中国が進める人工知能(AI)を活用した新たな社会とは~最新動向と8つの事例

現在中国は世界第二位の人工知能(Artificial Intelligence :AI、以下AI)開発国と言われています。AI技術に注力している国々と聞いて真っ先に思い浮かぶのは米国かもしれませんが、そんな米国に迫る勢いで存在感を増しているのが中国なのです。AI技術は近年、加速度的に発展しています。世界の至る所でその応用が進むことにより、広範な産業領域や社会インフラなどに大きな影響を与えています。AI分野は今後、非常に大きな市場に成長すると見込まれており、世界のAI市場の各種先端技術による経済効果は、2025年に最大で39.3兆米ドルまで市場規模が拡大すると予測されています(参考文献1)。今回はAI技術で世界が注目する中国の最新動向についてみていきましょう。

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中国政府が指名する5大企業「BATIS」により発展する5つのAI技術

中国政府は2,000社を超えるAI企業の中からAIオープンイノベーションプラットフォームの建設を目的に有力企業5社を指名しました。この5社は自動運転のバイドゥ(Baidu,百度)、スマートシティのアリババ(Alibaba,阿里巴巴)、医療画像認識のテンセント(Tencent,騰訊)、音声認識のアイフライテック(iFlyTek,科大訊飛)、顔認識のセンスタイム(SenseTime,商湯科技)の頭文字をとって「BATIS」と呼ばれています。世界的にも注目されている5社が開発するAI技術とはどのようなものなのでしょうか。

1. 参加企業150社以上、世界が注目する自動運転の「アポロ計画」/バイドゥ(Baidu,百度)

中国のGoogleと呼ばれるインターネット検索サービス大手のバイドゥは、2017年に自動運転車向けのソフトウェアプラットフォームをオープン化する「アポロ計画」をスタートしました。アポロ計画とはソフトウェアの技術情報をオープン化したプラットフォームサービスで、高精度地図や大規模シミュレーションデータ、自動運転アルゴリズムなどが提供されており、開発スピードを早めることができます。2019年までに53万行にも及ぶソースコードが公開されています。これまでに連携パートナーは中国国内だけでなく、MicrosoftやIntelなどの大手企業をはじめとして世界各国から150社を超える企業が参加をしており、日本からもトヨタ、ホンダなどの企業がアポロ計画に参加しています。まさに世界が注目するプロジェクトといえるでしょう(参考文献2)。

2. 一般市民でも利用ができる「Apollo Robotaxi(アポロ・ロボタクシー)」/バイドゥ(Baidu,百度)

2020年4月、自動運転タクシーである「Apollo Robotaxi(アポロ・ロボタクシー)」のサービスが一般市民へ開放されました。バイドゥが提供する地図アプリに目的地などの情報を入力することで、自動運転タクシーを呼び、利用することができます。アポロ・ロボタクシーは車線変更や信号、車両周辺の歩行者などを検知することができますが、現在は運転席に「安全員」と呼ばれる人が同乗し安全の確保を行っています。米国のウェイモ(Waymo)はセーフティドライバーが同乗しない状態での自動運転タクシーのサービスを開始しており、中国はそれに続く形で自動運転技術を発展させています。

3. 緊急車両の対応時間が50%短縮、AIを活用したスマートシティの実現/アリババ(Alibaba,阿里巴巴)

世界最大のEコマース企業であるアリババは、都市の課題解決に向けたプラットフォーム「ET City Brain」を開発し、スマートシティの第一弾として2016年に杭州市(中国浙江省)でプロジェクトを開始しました。ET City Brainはリアルタイムの都市データを活用し、都市のオペレーション上の欠陥を即座に修正することで都市の公共リソースが最適化されます。杭州市ではソリューションに交通カメラが組み込まれ、日常の事故報告が増加し、応答時間が短縮しました。さらに事故特定の精度は 92% を超えています。ほかにもAutoNaviや交通警察のWeiboアカウント、ビデオのデータを統合することで、高速道路や一般道の交通状況を評価し、精度の高い解析から渋滞の原因を割り出すことができます。それによって都市全体の信号をリアルタイムに最適化して全体的な渋滞を緩和し、平均移動時間を3分短縮、緊急車両の対応時間が50%短縮され、救急車の到着を7分短縮しています(参考文献3)。また、ET City Brainをはじめとしたアリババの産業AIは杭州、蘇州などの中国国内からクアラルンプールなどの国外を含める23都市に展開されています(参考文献4)。

4. 診断時間がたった4秒、中国が求めるAIを活用した病理診断の新しい形/テンセント(Tencent,騰訊)

中国版LINEとされる「WeChat」を開発したことで有名な企業であるテンセントは、画像認識、自然言語処理などの技術を用いてAI画像診断、そしてAI診断補助が可能な医療分野に適用するプラットフォーム「Tencent Miying」を開発しました。AI画像診断は何万枚もの画像を学習することにより、早期食道がん、早期肺がん、糖尿病性網膜症、乳がんなどの早期スクリーニング検出を可能としています。早期食道がんのスクリーニングにおいては、診断時間はわずか4秒程度と短いにも関わらず、現在食道がんに対する認識率は90%以上にも達しています。これまでにAI画像認識では約7,300万枚もの医療画像を読影し、64万の患者に対してサービスを提供することで、ハイリスク病変を8万例も提示しています(参考文献5,6)。

5. 医療格差を埋める、AIを活用する診断補助/テンセント(Tencent,騰訊)

中国の経済発展は都市部に集中しているため、病院数や質は他の先進国と比較しても十分ですが、農村部に目を向けてみると医師も病院も足りていないというのが現状です。AI診断補助では、医学文献、医療記録、質疑応答などの蓄積された医療ビッグデータを用いて患者の疾病リスクを予測し、この予測された情報をもとに適切な診療科や医師へ導くことができます。予測、認識できる疾病リスクの数は約500種にもおよび医師の診断を支援、そして誤診のリスクを低減しており、カルテ分析補助を通して200万人の患者の診断を支援しハイリスク病歴を4.6万回提示しています。これによって都市部と農村部の医療格差を埋めることが期待されています(参考文献5,7)。

6. 自動翻訳精度98%、音声認識AIによる自動翻訳機/アイフライテック(iFlyTek,科大訊飛)

世界一の自動翻訳機を開発したのは、1999年に設立された音声認識や音声合成などの認識技術AIのリーディングカンパニーであるアイフライテックでした。アイフライテックの開発した翻訳機は98%の精度で音声を認識し、33か国語をリアルタイムに翻訳することができるのです。音声合成における世界有数のコンテストにて13年連続で優勝するなど、アイフライテックは音声の合成、認識、翻訳といった分野で業界をリードしています。さらにこれらのAI技術を用いて防犯や司法、教育といった分野への応用も進めています。裁判所における審問では、インテリジェント音声認識を用いることで書記による聞き取りよりも30%の時間短縮を可能にしました。教育分野ではAIに大学入試の答案を採点させ、2つのAI間の採点値の差異は7点以下に収まり、一致度は92.82%と教員が採点する一致度よりも5%高い結果となっています(参考文献8)。

7. 認識能力95%を誇るセンスタイムの顔認証技術/センスタイム(SenseTime,商湯科技)

センスタイムは2014年に香港で設立されたAIを活用した顔・画像認証に強みをもっています。顔認識においては人間の認識能力の限界である95%という結果を残し、その技術力が世界から注目されている企業です。ILSVRC(ImageNet Large Scale Visual Recognition Challenge)とよばれる世界的に大規模の画像認識コンテストにおいて、2015年、2016年と米国のGoogleなどを抑えて首位を獲得するなど世界トップクラスの技術を持っています(参考文献9)。こういったセンスタイムの顔・画像認証技術は自動運転の車両や歩行者の認識、スマートシティではセキュリティエリアへの入室管理や顔認証決済など様々な分野で利用される重要な技術となっています。

8. 2億台の監視カメラ、大規模監視システム「天網工程」/センスタイム(SenseTime,商湯科技)

中国政府はセンスタイムなどの企業と協力して「天網工程(Sky Net)」と名付けた大規模監視システムを2012年に導入しました。中国は監視カメラ大国であり、中国全体では2憶台にも及ぶ監視カメラが設置されているといわれています。この監視カメラから得られる映像にセンスタイムの画像認識技術が活用されているのです。このシステムを利用すると監視カメラに映りこんだ映像から蓄積された顔画像データベースと照合し、瞬時に個人情報を特定することができるとされています(参考文献10)。また、顔認証だけでなく監視カメラに映った人物の異常行動や銃や刃物などの危険物を持っていれば通知を飛ばし、犯罪を未然に防ぐことができます。

米国を抑え世界一へ、中国AI技術を支える戦略と人材

急速なスピードで進化を続ける中国のAI技術ですが、AI開発は第二次AIブームからと言われており、世界各国のAI開発と比較すると遅れてスタートしました。しかし、2016年には世界のAI分野の特許出願件数は米国や日本を超えて世界一になりました(参考文献11)。中国はAI応用関連の特許でリードし、世界で最も多くの特許を保有する国になったのです。いったい中国はどのようにして世界をリードするAI大国となったのでしょうか。

世界一を目指す、中国が掲げるAI国家戦略「AI 2.0」

中国は国家戦略として2017年に初めてAI発展戦略を確立し、AI国家戦略「AI 2.0」を発表しました。AI 2.0戦略は2030年までにAI技術を世界最先端のレベルにまで引き上げ、中国を世界のイノベーションセンターにするという目標を掲げています。この目標を達成するためにAI研究開発、製品応用、産業育成の三位一体による三つのステップで推進されています。3つのステップではそれぞれのこのように計画されています。

・ステップ1:「2020年までにAI技術を世界水準にする」
・ステップ2:「2025年までに中国の一部のAI技術が世界をリードする」
・ステップ3:「2030年までに中国のAI総合力を世界トップにし、世界のAIイノベーションセンターにする」



これらの具体的施策として中国は有力企業による5つのAIオープンイノベーションプラットフォームの建設を行いました。5つの企業とそれぞれのフォーカス領域は以下のようになっています。

① バイドゥ(Baidu,百度):自動運転(アポロ計画)
② アリババ(Alibaba,阿里巴巴):スマートシティ(都市デジタルの計算センタ)
③ テンセント(Tencent,騰訊):医療画像認識(病理診断・病気リスク予測補助)
④ アイフライテック(iFlyTek,科大訊飛):音声認識(音声技術開発、オープンアクセス)
⑤ センスタイム(SenseTime,商湯科技):画像認識(大規模監視システム)



これにより中小企業をリード・指導し各業界へのAI応用を広げ情報・リソースを共有することで、AI発展の共通課題を解決し、計画実施の牽引が期待されています。


中国のAI人材数は約2万人、米国に次ぐ世界第二位

過去10年間に特許出願、または論文を発表した研究者を“AI人材”としてみるとグローバル範囲で2017年までにAI人材総数は204,575人にも達し、その中、中国の人材総数は18,232人で世界第二位になっています。
しかし、優秀AI人材(研究能力が世界上位の10%)の比率からみると、中国における優秀AI人材の割合は5.4%となっています。これは米国と比較すると5分の1となっており、世界ランキングでも6位まで落ちています。これだけ発展している中国においても優秀人材の獲得が今後の課題となっているようです(参考文献11)。

50個のAI学院の設立、中国のAI人材育成

中国は国家戦略「AI 2.0」の実施にともなって、AI分野における大学の技術イノベーション、人材育成と国際交流・連携の強化を狙って、目標と施策を発表しました。そのうち2020年までに全国の大学で50個のAI学院の設立を目標としており、すでに2017年以降、清華大学、中国科学院大学などの大学でAI学院が設立されています。「AI 2.0」の実施により中国の大学はオープンイノベーションを積極的に推進しており、GoogleやMicrosoftなどのグローバル企業およびアリババ、バイドゥなどの中国有力企業との連携を進めています。


AIと産業の融合、中国AIイノベーションの中心地「北京」

中国のAI企業数は2018年までに1,011社となっており、米国の2,028社に次ぐ世界第二位となっています。なかでもグローバル企業数のトップ10を見てみると北京が395社ともっともAI企業が集中する都市になっているのです(参考文献11)。
そんな北京には中国を代表するイノベーション特区「中関村」が存在します。中関村は2020年までにAI産業クラスターを育成することを目的に、国家や北京市政府主導のもと発展をしてきました。1988年には北京新科学技術産業開発試験区として中関村サイエンスパークが設立され、次世代情報技術の産業規模は2兆元(約31兆円)を超えており、交通モビリティやインターネット金融・教育、文化娯楽などの産業と深く融合することでAI、ビッグデータなどの分野でユニコーン企業が爆発的に成長することが期待されています。


まとめ

AI分野で世界をリードする中国では、すでに様々な分野でAIが活用されており、人々の暮らしに大きな変化を与えています。こうした技術の発展の裏には国家戦略として取り組まれている様々な施策がありました。2030年を迎えるころには米国を超えて、中国がAI分野において世界トップになっているかもしれません。今後も中国のAI技術の動向から目が離せません。


▽参考文献

参考文献1:『世界のAI市場規模 GAFA VS BATIS』(US Stock Toshikiwami.com)
参考文献2:コラム『中国の自動運転業界を解説:戦国時代の覇者をめざすバイドゥの自動運転基盤「Apollo」』(SBクラウド株式会社)2019年8月
参考文献3:『ET City Brain(ETシティブレイン)』(SBクラウド株式会社)
参考文献4:『グーグル対アリババ、スマートシティ巡り米中競うーAI、自動運転など先端技術のショーケースで火花』(企業家倶楽部 Kigyoka Club)2019年12月
参考文献5:『腾讯发布医疗超级大脑 AI能力输入医疗全领域(和訳:Tencentは、医療分野全体に参入するための医療用スーパーブレインAI機能をリリースします)』(每日頭條)2018年5月
参考文献6:『早期食管癌智能筛查系统(和訳:早期食道がんのインテリジェントスクリーニングシステム)』(腾讯公益)
参考文献7:『诊疗风险监控(和訳:診断と治療のリスクモニタリング)』(腾讯公益)
参考文献8:『iFlytekが目指す 言語を理解し、考えるAI』(華為技術日本株式会社)2018年10月
参考文献9:『EXPLORING AI センスタイムが語るAIとディープラーニング〜SECTION2 世界トップクラスの実力』(株式会社センスタイムジャパン)
参考文献10: 『アジアン・セキュリティ最前線 第4回〜監視社会か防犯か、人工知能でつながる1.7憶台の監視カメラ|中国』(ASCII.jp)2019年4月
参考文献11:『中国人工智能发展报告2018(和訳:中国人工知能開発報告書2018)』(中国科学技術政策研究センター)2018年7月

 

 

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