濃密な人間関係がものづくりの核《シグマ~山木和人社長:前編》ニューノーマルにおける「ものづくりの経営者たち」(3)

INTERVIEW

株式会社シグマ
代表取締役社長
山木 和人

グローバル化の中、海外で工場を持つのがあたりまえのものづくりメーカーの中で、日本で造ることにこだわりつづけているのが、日本有数の光学機器メーカー、株式会社シグマです。コロナの逆境下での取り組みをトップに伺います。

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テレワーク、シグマ流

株式会社シグマ 代表取締役社長 山木和人氏。
1968年3月生まれ。1987年 上智大学 経済学部経営学科 入学、93年に上智大学 大学院 経済学専攻博士課程前期 卒業。同年に、父親が創業したシグマに入社。2000年、取締役 経営企画室長 就任。03年 取締役 副社長に。05年、取締役社長。12年、代表取締役社長となり現在に至る。
株式会社シグマ 代表取締役社長 山木和人氏。
1968年3月生まれ。1987年 上智大学 経済学部経営学科 入学、93年に上智大学 大学院 経済学専攻博士課程前期 卒業。同年に、父親が創業したシグマに入社。2000年、取締役 経営企画室長 就任。03年 取締役 副社長に。05年、取締役社長。12年、代表取締役社長となり現在に至る。


────新型コロナの影響でテレワークが進んでいますが、ものづくりのテレワークの状況についてお教えください。

「緊急事態宣言がでる直前に、本社はリモートワークを導入しました。当初、政府の目標が2割くらいだったため、まずは2割を目標にリモートに。測定器も含めて自宅に持って帰っていいとしたのですが機器が大きすぎたり、製品が10個程度あったりして、そもそも持って帰れない。このため、エンジニア中心に出社を再開、緊急事態宣言も解除され(全国が5月25日)、7月から1度全社員出社に戻しましたが毎日200人単位で感染が広がってきましたので7月中旬から本社で3割ぐらい、9月は6割出社に変更しています。

毎日来る人もいれば、全然来ない人も、交代の場合もあります。特に技術者は出社しないとできない場合や、CADなど設計ツールでパソコンがパワーを必要としますので締め切りが近くわずかでも効率を落とせない場合、出社が必須になってきます。

工場は、基本的に全員出社ですが、創業以来、初めて、時差出勤を導入しました。工場は福島県の会津にありますが、ほぼ全員車出勤なので、通勤上の感染はない。ただ、点在している駐車場から工場まで移動する往復のマイクロバスで『密』が発生するため時差出勤を始めました。チームごとに7時から30分おきで出勤します」


福島県にある会津工場。レンズ研磨、プラスチック部品の成形、塗装、基盤実装、組み立て、金型の製造まで完全内製化されています。(提供:シグマ)
福島県にある会津工場。レンズ研磨、プラスチック部品の成形、塗装、基盤実装、組み立て、金型の製造まで完全内製化されています。(提供:シグマ)


────開発体制を教えてください。

「8割が本社、2割が工場です。(工場では)製品開発生産技術や金型の設計治具工具の設計部隊を含めるともう少しかな。人数としては、従業員が約1,720人中技術系のスタッフが約240人、内訳は本社で130人、会津工場で110人程度になります」


────テレワークや時差出勤の評判はいかがですか。この事態がおさまっても続けられますか。

「好評です。保育園のお迎えなど、個人によって朝早めに来て早めに終わることもできれば逆もある。まだ決めていませんが、工場の時差出勤も、本社の出社時間を30分刻みで申請する方式も、コロナが終息しても続けてよいと思っています。

実は、2005年ごろ、父が社長の時代ですが1度フレックス制を導入したことがあります。当時、我々の業界で一般的だったのでわが社もとなり、コアタイムを決めたのですが、かなり効率が落ちてしまいました。いつ誰が来るかわからず会議を設定できなかったり、社会人としての規律が身についていない若手は時間管理ができず、結局前日に夜更かしして10時のコアタイムに遅刻してしまったり……。半年ぐらいで断念しました」


日本の擦り合わせ技術の結晶、レンズ

────開発チームの場合、テレワーク、フレックス制の難しさはありますか。

「開発は基本、チームです。フェイズごとに単独でできたり、濃密なコミュニケーションをしないと仕事にならないこともあります。
交換レンズ(製作)は、擦り合わせ技術(※日本のものづくりの哲学、開発や試作の段階で最高の機能を発揮できるように協同して作りあげる)の最たるものです。擦り合わせ技術とは、東大の藤本(隆宏)先生が提唱、自動車がよい例ですが、我々からすると自動車はモジュールで、その組み合わせでできてしまうというイメージがあります。

交換レンズは細かいパーツをどこにどう配置するかということでモジュールが成り立たなく、それぞれ一個一個をレイアウトして最適化します。メカらしいメカと言うか、ある意味古臭いものづくりで、いまどき珍しい。

デジタル製品はICを入れてもモジュールに入れて簡単にできてしまうのが多いですが、カメラ、特にレンズはそうじゃない。大手メーカーもコロナでリモートワークをしましたが、レンズを開発する部門は、緊急事態宣言後の5〜7月でも、7割が出社していると聞いています。それぐらい現代では珍しく、密なコミュニケーションが不可欠です」


開発の約8割を担っている川崎市のシグマ本社
開発の約8割を担っている川崎市のシグマ本社


────世の中、テレワークでもモノを作れるという話が多いようですが、実際にモノを見ながらでないと作れないということですか。

「うまくプロジェクトを設計すれば、必ずしも常に話しながら、ものを(直接)見ながらということではないと思います。正直言えば、全体の開発の8割9割は(見なくても)できると思います。ところが、やはりどんなに詳細に仔細に開発プロジェクトを設計しても隙間ができ、ポロリとこぼれおちる将来のリスクが残っている。それが顔を合わせていると、雑談の中から発見があったり、事前に危ないから確認しなければならない箇所に気づいたりすることになる。

骨太の部分は問題ないですが、コミュニケーションが希薄になればなるほど細かいところの見落としが市場に出る直前に見つかるなどして、量産できなくなったり……。最悪のパターンは気づかず、場合によっては意図と違う性能の製品が市場に出ることにもなりかねません。
 
もともとカメラ、レンズは、古い伝統的な技術です。特にレンズは古典物理の世界で、最先端というわけではないですが、必ず新製品には新しい要素技術が入っている。新しい要素が入ると人間同士が(顔を突き合わせて)ああでもない、こうでもないと言いながら問題点を発見していくのが重要だと思っています」


────顔を合わせないとわからないということが共通認識となり、シグマ流のものができてくるのでしょうか。

「現状ではまだ答えが見えていませんが、感染が落ち着いたら当社は少なくとも開発部門は全社員出社に戻そうと思っています。基本的には、顔を見て情報共有しながらいいものを作ろうという場の雰囲気、気概、文化がある職場環境の中で、個々の力が120%発揮できる方向を目指すべきと思っています」


SONY α7Ⅲに装着されたSIGMA初のフルサイズミラーレス専用超望遠ズーム、SIGMA 100-400mm F5-6.3 DG DN OS (提供:シグマ)
SONY α7Ⅲに装着されたSIGMA初のフルサイズミラーレス専用超望遠ズーム、SIGMA 100-400mm F5-6.3 DG DN OS (提供:シグマ)


ジョブ型雇用は限界あり

────コロナをきっかけにジョブ型雇用が導入されてきています。
 
「アフターコロナで日本もジョブ型にという議論がありますが、そのために仕事を明確に定義して人をあてる必要があります。これがかなり難しい。リモートやジョブ型となると、社長やマネージャーの力量が相当に求められると思います。組織を設計する社長の能力が高く、すべての要素をあらかじめわかって、すべての人の仕事を定義・設計できる社長全能説に立っている。管理が強くなり、その人に依存してしまう。

僕はそんなことできない。そうなると、いいチームを作り、チームワークを醸成して情報やツールを与え、彼らがいろいろ最高のものを作ろうというところだけ担保する。そこに若い人が入って教育されるというのが、当社には今は合っているという気がしています。

今後、社会も働く意識も変わります。会社でもディスカッションしましたが、当面はジョブ型ではなくてよいかなと思います。私の理想としては働く人が自主自律的に自分で判断しながらどんどんいいもの作っていくのが理想だと思っています。そのほうが働きがいもある。人間同士でいろいろ、ああでもないこうでもない、と言いながらいいものを作っていくことに本来的な喜びがあると思います」
 

────そうすると、工場も開発も出社しなければならないことになりませんか。

「リモートがやりづらいのは間違いありません。誤解されるかもしれないですが、むしろリモートやジョブ型のあっさりした人間関係でそこそこのものを作るのではなく、濃密な、協力し合う人間関係の中から最高のものを作る方が当社としての強みがある。
大企業がリモート、ジョブ型という方向であれば、当社は小さいが濃い人間集団を作り、いろんなことはできないけれども、少なくとも光学技術に関しては絶対に負けないものを作っていきたい。それが会社としての生き残り戦略になると思っています」


────日本はメンバーシップ型雇用、欧米がジョブ型雇用と言われています。

「当社は海外に工場がなく、販売は8割が海外というちょっと変わった会社です。アメリカの子会社は販売と、カリフォルニアで今はダウンサイジングしていますが研究開発をしています。米国的な方法というのもわかっています。米国では、自分はこの仕事をするがそれ以外はやらないということになりがちです。そういう人の声が強くなっていく。

でも、会社は、実はこぼれ落ちた仕事を拾いながら、地道に仕事をして、チームを助けている人がいるからまわっています。そういう人が日の目を見ず、声が大きい人や目立った仕事をしている人だけが脚光を浴びることになりかねない。もちろん、しっかりしたマネージャーがいてしっかりした文化が組織にあれば問題ないかとも思いますが、何年か経つとほころびがでる可能性があると思います。今のところ、ドラスティックを仕事の進め方やチームの運営を変える考えは持っていません」


芸術作品のようなレンズ部品(提供:シグマ)
芸術作品のようなレンズ部品(提供:シグマ)


文・人物写真/杉浦美香


《中編に続く》

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