デジタル化時代に人々の自由を担保するベーシックインカムとは

『普通の人々の戦い』
-AIが奪う労働・人道資本主義・ユニバーサルベーシックインカムの未来へ
アンドリュー・ヤン 著
早川 健治 訳
那須里山舎
2020/03 446p 3,200円(税別)
デジタル化や自動化で“普通の人々”が困窮に陥る可能性がある
デジタル化によって自動化が進むと、必然的に人間がやらなければならかった仕事が減る。すると、いくら企業が生産性を向上させて利益を増やしても、それを労働者に賃金というかたちで還元するのが難しくなっていく。
本書『普通の人々の戦い』は、ITやAIの発達によって“普通の”労働者が職を失い、貧困にあえぐ米国の現状を整理。そして、その対策としてのユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)の有効性を主張している。
著者のアンドリュー・ヤン氏は弁護士で、ベンチャー起業家でもある。さらに、2020年の大統領選にUBI政策を掲げて民主党から出馬したが、予備選挙でジョー・バイデン氏に敗れた。
本書ではさまざまな統計をもとに、“普通の米国人”を「高卒か大学中退」「年間所得約310万円(1ドル100円で換算。以後同様)」「貯金は60万円」「毎月の給料を当てにして生きている」人々だとしている。そして、デジタル化が原因で職を失いつつあるのがごく一部の人々ではなく、こうした標準的な米国人だというのだ。
彼らは十分な資産もなく、特殊な技能も、高度な知識も持ち合わせていないため、現在の職を失うと、なかなか再就職が難しい。職に就けても好条件は望めないため、あっという間に貧困状態に陥り、二度と這い上がれなくなる可能性がある。
ヤン氏は、こうした人々を窮状に追い込まずに、デジタル化を推進するための施策として、UBIの導入を主張しているのだ。
有意義なことをする自由、ストレスからの解放という自由を与えてくれるUBI
UBIの細かい仕組みは、導入を検討する国によってさまざまだ。ヤン氏が提唱するUBIでは、18~64歳の米国民全員に、貧困ラインを越える最低限の年間所得約120万円を支給する。
ヤン氏は、UBIを独自に「自由配当」と呼んでいる。これは、UBIによって、生活を維持する収入を得るためではない活動に時間を使う、「自由」な時間が増えることを強調する呼び方だ。
その時間は、新たな仕事にチャレンジする準備にあててもいい。また、子どもの養育や教育、親族の世話、貧困者の支援、芸術や創作活動など、人間の尊厳の核となるような活動に時間を使うのも自由だ。
また、UBIで最低限の収入が保証されていれば、生活のためになりふり構わず働かなければならないという心理面のストレスからも解放されるかもしれない。UBIは、精神的にも「自由」を与えてくれるのだ。
実際に、フィンランドで2017年から2年間行われたUBIの実証実験では、受給者の精神的なストレスが減少し、生活への満足度が上がることが確認されている。
コロナ禍をきっかけに、日本でもUBIへの関心が高まっているようだ。デジタル化の推進とセットで、議論を深めていくべきテーマだと思う。