バックから取り出せるやわらかい電動バイクが語る未来のモビリティ。ラストワンマイルをより楽しく自由に!

リュックから、折りたたんだビーチボールのようなものを取り出し、空気を入れる。すると、なんと電動バイクに早変わり! SF漫画やアニメのような話ですが、現実の話です。
このバイクは、「poimo(ポイモ)」と言い、portable and inflatable mobility(持ち運びできて、膨らますことのできるモビリティ)の略です。「持ち運びできて、柔らかくて軽く、好きな場所で使える」がコンセプトで、重さは7.8kg、走行速度は時速10km程度、1回の充電で1時間もちます。ボディ部分は、軽くて強度が非常に高く、エアー式のSUP(Stand Up Paddleboard)にも使われている「ドロップステッチ」構造をもつ素材を使用し、人の体重を支えます。機械という感じのしない、しなやかでスタイリッシュなデザインも目をひきます。

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「風船みたいな素材の車椅子」の発想から「持ち運べる電動バイク」の試作品ができるまで

折り畳んだ状態ではカバンに入るpoimo
折り畳んだ状態ではカバンに入るpoimo


poimoの発案者で、開発を主導する佐藤宏樹(さとう・ひろき)氏によると、同氏が所属するERATO川原万有網プロジェクトの2018年の春合宿で、各自の研究テーマをもとに社会にアウトプットできるものを考えるワークショップがあり、そこでの発表がもとになったとのこと。
佐藤氏はインフレータブル(inflatable:ものをふくらませる)技術を研究テーマとしています。たとえば、35℃で沸騰する液体をあたためて気化させ、気体のふくらむ力を使ったモーターを作ったり、同じ原理で、ソフトロボットの腕を曲げるためのやわらかいアクチュエーターを試作したりしてきました。

最初に頭に浮かんだのは車椅子だったといいます。「車椅子を車や電車で持ち運べて好きな場所で使えたら便利で、強度を保てるなら金属である必要はないはずです。乗る人にやさしい風船みたいな素材でできないか」(佐藤氏、以下同)と考えたのです。それから誰でも使える電動バイクに発想が展開されました。

折しも、交通機関をクラウドに接続させてシームレスなサービスとして提供するMaaS(Mobility as a Service)の流れなどもあり、「駅から職場まで」、「駅から観光地まで」といったラストワンマイルを埋める乗り物に注目が集まっていました。
ただしたとえば、ヨーロッパやアメリカで流行しているレンタル方式の電動キックスクーターや電動自転車などは手軽な乗り物ですが、乗り捨てられたものが邪魔になったり、それを回収して充電するコストが莫大だといった課題があります。そこで、そのラストワンマイルの乗り物として、個人で持ち運べるバイクの構想を固めました。

漫画のドラゴンボールに「ホイポイカプセル」というものが出てきます。あらゆるものが小さなカプセルに収納されていて、ぽんと投げるとふくらんでエアカーになったり、飛行機になったり、潜水艇になったりします。そんなふうにモビリティがぽんと飛び出すように出てくるとおもしろいという発想もあったそうです。
  
poimoは、東京大学で「川原万有情報網プロジェクト」に参加する川原圭博(かわはら・よしひろ)教授の研究室と、ソフトロボティクスを研究する新山龍馬(にいやま・りゅうま)講師の研究室、そして、メルカリの研究事業であるmercariR4Dとの三者共同プロジェクトとして開発が進められました。

2018年の夏から秋にかけて、試作品づくりに協力してくれそうな企業に当たり、2019年の1月に試作品が完成。東京都が2019年7月に竹芝で開催した「Tokyo Robot Collection」で、「先端技術を用いたサービス実証ロボット」部門でも採択され、お披露目となりました。

以後さまざまな技術展示会などで展示されています。2020年4月には、オンライン開催された、CHI (Conference on Human Factors in Computing Systems 、人と情報システムの相互作用に関する国際会議)でも採択され、イギリスのBBCをはじめ、多くのメディアから反響がありました。YouTubeにアップされたpoimoのデモ動画は11万2000回も再生されています。


ドロップステッチ構造のボディと無線給電

内壁同士を細かい繊維でつなぎ合わせたドロップステッチ構造は高圧にも耐えられ、高強度を保てる
内壁同士を細かい繊維でつなぎ合わせたドロップステッチ構造は高圧にも耐えられ、高強度を保てる


モビリティとして、超軽量なことも画期的ですが、耐久性の高い繊維で内壁をつなぎ合わせているドロップステッチ構造により「ひとつの空気室でステアリング部分もボディ部分も含んでいるという点」も差別化のポイントだと佐藤氏は明かします。ステアリング部分とボディの部分はハンドル操作のため折れ曲がる構造になっていますが、空気を入れる時は、ボディとステアリングの部分は一体になって膨らみます。
ハンドルに接続されたアクセルと、後輪にあるインホイールモーターはワイヤレスで連動しています。

市販のバッテリーとモーターを組み合わせているので、移動距離、走行時間などはこれからさらに伸びる可能性があります。実は、poimoにはERATO川原万有網プロジェクトが取り組む無線給電の研究成果も盛り込まれています。

同研究室の「無線給電」の研究では、置くだけで充電できるユニットも開発しています。これとpoimoを組み合わせることで気軽に充電ができるようになります。もし社会全体にワイヤレス給電インフラが設置されることになれば、バッテリーなしで走行することが可能になるかもしれません。


やわらかいテクノロジーを集結するプラットフォームとして

プロジェクトでは多様な用途やモデルが検討されている。
プロジェクトでは多様な用途やモデルが検討されている。


ERATO川原万有網プロジェクトとは、東京大学 川原圭博教授の川原研究室が推進する、科学技術振興機構(JST)のERATO(戦略的創造研究推進事業)に選ばれているプロジェクトです。万有情報網とは、川原教授が提唱した造語で、万有引力のように、情報技術があらゆる環境下にくまなく遍在し、人と共生するというコンセプトです。人間と科学技術がもっとやわらかく寄り添って共生できないかという思想のもとに、次世代通信技術やそのアプリケーション、ソフトロボティクス、無線給電、デジタルファブリケーションなど、複数の独創的な研究が行われています。そのどれもがデザイン性の高いものであることも特徴になっています。poimoはこうしたさまざまな技術を採り入れる研究のプラットフォームとしても機能しているといいます。

poimoは現在、道路交通法上、ナンバープレートやバックミラーなしには公道は走れません。プロジェクトでは現在、法律に沿いながらより気軽に利用できる方向性を探っています。空港のなかや、遊園地、ショッピングモール、キャンパス内で使われるイメージでしょう。ナンバープレートやバックミラーをつけて原動機付自転車として公道を走れるようにするという選択肢もありますが、そうするとせっかくの手軽さが損なわれることにもなります。スマートモビリティ社会の実現に向けて規制についてはもう少し緩やかになってほしいという機運もあり、将来どのような形式で公道で使えるようになるのか、模索中だと言います。

「交通ルールとうまく折り合いをつけながら、プロジェクトでのさまざまな知見や技術を採り入れ、乗り物としての可能性をさらにアピールしていきたい」と佐藤氏は意気込みます。かばんから取り出し、空気を入れるだけで使えるモビリティは、京都でのお寺巡りなど、観光地でタクシー代わりに使えるような未来もあるかもしれません。自分に合わせた形にデザインするという「パーソナライズ」も研究のキーワードだといいます。次作では、「自分で好きにデザインした形のものを組み立てて乗れるpoimo」がもうすぐ公開されるということです。

「私たちは、要素技術を開発するだけでなく、その成果で実現できる、おもしろい未来や、新しい社会のありかたを見せたいと考えています。自動車やバイクのように重く『メカメカしい』ものを、空気をどう制御するかという研究での知見を使って、折り畳めて持ち運べる、膨らませて使うpoimoとして見せることで、モビリティの概念を変えられればと考えています」。
poimoだけでなく未来の乗り物はすべてふわふわとやわらかいものになって、人間にやさしくなっているのかもしれません。
    
  
文/奥田由意

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