航空機産業に携わる中小企業を支援、コロナ禍のなか生き残るヒントとは〜都産技研の支援事例から学ぶ(前編)

INTERVIEW

東京都立産業技術研究センター
機械技術グループ 主任研究員
奥出 裕亮

東京都立産業技術研究センター(以下、都産技研)は、主に東京都内の中小企業における先端の技術開発や製品開発を支援する公設試験研究機関です。中小製造業の市場での競争力を高め、産業振興へつなげようと、企業との共同研究や開発プロジェクトに取り組んでいます。都産技研は、東京都、大学や研究機関、中小企業の間に入り、技術支援、製品開発支援、研究開発、産業人材育成、産業交流、技術経営支援、情報発信といった7つの取り組みを行うことで、東京都の産業発展を促しています。
 
研究開発の分野としては、ロボット産業活性化や、中小企業におけるIoT(モノのインターネット)化の支援事業など、製品開発支援としては、各種試験用設備・機器の有料開放、試験の受託、3D CADを核とした3Dモノづくり支援、先端材料開発などを実施しています。
 
その中でも、都産技研の航空機産業支援において、航空宇宙部品製造企業連合(Advanced Manufacturing Association of Tokyo Enterprises for Resolution of Aviation System :AMATERAS)、東京エリアのものづくり企業コミュニティTMANと連携した取り組みを行い、航空機産業への参入希望企業への技術支援を実施してきました。

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航空機産業に携わる中小企業を支援

都産技研機械技術グループの奥出裕亮主任研究員
都産技研機械技術グループの奥出裕亮主任研究員


AMATERASは東京都が2007年に発足させた「航空機産業参入支援事業」の「課題検討会」から2009年に生まれた、都内の航空機産業に携わる中小企業技術を米国へ売り込むための一貫生産コンソーシアムです。現在もその活動は続いています。2015年からは一貫生産を目指したビジネス・ネットワークとして新たにTMANの活動を開始し、技術開発支援にも重きを置く方向性に変化しています。その規模は70社にまで拡大したということです。

「従来のように、国内の重工業系の企業に部品を卸すだけではなく、直接米国の航空機部品メーカーに部品を卸すことを目指してきました」と都産技研 機械技術グループの奥出裕亮(おくで・ゆうすけ)主任研究員は述べています。
 
都産技研は、TMAN事務局と連携し、技術・品質向上、資質の向上、販路開拓を目的に、中小企業の航空機産業への参入を支援しています。具体的には、航空機産業支援室を2017年12月に開設し、航空機部品の試作や検証について技術支援を開始。試作部品の技術検証の他、米国FAA(Federal Aviation Administration:連邦航空局)による PMA(Parts Manufacturer Approval:FAAが承認する制度の1つ)の試作支援なども実施しています。
 
国際規格試験(航空機対応試験)では、ASTM(American Standard Test Method)やFAR(Federal Aviation Regulations)規格に対応した試験を行っており、2018年度からASTM規格に基づいた2種類の硬さ試験について、「JIS Q 9100:2016」に基づく QMS(Quality Management System:品質管理システム)の運用を行い、2019年8月2日付で認証を取得し、登録証の発行を受けました。
 
TMAN参加企業との共同研究では、加工工程の効率化や、より良い製品の開発を目的としたシミュレーションや試作、製品製造の安定化など、多種多様なテーマに取り組んでいます。研究成果は共同研究成果報告会を開催し、TMAN参加企業に情報共有しています。
 
その研究内容としては、コストダウンや工程安定化など喫緊の課題解決といった短期的に取り組むもの、新規受注や先を見据えた技術開発といった長期的に取り組むものがあります。これまでの実績として、平成29年度(12月募集開始)が5件、平成30年度(4月募集開始)が12件、2019年度(4月募集開始)が13件あります。


支援事例と成果~ドローン用エンジン開発と、航空機関連部品の加工技術

TMAN参画企業のコバヤシ精密工業とは、「2017年12月に航空機産業支援室を開設する少し前から、ドローン用エンジンの開発について相談を受けていました」と奥出氏は述べています。航空機産業支援で、TMAN参加企業限定の事業としての共同研究をちょうど開始しようとしていたところであったといい、2017年12月の事業開始と共にコバヤシ精密工業との取り組みを開始しています。


資料提供:東京都立産業技術研究センター
資料提供:東京都立産業技術研究センター


2017年度、2018年度と2か年の共同研究として、ドローン用エンジン開発のプロジェクトを進め、エンジンを強制冷却するためのクーリングユニットを開発します。その結果、地上付近でリチウムイオンバッテリー式のドローンを飛ばした場合と同程度の負荷をかけた状態でもオーバーヒートしないエンジンが完成し、2019年3月からの販売開始に至りました。
 
さらにドローン用エンジンの米国での販売を目指して、さらなるエンジンの改良を目的として2019年度から研究を継続。2019年度、2020年度の2か年をかけた共同研究で改良版のエンジンの開発、販売開始まで考慮した研究を進めています。
 
「以前、シンガポールの航空関連の展示会で今回の製品を披露した際、ドローン向けの『ガソリンエンジン』ということで、電池とモーターでの駆動と一味違い、パワーもあり飛行時間も長くなるということで、来場者の興味をひいていました。実際に売れていくかどうかは、まさにこれからが勝負ですね」(奥出氏)
 
またTMAN参画企業で、プレス加工を行う名取製作所とは、航空機産業向けの部品加工技術として、通常700~900℃まで加熱しないとプレス成形できないといわれているチタン「Ti-6Al-4V」合金板を使用して、300℃程度の温度条件でU曲げ成形を行う手法の開発に取り組んでいます。航空機関連の部品において、軽量化と剛性というトレードオフとなる要件の両立が不可欠です。軽くて強く、耐熱性や環境性能などにも優れたチタンの活用を広げることが有効です。
 
今回、開発した成形法の評価のために有限要素解析と実験を実施。有限要素解析では、破断が生じる箇所のひずみが低減可能であることを解明し、実験において破断を抑制したことを実証しました。


資料提供:東京都立産業技術研究センター
資料提供:東京都立産業技術研究センター


試作支援事業としては、航空機部品の一貫生産への取り組みがあり、航空機産業支援室として最も注力しているテーマの1つであるといいます。航空機部品は同じ部品番号でも製造時期のずれから大きく新造機用と保守用に分かれており、そのどちらであっても製造企業の生産能力や品質管理が十分であることを示す必要があります。
 
「部品製造には熱処理や表面処理など多くの工程があり、それぞれを得意とする企業が存在します。単工程ごとの受注では輸送コストなどがかかるため、欧米の航空機産業ではクラスターによる部品一貫生産がめずらしくありません」(奥出氏)
 
都産技研では、TMANでの一貫生産を実現するために、PMA承認ホルダーから実際の航空機部品の図面を入手。クラスターの一貫生産能力向上のため、航空機部品の試作に取り組み、その成果を海外展示会でPRしています。
 
PMAとは、米国の型式証明を有する航空機、発動機またはプロペラに装備する改修部品や交換部品の設計・製造をFAAが承認する制度の1つ。米国のPMA承認ホルダーへ部品を納めるためには、航空機産業特有の技術的・商業的なハードルを越えないといけないため、技術支援を行うことで日本のクラスターから直接部品を納めるというアプローチを可能にするとのことです。


航空機産業が停滞するコロナ禍のなか中小企業が生き残るヒントとは

今後の日本の中小企業の航空機産業について、「どこから仕事をとるのかという明確なビジョンを持つことが必要かと思います」と奥出氏は述べています。
 
「国内企業から仕事を受注する場合、『JIS Q 9100とNadcap(National Aerospace and Defense Contractors Accreditation Program:航空宇宙産業における特殊工程作業に対する国際的な認証制度)認証の2認定が必要』とは言われています。しかしながら、『これらの認定があるからと言って、必ずしも仕事の引き合いがあるわけではない』ということが注意点として挙げられます。

われわれが航空機産業支援事業を行う中で、例えば米国から直接仕事を受注することを目指した試作支援事業では、認定が必要不可欠というわけではないのです(※)。そんな事実のことをお話すると、参加されている企業の皆さんが驚かれます」。
(※)米国企業の監査の必要があるなど、品質保証を適正に行っているということが前提。
 
JIS Q 9100とNadcap認証は、取得することも、維持することも大変なことであり、その労力に見合った受注見込みがあるかどうかについて、これから航空機産業への参入を試みる企業はよく考える必要があるのではないかということです。
 
「機体開発からその退役まで、十年単位と非常に長いスパンで考えないといけない航空機産業においては、一過性の需要減少にも耐えられるサプライチェーンを構築することが大切であり、常日頃からリスク分散を意識するなどといった取り組みを行うことが必要だと考えます」(奥出氏)。
 
また現在、世界はコロナ禍に見舞われており、製造業のビジネスも大きな打撃を受けています。奥出氏は、「現在、航空機産業も停滞していることで、仕事の引き合いも減り、国内の多くの中小企業の体力が、ガクリと下がっていく恐れがあるのではと考えています。そうすればおのずと、われわれの研究案件も減っていくことになります」と、その状況を危惧しています。
 
都産技研としては、とにかく「企業の体力をうまく高める方向に支援したい」ということです。また、この状況を逆に捉えれば、例えば、機体の新規開発を凍結して、従来の機体の運用期間を引き延ばすという可能性もあり、そこでPMA関連の需要が伸びるかもしれないと見ているということです。
 
「悲観しすぎず、産業全体の動向を注意深く見渡しながら、今のうちに中小企業と共に対策に取り組みたいと考えています」(奥出氏)。
 

文/小林由美

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