「スマート農業」、企業と農家の共同プロジェクト事例~日本における農業と先端技術を組み合わせるコツ

INTERVIEW

株式会社クニエ
マネージングディレクター
原 誠
マネージャー
鈴木 亨弘

企業(経済界)と農家(農業界)の共同プロジェクトを推進するのが、農林水産省の「農業界と経済界の連携による生産性向上モデル農業確立実証事業(以下、農業確立実証事業)」です。2016年から2020年にかけて約60個のプロジェクトが採択されており、そこから生まれたスタートアップも存在しています。事業を推進する先端農業連携機構で代表を務める株式会社クニエ マネージングディレクター 原誠(はら・まこと)氏と、マネージャー 鈴木亨弘(すずき・みちひろ)氏に、特徴的なプロジェクトや、農業と先端技術を組み合わせる際の難しさやコツを伺いました。


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株式会社クニエ マネージングディレクター 原 誠氏
株式会社クニエ マネージャー 鈴木 亨弘氏


先端農業連携機構は、NTTグループのコンサルティングファームである株式会社クニエと一般社団法人日本食農連携機構によって結成された、農業確立実証事業のための任意団体です。日本食農連携機構は、農業法人や農協、食品メーカーや外食・中食、流通など、食と農にかかわる多くの団体・企業等が会員として参加しており、日本の農業や食を活性化させるための研究会などを開催しています。
 
そんな先端農業連携機構が行うのは、農業界と経済界が合同で立ち上げるプロジェクトの支援やその周知活動。彼らが農林水産省の主導で活動を進める背景には、日本の農業を取り巻く深刻な状況があります。
 
その一つが、農業従事者の高齢化・後継者不足です。農林水産省の調査によれば、2019年時点で日本の農業従事者の平均年齢は約66.8歳。高齢化は依然進行中で、農業従事者は今後15年で約半分になるという予測もあるほどです。農家の減少に伴って耕作放棄地が増えるなど農地の面積も減っており、日本農業の将来は決して明るくありません。
 
そこで期待されているのが、ITなどの最新テクノロジーを導入した「スマート農業」です。大変な農作業を機械で自動化できれば高齢者でもより長く事業を続けられますし、ITによる生産管理でより広い農地で農業をおこなったり、土地当たりの収穫量を高めることができれば、個人農家でもより大きな利益を上げることができます。「ですが、まだすべての農家を救うほどにスマート農業は成長していません」と鈴木氏は説明します。
 
「IoTや機械学習といった技術は発達してきましたが、ITやメーカーなどの方々が、農業従事者が実際にどのように仕事をして、何に苦労しているかを把握するのは容易ではありません。農家と企業が協力しながら、未来の農業にとって真に必要な技術を生み出していく。そうして日本の農業の生産性を高めるのが、本実証事業の目的です」(鈴木氏)
 
実証事業では、3年にわたって新たなプロジェクトを支援します。まず1年目には機械やシステムの開発、設備の購入などのための費用を上限3,000万円として、その半額を補助。2、3年目は、事業の要となる実証実験の年として、技術を導入した営農費用やデータ収集などの費用として、上限1,500万円のうち半額を補助します。実証期間3年の終了後はこれまでの成果をもとに商品やサービスとして広く世に普及してもらうこととなります。
 
これまで農業確立実証事業では、2016年から2020年にかけて約60個のプロジェクトが採択されました。現在は新たなプロジェクトの採択は行われておらず、2018年以降に採択されたプロジェクトの支援が続いています。



リモートセンシングで作物の育成状況を把握~「スマート農業」事例①

ISSA山形のリモートセンシングは空中からドローンで撮影して行う
ISSA山形のリモートセンシングは空中からドローンで撮影して行う


では、農業確立実証事業に採択されたプロジェクトをいくつか見てみましょう。2014年に採択されたISSA山形は、農機開発で知られるヤンマーと精密機械で有名なコニカミノルタ、さらに山形大学や鶴岡グリーンファームなどによって立ち上げられたプロジェクトです。3年間の実証を経て、ヤンマーとコニカミノルタの出資によりファームアイという事業会社を設立しています。
 
彼らが提供するのは、農作物の「リモートセンシング」です。リモートセンシングとは、稲や作物の育成状況を把握する技術のことで、ドローンを利用して成長段階の作物を撮影し、葉の色や繁り具合、作物の活性度合いなどを解析します。場所ごとの成長度合いを、育ちすぎているなら赤、育成が不十分ならば青というように色で表現するため、一目で把握できます。
 
これまで生育状況を判断するためには、手持ちの葉緑素計(SPAD 値計測器)を使って腰をかがめて計測する必要がありました。またこの計測法では、30分間で約20株を計測するのがやっとです。しかしリモートセンシングなら、最速1分間でなんと60,000株も計測可能となるそうです。畑や水田の作物生育状況を、「点」ではなく全体を「面」として捉えることができるために実現された効率の良さです。



空中から生育状況を確認できる
空中から生育状況を確認できる


さらに、この解析によって土壌の栄養状態も把握できます。作物の生育にバラつきがあれば、そのデータをヤンマーの無人ヘリにインストールし、必要な箇所のみに追加で肥料を散布することも可能です。
 
「一般的に、撮影は肥料の追加を判断する7月頃に行われ、農家のもとにレポートが送られます。これにより、デリケートな品質管理が誰でも可能になります。これまでは経験をたっぷり積んだベテラン農家でなければ判断が困難でしたが、それが汎用化されたのです」(原氏)
 
ヤンマーの農機開発ノウハウと並んでリモートセンシングの肝となるのが、画像解析技術です。太陽光や天候といった外部環境の変化を補正するマルチスペクトルカメラで、正しく作物や葉の色を解析する必要があります。高度の画像解析が可能になったのは、もともと同分野での蓄積があるコニカミノルタの参加が大きな要因です。
 
農業確立実証事業での実証実験以外にも、リモートセンシングの導入によって実際に収穫量が増えて作物の品質が上がったという報告は多数存在します。例えば、三井物産の社内ベンチャーとして始まったブランド米「甘熟米」もその一つです。
 
リモートセンシングをもとに稲を育てた結果従来より重さと厚さを兼ね備えた実は、甘み成分がしっかりと凝縮されていると言います。もちろん生産コストはかかるものの、リモートセンシングによって収穫量も増えるため、高すぎない価格での販売が可能となっています。



「農業用のブルドーザー」、他産業からの転用~「スマート農業」事例②

小松製作所が開発した農業用ブルドーザー
小松製作所が開発した農業用ブルドーザー


ほかの産業で使われていた技術を農業にうまく転用させたのが、小松製作所です。同社は建設作業用の重機で有名ですが、そのブルドーザーを水田で利用できるようにしました。そのプロジェクトが、石川県の上畠農業機械利用組合と提携して2014年に採択された「簡易な農地改良技術開発コンソーシアム」です。
 
では、稲作のどういった場面でブルドーザーを使うのでしょうか。原氏によれば、カギとなるのは水の管理です。
 
「稲作では気温や生育状態に応じて水深を変えるなど、水田の水量を慎重に調節する必要があります。しかし、水田の地面が凸凹な状態では、水量を調節してもなかなか狙った成果を得られません。そこで水田をならすためにブルドーザーを使用します。大抵の農家はこの用途にトラクターを用いるのが通例ですが、もっと低コストで簡単に扱える農業用の重機を開発することにしたのです」(原氏)
 
そこで開発されたのが、トラクターより耐用年数が長く、幅広い用途に使える農業用のブルドーザーです。耕起や水田の均平化、暗渠施工(畑の地下に余計な水を排するための通水空間を作る作業)を1台でこなせるほか、アタッチメントを付け替えればもちろん建設業務でも使用できるため、農業・建設業を兼務している事業者にとってはまさに一石二鳥の存在です。



農家が真に求める技術は、ある程度の便利さとリーズナブルな価格

先端農業連携機構では、こうした約60個のプロジェクトすべての進捗管理に携わっています。では、その中で成果を出せるプロジェクトに共通する要素はどのようなものなのでしょうか。
 
「単にハイスペックな技術を農業向けに提供するだけでは不十分だと感じます。大切なのは、農家がどのレベルを求めているのかをきちんと把握することです。オーバースペックが要因で設備が高額になってしまったら、農家の経営をさらに圧迫することになってしまいます」(鈴木氏)
 
家族経営などの小さな事業サイズの農家にとっては機能が優れていても値段が張る製品は響きにくいと鈴木氏は言います。むしろ需要が高いのは、ちょっとした課題を解決できる、手が届く値段のサービスなのだそうです。
 
「例えば、メロンの栽培では一度収穫した後の土をすべて掘り返し、多大な労力をかけて消毒しなければ、翌年の苗が病気になってしまいます。そこで土に植えずに、簡単に入れ替え可能な培地を使用する栽培方法を開発したプロジェクトが採択されました。
 
農作業の作業体系においては、作目や栽培方法に応じてボトルネックとなっている作業があるということが多くあります。そのような毎年負担となっている作業を一つでも楽にでき、リーズナブルな価格で提供することができれば、例え補助が受けられなくても積極的に投資される農家さんはいらっしゃいます」(鈴木氏)
 
鈴木氏は、最新鋭の技術でなくとも、他業種で一般的になったある程度便利で低価格化した技術を輸入するだけでも、農業の負担を大きく減らせる可能性があると話します。そうしたサービスを提供できるのは、今回のプロジェクトで募集したような農家の実態にも詳しい事業者になりそうです。
 
5G技術の実用化も進めば、これからあらゆる分野のICT化はますます加速するといわれています。農業確立実証事業での新規プロジェクトの募集は終了していますが、農水省では2019年からは「スマート農業実証プロジェクト」として農業のICT化を支援しています。多くの企業が農業に目を向けることが、日本の食をめぐる状況を改善する大きな一歩になるのかもしれません。
 
 
文/野口直希


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