「メイド・イン・ジャパン」のこだわり《シグマ~山木和人社長:中編》ニューノーマルにおける「ものづくりの経営者たち」(4)

INTERVIEW

株式会社シグマ
代表取締役社長
山木 和人

福島・磐梯町にある会津工場で部品、金型までも自工場で作り上げている、他にはないものづくりメーカーです。他社が海外に進出していく中、こだわるのは「日本発」。不況の中、雇い止めはじめ雇用調整が進んでいますが、シグマは何より従業員を大事にしているそうです。そのポリシーをトップに伺います。

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株式会社シグマ 代表取締役社長 山木和人氏
株式会社シグマ 代表取締役社長 山木和人氏


────福島県の会津で生産工場を構え、従業員も会津の方々ですね。改めまして「メイド・イン・ジャパン」にこだわる理由を教えてください。

「大きくわけると2つあります。一つはレンズの特性です。レンズは製造が難しいアナログの塊。
公差がぶれると、性能が変わってしまいます。最近、カメラの画素数が上がり、動画撮影も増えており、4K、8Kと超高画素画像・映像がメインになっています。カメラも5千万画素とか、6千万画素になっていますが、レンズの性能が良くないと画素数はいくら上がっても(性能が)発揮できません。

これはどこのメーカーでも同じですが、カメラボディはわりと簡単でモジュール化されており、パンパンと(組み立て)できるのですが、レンズは製造付加価値が高くスキルが必要です。そういった意味で、今、最新鋭の機械を導入して海外、例えばベトナムで工場を造ろうと思っても装置産業と違ってすぐに製造は難しい。我々は、まず、(海外に)拡大させず今の工場のスキルを活かしてなるべく高付加価値なものを作り、一つあたりの平均単価を上げ、生き延びていこうと決めました。それが一つです。

また、当社は未上場企業なので、売り上げ・利益ももちろん大切ですが、雇用を守ることが会社の経営目標のかなり上位にきます。海外は(人件費が安く)製造コストが日本ほどかからない。場合によっては税制での優遇もある。たいていの会社が海外展開されましたが、そうすると日本の工場は古くなり規模縮小、閉鎖で雇用が守れなくなってしまいます。
日本でできるビジネスを選んでやっていこうと会津に残ることを決めたというのが経緯です。実際、金融機関などに『海外に今、進出しないと手遅れになりますよ』などと言われました。先代の父の時代は特にそうです(笑)」

会津工場で一心不乱で働く社員ら。彼らの雇用を守ることが経営目標の上位という。(提供:シグマ)
会津工場で一心不乱で働く社員ら。彼らの雇用を守ることが経営目標の上位という。(提供:シグマ)


美しい写真を撮影したい欲求は普遍

────スマートフォンのカメラの性能もよくなっていますがその影響はいかがですか。

「スマートフォンしかり、 IC が機能を体現する形になっていて、ICとパネルでものができてしまうところがあります。当社はニッチなところでやっていますが、製造における付加価値が減っていっている現在、当社のやり方がすべての産業で通用するとは思っていません。技術特性があることで何とか日本でやってこれていると理解しています。

ただ、人間が美しい写真を撮りたいという欲求は200年近く続き、なくなるということはない。もちろん、画像は監視カメラや車載カメラなど部品として使われるものが多く、それらの市場は拡大していますが、(製造)コスト的にはこの分野はかなり厳しい。そういった分野はオートメーション化しなければなりませんが、当社が(会津で行っているような)こだわった作り方は、あくまで美しい写真、映像を撮るためのレンズやデバイスとしてのカメラです。(スマホが台頭しても)何とか生き残っていこうと思います」


────コロナの影響を教えてください。

「カメラのようなコンシューマー商品が1年間で生産が落ちる時期は12月、1月、2月です。当社の場合は工場の内製化率が高いので、生産は若干減らしますがずっと作り続け、この時期に在庫を積み上げます。3月、4月、5月は季節がよくなり、花や鳥などを撮るため、カメラやレンズのニーズが増えるので在庫は平準化するというサイクルでしたが、コロナによる都市封鎖などの影響で在庫が積みあがってしまいました。このため、4月、5月は月の半分の日数の稼働を止め、生産調整をしました。当社の歴史の中で初めてです。

3月末から4月ぐらいの(世界各地での)ロックダウンによる反動や、政府の財政出動で、世界各国で需要が戻り、7、8月はフル生産になっています。逆に一部の製品が足りないほど状況です。特に米国、英国、中国で需要が伸びています。当社の規模で経済を語ることはできませんが、当業界においては非常に好調で、ある程度の水準まで戻してきています。
ただ、感染の第2波で再びスペイン、ドイツ、フランス、米国などがまた大変なことになっているため秋以降どうなるかは不透明です」

新しいライフスタイルに合った製品開発を

────6〜8月が好調といっても、今年度全体としての影響はどうでしょうか。

「間違いなく落ちます。残念ですがカメラ業界自体の市場がすごくシュリンクしている。コンパクトデジタルカメラで言えば多分ピークの10分の1ぐらいの規模に縮小したのではないかと思います。スマートフォンの影響で一眼レフや交換レンズもピークから半分以下になっていて、今年はさらにコロナの影響で(同市場は)40%ぐらいまで落ちるとみています。(当社も)今年はマイナスになると思っています。

2000年から2010年ぐらいまでのわずかな期間ですが一家に1台はデジタル一眼レフカメラとか持たなきゃとか、子供が生まれたらとりあえず高級カメラ、旅行に行くにはいいカメラを買っていましたが、今は一般的にスマートフォンでいいと思われている。一方、従来からの写真愛好家や最近は、YouTuberや映像クリエイターみたいな方は増えています。また、鉄道や飛行機、天文などの趣味のために撮影している人、もちろんプロはまだスマートフォンではなく(高級)カメラ、レンズで撮影するということで確実に残ります。

これだけカメラ市場が縮小していますがいまだに興味持っている人は非常に多く、メディアに取り上げられることも多い。私はまだお客様のカメラに対する関心は減っていないと思っています。むしろ、カメラメーカーがお客様の期待に応えられるものを出せていないのが問題と思っています。新しいライフスタイルに合う、いいものを作るのがメーカーの責務です」


────ニッチなところで生き残るということでしたが、特定の需要に応えるニッチか、高級ブランドとして生きることですか。

「世の中一般のコンシューマーエレクトロニクスの中のニッチという意味です。一眼レフとかミラーレス、交換レンズはそもそもニッチです。プロの方が本当に大切な一瞬を撮るというツールですので、信頼性高く品質性能がいいことが大前提です。
ただ、それだけだと面白くありません。今までになかったようなものとか、大手がやらないことを敢えてやる。わざわざスマホではなく大きなカメラを使う方は、それなりの目的や意思があります。その需要はかなり多様化しているはずです。ベースになる製品の品質性能を担保した上で、その中で細かく対応することが重要です」

シネマ撮影にも対応し、SIGMA初のベイヤーセンサーカメラとして誕生したSIGMA fp(提供:シグマ)
シネマ撮影にも対応し、SIGMA初のベイヤーセンサーカメラとして誕生したSIGMA fp(提供:シグマ)


一眼レフからミラーレスの時代に

────カメラの世界は今、一眼レフからミラーレスに動いています。ミラーレスでいえば、業界の雄であるニコン、キヤノンよりもソニーが一歩先んじていますが、シグマの方向性は。

「基本的にミラーレスにフォーカスして開発していくことになると思っています。お客様のニーズが小型軽量にシフトしてきているのは間違いありません。プラス、かつては一眼レフに対して、ミラーレスは技術的に不利なドローバックがありましたが技術革新でほとんど気にならなくなっています。むしろミラーレスのメリットがたくさんあり、技術の進展の状況をみると、確実にミラーレスになってくるだろうなと思っています」


────エンジニアに求めることは?

「サラリーマンになるな、と社内で言っています。そう言うと、私たちはサラリーマンですと返されますが(笑)……。資本力があり名前も売れている会社だと、言われたことをやるだけのエンジニアでも構いません。手順に従って企画に沿ってある程度のコストと目標の性能ですばらしいものを作ることもできるでしょうが、当社は、それではなかなか勝負ができない。それを一番わかっているのが開発者です。

商品企画の部門は当社にもあり、ある程度のスペックを出しますが基本的には、エンジニアの考えたものが正しいと思っています。重要なのはどういう目的でこの製品を作るのかを十分にエンジニアとコミュニケーションすることです。(エンジニアの提案で)場合によっては予定よりコストが高いものだったり、大きいものになったり、スペック自体を変えてくることもありますが、その方がお客様の課題を解決するために正しいことがあります。もちろん、中には失敗するものもありますが……」

製品はアート

レンズも部品も製品もアートという(提供:シグマ)
レンズも部品も製品もアートという(提供:シグマ)


────今後の開発計画、もしくは方向性を教えてください。

「基本的に高性能で品質が高いことが必要です。こういった高級、高価なカメラを使う人は世界中である程度の可処分所得がある人たちです。目の肥えているこういう人たちの要求に応えるために造形的に美しく品位があるということも重要です。製品は作品、アートだと思っています。製品自体がアートで、撮影したものもアートに寄与する。そういうところを愚直にやっていきたい。

当社の規模だからこそ通る企画があり、リスクがとれることもあります。そういったことをしないと、どの会社も同じようなもので競争して、最後はキャッシュバックの金額やブランド力の勝負になってしまいます。大手の真似をしても、我々自身も面白くないですし市場への貢献にもなりません。当社のサイズだからこそ、面白いねと言ってもらえる製品を出し続けることに存在意義があり、そしてそれが生き残りにつながります」


文・人物写真/杉浦美香


《後編に続く》

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