飛行時間を向上、産業分野での普及をめざすドローン向けガソリンエンジン開発ストーリー〜都産技研の支援事例から学ぶ(後編)

INTERVIEW

株式会社コバヤシ精密工業
代表取締役
小林 昌純

前編では都産技研(東京都立産業技術研究センター)の航空機産業への中小企業取り組み支援をご紹介しました。後編ではそのなかでドローン エンジンの開発に取り組んだ事例をご紹介しましょう。

ドローンは機体にカメラや無線機、レーザーなどを搭載して使用されます。ドローンを用いれば、高所や事故現場など人が立ち寄れない場所からの撮影が可能です。また、同様に人が近寄りづらい場所への物資などの運搬にも活用されています。犯罪や事故防止などの観点から、国内でも法規制が進められていますが、今後もますます、その活用が広がっていくと見られています。
 
その中で、よりドローンを普及させるための技術や性能の課題も存在します。その代表的なものは「飛行時間」です。
 
現在、一般に使用されているドローンの動力は、電力です。リチウムイオンバッテリーを積んで飛行しています。ドローンは電力の消費が激しく、バッテリー式では数分から数十分程度しか飛行できません。ある程度の重量のあるモノを積んだり、風が強かったりした場合には、飛行時間はさらに短くなってしまいます。そのため、例えば測定や撮影などで長時間ドローンを使いたい場合は、いくつか機体や充電パックを備えておき、途中で交換する必要があります。
 
このような飛行時間の課題は、過去からなかなか解消されてきませんでした。短時間でバッテリー交換をすることが難しい測量や救難現場、危険な場所等での活用といった産業分野での普及を妨げてきた事実もありました。
 
その課題を解消するために、ドローン用のガソリンエンジン作りにチャレンジをしている1社が、コバヤシ精密工業です。

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ドローン向けガソリンエンジンの開発、飛行時間の向上へ

コバヤシ精密工業代表取締役の小林昌純氏
コバヤシ精密工業代表取締役の小林昌純氏


コバヤシ精密工業は、神奈川県相模原市にある精密加工に携わる企業です。さまざまな産業の精密部品を製作していますが、その中でも強みとしているのが、航空宇宙産業関連。品質マネジメント「JIS Q 9100」も取得し、過去にはJAXAの「はやぶさプロジェクト」にも参画しています。
 
かつてコバヤシ精密工業は半導体や自動車業界などから依頼される試作がメインの企業でした。しかし、2008年のリーマンショックで受注が減少。「当時、試作案件は中国などアジア各国にどんどん流れ、受注単価も大幅に落ちてしまいました」と、代表取締役の小林昌純(こばやし・まさずみ)氏は言います。
 
「試作をこのまま続けるのは相当厳しいと考え、2012年頃から大きく事業転換をはかりました。当時の安倍内閣による成長戦略の中にもあった、航空やロボットといった産業に新たに参入して量産への取り組みを開始。今は順調に成長しています」(小林氏)。さらに事業の幅を広げるため、顧客から受注する案件だけではなく、自社開発案件にも取り組んでいます。
 
そんな同社が開発しているものの一つがドローンに使える汎用エンジン。燃料はガソリンです。以前から同社が開発していた無人飛行機(Unmanned Aerial Vehicle:UAV)の技術も生かしています。このプロジェクトは、2014年から東京都立産業技術研究センター(都産技研)と共に取り組む、東京都における航空機産業参入支援事業の共同研究です。
 
都産技研に開発協力を仰ぐことになったきっかけは、コバヤシ精密工業が参加していた、都産技研が幹事役になっていた航空機産業クラスター「TMAN」でした。
「当社の所在地は神奈川県ですが、東京都に隣接した県ということで入れていただいていました。そもそも都内に、航空機に取り組む企業の数自体が少なかったことも関係していたようです」(小林氏)。その活動の中で、コバヤシ精密工業が既に開発し始めていたドローン向けエンジンを披露する機会があり、都産技研と開発を進めることになったということです。
 
動力にエンジンを利用するメリットとして、最も大きいところが飛行時間です。電池式では数分から数十分程度しか持たないところ、エンジン式にすれば1リットルのガソリンで、1時間程度飛行可能にできるのです。それくらいの飛行時間があれば、産業利用での幅が広がります。
 
ただし、ドローンにエンジンを搭載するには、大きさや重量がかさばる、オーバーヒートする危険があるといった課題があります。これらの課題の解消に向け、同社では都産技研と共に実験や試作を繰り返してきたのです。


ドローン向けエンジン開発における技術的課題

コバヤシ精密工業が開発したドローンエンジン
コバヤシ精密工業が開発したドローンエンジン


まずエンジンは電池と比較すれば大きくてかさばります。そのため、よりシンプルな機構にし、部品点数を減らして軽量化していくことが大事です。重量が重ければ、燃費にも影響します。同社が設計したエンジンは、86ccの2ストロークエンジンです。
 
現在、車両や航空機で採用されているエンジンは4ストロークエンジンが主流になっています。自動車も航空機も排出ガス関連のレギュレーションが厳しくなり、排気面で不利な2ストロークエンジンが採用できなくなったためです。
 
今回、あえて同社が2ストロークエンジンを選定した理由は、パワーが大きく、かつ部品点数が少なくて済むためです。また、水平対向になっている構造により振動を制御でき、安定した飛行が実現できるとのことです。環境配慮面については、環境負荷が大きくなる要因の1つである混合ガソリンに着目。エンジン内部に皮膜処理を施すことで、オイルの混合比を抑制し、環境性能を高めているとのことです。
 
さらに、オーバーヒートの問題の解消は大変重要になります。ドローンは飛行機と違い、低空飛行が多く、かつその場にとどまる時間が長いため、オーバーヒートが発生しやすくなるとのことです。今回のプロジェクトでは、エンジンを空冷する仕組みの検証に多くの時間を割いたといいます。
 
エンジン内部の空気の流れや、ファンによる強制空冷時の冷却効果など、試作を繰り返しながら最適な構造や部品形状を検証し、クーリングユニットを開発しました。小型飛行機の場合は、飛行時にフロントで回転するプロペラから流入する空気を利用して空冷しますが、この製品ではエンジンが回転した際にファンが回るようにしているとのことです。


都産技研の実験設備やソフトウェア解析環境の支援を受けて課題解決へ

コバヤシ精密のドローンエンジンを搭載したプロトタイプのドローン
コバヤシ精密のドローンエンジンを搭載したプロトタイプのドローン


コバヤシ精密工業が都産技研と共同開発を行ったメリットはどういう点にあったのでしょうか。企業の開発プロジェクトには、もちろん予算があります。また企業に備える設備も、日ごろの顧客の案件に対応するために最適化されたものです。社内に備えられる機械やソフトウェアの種類には限界があります。
 
製品開発で、解析ソフトウェア(Computer Aided Engineering:CAE)の活用は広まってきていますが、高額になりがちなライセンスのコストや、使いこなすための専門性が極めて高い知識といった面が導入のハードルになります。
 
今回のドローンエンジンの、空冷の検証面で重要だったのが、流体解析でした。コバヤシ精密工業の社内には、解析の専任技術者が在籍しておらず、かつ解析ソフトウェアも備えていませんでした。そこで、流体解析について都産技研に協力を仰いだのです。
 
「都産技研の流体解析の結果は非常に精度が良く、実際の実験データとあまり差がなく、信頼性が高いと思いました」(小林氏)。
 
流体解析をすれば、未知のことが何でも分かるわけではありませんが、解析をうまく活用することで、デジタルな設計データの段階から、複数ある設計案から有効なものを絞り込んでいき、実物を試作する回数を減らせたということです。
 
また都産技研は、解析の環境だけではなく、エンジンの実験設備も提供しています。さらに都産技研所有の金属3Dプリンタも使用しました。金属3Dプリンタによる部品を採用することで部品点数の削減や軽量化を狙ったということです。


ドローン向けガソリンエンジン、新しい協業先や幅広い分野への活用を期待

国内外での市場開拓を考えているという小林社長
国内外での市場開拓を考えているという小林社長


同社のガソリンエンジンは製品として完成し、2019年4月から販売しています。現在もなおプロジェクトを継続して、エンジンにさらなる改良を加えています。「2ストロークエンジンに最適化したチューンドパイプを備え、さらにEFI(Electrical Fuel Injection:電子制御燃料噴射)による電子制御も搭載する新しいタイプを開発し、製品化に向けてさらなる軽量化を図っています」(小林氏)。
 
またコバヤシ精密工業で開発するのは、あくまでエンジン部のみ。このエンジンを使用した機体を開発したいメーカーなど、協業先を現在、探しているということです。
 
エンジンドローンは、現状、国内よりは海外での引き合いが多いといいます。特に国土が広い米国では、「農業での用途が7~8割」と小林氏は言います。「米国では、広大な農地のデータをドローンで収集し、そのデータで農作物の管理をしたり、品種改良で利用したりといった取り組みが盛んです」
 
一方、日本国内は国土が狭いため、米国とは違う用途で訴求した方がよいと考えているといのことです。「国内では、災害時の対応や防衛関連、測量などの方面で普及が進むのではないかと見ています」(小林氏)。実際、国内の引き合いとしても、そういった分野が目立つということです。
 


文/小林由美


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