ものづくり産業で独自性を発揮し「ニッチトップ」を目指す《アルプスアルパイン~栗山年弘社長:後編》ニューノーマルにおける「ものづくりの経営者たち」(2)

INTERVIEW

アルプスアルパイン株式会社
代表取締役 社長執行役員 CEO
栗山 年弘

日本を代表する電子部品メーカー、アルプスアルパイン。1948年、アルプス電気の前身「片岡電気」として総勢23人の町工場が、資本金387億3千万人、従業員4万人を超えるグローバル企業に成長しました。リーマンショックよりも影響が大きいコロナ禍も、「ニッチトップ戦略」で乗り越えようとしています。

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セクシーでアートな部品を生み出す

アルプスアルパイン株式会社 代表取締役 社長執行役員 CEO栗山年弘氏(提供:アルプスアルパイン)
アルプスアルパイン株式会社 代表取締役 社長執行役員 CEO栗山年弘氏(提供:アルプスアルパイン)


アルプスアルパインのファースト・ワン、ナンバー・ワン製品でいえば、パソコン用のマウスです。米マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ氏と共に開発を進め、日本で初めて製品化しました。アップル社の「AppleⅡ」のフロッピーディスク駆動装置(FDD)では、一時ほぼ全量を供給。また、高さを従来の半分に抑えた後継機開発の際には、では、スティーブ・ジョブスが「セクシー」と表現したほどです。

車載用では、ホンダとの共同によるカーナビゲーションの元祖「ジャイロケータ」のほか、高周波を利用したリモートキーレスのシステム、車両情報を表示するタッチパネルなどを1980年代に開発するなど世界でのファースト・ワン製品も多数生み出しています。


マイクロソフトと共同で開発された日本初となるマウス(提供:アルプスアルパイン)
マイクロソフトと共同で開発された日本初となるマウス(提供:アルプスアルパイン)


さまざまなフロッピーディスク駆動装置(FDD)やHDD。AppleⅡの後継機種用のFDDにはアップルのスティーブ・ジョブスがセクシーと表現した(提供:アルプスアルパイン)
さまざまなフロッピーディスク駆動装置(FDD)やHDD。AppleⅡの後継機種用のFDDにはアップルのスティーブ・ジョブスがセクシーと表現した(提供:アルプスアルパイン)


ホンダとの共同開発によるカーナビの元祖「ホンダ・エレクトロ・ジャイロケータ」(提供:アルプスアルパイン)
ホンダとの共同開発によるカーナビの元祖「ホンダ・エレクトロ・ジャイロケータ」(提供:アルプスアルパイン)


「開発の戦略で、我々は『ニッチトップ』をかかげています。だから車のCASE(Connected、Autonomous/Automated、Shared&Service、Electric)というトレンドでいうと、Tire1であるメガサプライヤー、例えばデンソーさんとかボッシュさんといったメーカーの事業規模は海外も含め4兆円、5兆円です。当社は同じ領域で争っても勝てませんし、これらTire1メーカーはお客さまでもあるわけです。このため、我々の独自性を発揮できるいわゆるニッチな領域で戦うということを言ってきました。最近、デジタルキャビン(車室)を掲げているのもまさにそういうところになります。

アルプス電気とアルパインは昨年、統合して一つになりましたが、アルプスは入力系のデバイスをたくさん持っています。アルパインは、音と映像、出力系なのですが、アルプスとアルパインが一つになり、ヒューマン・インターフェースのインプットとアウトプットが同じ一つの会社にある。それを車のキャビンという領域で融合させ、これまでにない製品開発を実現するのが狙いです。

そういうビジネスドメイン、技術ドメインでやっているコンペティターは数えるほどしかないんですね。そういう意味で、我々はユニークだと思います。車でいうと自動運転、電気自動車のバッテリーなどの市場規模に比べて一桁小さいですが、我々独自の強みが発揮できるところで1番になることを目指しています。スマホの分野でも同じです。ユニークなことを生かしています」


車の未来を感じさせるスマートパネル(提供:アルプスアルパイン)
車の未来を感じさせるスマートパネル(提供:アルプスアルパイン)


────ワクワクしますね。いろんなシードを育てているところだと思うのですが具体的に、期待も含めてシードを話していただけないでしょうか。

「ヒューマン・インターフェースの入力では、タッチで駆動するメカ的なスイッチから、今はタッチレスを実現する、いろんなセンシングの技術を開発しています。タッチレスは家電にも車にも応用できます。

例えば、車のコックピットではまだ機械式のスイッチやボタンが多いですが、未来のスーパーカーEVでは、電池とモーターがあって自動運転になる。そうなると、車メーカーが差別化するのはコックピット、キャビンの中でいかに快適性や高級感を感じさせるかになります。車のインテリアのデザインは、ドアも、ダッシュボードも一見、操作部は何も見えないけど、手が近づくとスイッチが光って現れる、というようなイメージを想定して具現化し、車メーカーに提案しています。

将来、リビングルームが車に早変わりするようなイメージにもなります。これを実現するには、タッチの入力をはじめ、いろんな入出力の技術がいるんですね。我々は今、車メーカーにそうしたビジネスを広げようとしており、4~5年後には花開くと思っています」



車のキャビンがエンターテイメント空間に

────これからの差別化は「B to B」に絞られますか。
 
「我々の提案先は車メーカーですが、最終的には車を買うユーザーへのバリューにつながらなければならないと思っています。カーシェアが普及していますが、単なる移動手段ではカーシェアでよいですが、自分好みのインテリアや高級感が付加価値になるとそうはいきません。車メーカーもそこを狙っています。

カーサウンドでは高級オーディオのように音が良いというのはもちろん大事ですが、今我々が提案しているのは、『ゾーンサウンド』です。運転席、助手席、後部座席でそれぞれ聴きたいが音楽の好みが違う場合、一人ひとりに違う音楽を流せる指向性のあるスピーカー、音響効果を車の中で実現することを提案しています。車の移動の中でエンターテインメントを楽しむというニーズにこたえる。そういうことも含めて変わってくると思います」


ハンズオフ検出ステアリング(提供:アルプスアルパイン)
ハンズオフ検出ステアリング(提供:アルプスアルパイン)


────発想は「B to B to C」?

「今でも、アルパインブランドで『B to C』ビジネスを展開しています。売り上げ的には全体の1~2割ですが、市販の『アルパインスタイル』で、アルパイン製品を中核としたカスタマイズカーを販売しており、ユーザーのフィードバックを商品企画で生かしたいと思っています。我々はグローバルですのでいろんなお客さんからマーケットのニーズも入ってきます。それが『B to B to C』のヒントになると思います」


────ものづくりでDX進めていくと、3DのモデリングやVRを使って研究開発でもDX化するスタンスでしょうか。

「今までは新製品は、日本で開発したものを海外現地法人で生産立ち上げを行っていました。このため、生産技術のメンバーが大挙して現地に行っていましたがコロナでまったくできない。そうするとビデオ会議でつないだり、最近では、マイクロソフトのホロレンズ(ワイヤレスで頭につけるホログラフィックコンピューティング)で2か所で同じ作業をやるというようなことに一部トライを始めています。

DX化で、生産性向上が進みますが、コロナで売り上げが今年は大きく落ち込みます。それでも赤字を出さないように全社員がコスト改善を、危機感をもって共有できたことは大きい。これまでも、コスト改革を進めてきましたが利益が出ているときは、コスト改革の前に開発しようとなる。この危機で、開発もするがコスト改革よりも開発を優先しようという両輪で進める意識になっているのはチャンスだと思います」


────コロナで海外出張に行けなくなり、節約できたのをはじめ、まさにピンチがチャンスとプラスをもたらした。

「加えて大きいのは、海外の拠点がこれまでは、日本の指示待ちになっていたのが、自分たちで進めなければならないことから、海外の現地社員の力がついて自立化が進みました。新車のモデルサイクルでいうと、欧米の車メーカー向けは9月頃が我々の新製品の立ち上げ時期になります。スマートホン向けでは、秋口に新モデルが出るため今がまさに新製品の立ち上げになります。

スマホ向けだと中国で生産して、車だとヨーロッパもあれば中国もありますが、それらもオンラインで現場と、日本の技術部門をつないで、計画通り立ち上がってきました。これまで無理だと思っていましたが、やるしかないとなるとやれる。それが自信になる。その分、日本のエンジニアは開発に専念できる。全体としてすごくプラスになっています」


────リーマンショックを超えるコロナの影響の予想は難しいかと思います。連結で営業利益率10%、売上高1兆円の中長期目標「ITC101」を達成時期を 1年遅らせるなど、目標を修正しています。

「車でいうと、現在、お客さんにプロモーションをしているのは2023年から2025年に向けたプロモーションや開発をしています。お客さまの計画も、この5年くらいの間にCASEのいろんな新製品、新技術を入れる計画のはずでしたが、コロナで半年くらい後ろ倒しになっています。結果的に、我々が2023年、24年に立ち上げようと予定していた(車の)モデル(のリリース)が1年程度後にずれるという情報が入っていましたので当社も計画を後ろ倒しました。

今年の車の販売台数はコロナの影響で2割くらい落ち込むという予測があり、来年は楽観的だと春ぐらいから元に戻るという見方もありますが、(当社は)10%くらいはマイナスの影響が残っているのではないかとみています。来年以降は、現状では読めないですね」


────非接触ということで新型コロナを受けて医療、衛生分野でもニーズがあるかと思いますが。

「医療、衛生分野のマーケット自身は、スマホとかコンシューマーの家電、車に比べると小さな規模ではありますが、技術的には同じものが使えるので、エレベーターのボタンをタッチレスにするといった用途など、さまざまな市場に向けてどんどん提案していきたいと思っています」


介護、公共施設などの触れたくないニーズにこたえるため、開発提案しているタッチレス操作パネル(提供:アルプスアルパイン)
介護、公共施設などの触れたくないニーズにこたえるため、開発提案しているタッチレス操作パネル(提供:アルプスアルパイン)


コロナ禍でも強かったものづくり産業 必要性がカギ

────こうしたコロナ禍でものづくりを目指す学生、研究者の方へのアドバイスをお願いします。

「ここ数年、製造業、第2次産業よりサービス業の方が、人気ですね。ただ、今回のコロナでわかったのは対面型のビジネスは非常に影響を受けていますが、ITオンライン型と同様に、製造業は実はそんなには影響受けてないというのが印象です。

欧米がロックダウンしたときは工場の半分が止まりましたが、基本的に我々が作っている『BtoB』の製品、車や家電やスマホは、コロナがあろうがなかろうが生活で使います。生活に必要なものを作っている製造業は、コロナの影響は小さい。製造ラインも自動化、ロボット化になり、開発もテレワーク化してきています。もちろんIT、オンラインビジネスは逆に好調だったりしますが雇用の吸収力は小さいですから、そういう意味でいうと、ものづくり産業は重要だと思います」


────日本のものづくりの力が落ちてきている。工場に海外がでてしまい産業の空洞化がいわれていますが、ものづくりは底力があるということですか。

「ものづくりは見直されるべきではないかと思っています。今回、小売業や飲食店、観光業は前年比1割2割じゃなくて、半減以下の場合もあります。でも、製造業は1、2割減はあっても半減以下はほとんど聞かない。それは生活、社会に必要なものを作っているからだと思います。将来性もあります。ただ、日本は少子化高齢化でマーケットは基本的にシュリンクしていきますから、日本だけを考えるわけにはいかない。グローバルに展開するものづくり企業と言うのはまだまだ充分チャンスがあると思っています」


────最後に、座右の銘を教えてください。

「動機善なりや、私心なかりしか——

京セラの創業者、稲森和夫氏の言葉です。社長になった時にも、今でも幹部に言うのですが、なにかをやろうとするとき私利私欲でしてはいないか、自問自答する。やり方がどうであれ、動機が純粋でみんなのため、会社のためであればよい。動機が不純であったら、どんなに立派なこともだめだ。自分のための私利私欲や保身、出世のために動かれたら部下はたまったものじゃない。上になればなるほど重要なことだと思っています」


オンラインでインタビューに答えてくださった栗山年弘氏
オンラインでインタビューに答えてくださった栗山年弘氏


【取材後記】
コロナ禍で世界的に大きな影響を受けたものづくり企業。日本を代表するメーカーの一つ、アルプスアルパインも然りですが、全社的に危機感を共有することで、こうした事態だからこそ実践できる変革を示してくれました。日本でなかなか進まなかったテレワークが一気に加速しましたが、アルプスアルパインにとってそれはもう一歩先の女性活躍、ジョブ型雇用を視野に新しい可能性を開いています。感染予防はもちろんですが生産性向上につなげ、ピンチをチャンスにする経営戦略で臨みます。ものづくりは、生活に必要としているからこそパンデミックのような逆境にも強い、日本は底力があるという提言は、とても心強く感じました。


文/杉浦美香 

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