量産品適用を目指しCFRPの強度の方向性を均一にする研究とは?~金沢大学モノづくり研究開発動向(5)

INTERVIEW

金沢大学
設計製造技術研究所
助教 立野 大地

金沢大学の設計製造技術研究所は2019年、それまでの先端製造技術開発推進センターを改組して設立された新しい研究所ですが、製造技術領域、設計技術領域の2つの研究領域を持ち、製造技術領域には金属AM(3D複合造形)技術開発部門、複合成形技術開発部門、材料・構造開発部門があります。立野大地(たつの・だいち)助教の研究チームは、2019年度まで米山猛(よねやま・たけし)教授が率いてきましたが、2020年度から立野助教が中心となって研究を進めているそうです。

▽おすすめ関連記事

熱可塑性CFRPの成形加工におけるメリット

人にやさしい機械や材料の開発を目指し、主に材料加工、スポーツ工学、ロボットの3つの領域、そしてこれらを基にした医療工学について研究を行っているのが人間・機械創造研究室で、材料の加工と評価に関する研究を行っています。

中でもCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics:炭素繊維強化プラスチック)は材料加工の分野になりますが、最近になってボーイング787などの航空機に多用されるようになっているものの自動車などの量産品にはなかなか使われていません。立野助教らは、プレス成形によるCFRPの量産技術を研究しているそうです。


────立野先生はどんなCFRPの研究をされているのでしょうか。

立野氏(以下、敬称略):
加熱することで柔らかくなり、冷えると固まる熱可塑性の樹脂を使ったCFRPの研究です。私自身は、この熱可塑性CFRPを使ったプレス加工、プレス成形の研究をずっと続けてきました。


────熱可塑性CFRPは従来のCFRPとどのように違うのでしょうか。

立野:
CFRPで炭素繊維との複合材料で使われる樹脂の役割は、炭素繊維を固めて成形することが目的です。こうした複合材料で使われる樹脂としては、これまで加熱することで固まるエポキシ樹脂など熱硬化性樹脂が多かったのです。熱硬化性樹脂は、これまで数十年も行われてきたように歴史が長く、技術的に発展してきました。ただ熱硬化性樹脂の場合、不可逆な素材であるため、一度樹脂が反応して固めると再度柔らかくすることができません。


金沢大学立野大地助教。金沢大学出身でずっと熱可塑性CFRPの研究を続けてきたと言う。
金沢大学立野大地助教。金沢大学出身でずっと熱可塑性CFRPの研究を続けてきたと言う。


────熱可塑性CFRPの特徴はどんなところにあるのでしょうか。

立野:
熱可塑性樹脂を使ったCFRPの最大のメリットは大きく2点あります。まず1点目は、樹脂がしみ込んだ状態の炭素繊維を加熱してから冷やすことで固めて成形しても、200℃などの樹脂が溶ける温度まで熱を加えることで再び加工することができる点です。柔らかい間に形を決めて冷やすことで成形することができます。そうすれば、鉄板のプレス加工のプロセスに近い形でCFRPを加工することができるようになります。


────不可逆な熱硬化性CFRPと違って加工の自由度が高いということですね。

立野:
そうです。また熱可塑性CFRPの特徴の2点目として、熱可塑性の樹脂を加熱して冷やして固める過程にかかる時間が、熱硬化性の樹脂が固まるよりも格段に短いことがあげられます。熱硬化性の樹脂は、どうしても樹脂が固まる過程に時間がかかることが難点でした。そのため、複合材料にナイロンなどの熱可塑性の樹脂を導入する技術が発展するようになったというわけです。


CFRPが量産品でなかなか使われない理由

────熱可塑性CFRPは最近、出てきた素材なのでしょうか。

立野:

炭素繊維を使った技術の例に漏れず、素材としてのCFRPの開発の歴史は長い割に広く使われてこなかったのです。最初にグラスファイバーなどで熱硬化性樹脂が開発されました。その特性を活かし、昔はレーシングカーや軍事用などの一部に使われていましたが、最近では航空機や自動車の軽量化のために使われ始めています。

熱可塑性CFRPも30年くらい前にちょっとしたブームがあったようですが、その当時に熱可塑性CFRPや熱可塑性GFRPなどの材料を作ったり加工する会社がいくつか出現し、熱可塑性のGFRPを自動車のラジエーターの保持材などの部品に使うという事例が出てきました。

こうしたCFRPの動きに対し、ライバルである鉄鋼業界のほうも研究開発の努力で鉄の素材を進化させ鉄板の性能を上げてきたため、CFRPとの置換が遅れました。その後地球温暖化対策のための排出ガス規制などの動きもあり、最近になって再びCFRPに注目が集まってきたということになります。


────金属素材に置き換えられるためのハードルはどんなところにあるのでしょうか。

立野:

熱可塑性CFRPを作る際の問題として、樹脂を炭素繊維の隙間にしみ込ませる過程が難しいという点があります。加熱して固まるほうの熱硬化性の樹脂は粘度が低いため、毛細管現象によって炭素繊維の間に入っていきやすいのですが、熱可塑性の樹脂は粘度が高く、加熱されて溶けても自重で広がったり垂れ下がるほど柔らかくなりません。非常に粘りけのある糊状の物質なので、炭素繊維にしみ込ませるためにはそれなりの圧力が必要になります。


────熱可塑性樹脂の粘度の問題は解決したのでしょうか。

立野:

いいえ。依然として熱可塑性の樹脂を炭素繊維に含浸させるためには技術的なハードルがあります。我々が研究しているCFRPでは、すでに熱可塑性の樹脂が含浸した素材を使い、加熱して成形させています。つまり、熱可塑性樹脂のCFRPの材料はすでにあるという前提で、その加工性について研究しているということになります。


熱可塑性樹脂を含浸させたCFRPのロール。オランダ製で15kg、値段はkgあたり1万5,000円ほどだそう。
熱可塑性樹脂を含浸させたCFRPのロール。オランダ製で15kg、値段はkgあたり1万5,000円ほどだそう。


────熱硬化性CFRPには、金属素材に置換されるくらいの技術的な進化があるのでしょうか。

立野:
熱硬化性のCFRPの作り方は、炭素繊維の布をかぶせて上型で形を作ってから熱硬化性樹脂を流し込んで成形します。つまり、最初に決められた形を作って、それを固めるために樹脂を流し込むというわけです。そのため樹脂を流し込む技術が重要になりますし、樹脂も多種多様なものが開発されてきました。しかし、熱硬化性樹脂を流し込む時間と樹脂が固まるまでに時間がかかることになります。


CFRPを金属のように加工するために、方向性をもつCFRPの強度を均一化

────立野先生が研究されている熱可塑性CFRPの加工の技術的メリットはどの点にありますか。

立野:
我々が使っている熱可塑性CFRPの場合、あらかじめ樹脂が含浸されていますから、加熱して柔らかくして型に押しつければ成形することが可能です。つまり、樹脂を炭素繊維に含浸させる工程が必要ないので、成形する時間に注目すれば熱硬化性CFRPよりも早く成形できます。量産に向いているのは、こうしたメリットがあるからです。

もちろん、熱硬化性CFRPも進化を続け、樹脂を流し込む工程の時間を短縮させたり、型に貼り付ける工程をロボット化するといった技術も出てきています。そのため、熱硬化性樹脂も熱可塑性樹脂もそれぞれの素材開発が進み、CFRPの加工に関する研究開発や業界が活況を呈してきています。ただ、材料をいかに目的の形に成形するかという設計ノウハウもまだ蓄積されていませんし、鉄に比べると成形できる形に制限があり、まだ広く普及しているとは言いがたい状況です。


────金属素材に勝つためにはどうすればいいのでしょうか。

立野:
そうですね。なぜCFRPを目的の形にしにくいのかといえば、材料の変形の仕方が鉄とはまったく違うからです。炭素繊維というように、CFRPは布のようなものですが、繊維の方向によって伸縮に制限があります。例えば、テーブルクロスを四角いテーブルにかけると角の部分がたるんでシワになるように、繊維の縦方向には伸びにくく繊維に対して斜めの方向には伸びるという特性があります。CFRPでできた平たい板を単に曲げるだけなら簡単ですが、円筒形に絞る場合は口の部分にどうしてもシワができてしまいます。これがCFRPによる成形を難しくしているというわけです。


箱形のCFRP試作品。連続繊維はプレスで絞り、接合部分は金型に加熱するスロットが開いていて樹脂を溶かして四方へ流し込むという方法で作られている。リブの部分に長い繊維が入っていて1工程でできると言う。
箱形のCFRP試作品。連続繊維はプレスで絞り、接合部分は金型に加熱するスロットが開いていて樹脂を溶かして四方へ流し込むという方法で作られている。リブの部分に長い繊維が入っていて1工程でできると言う。


────炭素繊維の強さが逆に加工の自由度を狭めているということでしょうか。

立野:
炭素繊維がもつような方向によって強度が異なる性質を異方性といい、金属のようにどの方向に対しても同じような強度特性を示すことを等方性といいます。炭素繊維自体、材料が荷重に耐えられる弾性歪みが2%もないくらいでほとんど伸縮できず、強く引っ張られるとある1点で破断してしまいます。鉄にはそうした方向性がほとんどないため、材料が足りない部分を補って伸びてくれたりと融通が利く性質があるのです。

この技術的なテーマは世界的なもので、変形に関するCFRPの特質は炭素繊維の問題なので、熱硬化性樹脂の場合でも同じです。そのため、織物としての炭素繊維の伸縮や変形だけを計測してシミュレーションに落とし込んだりして研究している研究者も少なくありません。


────炭素繊維を金属のように加工するためには、どのような課題解決の方法がありますか。

立野:
CFRPを使って成形する場合、伸びる方向を見極めてどのように繊維を配置して設計するのかが重要になってきます。熱硬化性CFRPの場合だと、炭素繊維をかぶせる工程で伸縮の方向性があり、シワができないような型の設計をしたり、炭素繊維を単にかぶせるのではなく、シワができにくい方向へ引っ張りながら配していくような工夫が必要になります。

また、炭素繊維を積層する過程で、斜め45度の方向、その上には直交する方向といったように炭素繊維の素材として、どの方向に対しても均一に繊維が入っているような素材を作ることも可能です。


────強度の方向性を均一にするために努力してきたというわけですね。

立野:
その通りです。ただ細かくみていくと強度に方向性が残りますから、我々がやっているように炭素繊維を短く切ったものをランダムに積層し固めた素材によって、方向による強度の違いを少なくする方法もあります。この不連続の短い炭素繊維をランダムに配する方法ですと、さらに全方向に強度が一定になります。さらに方向性が一定の素材を使えば、複雑な成形でシワができにくくすることも可能です。


────それはなぜですか。

立野:
素材がより変形しやすくなるからです。我々がCFRPのプレス成形で使っている素材は、炭素繊維を長さ30mm幅10mmのテープに裁断し、金型の中にバラ撒いてから加熱して固めて作っています。炭素繊維は伸びにくいのですが、細かく重なっているテープがズレていろいろな方向に動きますから、連続した長い織物に比べると格段に変形しやすくなっています。このことでCFRPが鉄などの材料に近い性質をもつようになりました。

もちろん、炭素繊維のもつ異方性はその特徴でもあり欠点でもあるわけですが、その特徴を活用することで一つのパネルの中でもある方向には変形しにくく、ある方向には変形しやすいという鉄にはない部品を作ることもできます。



軽さと強度を兼ね備えたCFRPですが、従来は炭素繊維で製品の形に作り接着剤を流し込んで成形していたため、成形と硬化に時間がかかって量産には向かない素材でした。現在の量産品で金属を使ったものが主になっているのは金属の可塑性が理由です。立野先生のインタビュー、金沢大学の設計製造技術研究所の連載取材、最終回はCFRPによる量産の成形技術についてより詳しくうかがいます。


文/石田雅彦

▽金沢大学モノづくり研究開発動向

▽おすすめ関連記事

こちらの記事もおすすめ(PR)