名古屋でも新型コロナウイルス感染症により延期や中止が多かった展示会が開催され始めています。名古屋の展示会といえば、金城ふ頭のポートメッセなごやで開催されることが多いのですが、5回目となる名古屋ものづくりワールドは、会場手配の関係で9月9日から3日間中部国際空港(セントレア)に隣接した愛知県国際展示場(Aichi Sky Expo)で行われました。名古屋駅(名鉄)から約40分の移動距離ということで意外に近いと感じました。
愛知県国際展示場は2019年8月末に開館した新しい展示場ですが、今回の名古屋ものづくりワールドでは主催者による感染症対策を施し、3つのホールをつなげて展示場としていました。
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心ズレを吸収するバネ継手
機械の軸同士を繋げ、正確に稼働させるために必要な軸継手(カップリング)。回転の中心軸を共有する軸継手(永久継手)には、自在継手(ユニバーサル・ジョイント)、固定軸継手、流体継手(管継手)などがありますが、名古屋市中村区の株式会社酒井製作所が出展していたのはバネ軸継手と補正式軸継手です。特に板バネを使ったバネ軸継手は剛性があり、バネがたわみ材となって芯ズレを吸収するそうです。
バネ軸継手は、継手本体(ハブ)に板バネをボルトで組み付け、また継ぐ軸にはダブルボルトクランプ式という複数本のボルトで軸と直角方向から対称に取り付ける方法のため、軸心が偏らず、片方から取り付けるクランプ式で生じる芯ズレが少なくなるといいます。頻繁に回転の方向が変わるモータの軸を継ぐために、板バネ式で剛性と対称性のあるダブルボルトクランプ式のバネ軸継手がいいそうです。

同社では、板バネ軸継手以外にも補正式や固定式の軸継手を展示していました。軸継手は、駆動軸と従動軸をつなぐ重要な部品ですが、両軸の間のズレなどを補正するために軸継手自体にある程度の柔軟性が必要です。同社はその振動・衝撃の吸収を板バネによって実現させているそうです。
バリ取りの自動化プログラム
金属やプラスチック加工に欠かせない「バリ取り作業」。加工の過程で発生するバリを取る作業や研磨作業を安定して高品質で行うことは、なかなか自動化ができない技術課題でした。バリは精度を悪化させるほか、故障や摩耗につながることはもちろん、取り扱い時に怪我を起こす原因にもなります。東京都千代田区の株式会社ジーベックテクノロジーが出展していたのは、異形状や交差穴など、プログラムの作成が難しい作業を行うフリーエッジの自動化プログラムです。
同社製のバリ取り専用カッターと加工プログラム(点群の座標データ)により、ほとんどのエッジ形状のバリ取りが可能になったそうです。手作業でしかできなかったバリ取りを自動化させることができると言います。

ほかにも同社製のブラシによるフェイスミル、エンドミル、穴あけ加工後のバリ取りや研磨の展示、表面や内径のカッターマーク除去、金型の溝やリブなどの研磨といった製品や技術が展示してありました。
発泡スチロールの鋳造型で低コスト化
愛知県弥富市の株式会社富田鉄工所が出展していたのは、発泡スチロールを木型の代わりに鋳造の型にするという展示です。通常、合成木材や繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics、FRP)などをNC(Numerical Control、数値制御)マシンなどで型を作っていますが、同社では発泡スチロールの型や発泡スチロール模型によってコストを10分の1、リードタイムを3分の1以下にするといいます。
発泡スチロールの素材は、焼き取り、使い捨てが可能のため、抜き勾配が不要です。またNCマシンによって横方向のZ方向を垂直に削ることができ、加工工程数が少なく、そのため早くできるそうです。さらに木型では表面仕上げや芯取りなどで加工に時間がかかりますが、発泡スチロールは貼り合わせ修正などが可能で工程数を格段に少なくできると言います。

発泡スチロールを使った鋳造では、発泡スチロールを溶かしながら溶湯と置換させるフルモールド鋳造法が行われています。今回、出展していたのは同社の模型部だそうで、実際の鋳造や仕上げ加工などはまた別の部署が行っているそうです。
独特の方法で固定するクランプ
部材や治具などの固定や締付けにはクランプというツールが必要不可欠です。また、直線移動の部品をある特定の場所で固定したい場合、ネジ締めすることが一般的です。東京港区のトークシステム株式会社が出展していたのは、固定するクランプと固定を解除するアンクランプがワンアクションで行えるクイッククランパーという技術です。手を離すだけで安定した固定保持力と落下防止が可能になるそうです。
ネジ締めによるクランプ固定方法は、ネジ締めの強弱でバラツキが出たり締め過ぎで破損したりしますが、このクランプは内部にグォードローラーというオリジナル開発の樽型ローラーを用い、グォードローラーが回転することで弾性変形し、一種のクサビによる摩擦効果が生じて移動を保持すると言います。そしていったん逆方向へ引くとグォードローラーが離れ、アンクランプすることができるそうです。
同社の展示では、このクイッククランパーを使った「ならいユニット」もありました。これはワークを把持するための治具を、ワークの形状に沿って自在に変形させるユニットだと言います。クイッククランパーとエアシリンダーの組み合わせにより、ワークの凸凹に応じて治具がクランプし、任意の位置と姿勢でワークを保持するそうです。


エアーを使わない乾式研磨ブラスター
東京都港区にある東洋研磨材工業株式会社は、エアーを使わない乾式研磨ブラスターを出展していました。同社によると、従来のエアー式では、どうしても熟練が必要で研磨ムラが生じてしまうそうです。今回、出展していたのはベルトコンベアーで物理的に研磨メディア(研磨石)を叩きつけることで、複雑な三次元形状の鏡面仕上げ、微細加工のバリ取りや外周エッジの仕上げなどをすることが可能になったと言います。
投射される研磨メディアは、同社独自のもので、きなこ餅のように弾性と粘着性をもったコア材の周囲にダイヤモンドの微細な砥粒を積層させたものだそうです。ベルトコンベアーによって繰り返し使用可能な研磨メディアであり、また投射される研磨メディアが大量なために作業が早く、コストダウンにつながると言います。
この研磨メディアは、弾性のある材質のため、ワークの形状変化が少なく、大量かつ広範囲に投射されるため、熟練度が求められず均一にムラのない研磨ができるそうです。

以上、愛知国際展示場で初めて開かれた名古屋ものづくりワールドでしたが、名古屋市内から距離があるにもかかわらず、出展企業や来場者は新型コロナウイルス感染症の影響があったことを考えれば、まずまずの数になったのではないかと思います。会場は広々としていて開放感があり、3密を防ぐことができていたのではないでしょうか。
ただ、やはり出展を見合わせたブースも目立ち、飲食や休憩のスペースが広く取られるなど、本来の状態に戻っているとは言い難いと思いました。来年の名古屋ものづくりワールドは、再びポートメッセなごやへ会場を移すそうです。
文/石田雅彦
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