組紐技術を用いた熱可塑性CFRPのバイオミメティクス応用~金沢大学モノづくり研究開発動向(2)

INTERVIEW

金沢大学
設計製造技術研究所
教授 喜成 年泰

金沢大学の設計製造技術研究所は、製造技術領域、設計技術領域の2つの研究領域を持ち、製造技術領域には金属AM(3D複合造形)技術開発部門、複合整合技術開発部門、材料・構造開発部門があります。全6回のシリーズで、この設計製造技術研究所の研究成果を紹介します。第1回と第2回は、CFRPについて同研究所の喜成年泰(きなり・としやす)教授からCFRPの可能性と組紐を使った技術についてお話をうかがいました。

▽おすすめ関連記事

組紐プレス工法の特徴、高圧プレスで熱可塑性樹脂でも気泡なく成形

────前回は、熱可塑性のCFRPと組紐を合体させるためのテープ状のシートまでについてお話をうかがいましたが、この加工法はどのように行われるのでしょうか。

喜成氏(以下、敬称略) :
前回ご説明したように、熱硬化性の樹脂の粘性は低いため、真空含浸工法が使えますが、熱可塑性の樹脂の特性は、融点を超える200数十℃でも粘性が高くドロドロしていて、真空の負圧を用いた炭素繊維への含浸がうまくいかず、樹脂の中にたくさん気泡が残ってしまい、うまくいきません。

しかし、我々が使っているテープ状のシートは、炭素繊維の割合が53%と半分以上になっていて強度がある上、残りの樹脂が熱可塑性のナイロンであるため、真空に引くことも必要ないのです。組紐で成形した後、高圧でプレスすることで熱可塑性樹脂でも気泡が入らない成形が可能になります。これが組紐プレス工法の最も重要な技術的な部分になっています。


────高圧でプレスするというのはどのようにするのでしょうか。

喜成:
プレスの方法は、シリコンの棒状チューブの上にこの熱可塑性樹脂を含んだ炭素繊維のテープ状のシートを組紐として巻きつけた後、加熱してチューブの内側から別のシリコン棒に内圧をかけることによって外側の金型に押しつけます。

これは1年少し前くらいから考えついて実験を行っている工法で、現在、改良を進めているところです。例えば、棒状のシリコンのチューブを内側から広げて外へ押しつけるプレス工法の実験を進めていくうち、広がる場所が均一にならないことに気付きました。どうしても両端より真ん中がふくれ、樽型になってしまうのです。そのため、シリコンのチューブをいくつかに分けて入れるようにしました。このシリコンチューブが外へ広がる力で金型へ押しつける方法は、国際特許も出している我々独自の技術です。

質量当たりの強度をかせぐ場合、つなぎ目なく外側に構造体があるように成形するべきです。組紐ではまだ中空のパイプ状のものを作っている段階ですが、本年度は射出成形で作るような複雑な形状の部品をプレスで作ることを目的にしています。


────造形できる大きさや形状はどうでしょうか。

喜成:
大きさは、直径でいうと30mm径はすでに技術的に確立し、今後、細い方では14mm径、太い方では100mm径以上の太さのものを作るつもりです。これは供給してもらえるテープ状のシートの幅にもよりますが、組紐機械に入る300mm程度までは可能だと思います。また、パイプ状で分岐・合流の形状の一体CFRPを作ることもできます。
組紐を使ったCFRPでは、使う炭素繊維の本数や組む角度、組み方、巻きつける型(マンドレル)によって多種多様なバリエーションができます。現在、データを蓄積しているところです。組紐の特徴は、すべての糸を連続で巻きつけることができ、組み方の自由度が高く、複雑な形状に対応することができる点にあります。

極端に複雑な形状を作ることは難しいかもしれませんが、最近試作した例では自動車のフロントに使われるツバのついたAピラーは作ったことがあります。また、円柱に巻きつけるだけではなく、角柱に組み紐を巻きつければ四角いパイプを成形することも可能ですし、3Dプリンターで造形したものの上に巻きつければその形状のものを作ることができます。


マンドレルという型に何層にも巻きつける。回転数と引っ張る速度で調整し、組糸の角度を変え、同じ長さの糸を使って角度が鋭角なら長いものが、鈍角にすれば短いものができる。また、一層巻くごとに(径が増加した分だけ引っ張る速度を増加させて)同じ角度になるように調整しているという。
マンドレルという型に何層にも巻きつける。回転数と引っ張る速度で調整し、組糸の角度を変え、同じ長さの糸を使って角度が鋭角なら長いものが、鈍角にすれば短いものができる。また、一層巻くごとに(径が増加した分だけ引っ張る速度を増加させて)同じ角度になるように調整しているという。


組紐技術を用いた熱可塑性樹脂CFRPのバイオミメティクス応用

────耐熱性、強度、重量はどうでしょうか。

喜成:
このテープ状のシートの場合、熱可塑性素材がナイロンのため240℃程度で溶けてしまいますので、形状は200℃程度までしか保持できません。しかし、強度はほぼ鉄と同じで、比重は1.5か1.6前後で鉄よりもかなり軽くできます。


────コストの点ではどうでしょうか。

喜成:
コスト面でいえば、航空機産業で需要が高まったとはいえ、レクサスのような高級車で一部に使われるようになってきていますが、大衆車に多用してもらえるほどにはまだなっていません。これは“ニワトリと卵”ですが、コストを下げなければ自動車には使ってもらえませんし、たくさん使ってもらわなければコストも下がらないでしょう。

残念ながら、コスト的に汎用の自動車に使ってもらえるほどまだ安くないので、現状ではやはり航空機やドローンに使ってもらうことを目標にしています。災害救助などでドローンが広く使われ始めていますから、そうしたところに使ってもらえればいいなと考えています。


────汎用の自動車などに使われるまでには時間がかかりそうですか。

喜成:
自動車部品では、複数の部品をくっつけるよりも圧倒的に強度が高い、連続の炭素繊維で一体成形した部品など、射出成形で大量生産の部品ができれば使ってもらえるかもしれません。社会でよりたくさん使ってもらえるための技術的な研究開発はどんどんやっていきたいと思っています。

例えば、以前から熱硬化のエポキシ樹脂で作ったCFRPに対応する(同一形状試料の)熱可塑性CFRP試料の強度のデータを蓄積していこうと思っていますが、新型コロナでなかなか進まない状況でもどかしいです。

一方で、具体的な試作部品の発注も少しずつ始まっています。今後のCFRPについていえば、炭素繊維メーカーがサイジング剤としてナイロンなどの熱可塑性樹脂を使って作ってもらえれば「もっと使い勝手のいい材料になるのに」と思うことがあります。熱可塑性樹脂を使ったCFRPは、プレスをしなければ最終的に必要な強度を得られませんから、もっと単価の安い材料が出てくれば助かります。


────バイオミメティクス(生物模倣)と関連する研究開発もされているとのことですが。

喜成:
バイオミメティクスというのは、例えば蓮の葉の撥水性をヒントにして作られた防水材料、あるいは昆虫の蛾の目を模した無反射フィルムなどのように、生物が持つ特性を観察したり分析することで実際のモノづくりに反映させる手法のことです。

ただ、これまでは微細なミクロ構造による材料開発が中心で、生物が持つ特性を機械の構造設計や機構設計に応用した事例はありません。なぜ、生物のデザインが機械の構造設計や機構設計に応用されていないのかといえば、スケールや負荷条件の違いから直接的な模倣が難しいからです。


────組紐の技術とCFRPのバイオミメティクスへの応用ではどのようなことをされているのでしょうか。

喜成:
NEDOの戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)に応募するということで、組紐技術をCFRPに応用するという研究企画案を立ち上げたのがきっかけでした。ムササビの骨をヒントにしたバイオミメティクスの杖を組紐とCFRPで実際に作ってみるというようなことを始めたのです。ちょうどその頃、本研究所の前身のセンターが設立され、バイオミメティクスの次の研究テーマとして組紐で炭素繊維を立体成型し、それをプレス加工する工法に取り組んできたということです。


ムササビの骨の模倣から出発して最適設計によってCFRPで作った杖。
ムササビの骨の模倣から出発して最適設計によってCFRPで作った杖。


バイオミメティクス応用を実現した地域産業の要素技術とCFRPの展望

────技術的な最適設計を応用したというわけですね。

喜成:
CFRPのような炭素繊維は軽量で丈夫ですから、従来スケールや負荷条件で直接的な模倣が困難とされてきた機械の構造設計や機構設計に生物のデザインを取り込むことが可能になるのではないかと考えています。

設計思想の上流部には概念設計段階というものがあります。生物形態のデータベースを活用した構造デザイン技術によってこうした設計アイデアを提供することができますが、生物形態に学ぶことで既成概念にとらわれない設計アイデアが得られるでしょう。

もちろん、単に生物形態を参照するのではなく、いくつかの評価指標を設定し、生物形態のデータベースを数値化・モデル化し、最適化によって形状決定を行い、機械学習を用いた最適設計技術の開発によって最適設計を行っています。


────当研究所の目的の一つが地域の産業の要素技術を活かすこととのことですが、組紐の技術もそうでしょうか。

喜成:
組紐の技術自体は世界でも珍しいものではありませんが、北陸はもともと絹織物の産地でしたし、地元に繊維業界が多く、組紐を地場産業としている企業も石川県の特に北部には多いです。技術的には、能登半島の和倉温泉の近くにある組紐の企業と連携して情報交換しながら研究開発を続けてきました。私自身、もともとは織機の研究から入った人間なんですが、炭素繊維は繊維というくらいで、特に組紐をやっている研究開発者は、繊維業界の出身者が多いと思います。

現在はもう津田駒工業という1社しか残っていませんが、金沢には愛知県と並んで昔から織機メーカーが多く、60年前には石川県内に織機メーカーが約30社あったんです。織機だけでなく、糸を巻いたり糸をよじる撚糸のメーカーも多かったんです。こうした繊維メーカーのために工作機械を作っていたメーカーが、今はがんばって地場産業の中核になってきています。


鉄道のレールポイントのように自由に切り替えできるポイントを使って、設計した自由な経路を動く組紐機械。ロボットで糸を引いて複雑な動きが可能。
鉄道のレールポイントのように自由に切り替えできるポイントを使って、設計した自由な経路を動く組紐機械。ロボットで糸を引いて複雑な動きが可能。


────先生方のテープ状のシートを利用したもののほかにCFRPではどんな技術がありますか。

喜成:
我々の技術は細長いシートを組紐で三次元的な形状にすることで、手作業で貼り合わせるよりも機械的に簡単に成形品ができます。これは我々独自の技術ですが、岐阜大学はまた別に炭素繊維と熱可塑性のナイロンを1本の糸(ヤーン)に含ませるコミングルヤーンという技術を開発しているようです。繊維を混ぜることを混繊(こんせん)と言いますが、コミングルという言葉が混ぜたり混在させたりするという意味です。




金沢大学の設計製造技術研究所が取り組む革新的機械材料を用いた最適設計。
金沢大学の設計製造技術研究所が取り組む革新的機械材料を用いた最適設計。


────最後にCFRPの可能性と未来についてお願いします。

喜成:
新型コロナウイルス感染症が広がって航空機産業も大変な状況です。しかし、地球温暖化や環境負荷を考えれば、省エネは依然として人類が乗り越えなければならない大きな課題だと思います。材料としてのCFRPを強度と自重でみると、同じ強度のCFRPはジュラルミンの半分の重さに等しいのです。つまりCFRPを多用することによって、例えば旅客機やヘリコプターを含む航空機の質量が半分になるということです。質量が半分になると、設計自体が根本から変わってきます。

従来、強度を保つためにデザイン的、機能的に制限があり、結果的に重くなっていたこの重量に制限がなくなるわけです。自動車はこんな形、航空機はこんな形というこれまでの常識的な設計思想が変わり、見たこともないような形の自動車や航空機が出現するかもしれません。CFRPを使うことで、これまでの重量という足枷がなくなって得られる利点に気付いてもらえれば、CFRPの市場や用途は格段に広がるでしょう。


文/石田雅彦

▽金沢大学モノづくり研究開発動向

▽おすすめ関連記事

こちらの記事もおすすめ(PR)