IoTや自律化などが注目される「ITのメガトレンド」時代における半導体の役割〜半導体入門講座(13)

ITの3大要素となる「コンピュータと通信と半導体」。1980年代半導体メモリが急速に進化しているなか、「通信」ではまだ黒電話のアナログ回線が主力でした。その音声通信を高速のデジタル通信へと牽引したのは、デジタル電話である携帯電話や急速に普及したインターネットでした。今回は、通信トレンドと半導体の関わりに加え、IoTや自律化などが注目される将来の「ITメガトレンド」時代における半導体の役割についてご紹介します。

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黒電話の「音声通信」から高速の「デジタル通信」に

1980年代はDRAMやプロセッサの進化が続いたが、通信は相変わらず黒電話の有線が主力だった。IT業界は、音声通信から通信が主力になる時代が来ると、訴え続けていたが、有線電話時代は、音声のアナログ電話に疑似的にカプラ(coupler、結合器)を使ったモデム(変復調器)を受話器の口の部分にくっつけ、1,200ビット/秒あるいは2,400ビット/秒という遅いデータレートでテキスト伝送を行っていた。

次第に、4.8kbps、9.6kbps、14.4kbpsへと高速になりつつあった。NTTは、ISDNサービス統合デジタル通信網と呼ぶ64kbpsと高速のネットワークを全国に張り巡らせることを提唱していた。


<写真1>初期はアナログ式電話の受話器にカプラ(coupler、結合器)をつけて伝送していた
<写真1>初期はアナログ式電話の受話器にカプラ(coupler、結合器)をつけて伝送していた


「携帯電話」と「インターネット」の発展、高速のデジタル通信を牽引

通信のデジタル化とその高速化が顕著になってきたのは、携帯電話の急速な進展である。1980年代に登場した第1世代のアナログ電話は、装置が大きく、バッテリを肩に掛けるショルダーフォンとも言われた。これが第2世代のデジタル電話になると携帯電話の利用者は急速に増えたため、容量を増やすため第3世代(3G)へと進み、さらに現在の第4世代(4G: LTE)に至っている。

2019年から日本で始まった第5世代(5G)では、数百Mbpsという高速のデータレートが得られている。目標は10Gbpsだが、まだこのレベルには達しておらず、2030年近くに得られるようだ。

携帯電話は、専用キーボードがないソフトキーボードのスマートフォンに変わった。2007年にAppleが世に出したiPhoneの後にGoogleがAndroidというLinuxベースのOSを無償で公開し、iPhone以降にスマートフォンという言葉が生まれた。スマートという言葉は、英語で「賢い」という意味で使うことが多い。

携帯電話の登場と共に急速に普及したのがインターネットである。もともとアメリカ合衆国国防総省(DoD、Department of Defense)のARPAネット(Advanced Research Projects Agency Network)がその起源であり、サーバーを各地に分散させることで危険を避けるネットワークシステムだった。大学や研究所の科学者がARPAネットを使って研究成果をいち早く発表し合っていたが、MS-DOSのようにコマンドベースでメールなどをやり取りしていた。

これをビジュアルな画像で表現するためブラウザ「Mosaic(モザイク)」を作成したのが、イリノイ大学にいたマーク・アンドリーセンであった。彼は、テキストと画像を同一ウインドウに表示させ、わかりやすく楽しくインターネットを利用できるとして、モザイクを開発した。シリコングラフィックス社の創業者ジム・クラークは、マーク・アンドリーセンに起業を促し自ら出資してベンチャーNetscape社を設立した。ブラウザはその後、進化を遂げ、さまざまな製品が登場している。


スマートフォンは「ユビキタス」モバイルコンピュータ

スマートフォンでは、ウェブ接続・探索などを行う演算用プロセッサが必須であり、ゲームを示すグラフィックス専用のプロセッサ(GPU:絵を描くためのプロセッサ)や、デジタル通信でコンテンツを送受信するためのデジタルモデム、ビデオ処理プロセッサなどが1チップのシリコンに集積されている。片手で持てるスマートフォンにこういった機能を集積するため、1チップに億単位のトランジスタ数が集積されたSoC(System-on-a-chip)あるいはアプリケーションプロセッサが使われるようになった。

さらに写真やアドレス帳、文書などパソコンとほぼ同じようなコンテンツを保存するため、HDDに代わるNANDフラッシュメモリが使われるようになった。フラッシュメモリは、もともと電気的に書き換え可能なメモリであるが、DRAMと違い頻繁に書き換えることができない。せいぜい1,000回どまりである。このためRAMメモリではなくストレージとして使われている。

当初、スマートフォンが登場する以前の携帯電話は、パソコンと同様、BIOSファームウェアの書き換えにNORフラッシュが使われていた。しかし、保存したい内容が写真だけではなく動画や録音などマルチメディアになってくると、大容量化しやすいNANDフラッシュに取って代わられた。

スマートフォンは今や携帯電話というより、小型のモバイルコンピュータと考えた方がよい。さまざまなアプリケーションソフトウエア(いわゆるアプリ)をスマートフォンにインストールするだけで機能を追加できるからだ。コンピュータとは、単なる計算機ではなく、共通のハードウエアを作りその中にソフトウエアを動作させることで所望の機能を実現させるマシンである。今やスマートフォンは通信機能のついたモバイルコンピュータといえる。

2000年ごろによく言われた「ユビキタス(ubiquitous)時代」は、いつでもどこでも常時接続されたコンピュータが来る時代であった。実はスマートフォンが普及した今がまさにユビキタス時代である。パソコンでは立ったままでは操作しにくいが、スマートフォンは歩きスマートフォンが社会問題になるほど、いつでもどこでもつながったモバイルコンピュータとなった。

だからこそ、スマートフォンの時代は当分続き、パソコンやタブレットなどとも共存していく。以前もお話ししたが、Appleの最新型iPadは、もはや1980年代のスーパーコンピュータCray-2よりも性能が高いと言われている。


「新ITのメガトレンド」〜IoT、セキュリティや自律化などの新たなテクロノジーが相互に関係

技術としては、半導体入門講座(9)からお話ししてきたように「コンピュータと通信と半導体」がITの3大要素となる。このため、ITのトレンドをしっかり見ておく必要がある。日本の半導体が没落した原因の一つがダウンサイジングというコンピュータのトレンドを見てこなかったことでもある。だからこそ、これからはITのメガトレンドをしっかり捉え、そのメガトレンドを沿った製品を開発するために半導体が必要となる。

いまから6〜7年前のITのメガトレンドは、モバイル、ビッグデータ、クラウド、SNSだった。これらは今やITのインフラとなっていて、特にモバイルとSNSは私たちの身の回りに根付いている。さすがにビッグデータは身近にはないが、クラウドは見えないほど浸透している。「人口知能(AI)の名前」を叫ぶと応答してくれるスマートスピーカーや翻訳機などは、端末で処理している訳ではない。クラウド上で処理することが多い。

スマートフォンで例えば「近くのレストラン」と言えば、言葉だけがクラウドへ送られ、音声認識、内容の探索、そしてスマートフォンへ検索データを送る、という作業を行っているが、音声認識などの処理はクラウド上で行っており、処理した結果だけをスマートフォンに送ってくる。ビッグデータは、消費者向けでは見かけないが、産業向けのIoTではビッグデータの解析が欠かせない。

ここ2〜3年のメガトレンドは、IoTとAI、5G通信を中心としてセキュリティや自律化といったテクノロジーも登場している。しかもこれらのトレンドが単独ではなく相互に関係しているのである。これを表現したのが<図1>である。


<図1> 新ITのメガトレンドはIoT、AI、5G、自律化などで、相互に関係する
<図1> 新ITのメガトレンドはIoT、AI、5G、自律化などで、相互に関係する


この中で例えば、IoTを例にとると、IoTデバイスにはセンサーがあり、センサーからのデータを、インターネットを通してクラウドへ送るわけだが、インターネットにつなげるためのワイヤレス通信として5Gネットワークがある。クラウドに上げられたデータはさまざまな相関やデータを紐付けされ、データが解析される。AIを使う場合もある。それらのデータを送る場合も受け取る場合もセキュアに守られる必要がある。IoTシステムをAIで解析する場合をAIoTと呼ぶこともある。もはやIoTだけでなにかを行うことは難しいのだ。

しかもIoTデバイスは半導体の塊である。そしてクラウドはコンピュータの塊である。AIを多用してデータを解析することは当たり前になりつつある。コンピュータの中も半導体の塊である。データを送る通信技術も半導体なしで基地局やスマートフォンを作ることはできない。逆に半導体側は、コンピュータや通信のメガトレンドを抑えて、次の時代に必要とされるICチップを素早く提供することが求められる。


<図2>IoTはすべてのデバイスに半導体が組み込まれることを意味する
<図2>IoTはすべてのデバイスに半導体が組み込まれることを意味する


セキュリティに関しても、従来ならソフトウエアでIDとパスワードでユーザーを認証していたが、ハッカーは悪意のあるメールをしらみつぶしに流し、悪意のあるウェブに誘導したり、パスワードの変更を促したりして、IDとパスワードを盗みとることが多い。時には文字などをスキャニングしたり推定したりすることでも盗むこともある。ハッカーとの戦いは常にイタチごっこになっている。

そこでソフトウエアだけではなく、ハードウエアでもセキュアに守ることになる。認証、セキュアなコンテナ、さらに暗号化をハードウエア、すなわち半導体を使ってセキュリティを強化する。暗号化は、仮にハッカーがシステムに侵入してもデータを読めないようにしておくために必要となる。暗号化には解読するための鍵をセキュアなコンテナ(半導体チップ内部)に保存する。また、半導体チップそのものの特性バラツキを利用して、チップを同定する技術も使われ始めている。

当然だが、セキュアにするためにはコストがかかる。ところが日本では、セキュリティや安全は当たり前という無防備な文化が浸透しており、システムをよりセキュアにすることに対して対価を嫌う傾向が強い。

自律化に関しては、自動運転車やロボット、ドローンなど動くマシンでは欠かせないトレンドになっている。さらに工業用の機械に関しても、これからは自律化される方向にある。自律化とは、センサーを活用して状況を捉え、状況によってマシンを変えていくことであり自動化ではない。自動化は、コンピュータにプログラムされたとおりにマシンが動くことであり、センサーは持たない。あるいは持っていてもセンサーからのデータは使わない。

自律化では、センサーそのものが半導体であることが多く、センサー信号を処理、アナログデータをデジタルへ変換、デジタルデータでの処理など半導体の役割は極めて大きい。自律運転の自動運転車では半導体なしでは実現できない。



著者:津⽥建二(つだ・けんじ)
技術ジャーナリスト。東京⼯業⼤学理学部応⽤物理学科卒業後、⽇本電気(NEC)⼊社、半導体デバイスの開発等に従事。のち、⽇経マグロウヒル社(現在⽇経BP 社)⼊社、「⽇経エレクトロニクス」、「⽇経マイクロデバイス」、英⽂誌「Nikkei Electronics Asia」編集記者、副編集⻑、シニアエディター、アジア部⻑、国際部⻑など歴任。


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