障がい者介助ロボット開発から生まれたユニバーサルなビークルが示すスマートモビリティの可能性

INTERVIEW

株式会社テムザック
代表取締役
髙本 陽一

電動車椅子と聞いてイメージするのは、モーターのついた動く“車椅子”でしょう。ところがテムザックが販売している電動車椅子ロボット「RODEM(ロデム)」は車椅子には見えません。丸っこく可愛らしいデザインの小さなこの乗り物には、背もたれがなく、シートに少し前かがみに座り、ジョイスティックを握って操作する小さな四輪オートバイのようなフォルム。見たことがない新しいビークルです。ロデムの開発者である株式会社テムザック代表の髙本陽一(たかもと・よういち)社長に話を聞きました。

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介助者がいなくても一人でベッドから乗り込むことができる車椅子を目指して

株式会社テムザックの髙本陽一社長
株式会社テムザックの髙本陽一社長


「開発のきっかけは、2006年ごろ、九州大学病院リハビリテーション部(当時。現在、佐賀整肢学園こども発達医療センター副院長)の高杉紳一郎(たかすぎ・しんいちろう)先生からのオファーでした。『介助者がいなくても障がい者が一人で乗ることができる電動車椅子を作れないか』と。最初はまったくアイデアがありませんでした」と髙本陽一社長は言います。

高杉医師が言うには、脊椎損傷や下肢損傷などによって、車椅子が必要な障がい者は、一人で乗り込むことがかなり難しいということ。ベッドから車椅子に乗り込むためには、ベッドと車椅子を向かい合わせにし、一度立ち上がって体の向きを180度反転させ、車椅子のシートの上にお尻を載せ替えなければいけない。それは、脊椎や下肢に障がいがある人にとってはかなりの困難を伴うものだと言うのです。

そのため、車椅子に乗り込むためには、ベッドの縁に座った障がい者の両脇に介助者が腕を差し込み、抱え上げて、体の向きを反転させて車椅子に乗せてあげなくてはなりません。つまり、介護者がいなければ障がい者はベッドからどこにも移動することはできないということです。

「しかも介助者がいったん全体重を支えるわけですから、大変な作業です。介助者は腰痛に悩まされるケースも多く、ぎっくり腰や、転倒するなどのリスクもあります。特に老老介護の夫婦などは大変です。この一瞬の作業なのに非常に大変な作業の負担を減らせないかというのが高杉先生のご要望でした」(髙本氏)


遠隔作業ロボット、ヒューマノイドロボット開発の実績から障がい者介助ロボット開発へ

主に災害現場で使用するテムザックの遠隔操作ロボットT-54ENRYU
主に災害現場で使用するテムザックの遠隔操作ロボットT-54ENRYU


なぜそのようなオファーがあったのか。テムザックは髙本氏が創業したロボットメーカーでした。髙本氏は祖母の代から続く食品用ベルトコンベアのメーカーの三代目でしたが、同社が自社開発した受付用ヒューマノイドロボットが評判となったのをきっかけに、さまざまな会社からロボット開発の依頼が来るようになりました。

そしてその頃、妻から「遠方にいる母の見守りができるロボットを作れないか」とも頼まれたそうです。その意向に答え、髙本氏はPHSを使って操作するヒューマノイドロボットの開発も行いました。

そして、ロボット製造専業の会社として2000年にテムザックを創業します。それから同社は、工事現場や災害現場、介護施設、鉄道などで作業を行う遠隔作業ロボットなどを受託開発・製造してきました。そこに障がい者介助ロボットを開発してほしいと高杉医師からオファーが来たのです。

髙本氏も当初は、障がい者を抱えて車椅子に乗せるロボットの開発も考えたと言います。しかし、「持ち上げるロボットやアシストアームでは障がい者の方を落としてしまったり骨折させてしまったりするリスクがありました。それをクリアすることを考えたところ、ロボットやアシストアームが不要な乗り物を作る方が早くて安全だと考えました」と思い至ったのです。


障がい者がベッドの縁に座った姿勢のまま前向きに乗り込める乗り物

ベッドと高さを合わせて後ろから乗り込むことができるロデム
ベッドと高さを合わせて後ろから乗り込むことができるロデム


髙本氏がたどり着いたのは、ベッドの縁に座ったその姿勢のまま前向きに乗り込める乗り物でした。車椅子のシートがベッドと同じ高さになり、ハンドルを握って体を前に進めることで真っ直ぐに乗り込める車椅子が開発されたのです。乗り込んだ後は、シートが上昇し、後部が上がって前傾姿勢になり、膝当てと胸当てによって支えられて体位が安定します。

前輪には前後だけでなく左右にも動くオムニホイールを採用。小回りがききます。スマートフォンでリモートコントロールも可能。乗った姿勢は一般の車椅子に比べて視点が高く、歩行者ともあまり変わらない点もメリットだと言います。

「車椅子には背もたれがあるのが当たり前ですが、必要ないのですか?」という記者の質問に対して、「自転車もバイクも背もたれはありませんが、長時間乗っても疲れませんよね。人間は前傾姿勢でも胸と膝が支えられていれば安定するんです」と髙本氏は答えます。

ロデムは当初、健常者ではない人を対象に開発され、自転車やバイクと同じではないのですが、おんぶをされるような格好で機体が体重を支える構造をしています。そのままの姿勢で手洗いや洗面をしたり、食事をしたりといった日常生活もしやすいのだそうです。

「開発には、当時九州大学病院にいた高杉先生と、福岡県飯塚市にある総合せき損センターの小林博光(こばやし・ひろみつ)先生にご協力いただきました。また、デンマーク大使館の協力のもと、デンマークのコペンハーゲンとミッドフェン市の介護施設や病院で約1年半、複数の実証実験も行わせていただきました。下半身不随の方やバイク事故で足を切断した方など、多くの方に乗っていただき、改善を繰り返しました。皆さんにはとても喜んでいただいたんです」と髙本氏は言います。

実は日本では、前向きに乗る車椅子は前例がなかったため、安全基準に適合せず、販売ができないという課題がありました。しかしデンマークでの実証実験のため、ヨーロッパで安全基準条件を満たすことを証明するCEマークを取得することができたのです。

健常者を含むユニバーサルなビークルが示すスマートモビリティの姿

京都市上京区のテムザック中央研究所にて
京都市上京区のテムザック中央研究所にて


さて、脊椎や下肢に障がいがある方向けに開発されてきたロデムですが、開発が進むにつれて、新しい動きが出てきています。それは、健常者も含めたあらゆる人に向けたユニバーサルなビークルとしての展望です。

「例えば私がロデムに乗ってもらっているところを見てもらえばわかると思いますが、この乗り物は必ずしも体の不自由な人向けのものには見えないんです。例えば、少しお年を召した方や、お子さん、あるいは若い人が乗っていても、乗り物として違和感がないんですね。

欧米で流行っているキックスクーターや電動自転車と同じように、自由でちょっとオシャレなビークルとしても使っていただけると考えています。ユニバーサルという言葉は、一般的である、すべてに通用する、という意味です。ロデムは本当の意味でユニバーサルになりうると思っています」

2018年7月には京都嵐山にて屋外走行の実証実験を実施。嵯峨野エリアを含む半径数kmのエリアの観光を多くの人がロデムに乗って楽しんだと言います。

また2020年2月、テムザックは、オムロンソーシアルソリューションズ、NTTドコモとともに、第5世代移動通信システム(以下、5G)を利用し、ロデムの遠隔操作実験を、けいはんな学研都市(京都府相楽郡精華町)のけいはんなオープンイノベーションセンターにて実施しました。

利用の後、駅などで乗り捨てたロデムが無人運転により充電ステーションに戻って自動充電するというスマートモビリティでの利用を想定した実験です。5Gの反応速度が非常に早く、実験結果は良好だったそうです。

今後、量産販売が始まろうとしているロデム。電動車椅子の国内年間3〜4万台の市場を含めた世界市場、そしてスマートモビリティの新たな市場を視野に入れて複数の機種の開発が進められています。


文/嶺 竜一

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