高精度化をめざす金属AM(金属3Dプリンター)の研究開発とは?~金沢大学モノづくり研究開発動向(3)

INTERVIEW

金沢大学
設計製造技術研究所
教授 古本 達明

北陸地方のアカデミアでモノづくり系の研究拠点の一つとして、金沢大学の設計製造技術研究所を紹介しているシリーズ。同研究所は2019年、それまでの先端製造技術開発推進センターを改組して設立された新しい研究所ですが、製造技術領域、設計技術領域の2つの研究領域をもち、製造技術領域には金属AM(Additive Manufacturing、3D複合造形)技術開発部門、複合整合技術開発部門、材料・構造開発部門があります。第3回、第4回は、金属AM技術について同研究所の金属AM研究班の古本達明(ふるもと・たつあき)教授にお話をうかがい、研究内容をご紹介します。

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金属AM(金属3Dプリンター)とは

────まず、金属AMという言葉について教えてください。

古本氏:(以下、敬称略) 
金属AMとは、金属を使った三次元造形のことで金属3Dプリンターによる製造加工技術です。金属AMのAMという言葉はまだ耳馴染みがないと思いますが、AMは2009年に米国のASTM(American Society for Testing and Materials、米国試験材料協会)で規格されました。

それまでは1990年代後半だとラピッド・プロトタイピング(Rapid Prototyping)といったり、ラピッド・マニュファクチャリング(Rapid Manufacturing)などいろいろな呼び方がありました。次第に技術が成熟してくると、呼び方を統一しようという動きがあって2009年にAM、アディティブ・マニュファクチャリング(Additive Manufacturing)になったというわけです。


────AMという加工法の中に金属AMがあるということでしょうか。

古本:
そうです。AMのアディティブという言葉は、三次元的に素材を積層していくという意味です。現在、金属AMは、材料や熱源、材料の供給方法などによって7種類に分類されています。必要な場所へ材料を運んで固化させ、三次元造形を行うということでは7種類はどれも共通しています。とはいってもこれは3Dプリンターの技術ですし、研究者の中には3DプリンターとAMはほとんど同じ概念という人もいます。


────金属AMはつまり金属3Dプリンターということでしょうか。

古本:
はい。樹脂を使う3Dプリンターはかなり広く使われるようになっていますが、金属3Dプリンターが登場したのもすでに30年近い歴史があります。しかし、金属3Dプリンターが普及してきたのは、ここ10年くらいでしょう。樹脂の3Dプリンターも金属3Dプリンターも基本的な原理は同じですが、当時、名古屋市工業研究所にいらした小玉秀男氏らが1980年代の初め頃に原理を発明したわけです。

その後世界中で開発が行われて知財化され、溶融物を堆積させながら立体物を作るFDM(Fused Deposition Modeling:熱溶解積層法)方式が出ましたが、2009年にFDM方式の基本特許が切れたことから、2013年に米国のオバマ前大統領が一般教書演説で3Dプリンターの普及推進に触れた頃から世界的に普及し始めたというわけです。

金沢大学古本達明教授。
金沢大学古本達明教授。


────樹脂を使った3Dプリンターはかなり普及しています。

古本:
そうですね。普及した理由は、やはりFDM方式の3Dプリンターの価格が安くなって入手しやすくなったことが大きいと思います。金属3Dプリンターのほうも基本特許が切れる時期にきています。そうなれば誰でも安価に使うことができるようになるかもしれません。

日本ではやはり3Dプリンターの呼び方のほうが広まってしまったことや、また前述したオバマ前大統領の演説で3Dプリンターと言ったこともあり、一般的にはそちらのほうが耳馴染みがあるかもしれません。しかし我々が論文を書いたりセミナーでお話しをする場合は、オバマ前大統領の演説より先に規格に決まっていたこともあり、AMと呼ぶようにしています。


────樹脂と金属の3Dプリンターはどう違うのでしょうか。

古本:
樹脂の3Dプリンターと金属3Dプリンターの絶対的な違いは素材を溶かす融点です。金属3Dプリンターの場合、金属が溶ける温度まで高くしなければならず、例えば鉄系の材料だと1,400℃以上まで上げなければなりません。そのための熱源では、レーザー、アーク放電、電子ビームなどがありますが、その熱源の価格がそもそも高いんです。ヒーターで溶ける樹脂と比べて、金属3Dプリンターの装置の値段が下がらない要因の一つでもあります。



金沢大学が取り組んでいる金属AM(金属3Dプリンター)の課題と高精度化へのアプローチ

────古本先生の研究室はどのようなテーマで研究を行っているのでしょうか。

古本:
我々、金属AM研究班は、金属AMの強みを生かした製造技術の確立と実用化を目指し、民間企業と共同で課題解決に向けた研究開発を進めています。例えば、金属AMで造形した金型内部の冷却用水管内面に発現する凹凸を除去する装置の開発により水管の詰まりや冷却効率を改善する技術、硬度が要求される成型品に適用可能な新たな金属材料の研究開発などを行っています。


────金沢大学の設計製造技術研究所の中でも位置付けはどのようなものですか。

古本:
当研究所は、一種のオープン・イノベーションを行っているわけですが、研究所の名前の通り設計と製造の研究を行っています。設計は最適設計になるのだと思いますが、製造の分野は工学では生産加工学という学問分野になります。まず設計があって、それをどうやって作るのかという研究テーマとして、我々のようなAMを用いた造形方法があり、またあるいは炭素繊維のCFRPを用いた塑性加工や組紐造形といった研究グループがあるというわけです。

生産加工学の分野は幅が広く、我々のような光を使った研究もありますが、金沢大学は北陸という土地のものづくりとして繊維技術を背景にした研究に強みがある生産加工学ということで組紐の研究を加えた研究所になりました。


────金属3Dプリンターは最近になってかなり広く使われるようになっていますが、技術的な伸びしろはまだありますか。

古本:
金属3Dプリンターは、まだまだ技術的に進化発展の途上だと思っています。我々の研究テーマもこうした課題解決にしていますが、その最も大きな理由は、まだしっかりした部品を高精度に作ることができないからです。なぜしっかりした部品を高精度にできないのかといえば、熱源の問題も大きいのですが、造形した後に変形したり条件によっては造形物の中に空隙が残って強度が不足したりするなど、解決すべき課題がまだたくさんあるからです。


────そうした課題に対してどのようにアプローチしているのでしょうか。

古本:
我々は、3Dプリンターに金属粉末を使いレーザーでそれを溶かすパウダーベッドフュージョン(Powder Bed Fusion)という方法で研究を行っていますが、造形精度を上げて鬆(す)を減らし造形速度を上げるなどが研究テーマです。これらの課題を解決するための最小の単位はなにかといえば、溶けて固まる点が連続すると線になり、線が並ぶと面になって面が積層すると立体造形物になるという金属3Dプリンターの技術的原理から、それは金属粉末が溶けて固まるという現象と考えます。


────そうした現象を観察するということでしょうか。

古本:
そうです。我々は、レーザー照射部を高速度カメラで撮影して可視化し、レーザーが当たったときに金属粉末が実際にどう溶けてどう固まっていくか、そこから出るスパッタやヒュームがどういう挙動を示すかを突き止めようとしてきました。金属粉末が溶けて固まり、スパッタやヒュームが出る条件、レーザーの照射角度などをさまざまに変えながら観察してきたのです。この過程で起きる現象の理解は3Dプリンターの高精度化という問題を解決する基礎的な部分になると考え、現在はこの研究をメインにして取り組んでいます。


────観察した結果を応用するということでしょうか。

古本:
具体的には、金属3Dプリンターで金型を製作する際の高精度化を研究しています。金型を高精度に作るためには、やはりパウダーベッドフュージョン法が最適だと考えています。我々は金型材として使うことができる新しい粉末の開発を連携メーカーと共同研究するなどしていますし、航空宇宙産業用としてニッケル系の材料開発にも取り組み始めたところです。ですから既存の粉末を使うこともあれば、新材料に向けた粉末の可能性を試すために使ったりもしています。


金属3Dプリンターの材料と金属AM造形における課題

────金属3Dプリンターで使っている材料について教えてください。

古本:
金属3Dプリンターの材料は、航空系や医療系などでチタンが使われることもありますが、我々が使っている粉末は一般的な鉄系のマルエージング鋼で平均粒径は30µm(マイクロメートル)です。パウダーベッドフュージョン法の金属3Dプリンターは30 µm程度が一般的ですし、日本の製造メーカーで使われているパウダーデポジション法では100 µmや150 µmという粒径の大きな材料を使うこともあります。7種類あるAMの方法それぞれに応じた粒径があるということになります。

古本教授の研究室の学生が、金属3Dプリンターを使って練習で作った金属製のマスク。張り出すようなオーバーハング形状で単純な形だが造形的には難しいそうだ。
古本教授の研究室の学生が、金属3Dプリンターを使って練習で作った金属製のマスク。張り出すようなオーバーハング形状で単純な形だが造形的には難しいそうだ。


────使う粉末によって造形や加工が変わってくるということでしょうか。

古本:
金属粉末はその種類によって、造形物の集積や変形など多種多様なポイントがあります。金属3Dプリンターは、熱伝導率の高い銅やアルミは苦手にしています。それは、熱を加えるとほかの場所も溶けてしまい、積層に積むことが難しいからです。こうした材料を積むため、最近ではブルーレーザーやグリーンレーザーなど波長の短いレーザーを使って溶かすという技術ができました。


────金属3Dプリンターでの加工で難しい点はどこでしょうか。

古本:
我々は高精度な金属金型を作ろうとしていますが、金属3Dプリンターを使って、従来の金型に近いあるいはそれを凌駕する精度や機能を持った金型を作らなければなりません。そのためには、機械的な特性や熱的な特性、造形後の組織、レーザー加工、材料など、トータルで考えていかなければならない難しい研究テーマです。

平均粒径30µmのマルエージング鋼を使い1回で積み上げる高さが約50µmです。積み上げられる高さは造形速度になりますが、材料の粒径と投入するエネルギー量によってほぼ規定されます。高エネルギーで大きな粒径の材料を溶かせばより高く積むことができますが、1回で高く積むと精度が悪くなります。高さ、つまり造形速度と必要な精度のトレードオフの関係になっています。


────金属3Dプリンターはまだ技術的に進化する余地があるということでしょうか。

古本:
そうです。このパウダーベッドフュージョン法で使われる熱源のレーザーは、現在はほぼ近赤外光のファイバーレーザーになっています。我々が使用しているのは波長1070nm(ナノメートル)のファイバーレーザーです。これも金属3Dプリンターの特徴であり欠点といえますが、パウダーベッドフュージョン法で粒径30µmのマルエージング鋼を波長1070nmのファイバーレーザーで溶かすという、すでに最適解が得られていると考えられるような組み合わせでも、同じ装置の同条件でもロットの違いによって微妙に造形精度が変わってくることがまだあるそうです。

どうしてこうしたことが起きるのかというと、ビームの品質に微妙な違いがあるからで、例えば同じ出力のレーザーで同じ条件で造形しても造形特性が繊細に変わってきてしまいます。また温度や湿度などの外的な環境、例えば夏と冬とで結果が違ってくるなど、まだまだ改良の余地がある技術といえるでしょう。

 
古本教授の研究グループでは、粉末とレーザーだけでなく線材とアーク放電を組み合わせたワイヤーアークAMの装置を新しく導入し、新たな実験を始めているそうです。この方法は、パウダーベッドフュージョン法より精度は低いものの速度が速く、前述したように材料として航空宇宙産業で使われているニッケルなどを使うこともできるといいます。今後、パウダーベッドフュージョン法とワイヤーアークAMの両者を使い分けていこうと考えているそうです。



文/石田雅彦

▽金沢大学モノづくり研究開発動向

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