マテリアルズ・インフォマティクス(MI)など材料開発が注目を集める理由〜独自技術で存在を示すベンチャー企業たち(1)

車やスマートフォン、ドローンといった様々な「最終製品」は競争が激しく、技術の進歩も非常に早い分野です。そして、これらの分野における技術進歩の鍵は、バッテリーやセンサーなど各種の部品が握っています。製品の性能を飛躍的に向上させるため、それら部品を構成する材料が着目されるとともに、その特性を大きく左右する「材料開発」も非常に活発に行われています。

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材料開発が活発に行われる理由〜新規材料開発のモチベーションと産学官連携状況

材料開発の流れ
材料開発の流れ


材料の改良や革新は、各種部品の性能向上のみならず、コスト低減や軽量化など様々なメリットを期待することができます。特に、「軽く」て「強い」など両立しなければならない特性を実現できれば、産業上とても大きなメリットがあります。

例えば、生物由来材料で「軽く」て「強い」を両立する材料である、セルロースナノファイバー(Cellulose Nano Fiber:CNF)は、車やエレクトロニクスなど様々な業界へのインパクトが大きいため、環境省主導で社会実装に向けて様々なバックアップが行われています。CNF性能評価モデル事業ではCNF活用材料で部品等を試作し、実機に搭載することで製品としての信頼性、CO2削減効果等の性能評価を実施しています。このように早期社会実装に向けた導入実証が進められています。

また、「コンパクト化」や「低コスト化」によって、今までは使うことができなかった分野で製品を活用できることもあります。さらに、設計の自由度が上がることで斬新なデザインの実現や使いやすさといった機能性も付与しやすくなります。このように材料開発は、製品をベースからレベルアップするポテンシャルを秘めているのです。


<新規材料材料開発のモチベーション>

 新規材料開発モチベーション 事例
ベースとなる材料性能の
飛躍的な向上
高発電効率の太陽電池、ワイドバンドギャップ半導体、
パワー半導体関連の実装材料
低コスト化 新規製造プロセスへの対応
(プリンテッド・エレクトロニクスなど)、高価な素材の代替
環境対応 鉛フリーはんだ
その他リスクへの対処
(カントリーリスクなど)
希少元素を使用した材料の代替
研究先行型の材料の社会実装化 高温超電導、マルチフェロイック材料、グラフェン

 

そのため、材料開発には大学の研究室や材料専業のメーカーだけでなく、車やエレクトロニクス関連の大手メーカーも積極的に進出しています。また、企業間の連携や大学などの連携も多く見られるようになっています。

<材料開発における産学官連携>

 連携機関 概要
国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(New Energy and Industrial Technology Development Organization:NEDO) 材料・ナノテクノロジーに関する先進的な研究開発も進めている。大学や国立研究所、企業など多くのプレイヤーが連携しながら様々なテーマを進めている。
例)燃料電池の劣化を大幅に抑制する白金‐コバルト合金水素極触媒の開発。国立大学法人山梨大学と田中貴金属工業株式会社が実施。「固体高分子形燃料電池利用高度化技術開発事業」にて実施。
新構造材料技術研究組合
(Innovative Structural Materials Association:ISMA)
自動車を中心とした輸送機器の抜本的な軽量化に向けた技術開発の推進を行う、43企業、2国研、2大学(2019年4月1日付)からなる技術研究組合。輸送機器の主要な構造材料である鉄鋼、軽量金属、熱可塑性炭素繊維強化樹脂(CFRTP)等の高性能化の研究開発を行う。

輸送機器の燃費向上によりエネルギー消費量とCO2排出量を削減し、低炭素社会の実現を目指す。

プリンテッド・エレクトロニクス研究会(PE研究会) プリンテッド・エレクトロニクス(PE)技術を基盤とし、これを活用した次世代IoTおよびAI技術を取り入れた研究会。技術情報のみならず、国内外の法的整備(規制緩和、特許等)からサービスやベンチャー動向まで幅広く、情報提供しており、その中で新材料や材料系の情報もやりとりされている。

 

材料開発で使われる計算手法

材料開発は長年多くの企業や大学で行われてきました。しかし、「元素の種類」や「組成元素の組み合わせ」、「構造」など、非常に多くのパラメータがあり、その物性の発現機構も複雑です。そのため、研究者の勘や経験、更には絨毯爆撃的なアプローチで研究・開発が進められることも多くありました。

一方でコンピュータを活用して最小限の実験によって進めるアプローチも進展しています。特に、高分子化学の世界ではタンパク質のような巨大な分子の化学反応を、コンピュータを使って効率よく計算する手法が、ツールとして多く用いられています。こちらは米ハーバード大学のカープラス(Martin Karplus)博士らの2013年ノーベル化学賞でも話題になりました。

<材料開発で使われる計算手法>

 計算手法 概要
第一原理計算(First Principles Calculation) 原子レベルやナノスケールレベルにおける物質の基本法則である量子力学(第一原理)に基づき、(実験データや経験的な数値を用いずに)物質の電子状態を予測する計算技術。多くの近似手法の確立や汎用計算ソフトの開発、コンピュータの性能向上などにより、様々な場で活用されている。しかし、スーパーコンピュータを用いても扱える原子数は千個程度が限界であり、現実の物質を全て扱えるわけでないなど計算の限界も指摘されている。

電子間、原子核間、および電子-原子核間のクーロン相互作用から出発し、量子力学の基本法則に立脚した電子状態理論を使って電子分布を決め、物質の諸性質を計算する。

経験パラメータを含むモデルを活用した計算 第一原理計算にくらべて計算規模が小さく、物理現象を広く捉える部分に長けている。しかし、モデルの適用範囲の問題や研究者の思い込みなどのエラーが入り、計算結果が物性を正しく表さないという懸念もある。例)原子間の相互作用を経験的なレナード・ジョーンズ・ポテンシャルで表現して行う、分子動力学の計算。
計算機シミュレーションによる計算 理論的な手法を実践的に使うため、スーパーコンピュータを活用した材料開発のプログラムが開発されている。
例)合金の複雑な構造をパラメータ無しで予測。横浜国立大学の大野かおる教授、国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)の佐原亮二主幹研究員らは、航空機ジェットエンジンのタービンなどに使用されるNiAl合金の複雑な微細構造を様々なNiとAlの混合比に対して一切のパラメータを使用せずに物理の基本法則のみから正確に予測することに成功した。文部科学省ポスト『京』重点課題の一環として実施されているプロジェクト。

 

 

マテリアルズ・インフォマティクス(MI)を用いた材料開発

ビックデータの取り扱いやAIなどの技術発展により、材料研究において注目が集まっているのがマテリアルズ・インフォマティクス(MI)という分野です。MIとは、材料に関する大量の情報を基にコンピュータによる計算やAIを活用することで、新素材や代替素材を効率的に探索する手法です。

MIは従来の実験科学を中心とする手法から、計算科学・データ駆動型の手法、AIを用いて効率化を目指す開発手法であり、従来の素材開発を劇的に向上する事例も多数報告されています。MIの発展により、元素組成や原子間距離などの基礎パラメータと保磁力や伝熱特性等のマクロな物性データを集め、機械学習させることで、ある物性に関係するパラメータを見出し、材料研究者の物性に関する知見の延長にはない、新しい材料設計手法を生み出すことも期待されています。

更には、従来、暗黙知とされていた部分が多い製造プロセスも「温度」や「応力の大きさやタイミング」といったパラメータと製造物の物性データを蓄積して関係性を見いだすことで、効率的な製造プロセスなどを生み出すことができるかもしれません。


<マテリアルズ・インフォマティクス(MI)での活用が期待されるデータベース>

 機関 概要
国立研究開発法人物質・材料研究開発機構(National Institute for Materials Science :NIMS) 世界最大級のマテリアルデータベースサイト「MatNavi」を構築。

クリープ特性や疲労特性のデータシートを基にした構造材料データベース、高分子や無機材料、金属材料、拡散、超伝導材料データベースなど、公表されている学術文献から有用な数値データを採取し、データベース化。

 

 

独自の材料開発支援技術をもつベンチャー企業

MI-6株式会社、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)による材料開発を支援

そのような中でMIを積極的に使いこなすベンチャー企業も現れています。「MI-6株式会社」では、MIによる材料開発を実現するツールおよびプロセスを実行、管理する「MIプラットフォーム」を構築しています。東京大学津田研究室や塩見研究室などの多くのアカデミアの知見も活かしながら、様々な種類の材料開発をステージごとにサポートできる仕組みを作り上げています。

>MI-6株式会社、詳しい情報はこちら

 

 

材料開発のステージ別のサービス (提供:MI-6)
材料開発のステージ別のサービス (提供:MI-6)


すでにキシダ化学と共同でリチウムイオン電池用難燃性電解液の開発に成功するといった事例も見られるようになっています。

材料開発における協業体制 (提供:MI-6)
材料開発における協業体制 (提供:MI-6)


インデント・プローブ・テクノロジー(IPT)株式会社、材料開発における高品質なデータの取得

理論面やインフォマティクス面以外にも材料開発には絶対に必要となるものがあります。それが、信頼できる研究データの取得です。データをいかに正確に、素早く取得できるかによって、研究開発の質もスピードも変わってきます。

例えば、「インデント・プローブ・テクノロジー(IPT)株式会社」では透明な圧子を用いて、材料に力をかけた際の変形挙動をリアルタイムな画像情報として取得しています。それにより、従来測定が不可能であったデータの取得も可能になりました。

>インデント・プローブ・テクノロジー(IPT)株式会社、詳しい情報はこちら

 

 

サンプルと圧子との位置関係を自在に制御できる粗動・微動機構 (提供:インデント・プローブ・テクノロジー(IPT))
サンプルと圧子との位置関係を自在に制御できる粗動・微動機構 (提供:インデント・プローブ・テクノロジー(IPT))


圧子押し込み時を側面から見た表面変形の模式図 (提供:インデント・プローブ・テクノロジー(IPT))
圧子押し込み時を側面から見た表面変形の模式図 (提供:インデント・プローブ・テクノロジー(IPT))


株式会社アドバンスト・キー・テクノロジー研究所、単結晶製造プロセス中の挙動観測

また、高純度の結晶を製造し、そのデータを余すことなく解析できれば、材料開発は飛躍的に進歩すると考え、独自の単結晶製造技術を生み出したベンチャーもいます。「株式会社アドバンスト・キー・テクノロジー研究所」では、溶け込みによる不純物の混入の恐れがある「るつぼ」を使用しない高純度結晶作成方法を生み出しました。

原材料の多結晶体ペレットを下部に置き、四方に設置したハロゲンランプの光をペレット上端に集光させて加熱・溶融します。そこに上部から種結晶を下ろし、単結晶を成長させます。このプロセスでは、横からカメラで撮影することもできるので、結晶の成長過程のダイナミックなデータを集めることも可能です。製造プロセス中の結晶の形状変化と比熱の挙動を観測することで、どのような原料の場合に、どのように単結晶が成長するのかを分析することができます。

>株式会社アドバンスト・キー・テクノロジー(AKT)研究所、詳しい情報はこちら

 

 

単結晶製造の様子 (提供:アドバンスト・キー・テクノロジー研究所)
単結晶製造の様子 (提供:アドバンスト・キー・テクノロジー研究所)


これらの従来にない高品質なデータはインフォマティクス技術などと連動し、材料開発を加速していくキーテクノロジーとして注目されています。


まとめ

材料開発は多くの産業を根底から覆す可能性を秘めた分野です。現在も世界中で研究開発が進められています。材料分野からのイノベーションを起こすには、本項で紹介したような、異分野の融合が必要となっています。また、社会実装に向けては材料を各種デバイスへと加工していくプロセスも重要となるでしょう。


▽独自技術で存在を示すベンチャー企業たち

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