「国際フロンティア産業メッセ」現地レポート

ものづくり各社にとって、展示会は製品や技術のPR、営業、商談、情報収集などで大きな影響をもっています。今年の3月くらいから各種展示会は、新型コロナウイルス感染症の影響で延期や中止になっていましたが、8月からようやく開催されるようになってきました。

国際フロンティア産業メッセは、毎年、神戸で行われてきた産業総合展示会です。ものづくり、電気・電子、ロボット、健康・医療、産学連携といった展示内容で、特に周辺地域の商工会議所や金融機関が主催する併催展示会が商談の場になっているという特徴があります。

今年で23回目となる同展示会も新型コロナウイルス感染症で開催が危ぶまれていましたが、マスク着用、検温、3密防止などの新型コロナウイルス感染症対策を施し、9月3日からの2日間、神戸ポートアイランドにある神戸国際展示場で開催されました。

会場は神戸国際展示場の2つの展示エリアに分かれ、1号館ではロボット・AI・IT、異業種交流と商工会議所や地元金融機関が主催する展示会場、2号館はものづくり、くらしと健康、環境・エネルギー、電気・電子、産学連携などの展示会場になっていました。

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大気汚染モニタリング向け固定翼ドローンと、凸凹壁面も把持する真空吸着グリッパ

1号館では兵庫県とNIRO(公益財団法人 新産業創造研究機構)が取り組むドローンによる先行的利活用事業なども展示されていました。この中では、長時間滞空電動固定翼UAV(Unmanned Aerial Vehicle)による大気汚染モニタリングの技術がありました。この固定翼ドローンは、新明和工業株式会社、日本気象株式会社、神戸大学が連携していると言います。

兵庫県とNIROが取り組んでいる、さまざまな高度の大気汚染のモニタリングを可能にした、新明和工業製作の固定翼ドローン。全長2.5メートル、全幅6メートル、自重(電池を含む)8キログラム。現在、高度100メートル、見通し範囲内で1時間を超える自律飛行に成功していると言います。
兵庫県とNIROが取り組んでいる、さまざまな高度の大気汚染のモニタリングを可能にした、新明和工業製作の固定翼ドローン。全長2.5メートル、全幅6メートル、自重(電池を含む)8キログラム。現在、高度100メートル、見通し範囲内で1時間を超える自律飛行に成功していると言います。


また1号館では、こうべしんきんビジネスメッセのコーナーに出展していた神戸市立工業高等専門学校の「触覚を宿した万能ハンド」という技術が目を引きました。国立ではない公立の高専は、全57校のうち全国に公立3校、私立3校しかありません。

説明してくださった同高専の清水俊彦准教授によると、砂や粉などの粉体が密度によって流体的に振る舞ったり個体的に振る舞ったりする「ジャミング転移」という現象を用い、真空吸着と触覚センサーを組み合わせているそうです。

ユニバーサル・フローティング・グリッパと名付けられたこの万能ハンドは、凸凹のある壁面に吸着して建造物の検査をしたり、さまざまな形状の物体を吸着して把持することができると言います。さらに、三次元の柔軟電極を開発し、ジャミング転移のセンサーとし、さらに多様な面や物体を把持することができるようになったそうです。

弾力をもった高分子であるエラストマー(elastomer、弾力性・収縮性のあるポリマー重合体)の薄膜にさまざまなサイズと材質の粉体(アルミナ、ビーズクッションのビーズなど)を充填してグリッパとし、把持する対象物の複雑な形状に合わせてグリッパが変形します。グリッパの内部を真空に引くことで粉体がジャミング転移によって対象物の形状を保持したまま硬化し、さらに吸着面の内側から空気を噴射し、グリップと対象物の間に空気が通過することで揚力が生じ、それによって対象物を吸着・把持すると言います。

神戸市立工業専門学校の清水准教授らが作った、柔らかい薄膜の中に粉体を入れ、内部を吸引することで粉体の密度を変えてジャミング転移現象によって柔軟になったり硬化したりするグリッパ。これにより壁面の表面形状などに関係なく検査機などを移動させることができるそうです。この装置をドローンに装着すると、浮揚させるエネルギーより格段に小さなエネルギーで壁面などに吸い付き、その間、翼の回転を止めることができて飛行時間を伸ばすことができると言います。
神戸市立工業専門学校の清水准教授らが作った、柔らかい薄膜の中に粉体を入れ、内部を吸引することで粉体の密度を変えてジャミング転移現象によって柔軟になったり硬化したりするグリッパ。これにより壁面の表面形状などに関係なく検査機などを移動させることができるそうです。この装置をドローンに装着すると、浮揚させるエネルギーより格段に小さなエネルギーで壁面などに吸い付き、その間、翼の回転を止めることができて飛行時間を伸ばすことができると言います。


溶接痕をほとんど残さずに溶着できるフュージョン溶着

母材の狭い面積の中にスパッタによる溶接痕をほとんど残さずに溶着できるフュージョン溶着の技術を出展していたのは、名古屋市熱田区にある株式会社清水製作所です。高印加電流により瞬時に接合できる技術で、スパッタが飛びにくく溶接棒が入りにくい狭い場所でも瞬時に接合できるといい、同社はこの技術を特許出願中だそうです。

接合強度が一定で、溶接ではない溶着のため、スパッタもほとんど出ず、歪みもほとんどないと言います。
接合強度が一定で、溶接ではない溶着のため、スパッタもほとんど出ず、歪みもほとんどないと言います。


排熱エネルギーを再利用、熱エネルギーを高効率で吸収する銅製集熱版

大阪市生野区から出展していた安藤製作所は、銅の加工技術が特徴の会社です。銅は電気や熱の伝導率が高いことが知られており、アルミの236W/m・Kに比べて銅は400W/m・Kになります。ただ、同社によるとアルミと銅はキロ単価はほぼ同じでも重量比で銅のほうが約3倍となり、コストはアルミより高くなるそうです。

同社の出展では、特に純銅の集熱板が目を引きました。この板は縦横300mmの中に、1辺が4mm長さ27mmの立体が8mmのピッチで整列し、熱エネルギーを高効率で吸収し、ボイラーの排熱を利用した熱交換器やヒートポンプ、温度差発電などによって熱エネルギーを再利用することが可能と言います。


深さ(高さ)27mmの銅の四角柱を並べた安藤製作所の集熱板。熱交換発電素子を使った温度差発電などで排熱エネルギーを再利用する装置に使われているそうです。
深さ(高さ)27mmの銅の四角柱を並べた安藤製作所の集熱板。熱交換発電素子を使った温度差発電などで排熱エネルギーを再利用する装置に使われているそうです。


地場産業の皮革素材加工技術

兵庫県たつの市の商工会も出展していました。中でも目立ったのが、軟骨魚類のエイ(ナルトビエイ)の革を使った皮革製品です。このエイは、最大で体長1,500mm、体重50kgにもなる大型のエイで、温暖化の影響で瀬戸内海でも多くみられるようになり、アサリなどへの障害の原因にもなる種類だそうです。

たつの市は鎌倉時代から皮革素材加工の技術が有名で、特に柔らかい鞣しが伝統と言います。このエイの革を使った世界にも珍しい加工技術により、独特の文様と手触り、やわらかな皮革製品に使うことができたそうです。


たつの市商工会が出展していたエイの革を使ったサンダル。同じ厚さで比較した場合、牛革よりも強度(引張・引裂)があると言います。
たつの市商工会が出展していたエイの革を使ったサンダル。同じ厚さで比較した場合、牛革よりも強度(引張・引裂)があると言います。


ニッケル系の抗菌めっき技術と、若い眼科医向け白内障手術の練習用キット

株式会社神戸製鋼所のブースでは、ケニファイン(R)というニッケル系の高機能抗菌めっき技術が展示されていました。この技術は、大阪府堺市にあった同社の生物研究所などが1996年7月に同市で発生した病原性大腸菌O157の集団食中毒の対策のために開発を始めたのがきっかけだったそうです。

細菌やウイルスの細胞壁を壊すことで抗菌効果のあるニッケルの粉体をさまざまな素材に練り込むことができ、抗菌効果が発揮されるまで約4時間という即効性も特徴と言います。また、暗所でも効果があり、数年以上の効果持続性もあるそうです。


神戸製鋼所の抗菌めっき技術を応用したスリッパや布製品など。抗菌性のあるニッケル粉体を樹脂などに練り込むことができると言います。
神戸製鋼所の抗菌めっき技術を応用したスリッパや布製品など。抗菌性のあるニッケル粉体を樹脂などに練り込むことができると言います。


白内障手術の練習用キット、机太郎を出展していたのは、兵庫県西宮市の株式会社フロンティアです。白内障の手術は熟練を要しますが、若い経験不足の眼科医が手術することもあり、失敗が許されない施術でもあります。特にCCC(Continuous Curvilinear Capsulorhexis)
とよばれる水晶体全前嚢切開手術、水晶体の各分割手術などは繰り返し経験を積まないとなかなか上達しないと考えられています。

同社では、こうした白内障の手術を何度でも繰り返し練習のできるキットとして、鼻のない顔面のドライと実際の水晶体や角膜に酷似した鼻のあるウェットの2種類を開発したそうです。展示ブースでは実際に眼科医の医師が練習していました。


ウェットの机太郎で手術シミュレーションを行う体験者。なかなか難しい手術のようでした。
ウェットの机太郎で手術シミュレーションを行う体験者。なかなか難しい手術のようでした。


神戸市は医療産業都市を標榜し、ポートアイランドなどに医薬系の企業を集積させてきました。そのため、残念ながら実機の展示はなかったものの、日本で初めて国産の手術支援ロボットとして製造販売承認を受けた「hinotori」のメディカロイドも出展していました。

新型コロナウイルス感染症の対策を施し、神戸で開催された国際フロンティア産業メッセ。地元・関西圏はもとより愛知県や関東圏などからの出展もあり、来場者もコロナ以前とはいかなかったものの、会場内は商談などはもちろん、セミナーなどでも活況を呈していました。


文/石田雅彦


参考情報
・ケニファインは、株式会社神戸製鋼所の登録商標です。

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