ニッチな技術をもつ「中小製造業」と研究シーズをもつ「研究機関」の協業、「超極細」超伝導ワイヤーの開発ストーリー

何十年もの間、その道一筋を貫く中で生み出された中小企業のニッチな技術。その技術が、コンピューター、車、航空機だけでなく、宇宙工学、医療の分野まで、世界を変えるかもしれない新しい素材の開発に活かされています。
 
中央区京橋に本社を構え、山梨県と茨城県、岩手県に工場をもつ明興双葉は、1960年の創業以来60年もの間、電線やワイヤーハーネスの製造販売を手掛けてきました。同社は、電線に使う銅線をひたすら細く長くしなやかにできる技術を開拓し、実に細さ50ミクロンの銅線を140万メートルに伸ばす最高水準の技術力をもっています。


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電線に利用する銅線をしなやかに「細く」する技術

明興双葉の銅線を編んだ平編銅線
明興双葉の銅線を編んだ平編銅線


髪の毛1本の太さはおよそ約80ミクロン、これに対し、同社の銅線はわずか10ミクロン。ちなみに半導体のチップをつなぐときに使われるワイヤーの太さは25ミクロンが一般的です。もちろん銅線はただ細いだけでは途中で断線してしまい用をなしません。同社の銅線は柔らかくしなやかで、さまざまな形に変えることができます。同社では平編銅線という製品も製造していますが、これは、銅線をまるで伝統工芸の組紐細工のように細かく編む技術により製造しています。

なぜ銅線をしなやかに細くする技術が必要なのでしょうか。銅は電気抵抗が小さいため、電線に適しています。その銅線に一度に大量の電気を流すことができれば効率は良くなります。そのためには銅線を太くしなければならないのですが、太い銅線は強くて曲げにくいため使い勝手が悪くなります。そこで、とても細い糸のような銅線を作り、それを何本も束ねて編んで太い線と同じ断面積をもつ編組線にすれば、たくさん電流を流せる容量を保ちつつ、用途に応じて自在に曲げられるようになるというわけです。

細くて自在に曲げられる編組線は、自動車や機械製品に使われるのはもちろん、非常に繊細な制御を必要とするロボットの関節部分に使われたり、電線そのものだけでなく電線の外側でノイズを遮断するためのケーブルとしての需要もあります。ノイズを発する機械部品が増えてきた現代ではさらに需要が高まり、その売上げが大きいといいます。


上列左から、国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS) 機能性材料研究拠点 低温超伝導線材グループ飯嶋安男氏、菊池章弘氏、明興双葉技術部部長 山本優氏、下列左から、由紀ホールディングス 営業/マーケティング 木村基良氏、由紀精密 技術開発事業部 事業部長 永松純氏、明興双葉 技術部 課長 河野雅俊氏
上列左から、国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS) 機能性材料研究拠点 低温超伝導線材グループ飯嶋安男氏、菊池章弘氏、明興双葉技術部部長 山本優氏、下列左から、由紀ホールディングス 営業/マーケティング 木村基良氏、由紀精密 技術開発事業部 事業部長 永松純氏、明興双葉 技術部 課長 河野雅俊氏


同社の技術部部長山本優(やまもと・まさる)氏は、「金属は硬くて強いのが当たり前だった時代に、細くてやわらかい糸のような銅線がほしいと言われ、そのような超極細銅線を作りました。さらに時代を経て、細くしなやかなうえに軽いものを、とお客様の求めるものも変わってきました。その時々のお客様の要望に添って、より高い要求に合うようにと、開発、製造してきたのです」と話します。

「銅線を細くすると一口に言っても、『極細銅線製造装置』のような完成品が一般に市販されているわけではありません。細い銅線を作るための製造装置、制御装置、テストするための測定器なども開発し、開発環境や備品や人繰りなど、すべての問題をクリアしなければ望む製品は作れないのです」と苦労を語ります。

「銅線だけ作れる人が集まっても、このような細くしなやかな銅線を作れるようにはならなかったでしょう」(山本氏)

明興双葉をグループ傘下にもち、協業する由紀ホールディングス 代表取締役 大坪正人(おおつぼ・まさと)氏は「中小企業はつねに新しいものを開発していなければ生き残れません」と断じます。そして、この明興双葉の銅線を細くする技術が、超伝導ワイヤーというまったく未知の分野にも活かされることになったのです。


ゼロ抵抗の超伝導線が広く普及できない理由

物質に電気を通すと、物質固有の「電気抵抗」により電気の流れが邪魔されます。そのため流れる電流量はどんどん減っていきます。また電気の一部は熱に変わって逃げてしまい、大きなエネルギーの損失にもなります。ところが「超伝導」という現象があります。これは電気抵抗がなく電流が流れつづける状態のことです。電気抵抗がないということは、発熱もなく、エネルギーの損失もありません。

通常、電線でコイルを作って電流を流すと電磁石ができます。流す電流が大きければ大きいほど電磁石が発生する磁場は強くなります。しかしあまり大きな電流を流すと、電気抵抗により発熱して電線が焼き切れてしまいます。

一方、超伝導線でコイルを作れば、超伝導は電気抵抗がゼロのために発熱なしで大きな電流を流すことができ、電線では不可能なとても強い磁場を発生させることができます。そのため現在、超伝導磁石の技術はリニアモーターカー、MRI、高エネルギー粒子加速器、核融合実験炉などに使われています。

ロスがなくて、大量の電流を流せる、しかも小型化も可能なら、なぜ世の中のさまざまな製品に使われる電線はすべて超伝導になっていないのでしょうか。

それは、超伝導となる物質も、また超伝導になる条件も限られているからです。超伝導となる物質自体はこの世の中にたくさんあります。1911年、オランダのライデン大学のオネス教授が水銀の電気抵抗を極低温で計測したところ、4.2 K(ケルビン)で突然ゼロになることを発見しました。これが超伝導のはじまりです。Kはケルビンという単位で、0Kはマイナス273. 15℃。そのくらいの温度まで冷やさなければゼロ抵抗にはなりません。

そのため、臨界温度は高ければ高いほど冷やす手間がなくなり、使いやすくなります。しかし現在、リニアモーターカーやMRIなどに実際に使われている超伝導線として臨界温度が高いものが使われているかというと、そうではありません。超伝導線でコイルを作るためには、超伝導線はキロメートル以上の長さが必要になります。現在は、延性(延ばしやすさ)に富み、臨界温度が約9K(マイナス264℃)のニオブチタン(NbTi)という合金の超伝導線が広く使われています。

本来は金属間化合物や酸化物という素材の超伝導線の方がニオブチタン(NbTi)合金の2倍以上に臨界温度も高く、高磁場性能も格段に優れています。しかし、その固くて脆く延ばしにくい性質が線材の製造プロセスを複雑化させることも多く、このような短所ゆえに広くは普及していません。

しかし、もし固くて脆くない金属間化合物や酸化物の超伝導線の製造方法が確立され、ポキポキ折れずに自由自在にしなやかにできるとなると、これまで限定されてきた超伝導応用が一気に大きく拓けてきます。まさに今、明興双葉は、自らの技術をもってその新素材超伝導ワイヤーの開発に挑戦しているのです。


超伝導線を研究する「研究機関」と、電線を細くする「中小製造業」の出会い

髪の毛より細い極細線
髪の毛より細い極細線


つくば市にある物質・材料研究機構(NIMS)は、我が国で初めて超伝導線の研究開発を始めた国の研究機関であり、現在物質の構造解析に使われる高分解NMR分析装置やフランスで建設中のITER(国際熱核融合実験炉)に応用されている、ニオブスズ(Nb3Sn)化合物超伝導線材の基本製法を開発したことで知られています。同機構の菊池章弘(きくち・あきひろ)グループリーダーが率いる低温超伝導線材グループでは、長年ニオブスズ(Nb3Sn)よりも格段に性能が高いニオブアルミ(Nb3Al)化合物の線材化技術の開発に取り組んでいました。

しかし、伸線加工中に断線したり、線になっても折れたりして、なかなか実用化にはたどり着くことができませんでした。また長年同グループと共同研究を行っていた線材メーカーが超伝導事業から撤退するなど大きな壁にぶつかっていました。

それでもあきらめることなく試行錯誤を続けていたところ、ある日、菊池氏は自動車のワイヤーハーネスなどに使われる超極細銅線を編んだケーブルを目にしたのです。これまで菊池氏はそのような超極細線をたくさん編んだ構造の超伝導撚線を見たことがありませんでした。

早速純銅撚線を製造するメーカーを調べ、つくば市の近くの常総市に工場をもつ明興双葉に問い合わせし、超極細純銅撚線のサンプルを取り寄せました。実際に手に取ってみると、まるで絹糸を編んだ紐のようなしなやかさだったそうです。菊池氏は固く脆い化合物系超伝導線で同じような撚線を作りたいという気持ちが抑えられず、早速、明興双葉に超伝導線でしなやかな撚線を作ってほしいと依頼しました。この話は明興双葉のグループ企業でもある由紀精密社長の大坪氏にすぐに伝わりました。

そして偶然にも、由紀精密には、学生時代に二ホウ化マグネシウム(MgB2)が超伝導であることを発見した永松純(ながまつ・じゅん)氏が技術開発部の部長として在籍していたのです。またさらに社長の大坪氏は、明興双葉の持つ銅線を細くしなやかに伸ばす技術と永松氏の超伝導の知見を活かして超伝導ワイヤーの開発を手かけたいと考えていました。

今回の菊池氏からの突然の依頼は、大坪氏にとっては「天の声のごとく」願ってもない機会となり、また菊池氏にとっても、二ホウ化マグネシウム(MgB2)の発見者の永松氏の存在を知って神様が導いてくれた縁を感じる出会いとなりました。

こうして明興双葉、NIMS、由紀精密の3社で、菊池教授のグループが研究していたニオブアルミ(Nb3Al)や、永松氏が研究していた二ホウ化マグネシウム(MgB2)などの金属間化合物という複合材を用いた高性能超伝導ワイヤーを共同開発する運びとなりました。これが2018年のことです。

「NIMSの研究成果、明興双葉の銅線を細くする技術、由紀精密の設計、部品加工、設計製造のノウハウが活かせる」と3社ともが確信しました。さまざまな偶然が重なった奇跡の出会いによって、これまでにないまったく新しい素材による超伝導ワイヤーを作るという夢のような研究が始まり、現在試作を繰り返しています。

 

 

短時間で「超極細」超伝導ワイヤー試作の実現とその開発ストーリー

試作に成功した30ミクロン径の超極細ニオブアルミ(Nb₃Al)超伝導ワイヤーの断面写真(左)。ニオブ箔とアルミ箔がナノス ケールで竹の繊維状に複合されている(右)
試作に成功した30ミクロン径の超極細ニオブアルミ(Nb₃Al)超伝導ワイヤーの断面写真(左)。ニオブ箔とアルミ箔がナノス ケールで竹の繊維状に複合されている(右)


これまでの超伝導ワイヤーは、銅などの金属母材の中に細い超伝導ファイバーが何本も埋め込まれた構造が一般的でした。超伝導ファイバーそのものは十分に細いのですが、直径が1.0mm程度の線では、全体を曲げると容易に折れてしまいます。3社が開発したのは、それら極細の超伝導ファイバーの1本1本をバラバラにして、かつ緻密に束ねた新しい構造です。この新しい構造にするには、まずはファイバーと同等の極細線加工が必要になります。

「菊池氏が研究するニオブアルミ(Nb3Al)を100ミクロン未満の細い線に加工しようとすると、くるくるカールしたり、ばつばつと断線したり、しかも断線したら純銅線のように溶接してつなぐこともできません。とてもモノになりそうとは思えませんでした」(山本氏)

しかし3社の協業により、さまざまな試行錯誤や試作を重ねることで、2019年ついに30ミクロンという世界最細のニオブ三アルミ(Nb3Al)による超伝導ワイヤーの試作に成功しました。

山本部長は「超伝導線の加工技術は50年以上の歴史があります。長い間実現されてこなかった超極細化に取り組み、ここ1〜2年の短期間でまずまずの試作ができているのは大変な誇りです」と胸を張ります。

3社が開発する超伝導ワイヤーは、純銅線のような単一金属ではありません。ニオブアルミ(Nb3Al)の場合、それぞれ伸びや硬さが異なる純ニオブ、純アルミ、純銅の少なくとも3種類の金属を複合して極細線に加工します。「このような異なる素材を一体化させる『複合材』の加工では、線材断面を構成する『デザイン』も重要になります」と菊池氏は言います。その組み合わせは何通りもあり、過去の経験と長年蓄積してきたデータを参考にして何通りも試すのです。

また複合加工法もさまざまあり、菊池グループでは、薄い金属箔を重ね巻きする「ジェリーロール法」を用いてニオブアルミの超伝導ワイヤーの開発に取り組んでいます。「このような異種金属の複合構造で、数十ミクロン径の細径線材を数千~数万メートル無断線で作ることが当面の目標です。将来的には数ミクロン径までの超々極細化を実現したいです」(菊池氏)

「数ミクロン径までのレベルになると、ワイヤーの取り扱いは別次元になり、想像を絶するものです」と山本氏は言います。

「たとえば、ワイヤーが置いてあるそばを人が通っただけで、あるいは、エアコンをつけただけで触らなくても切れてしまう。そのくらいに繊細になって、ワイヤーの巻き付けや張力制御などでこれまでの常識が通じなくなります」(山本氏)

試作を繰り返して開発を進めるには、「失敗を無駄に終わらせず、そこから、いかに次につなげられるものを拾えるか」がカギだと山本氏は強調します。また、超伝導のネックはなんといっても冷やさないと使えないことです。その意味では、永松氏が過去に発見した、39K(マイナス234℃)という従来のワイヤーよりも、そしてニオブアルミ(Nb3Al)よりも、さらに高い温度で超伝導が発生する二ホウ化マグネシウム(MgB2)を使った開発にも今後大いに期待がもてます。

 

 

超伝導ワイヤーの幅広い活用への期待

これまでにない材料で超伝導ワイヤーを実用化できれば、どんなことができるのでしょうか。大きいコイルをそのまま巻けば使えるため、コストダウンに繋がります。また細い線で小さいモーターを作ることもできます。さらには高い温度でも超伝導ができれば、冷却のための液体窒素や液体ヘリウムがないところでも使うことができ、これまで超伝導が使えなかったところにも導入できる可能性が広がります。

具体的な用途としては、人工衛星、素粒子の研究で使う加速器、核融合炉から医療まで、さまざまな現場で研究が始まっています。つまり現代科学の最先端の現場で必要とされているのです。またこれまで超伝導が使えなかった、われわれの身の回りにある普通の電化製品でも使えることになれば、電化製品や普段目にするものの形も根本的に変わってしまうかもしれません。

明興双葉の技術部課長 河野雅俊(かわの・まさとし)氏は、「開発が始まった最初は超伝導ってなに? というくらいの認識でした。しかも、菊池氏から毎回違う材料が届き、それを銅線と同じように細くしなやかに加工しなければならない。もちろん普段扱っている銅線とは性質が違うので、同じようにはできず、何度も諦めそうになりました」と明かします。

しかし何度もNIMSとやりとりしながら試作を繰り返すうち「世界の最先端の開発をしているのだという認識が現場でも共有され、そのことが日々の試作、開発の励みとなるようになりました」と言います。
中小製造業が世界の最先端の開発をリードする、決して絵空事ではない、確かな実例がここにあるのです。


文/奥田由意

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