用途が広がるCFRP、組紐技術を応用した熱可塑性素材の開発~金沢大学モノづくり研究開発動向(1)

INTERVIEW

金沢大学
設計製造技術研究所
教授 喜成 年泰

北陸地方のアカデミアでモノづくり系の研究拠点といえば、金沢大学、富山大学、福井大学、北陸先端科学技術大学院大学、金沢工業大学などがあります。その中でも、地域のモノづくり技術を活かし、新たなオープン・イノベーションを模索しているのが、金沢大学の設計製造技術研究所です。同研究所は、2019年、それまでの先端製造技術開発推進センターが改組されたもので、製造技術領域、設計技術領域の2つの研究領域をもち、製造技術領域には金属AM(3D複合造形)技術開発部門、複合整合技術開発部門、材料・構造開発部門があります。全6回のシリーズで、金沢大学の設計製造技術研究所の研究成果を紹介します。第1回と第2回は、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics、炭素繊維強化プラスチック)について同研究所の喜成年泰(きなり・としやす)教授からCFRPの可能性と組紐を使った技術についてお話をうかがいました。

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CFRPの用途と成形工法

────まず最初に金沢大学の設計製造技術研究所についてご説明ください。

喜成氏(以下、敬称略) :
本研究所ができたきっかけは、最適設計を専門に研究してきた本学学長のリーダーシップです。北陸地域にはかつて繊維関係の企業が多く、石川県ではそれら繊維関係の企業に織機や撚糸機といった、繊維機械を製造する機械工業が発展していました。また、その繊維機械メーカーへ部品や工具などを納める工作機械メーカーやその要素技術も発達してきたという背景もありました。

自動車産業や家電産業ほど『裾野』は広くはありませんが、ニッチな技術分野としては『世界のトップを競う』企業が少なからずありました。金沢大学の出身者もそうした繊維や繊維機械や工作機械関連の企業へ入っていましたし、機械系の教員が多くいたことがありました。

CFRPなど、材料が変わったり、3Dプリンターなどの技術が進化することで設計思想も大きく変化しましたが、ニッチトップ企業群による、分野を超えた連携をめざして、オープン・イノベーションを目的に立ち上げられた研究所です。


────では、CFRPという素材についてご説明ください。

喜成:
炭素繊維(Carbon Fiber)自体の歴史は半世紀以上あります。CFRPは、炭素繊維の種類、向き、混ぜ合わせる樹脂の種類で異なる性質をもつため、基本的に素材を作るための材料設計が必要になります。

炭素繊維にプラスチックを混ぜたものがCFRPですが、炭素繊維は非常に長いものができます。連続繊維は短い繊維よりも強度がありますが、もちろん最初から長さを調整し、プラスチックの射出成形などのためにわざわざ短く切った炭素繊維を使うこともあり、用途に合わせて多種多様なCFRPが開発されてきました。


金沢大学 喜成年泰設計製造技術研究所教授
金沢大学 喜成年泰設計製造技術研究所教授


────CFRPの用途はどう変わってきたのでしょうか。

喜成:
半世紀以上の歴史の中、炭素繊維自体、少しずつ使われる量が増えてきましたが、象徴的なのはCFRPが最近、航空機に使われるようになってきたことです。モータースポーツのF1のモノコックに使われているCFRPも最近になってエアバスやボーイングなどの航空機に使われているCFRPも基本的には同じものです。大勢の乗客乗員を乗せて長距離長時間使用される航空機に使うためには、安全性を担保するために耐疲労データなどの統計的な数字を山ほど積み重ねなければなりません。


────F1ではそうした必要がなかったため、ずいぶん前から使われてきたものが、最近になって安全基準を満たすデータがようやくそろってきたので航空機でも使われ始めるようになったということでしょうか。

喜成:
そのとおりです。航空機では最初の間、その部分が破断してもなんとか飛び続けられるような箇所にCFRPが使われ始め、耐疲労データ等を蓄積しつつ、少しずつその割合を増やしていった結果、現在のボーイング787では機体のかなりの割合がCFRPになっていて航空機ではスタンダードな部材になっています。


────CFRPを使った工法にはどのようなものがありますか。

喜成:
今はCFRPが多く使われるようになっていますが、少し前まではガラスを使ったGFRP(Glass Fiber Reinforced Plastics、ガラス繊維強化プラスチック)がありました。GFRPでは圧倒的に欧米の技術が先行していました。

CFRPは、炭素繊維を一方向へ並べたシート状のものを手で貼り付けて成型するハンドレイアップ(Hand Ray-up)という工法、それを高温高圧の釜へ入れて焼くオートクレーブ(Auto Crave)工法がずっと行われてきました。その後、手で貼り付けることから組紐を使った技術などによってCFRPを成型するようにもなりました。


────ニーズに合わせて工法も進化してきたのですね。

喜成:
そうですね。GFRPやCFRPでは、先ほど述べたような手作業で成型した後に高温高圧の釜で焼く工法が主で、これではとても量産できるようなものではありませんでした。しかし、航空機産業で使われるようになってから、何十個の単位での量産化が求められるようになります。同時に、技術的に進歩するようになり、炭素繊維と樹脂を組み合わせる接着性を高める技術が発達しました。

手作業の頃からFRPを三次元的に成型する工法が進化してきましたが、最近になって繊維を固めている樹脂に空気の泡が入らないようにし、繊維に樹脂を均一に含浸させ、繊維と樹脂をしっかりくっつかせるため、真空引きにする真空含浸工法(Vacuum Assisted Resin Transfer Molding、VaRTM)が特に自動車部品の分野などで少しずつ発達してきました。

これは曲線が多用される複雑な三次元形状のFRPを成型するための技術で、私もずっと炭素繊維を紐状に成形した後、真空含浸工法で樹脂を含浸させてCFRPを作ってきました。熱硬化性の樹脂は、硬化するまでは粘性が低いので真空に引くことで炭素繊維同士の隙間に入り込んでいきます。この真空含浸工法では、樹脂との馴染みをよくするための炭素繊維の表面加工も進化し、関連技術が総合的に発展してきたというわけです。


────ボーイング787に多用されているように、日本は炭素繊維の技術で世界に先がけているのでしょうか。

喜成:
ボーイング787の機体に使われるCFRPがすべて日本製であるように現在、PAN(ポリアクリロニトリル)系の炭素繊維では世界で約7割が日本系の企業によって作られています。大手では、東レ、三菱ケミカル、東邦テナックスです。こうしたコストのかかる素材をある程度の量、使ってもらえるのはやはり航空産業ですが、日本には航空産業はほぼありませんでした。炭素繊維を使っていろいろな部材や部品を作るのは、どうしても欧米の技術が進んでしまっていたのです。


欧州の組紐技術と日本の炭素繊維研究

────先生のご専門は組紐を使った炭素繊維の技術ですが、組紐でも欧米のほうが進んでいるのでしょうか。

喜成:
組紐技術は、日本だけでなくヨーロッパにもあります。もちろん、日本の手で組むような組紐は、和装の帯び締めなどで評価されている技術ですが、一般的な靴紐も組紐で作られているように、靴紐程度の組紐は世界中にある技術です。ヨーロッパは航空産業が盛んですし、CFRPが多用されるような高価な欧州車もたくさん生産されているので、CFRPのような炭素繊維に組紐を応用した技術も日本だけでなくヨーロッパでも進化発展しています。


研究室の組紐機械。単調な仕事を間違いなくこなしてくれるのが繊維機械の特徴。中立糸(真っ直ぐ入る糸)は強度を担当し、組紐機械では糸ホビンが動かずに繰り出されていく。組糸のほうは中立糸の周囲を固定し、柔軟性を担当。1つのボビンには100メートルくらいの炭素繊維を巻いている。
研究室の組紐機械。単調な仕事を間違いなくこなしてくれるのが繊維機械の特徴。中立糸(真っ直ぐ入る糸)は強度を担当し、組紐機械では糸ホビンが動かずに繰り出されていく。組糸のほうは中立糸の周囲を固定し、柔軟性を担当。1つのボビンには100メートルくらいの炭素繊維を巻いている。


────日本での炭素繊維の研究はどちらが強いのでしょうか。

喜成:
以前は西陣織などの流れをくむ京都工芸繊維大学での研究開発が盛んでしたが、やがて岐阜大学へ研究拠点が移っていきました。GFRPでもCFRPでも現在では岐阜大学の研究が先行しています。岐阜県や愛知県には自動車産業はもちろん、小さいながらも航空機産業も集積し、またFRPを使ったゴルフシャフトの工場も岐阜県にあるように炭素繊維を使った産業が多いことが大きいと思います。

岐阜大学でも研究が行われるようになったのですが、例えばゴルフシャフトも最初の頃は組紐を応用した技術で作っていました。最近ではフィラメント・ワインディングという繊維を組まないで単に巻きつけるだけという技術も出てきています。炭素繊維の強さを期待したい場合、強さが欲しい方向に繊維を並べる必要がありますが、フィラメント・ワインディングでは強さを期待したい方向へ並べた繊維の上から炭素繊維をぐるぐる巻きつけ、接着剤で固めています。


────金沢大学の設計製造技術研究所ではどのような研究を行っているのでしょうか。

喜成:
我々は、炭素繊維を複雑な形状に組み上げることを5〜6年やってきました。2019年に設計製造技術研究所ができたことをきっかけにして、熱可塑性の樹脂と組紐の技術を合体する手段を探るようになりました。研究所の同僚の先生方となにか一緒にやれないかということでいろいろ探していたところ、少し前に2つの技術を合体できるような材料が見つかりました。その素材とは、炭素繊維を1本ずつ並べ、熱可塑性のナイロンのシートに均一に押しつけたフィルムを固め、数センチ幅のテープ状のシートにしたものです。



熱可塑性のナイロンを炭素繊維に混ぜたテープ状のシート
熱可塑性のナイロンを炭素繊維に混ぜたテープ状のシート


組紐技術が使える材料、「テープ状のシート」の熱可塑性CFRP

────炭素繊維のテープ状のシートというのはそれまでにはなかったのでしょうか。

喜成:
これまでこのような組紐に使える材料はありませんでした。従来の炭素繊維は数千本の単位で束にして使っていましたから、1本7ミクロン程度の炭素繊維を1本ずつ平らに並べること自体が技術的に難しかったのです。

このシートは、開繊(かいせん)といって炭素繊維が1本ずつ横に並んでいるため、ほかの熱可塑性素材より炭素繊維が含まれる割合が高く、幅の細い材料で提供してもらえる製品です。同じ北陸地方、福井県の株式会社SHINDOという企業が作っています。

それこそ特許が何百も出ているような炭素繊維を1本ずつ平面に並べたフィルム状の製品が出現したこと、そしてこれは我々独自の技術ですが、それを組紐で立体成形し、プレスをする方法を独自に考えついたことが重要です。これを組紐で組んでから高圧プレスすることによって、立体的な形状のものを作ることができたのです。


────組紐の工法について説明していただけませんか。

喜成:
従来の組紐は、ブレード装置という円形の機械に円周状に並んでいる糸ボビンから回転しながら糸を繰り出し、マンドレルという型に糸を巻きつけて糸を組んでいきますが、炭素繊維でも基本的には同じです。このマンドレルという型の形状に合わせ、組紐で立体的に成形された炭素繊維を高圧プレスすることで固い造形物ができます。


組糸のホビンは32本あり、組糸が時計回りと反時計回りで16本ずつ、中立糸用のホビンは16本になっている。32の約数で組む機械もあれば、48の約数で組む機械もある。
組糸のホビンは32本あり、組糸が時計回りと反時計回りで16本ずつ、中立糸用のホビンは16本になっている。32の約数で組む機械もあれば、48の約数で組む機械もある。


────炭素繊維は値段が高い印象がありますが、このシートはどうでしょうか。

喜成:
従来の炭素繊維の場合、束が太ければ太いほどコストを下げることができます。PAN(ポリアクリロニトリル)のアクリル系樹脂で固めた炭素繊維の束を真空中で高温高圧で蒸し焼きにするため、1束に炭素繊維が3,000本程度の素材は高価ですが、7,000本、1万数千本と炭素繊維が増えていけば当然コストが下がります。

このテープ状シートは市販品ですが、100円/mとかなり高価です。通常の炭素繊維は4,000円/㎏です。もちろん、たくさん使われるようになれば、量産効果でこの値段も下がってくるかもしれません。従来のCFRPは、設計通りに作るテーラーメードなので、必要なものを必要なだけ必要なときに作ることには特化していますが、とにかくコストがかかります。炭素繊維は、その素材自体も値段が高いのですが、手作業の人件費や高温高圧のオーブンで焼くために時間やエネルギー費がかかることでもコストを押し上げます。


────平らなテープ状のシートが開発されるなど、CFRPの分野はイノベーションが加速しているということでしょうか。

喜成:
航空機材を作る上で必要なCFRPに関する要素技術は、ここ10数年で山ほど出ています。この炭素繊維を1本ずつ並べるような技術は、航空機産業にCFRPが多用されるようになって、世界中の企業や研究機関がいっせいに研究開発を始めた結果です。

従来のCFRPは、熱可塑性樹脂よりも熱硬化性のエポキシ樹脂で固めています。焼いて炭素繊維にした後、サイジング剤という溶剤を塗布します。サイジング剤は、炭素繊維と樹脂の結合を調整したり、成形加工をしやすくしたり、炭素繊維への損傷を抑えるためのものです。

ここ10数年で材料の技術も進化し、熱可塑性や熱硬化性などの樹脂に合わせて使われる中間の資材もたくさん出てきました。炭素繊維という画期的な素材はあったのですが、社会で使われるようになるためには他種多様な周辺技術がたくさん必要だったというわけです。

炭素繊維から炭素繊維強化プラスチック、そして組紐の技術を応用した熱可塑性に優れた素材へと研究開発が進められている同研究所ですが、第2回はCFRPと組紐を使ったバイオミメティクス(生物模倣)などの具体的な研究成果を紹介します。


文/石田雅彦

▽金沢大学モノづくり研究開発動向

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