高精度化に向けて高速度カメラで金属AM(金属3Dプリンター)造形時のスパッタやヒューム発生要因を探る~金沢大学モノづくり研究開発動向(4)

INTERVIEW

金沢大学
設計製造技術研究所
教授 古本 達明

北陸地方のアカデミアでモノづくり系の研究拠点の一つとして、金沢大学の設計製造技術研究所を紹介しているシリーズ。同研究所は2019年、それまでの先端製造技術開発推進センターを改組して設立された新しい研究所ですが、製造技術領域、設計技術領域の2つの研究領域を持ち、製造技術領域には金属AM(Additive Manufacturing、3D複合造形)技術開発部門、複合整合技術開発部門、材料・構造開発部門があります。第3回に続いて第4回も金属AM技術について古本達明(ふるもと・たつあき)教授にお話をうかがいます。

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高速度カメラによる金属3Dプリンター造形の可視化

金属AM研究班は、金属AMの強みを生かした製造技術の確立と実用化を目指し、民間企業と共同で課題解決に向けた研究開発を進めているそうです。例えば、金属AMで造形した金型内部の冷却用水管内面に発現する凹凸を除去する装置の開発により水管の詰まりや冷却効率を改善する技術、硬度が要求される成型品に適用可能な新たな金属材料の研究開発などを行っています。


────前回、高速度カメラで観察するとおっしゃっていましたが、どのような研究なのでしょうか。

古本氏:(以下、敬称略)
高速度カメラで可視化する技術は、7〜8年前から取り組んできました。我々の場合2〜3mm角の範囲を観察していますが、それくらいの高倍率になると焦点深度が非常に浅いためピントを合わせるのが技術的に難しいのです。

また一般的なパウダーベッドフュージョン(Powder Bed Fusion)法の金属3Dプリンターだと、レーザーの速度は1秒間に700mmから800mmの距離を動きますが、その速度に追随するのも大変でした。そのため現在ではカメラは固定し、装置のほうをレーザーの動きに連動させて動かしています。こうした装置の製作はもちろん、可視化した画像データの評価をどうするかなども難しかったです。


────実際、金属粉末が溶けている状態はどうなっているのでしょうか。

古本:
レーザーが照射している一点は100µm(マイクロメートル)ですが、照射を続けると粉末が溶けて開いた穴であるメルトプール、そしてレーザー照射の熱が粉末の下部の金属プレートなどに波及してドロップレットという粉末が部分的に溶けて小さな固まりが形成され、スパッタやヒュームが飛びます。

一方、金属粉末は熱容量が小さいので少し加熱されるだけで溶けますから、周囲の粉末もドーナツ状に熱せられ、本来なら溶けてはいけない部分も溶けて凝集して固まってしまいます。そうなるとドーナツ状の部分にはもう粉末がない状態になってしまいます。つまり、レーザーが通過した場所とその周囲の粉末がなくなった場所、その外側は粉末が残った場所というように3段階に分かれた状態になってしまいます。


────単に溶けた点と線が連続して積み上がっていくわけではないのですね。

古本:
そうです。この線状に溶けた部分が横にずれて面を作っていきますが、こうした状態になっていれば当然、最初のラインと2本目、3本目のラインの積層の挙動やスパッタの発生が違ってくるはずです。つまり、1本目にレーザーが当たる部分は粉末が溶けてメルトプールが形成され、そこにドロップレットが飛び込んでスパッタができますが、次のライン以降は1本目のラインで生じたドロップレットがすでにあり、そのドロップレットが再び溶けてメルトプールに飛び込んでスパッタができるという別の現象になっています。

レーザーの一点照射の様子を可視化した画像。レーザーで熱せられた状態(左)が通過すると周辺が熱せられて金属粉末が帯状に溶けてしまう様子(右)がわかる。
レーザーの一点照射の様子を可視化した画像。レーザーで熱せられた状態(左)が通過すると周辺が熱せられて金属粉末が帯状に溶けてしまう様子(右)がわかる。


────ラインによって異なった現象が起きているのでしょうか。

古本:
実際、高速度カメラで観察すると、1ライン目とそれ以降でレーザーが当たる粉末に違う現象が起きていることがわかりました。このことから、違う現象が起きているのに、同じ条件で作っていいのかということになります。


────カメラで観察するといろいろなことがわかってくるということですね。

古本:
3Dプリンターの造形物では、エッジが盛り上がることがよくあります。こうしたエッジの盛り上がりも3Dプリンターによる造形物の不具合の一つです。これも高速度カメラで観察してわかったことですが、最初のラインは両側に積層して高くなりますが、それ以降のラインは片側だけにしか粉末がないため、最初のラインより高さが低くなります。エッジが盛り上がるのは、こうした現象が起きていることがわかったのです。
高速度カメラによる可視化により、エッジができる現象がわかったことでこの問題を技術的に解決する手掛かりになると考えています。


────溶接でも問題になるスパッタとヒュームの処理が難題なのでしょうか。

古本:
造形精度でスパッタは、レーザーの出力を100%発揮できない阻害物にもなります。期待した出力で材料を溶融させられていないことになると、それもまた不具合につながります。いかにスパッタやヒュームを減らすのかも研究テーマですが、レーザー照射の条件、環境、粉末の組成などを変えながらスパッタやヒュームが発生する主因子を探ろうとしています。

金属3Dプリンターの場合、スパッタやヒュームはメルトプールやドロップレットから飛び出ます。ドロップレットがメルトプールに飛び込むことで生じるスパッタやヒュームがあるなど、そのできかたも場所によって違います。

金属3Dプリンター造形と切削を交互に繰り返して作られた「金型の冷却用水管」

────具体的に金属金型をどうやって作っているのでしょうか。

古本:
我々が目指している高精度の金型は、福井県にある松浦機械製作所さんと協力し、金属3Dプリンターと切削を複合させた技術で作っています。まず10層程度、積層で積んでから、同じ装置の中で周囲をエンドミルで削ります。こうして積層と切削の工程を繰り返すことで全体を造形していきます。これにより従来工法より格段にコストを下げることが可能になっています。

例えば、従来の金型設計で深い溝を掘る場合、放電加工などの特殊工法で深い溝だけを掘る工具を特別に作って加工することが必要になりますが、金属3Dプリンターと切削を複合させることでその工程が必要なくなり、同時に仕上げ工程も短縮することができます。

造形と切削とを交互に繰り返す装置。この中で金属3Dプリンターによる積層と切削をし、複雑な造形物を少ない工程で作ることができるそうだ。
造形と切削とを交互に繰り返す装置。この中で金属3Dプリンターによる積層と切削をし、複雑な造形物を少ない工程で作ることができるそうだ。


────かなり複雑な形状の造形が可能ということですね。

古本:
そうです。金型の冷却用水管も複雑な形状ですが、従来はドリル加工で水管の穴を開けるしかなかったため、直線と直線の組み合わせしかできませんでした。しかし金属3Dプリンターを使うと、金型の中の冷却用の水管を自由に配置することができるようになります。金型加工の冷却では、同じ設計製造技術研究所で射出成形用樹脂の研究をしているグループと一緒に金属3Dプリンターでなるべく変形しない冷却水管を使った金型を作ったりしています。


────水管の内部はどうなっているのでしょうか。

古本:
自由度の高い設計で金属3Dプリンターを用いて作った水管の内部は、なにも切削をしないと表面が凸凹になっています。そうなると目詰まりが起きたり冷却性能が低くなったりする危険性がありますから、内部を磨く装置も作って特許化しています。これは水などの媒体に砥粒を混ぜ、吐き出させることで水管の内壁を洗浄する方法です。また、中空になった内部の保持材をできあがってからは取り出すことはできませんが、これもショットブラストなどで物理的にぶつけて取り出すような方法も提案されてきています。

金型の内部水管の内面加工技術。油圧シリンダーによって砥粒を混ぜた媒体を水管内部で移動させ、内部を磨く機構になっている。
金型の内部水管の内面加工技術。油圧シリンダーによって砥粒を混ぜた媒体を水管内部で移動させ、内部を磨く機構になっている。


────金属3Dプリンターで金型を作るメリットはほかにありますか。

古本:
そうですね、例えば金型に樹脂やゴムを充填しようとすると、内部の空気が圧縮されてうまく充填できなくなり、熱せられた材料自体からもガスが出てきますから、成型の不具合を減らすためにはどうしても空気抜きのエアベント(ガスベント)が必要になります。

金属3Dプリンターでは積層速度を調整すると、完全に粉末が溶けて密に固まったフルメルトという部分と積層速度を速くしてわざと気孔の多い鬆(す)の部分を一つの造形物の中に形成させることが可能です。穴の量を増やすと通気量が増えますから、こうしたポーラス状の部分を空気抜きに使うことができるのではないかということで、金型のエアベントに利用できる可能性がみえてきています。


────ポーラス状の部分を混在させることができるメリットはほかにありますか。

古本:
こうしたエアベントの適応例として我々は今、ダイカスト金型に使えないかと考えています。ダイカスト金型の場合、金属の金型に金属を流し込みますが、型から抜くために離型剤という一種の剥離剤を塗ります。我々はこの気孔から離型剤を浸み出させることができないかと考えています。ポーラス状の部分をわざと作ることは、今のところパウダーベッドフュージョン法でしかできない方法です。

一つの造形物の中にフルメルトの部分とポーラスの部分を作るという我々の方法は、すでにかなりデータを蓄積し大きさによる制限はありますが、ポーラスの大きさ、密度、分布といったものをある程度はコントロールして作ることができるようになっています。


────医療用ではどうでしょうか。

古本:
今後はバイオミメティクス(生物模倣)の試みの一つとして、例えば金属3Dプリンターの速度調整によってポーラスができることを利用し、骨構造など身体と親和性の高い部分にはポーラスを使い、強度が欲しい部分はフルメルトで作るような体内埋め込み材が可能になるかもしれません。ただ医療系ではどうしてもチタン系の材料になってしまい、現在我々がチタンを扱えるアルゴン雰囲気の装置をもっていないため、今後手がけていくこととなります。

複合工作機械で実際に作った金型。積層と切削を組み合わせているため、複雑な形状が可能になっている。
複合工作機械で実際に作った金型。積層と切削を組み合わせているため、複雑な形状が可能になっている。


────やはり産学連携での研究が多いのでしょうか。

古本:
多いです。造型機メーカーとは装置の高機能化の研究開発、また材料メーカーとは新しい金属3Dプリンター用の粉末の研究開発、金型メーカーとは高精度の金型の研究開発といったことをやっています。また基礎研究でも産学連携しています。例えば、高速度カメラによる金属3Dプリンターの造形観察などを協力して行っています。我々が取り組んでいる研究テーマのほとんどは、こうした大学外との共同研究です。


このように古本教授らの研究グループは、金属AMの基幹となる粉末材料、レーザー、造形工程に対して多角的な検討を行いつつ、金属AMの特長を最大限に活かすことで、社会に実際に使ってもらえる技術の研究開発を目指しているそうです。


文/石田雅彦

▽金沢大学モノづくり研究開発動向

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