身近な振動や動きで発電、「電池フリーのIoTデバイスの実用化」に向けた磁歪式の振動発電技術とは

INTERVIEW

金沢大学
理工研究域電子情報通信学系
准教授 上野 敏幸

多くのIoTデバイスは交換が必要な「乾電池」を電源として使用しています。1個・2個であれば問題ありませんが、10個・100個も使うとなると交換の手間や寿命管理が大変です。そうした中、交換や管理の手間をなくすべく、金沢大学の振動発電研究室が開発したのが磁歪式の振動発電デバイス「V-GENERATOR」です。

同デバイスは振動によって電池以上の出力を発生し、一旦セットすれば交換の必要もなく半永久的に使うことができます。電池フリーのIoTデバイス実用化においても期待がかかるV-GENERATORについて、開発者の上野敏幸(うえの・としゆき)氏に話を聞きました。

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磁歪式の振動発電デバイス、振動からエネルギーをつくり出す

金沢大学 理工研究域電子情報通信学系 准教授 上野敏幸氏
金沢大学 理工研究域電子情報通信学系 准教授 上野敏幸氏


V-GENERATORは、U字型のフレームに板状の鉄ガリウム合金(Galfenol、磁歪材料)を貼り付けてコイルを巻き、中央に永久磁石を配置した磁歪式の振動発電デバイスです。

具体的な発電の原理は次のとおり。先端に錘を取り付け機械などの振動源に固定すると錘に慣性力が作用し、上下に振動。この慣性力でフレームは変形し、鉄ガリウム合金の長手方向に圧縮もしくは引っ張りの力が作用します。この時に逆磁歪効果(応力で磁化が変化する効果)で磁束が変化し、この変化に応じてコイルに起電力が発生することで発電します。

V-GENERATORの構造図(※「ユニモルフ」は後述)
V-GENERATORの構造図(※「ユニモルフ」は後述)


また上野氏によれば、下記の5つがV-GENERATORの大きな特徴となっているそうです。

①シンプルで製造も容易、高い耐久性
②高出力・高感度
③よい電源特性(低出力抵抗)
④サイズ・形状自由度の高さ
⑤低コスト



「V-GENERATORはU字フレームをベースにしたシンプルな構造で、従来の技術で容易に製造ができます。従来のハーベスター(Harvester)と呼ばれる振動発電技術に圧電素子やエレクトレット(electret、永久電荷)、永久磁石の往復運動を利用するものがありますが、これらの技術が実用化しない理由は、発生電力・耐久性・電源特性の低さにあります。

また、電池を代替するには少なくとも電池以上の出力を発生し、耐久性・寿命がなければ意味がありません。さらに電圧が出れば良いわけでなく、電源として使うには出力抵抗の大きさも重要です。圧電素子やエレクトレットは出力抵抗が高く、電流(電力)が取り出しにくい性質を有していますが、V-GENERATORはコイルの仕様で電圧・抵抗が調整可能です。

さまざまな振動や要求に応えるには、デバイスの調整やカスタマイズも必要になってきますが、V-GENERATORはこれらの調整や大きさ・形状のカスタマイズも容易に可能です。現にV-GENERATORは極小から特大まで5つのサイズを展開しています。デバイスコストは鉄ガリウム合金に依存し、量産化が進めば電池並みの価格になると期待しています。」(上野氏)


振動や衝撃で発電し、そのセンサー信号を無線送信

V-GENERATORの多様なサイズ
V-GENERATORの多様なサイズ


V-GENERATORによる発生電力はデバイスの大きさに比例しており、小サイズでボタン電池、中サイズで単三乾電池を代替する電力を作り出すとのこと。

「スイッチや衝撃など瞬間的に大きなエネルギーを取り出すこともでき、さらに電圧は振動や動きの強さに比例するので、V-GENERATORはセンサーの役割も兼ねます」(上野氏)

床の振動など身近な振動や動きで発電し、さまざまな場所、モノからセンサー信号を無線送信するV-GENERATOR。近距離の範囲では、人、モノの一度の動きや衝撃で発電、信号を送信し、長距離の範囲では振動で発生した電力を蓄電、または大きな動きで発電し、温度・加速度などのセンサー情報をLPWA(Low Power Wide Area、長距離低消費電力無線モジュール)などで送信します。


例えば、機械の振動によって振動や温度の通知をしたり、車や風による振動によって橋梁の状態を監視したり、床の振動によって不審者を通報したりできます。さまざまな使い方ができ、あらゆるモノ・場面で利用することも可能です。


振動発電研究の発端と、開発の肝となったフレーム構造

振動により発電するV-GENERATOR
振動により発電するV-GENERATOR


開発者の上野氏は磁歪材料を利用した振動発電技術の第一人者。2000年に東北大学 工学研究科 機械電子工学専攻で博士(工学)の学位を取得するなど、振動・磁歪材料・磁気応用技術・アクチュエータなどに精通しており、2010年に逆磁歪効果を利用した振動発電技術の基本原理(平行梁型)を発明した人物です。

「当時からIoTという言葉はありましたが、電源の問題は今ほど顕著ではありませんでした。ですが、今後IoTが普及していくに伴い、電源の問題は顕在化するだろうと思い、振動発電技術の研究を重ねていくことにしたんです」(上野氏)

このデバイスに利用されている鉄ガリウム合金はアメリカの海軍研究所で開発された材料で、もともと海軍はそれを使って超音波ソナーシステムを開発していました。上野氏は博士課程から超磁歪材料という材料の応用研究を行っていましたが、それをきっかけに海軍研究所から鉄ガリウム合金の提供を受けました。それが本研究の発端ですが、2010年の構造は「耐久性」や「製造」に課題がありました。

「当時考えた構造も良かったのですが、耐久性が課題でした。もちろん、従来のものも耐久性は高い構造でしたが、製造が難しいものだったんです」(上野氏)

これを打破したのが、2016年に発明した現在のデバイス構造(ユニモルフ型)で、2017年にこの特許(特許第6343852)を取得しました。ポイントは、鉄ガリウム合金をフレームに貼り付ける(積層する)構造で、これによりV-GENERATORが生まれたのです。

「開発の肝となっているのが、U字型のフレーム構造です。装置に振動が加わると、フレームはバネのように変形し、この際にその表面に積層した鉄ガリウム合金が伸び縮みし、磁束が変化します。この磁束が効率よくフレームを流れ、また鉄ガリウム合金にはコイルが巻いてあるため、その磁束の変化でコイルに起電力が発生するのです。これにより、耐久性が高く、製造も容易で、小さな振動を効率よくとらえ発電する構造になっています。」(上野氏)

また、上野氏は「デバイスを効率よく使うには、もともと振動しないようにできている機械やモノの動きをいかに捉え“振動させる”かがポイントです」と語ります。

その点においてV-GENERATORは、フレームの先端に取り付ける錘で共振周波数を調整します。この共振を機械の振動周波数に合わせることで、小さな振動で装置は大きく揺れます。この調整を如何に簡単にできるかが実用化の鍵を握ります。


電池フリーのIoTデバイス実用化のため

「2022年度中の実用化を目指す」と上野氏は言う
「2022年度中の実用化を目指す」と上野氏は言う


自動車やTPMS(Tire Pressure Monitoring System、タイヤ空気圧監視システム)、電源、鉄道船舶、農業・漁業、防犯・見守りなど、さまざまな分野において、電池フリーのIoTデバイス実用化が期待されています。V-GENERATORはその将来性を高める一端を担う新技術のひとつとして注目されており、現在、金沢大学の振動発電研究室にはさまざまな企業から問い合わせがきています。

「今まで使われていなかった“振動”を電源に変える。そして世界に電池フリーの衝撃をもたらす技術は磁気現象を利用した普遍的なエネルギー変換技術で、モーターと同じくらいのインパクトと市場性があると自負しています。また、あらゆる現場で人手不足が顕著になり、モニタリングも行き届かなくなることが予想されるので、そこを自動化し、電池交換は不要でメンテナンスの手間もなるべく不要にするV-GENERATORの需要は今後どんどん高まっていくのではないかと思っています」(上野氏)

すでにV-GENERATORは研究開発の大半は完了しており、現在は2022年度中(2023年3月まで)の実用化を目指し、事業化・開発パートナー企業を探しています。すでにコマツ製作所はクリーンルームの室内管理用のドアにV-GENERATORを設置する実証実験を実施。ドアの開閉ごとに充電を行って温度・湿度センサーの無線送受信試験を行った結果、2週間で1,792回のデータを採取できた、という結果も出ているそうです。

「V-GENERATORを効果的に使うには振動を知り目的に応じたデバイスの選定と、現場での設置・調整作業が必要です。これをいかに簡単にするかが普及の鍵です。私たちは、この技術課題に挑戦します。振動発電の技術モデルを確立し、日本から世界に向けて技術を発信していければと思っています」(上野氏)


文/新國翔大



参考情報
・V-GENERATORは、国立大学法人金沢大学の登録商標です。

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