金型に入れてプレス加工!粘土のように加工の自由度の高いCFRP~金沢大学モノづくり研究開発動向(6)

INTERVIEW

金沢大学
設計製造技術研究所
助教 立野 大地

第5回に続いて最終回も、同研究所の人間・機械創造研究室の熱可塑性樹脂CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics:炭素繊維強化プラスチック)によるプレス加工について同研究室の立野大地(たつの・だいち)助教にお話をうかがいます。立野助教の研究チームは、2019年度まで米山猛(よねやま・たけし)教授が率いてきましたが、2020年度から立野助教が中心となって研究を進めているそうです。

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強度を保つために、炭素繊維の最適な長さを検討

材料加工の分野でCFRPは、最近になってボーイング787などの航空機に多用されるようになっているものの自動車などの量産品にはなかなか使われていません。立野助教らはプレス成形によってCFRPを量産に耐えられる素材にしようと研究しているそうです。


────前回は熱可塑性CFRPで加工性に優れた素材を作る研究についてお話をうかがいました。金型に入れてプレス加工できるCFRPはどうやって作るのでしょうか。

立野:
我々は、以前は連続した長い織物としての炭素繊維を主に扱っていましたが、2〜3年前からは粘土のように加工の自由度の高いCFRPを作りたいと考えています。例えば、この<写真1>ように炭素繊維でできた歯車を一体成形で作ることができましたが、この中に入っている炭素繊維は織物のように連続でつながっているわけではなく、長さ30mm幅10mmという不連続な熱可塑性CFRPが入っています。この素材を金型に入れて加熱すると、中の不連続の炭素繊維が流動してプレス金型の形に収まってくれるのです。

<写真1>熱可塑性CFRPを用いてプレス一体成形で作った歯車と素材。ランダムというのは繊維の向きのことで、炭素繊維がランダムに配されている。
<写真1>熱可塑性CFRPを用いてプレス一体成形で作った歯車と素材。ランダムというのは繊維の向きのことで、炭素繊維がランダムに配されている。


────この不連続な熱可塑性CFRPの長さはどう決められたのでしょうか。

立野:
強度を保つためには、裁断して混ぜる炭素繊維の長さが重要です。我々は炭素繊維の長さを10mm、20mmという具合に比べてみました。すると、30mmが最適の長さという結論になりました。短いと強度が保てなくなり、30mmより長いと炭素繊維の密度が少なくなって繊維の方向性にも偏りが出てきます。幅は10mmですが、それほど大きな影響はありませんでした。

長さがばらばらのリサイクル品を使っていないのはそのためで、重なっている炭素繊維のテープの長さが一定なために強度を保つことができています。一般構造用圧延鋼材やステンレス鋼(SUS430)の引張強さは450MPa(メガパスカル)前後ですが、我々の不連続CFRPでは300から400MPaは出てくれていますから、軽くて同じ程度の引張強さのある素材ということになります。例えばこの歯車<写真1>の場合、歯元の曲げ強度で400MPaあります。


────金属と同じ程度の強度があるということでしょうか。

立野:
いえ、鉄と同じ性質をCFRPにもたせるのはまだまだ難しいと考えています。金属製の歯車はCFRPと比べてよりトルクに耐えられますし、剛性も高く、耐摩耗性もCFRPより優れています。一方、鉄に比べてCFRPを含む樹脂、プラスチックの良さは、軽量であること、騒音の低減、自己潤滑性があるといった点にあります。

ですから現状、我々の熱可塑性CFRPは、射出成形で作られているような既存の樹脂製品に置き換えられるような素材を目指しています。重量をCFRPと樹脂で比べた場合、CFRPが比重1.5くらいで比重1.1の樹脂製品より重いですが、耐摩耗性や耐久性、トルクなどの点でCFRPには既存の樹脂よりも大きなアドバンテージがあります。


射出成形ではなく、金型に入れてプレス加工からアプローチ

────炭素繊維を混ぜた素材で例えば歯車を作ることは難しいのでしょうか。

立野:
量産効果を目的にする場合、樹脂ではどうしても射出成形でやろうとします。繊維強化プラスチック(FRP)を用いて歯車を射出成形で量産すること自体はこれまでも行われてきましたが、樹脂を溶かしながら前進させるための射出成形のスクリューの中で炭素繊維が1mmくらいに短く切断されてしまいます。短い炭素繊維が細切れになってしまうため、強度を高く保つことが難しかったのです。


────射出成形にこだわらなければ解決する問題ということでしょうか。

立野:
そうですね。我々のように30mmの長さの不連続の炭素繊維を混ぜていけば、強度を保たせることができます。我々の方法は射出成形ではなく、金型へ入れて加熱しつつプレスして成形します。

金型を使う場合の問題は、金型の温度の調整が難しい点にあります。金型の温度が冷えれば成形物も冷えてすぐに取り出せますが、成形物を溶かして成形するためにはある程度の高い温度は必要になります。溶かして成形し、冷やして固めて取り出すという過程に時間がかかってしまうのです。そのため、我々が歯車を成形するために金型を260℃くらいまで熱し、そこへCFRPの材料を入れて溶かし、金型のスライドを閉じたまま、120℃くらいまで冷やして待ってから取り出しています。


<写真2>熱可塑性CFRP用の45t(トン)のプレス機。金型の加熱はカートリッジヒーター、冷やすのは水の管を金型へ通している。
<写真2>熱可塑性CFRP用の45t(トン)のプレス機。金型の加熱はカートリッジヒーター、冷やすのは水の管を金型へ通している。


────温度の上げ下げをどう早くするかが問題というわけですね。

立野:
金型をなるべく小型化して中へ水路を作って冷却したり、あるいは温度の上限を180℃、下げて150℃くらいに幅を狭めるなどの方法を考え、サイクルを短縮させようとしています。あまり温度が低いと金型に接触している部分から先に固まってしまい、そこが固まって内側の材料が外へ出ていかなくなったりします。

また、冷えていく成形品に対し、圧力をずっとかけ続けることが重要ですが、冷え方が急だと圧力をかけにくくなってしまいます。一般的に急冷より徐冷のほうが品質的にいいものができますから、そのあたりのバランスが難しいのです。


────どれくらい早くすればいいのでしょうか。

立野:
現状では、樹脂が溶ける程度まで温度を上げるのに10分、金型から取り出すために温度を下げるのに10分、合計20分くらいかかっています。量産の目安は自動車業界では1分間に1台といわれていますから、今後は金型の冷却構造を改良し、冷える速度を速め、現状の時間を数分程度のレベルにまで下げることを目指しています。また、同じ設計製造技術研究所の金属AM(3D複合造形)技術開発部門の先生方と連携し、金属3Dプリンターを使って冷却効果の高い水路の金型を作ってもらうことも考えています。


────プレス加工でそのほかに課題はありますか。

立野:
例えば、こうした歯車の場合、金型に流し込む際に歯車の歯にそって炭素繊維が配置されるのが最も耐久性が高くなります。現在はランダムに炭素繊維を流し込んでいますが、温度の問題のほか、金型への流し方や流し込む素材の炭素繊維の配置をどうするかなども研究しています。


CFRPの接合強度強化と粘性コントロールが課題

────立野先生方のご研究はかなりユニークなものなのでしょうか。

立野:
そうですね。長い繊維が入った熱可塑性CFRPと金型を使って歯車のような複雑な形状を成形する方法をやっている研究機関は、論文を調べた範囲で我々だけだと思います。

こうした方法を研究する人が少ない理由としては、複合材料の世界は樹脂成形研究出身の研究者が多く、最初から射出成形で作るという考えに縛られているのではないかということ、またCFRPは主に織物を使ったパネル部品の成形で発展してきたので立体的なものを作るという発想もあまりなかったからではないでしょうか。

我々は金属の鍛造やプレスなどの発想からアプローチしてきたので、射出成形を使うことは考えませんでした。たまたま同じようなことをやっている研究機関がなかったということだと思います。


────CFRP自体の研究開発の課題はどのあたりにありますか。

立野:
CFRPと鉄の性質の違いとして、炭素繊維の破断する瞬間はいきなり訪れます。鉄の場合、力をかけると塑性変形しつつ、ある程度は粘ってくれますが、炭素繊維はある一点で急に耐えきれなくなってしまうのです。いきなり壊れてしまうのでは危なくて使えません。

炭素繊維のこうした性質は工業的な意味で使い勝手がよくありませんから、鉄のように塑性変形しつつ粘ってくれるような素材が将来的に開発されるかもしれません。そうすれば、より安全に使うことができ、炭素繊維という素材の使用範囲も広がっていくでしょう。


────価格、コストの点ではどうでしょうか。

立野:
炭素繊維の価格がなぜ高いのかといえば、製造過程に投入されるエネルギーが多く、時間が長くかかるからです。炭素繊維の原材料は石油ですが、石油からまずアクリル繊維を作り、アクリル繊維の中にある有機分を取り出して炭素だけにする工程にエネルギーがかかります。

この工程ではアクリル繊維を炉の中へ入れ、徐々に温度を上げて3,000℃くらいで蒸し焼きにしますが、炉も巨大ですし、蒸し焼きにする工程にも時間がかかるのです。ですから、この製法にもブレークスルーの余地があると思います。


────CFRPの加工性の点で課題はありますか。

立野:
接合ですね。熱して固める熱硬化性CFRPを接合する場合、接着剤を使います。接着剤で境界が生じ、そこが弱点になることもあります。また接着剤で接合するとリサイクル性が低くなります。一方、熱可塑性CFRPの場合、接着剤は必要なく加熱圧接で接合できます。加熱して樹脂が溶けてくっつけば、一体化して接合することが可能です。

ただ、どうしても接合の境界が生じ、積層構造同士がくっつく樹脂だけの部分ができてしまいます。これだと継ぎ手効率が悪く、元の素材の引張強さが600MPaであっても、接合部はせいぜい20MPaしかないこともあります。


────CFRPの接合強度は高めることができるのでしょうか。

立野:
これも我々の重要な研究テーマです。我々は接合部分の樹脂に縦方向に炭素繊維を差し込んで強度を高める研究をしています。この方法だと重量も変わらず、分解した後もリサイクルしやすいというメリットがあります。接合できれば、さらに複雑な形状のものができます。密度は20mm四方に9か所、2mm径の穴を開けて炭素繊維を入れています。現状では20%くらい強度の向上がみられる結果が出ていますが、今後は穴や繊維の密度などを調整し、さらに強度の向上を目指していこうと考えています。


────炭素繊維に混ぜ合わせる素材としての樹脂の研究開発のほうはどうでしょうか。

立野:
CFRPでいえば、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の特性の大きな違いは複合材料の粘性です。熱硬化性樹脂のほうが粘性が低くさらさらで、熱可塑性樹脂は粘性が高いので、例えば将来的に粘性が低く含浸性の高い熱可塑性樹脂が開発される可能性もあるのではないかと思います。熱可塑性樹脂は種類によって溶けたときの粘度が違いますが、もしより粘度の低いさらさらした熱可塑性樹脂ができたら素材を作る工程も短縮できるでしょうし、金型の温度も低くでき、流動成形の範囲も広がるのではないでしょうか。

軽さと強度を兼ね備えたCFRPを自動車やロボットなどに使うためには、もっと早く生産できる方法が必要と言う立野助教。加熱すると軟化して成形しやすくなり、冷やすと再び固くなる熱可塑性CFRPは、従来の金属加工と同じようなことがプレス加工や金型成形などが可能になるかもしれません。


文/石田雅彦

▽金沢大学モノづくり研究開発動向

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