が多い。最先端の微細化技術で設計すると性能がむしろ落ちるというシミュレーションさえ出ている。

日本のメーカーはDRAMという超汎用の大量生産製品で1980年代に成功した体験を持つため、システムLSIという少量多品種製品へビジネスを切り替えた後も、微細化投資を止めなかった。このため工場を長い間、持ち続け利益率は減少し、赤字に転落した後も工場を手放すことに躊躇していた。このぐずぐずするという遅い経営判断が没落の象徴でもあった。

水平分業の歴史は、大量生産から少量多品種生産への歴史でもあった。メモリだけはコンピュータ技術の拡大によって今でも需要が広がっており、大量生産を続けている。コンピュータ技術はこれまでも見てきたように、メインフレームからパソコンへのダウンサイジングだけではなく、組み込みシステムというあいまいな言い方の、コンピュータではないがコンピュータ技術を使うシステムが拡大してきたこともメモリ需要がなくならなかったことの理由でもある。


高い成長率を示す「ファブレス」と、圧倒的な強さを示す米国

1980年代末に誕生したファブレスとして、先行したのはFPGA(Field Programmable Gate Array)を手掛けるXilinx(ザイリンクス)社とAltera(アルテラ)社だった。FPGAは、ユーザーが自分の好きな回路を自由にプログラムして構成できる半導体ICである。主要なロジック回路を寄せ集めたLUT(Lookup table)を多数持ち、スイッチとなる大量のSRAM回路も集積したロジックICだ。Xilinx(ザイリンクス)社とAltera(アルテラ)社は競い合ってFPGAビジネスをけん引し成長した。

やや古いデータだが、ファブレスとIDMの成長率を1999年から2012年まで集計したのが、<図2>である。この図からわかるようにIDMよりもファブレスの方が成長率は高い。2010年だけは例外的にIDMが高いのは、メモリが不足し生産拡大で伸びたため。また、ファブレスは景気後退でマイナスになるときも落ち込みがIDMより少なく、安定したビジネスと言える。


<図2>ファブレスの成長率はIDMより高く安定している。2010年はメモリが伸びたため例外的にIDMの方が高くなっている(出典:IC Insights)
<図2>ファブレスの成長率はIDMより高く安定している。2010年はメモリが伸びたため例外的にIDMの方が高くなっている(出典:IC Insights)


ファブレスは、元々資金が足りなくて工場を建てられないという、止むに止まれぬ事情で始まったが、実は成長率がIDMよりも高かったという訳だ。ファウンドリをうまく使えば自社開発のチップを持つことができることがわかった。

ファブレスとして、最も売り上げが多いのが米国のQualcomm社であり、Broadcom社が続く。Qualcomm社は5G通信が立ち上がってきたことによって、中国のスマートフォンメーカーからの要求が高まっている。2020年の第1四半期におけるファブレスのトップ10社を並べたのが<図3>である。3位にはAIにシフトして業績を伸ばしている米国NVIDIA社がいる。この調査では、Qualcomm社の売り上げはチップの売り上げだけであり、特許料の売り上げは含んでいない。



<図3>ファブレスの2020年第1四半期のトップ10社(出典:TrendForce)
<図3>ファブレスの2020年第1四半期のトップ10社(出典:TrendForce)


米国メーカーが圧倒的に強く、10社中7社が米国を本社とする企業であり、それ以外は台湾企業(MediaTek社、Novatek社、Realtek社)である。4位にいる台湾のMediaTek社もQualcomm社同様、中国HUAWEI(華為)社からの需要により5Gのスマホで売り上げを伸ばしている。中国にも強いファブレスはいる。HiSilicon社が最大だが、HUAWEI社の子会社となっており、ほとんどが内製である。

このトップ10社ランキングには日本のファブレスは1社も入っていない。第10位の米国Synaptics社の2020年第1四半期だけで3億4,800万ドル(約365億円)であるが、日本のファブレスはまだそのレベルに及ばない。日本では、ベンチャーとして起業したファブレスはいる。メガチップス社やザインエレクトロニクス社などだ。しかし、メガチップスの2020年3月期における1年間の通期売上額が657億円、ザインエレクトロニクス社は2019年度(1〜12月期)の売り上げが48億8,200万円とかなり小さい。


「デザインハウス」、ファブレスから更に分業

またファブレスという範疇に入れるが、設計だけを請け負う「デザインハウス」もある。これは、IC設計では前回紹介したように、RTL(Register Transfer Level)出力までのコーディング作業が必要だが、HDLやVerilogなどの設計記述言語を習得する必要がある。未経験のIC設計言語を学ぶよりも、RTL出力をコーディングしてくれる業者に頼む方が合理的と考える人たちもいる。こういった業者がデザインハウスである。デザインハウスはRTLをプログラミングし、GDSIIというマスク形式を出力するLSI設計を請け負う。

デザインハウスは、社員数が数十名と比較的小さな企業が多く、しかも顧客に密着した地域に設立されたところが多い。国内ではDNP(大日本印刷)社が古くからLSI設計を手掛けており、現在は、株式会社DNPエル・エス・アイ・デザインとして事業を展開している。DNPは、ICは欲しいが設計も製造もできないというユーザーから注文を受け、自社で設計しマスクまで出力できる。さらにファウンドリのTSMC社とも契約しており、マスクデータをTSMC社に送り製造を依頼する。それをテストしてユーザーにICチップを納品する。

デザインハウスとして、海外ではインドが強い。例えばTexas Instruments(TI)社やSTMicroelectronics社は、米国や欧州でICの仕様を固め、設計作業をインドのデザインハウスに依頼し、自社に戻して製造していた。このためインドのデザインハウスは力をつけ、自社でEDAツールを改良したり、自社でASIC(Application Specific Integrated Circuit、特定用途向け集積回路)を設計したりする能力が十分高い。



著者:津⽥建二(つだ・けんじ)
技術ジャーナリスト。東京⼯業⼤学理学部応⽤物理学科卒業後、⽇本電気(NEC)⼊社、半導体デバイスの開発等に従事。のち、⽇経マグロウヒル社(現在⽇経BP 社)⼊社、「⽇経エレクトロニクス」、「⽇経マイクロデバイス」、英⽂誌「Nikkei Electronics Asia」編集記者、副編集⻑、シニアエディター、アジア部⻑、国際部⻑など歴任。


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