半導体の「設計」から「製造」工程における分業化と、その分業化に出遅れた日本〜半導体入門講座(5)

スマートフォンやパソコンなど私たちが日常で使用している半導体がどのような企業でどのように製造されているかご存じでしょうか。1970年代ごろは、「設計から製造までの一貫生産体制」が殆どでしたが、今は半導体の設計から製造までさまざまな企業が分業して関わっています。今回は、半導体の「設計」から「製造」工程における分業化と、その分業化に出遅れた日本の半導体業界についてご紹介します。

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半導体の「設計」から「製造」工程における分業化

1980年代中ごろに考えられたVLSI(Very Large Scale Integration:超大規模集積回路)の設計自動化の原動力となったのは、カリフォルニア工科大学のカーバー・ミード教授とゼロックス社パロアルト研究所のリン・コンウェイ研究員が書いたVLSI設計の教科書「Introduction to VLSI Systems(超LSIシステム入門)」であった。集積回路(Integrated Circuit:IC)の設計にコンピュータ科学の手法を導入した。自動化ツールはソフトウエアで作られるため、そのバグやフォーマットの検証も必要になり、検証ツールも登場した。


半導体「設計」工程と、分業化が進む半導体設計メーカー

回路設計上でも一つの価値のある回路をIP(Intellectual Property:知的財産)と呼び、IPだけを開発する企業も現れた。アーム(ARM)社がそのはしりだった。

IPを提供するベンダーには他にシノプシス(Synopsys)、イマジネーションテクノロジーズ(Imagination Technologies)、シーバ(CEVA)、ケイデンス(Cadence)など米英の企業が多い。IPベンダーが生き残るためには、次々と将来に渡って提供するIPを開発していかなければならず、売上額に対する開発投資は15〜20%が必要になる。まさに研究開発会社といえる。

半導体ICでは、IP回路だけでは機能しない。それらを配線するツールも必要になる。もちろん、このツールも自動的に行うためのツールである。

ただし、回路があまりにも複雑になりながら、性能も上げることが要求されるため、回路のクロック(Clock:回路を動かすタイミングを設定する時計のような機能)に対してすべての回路が遅延なく動けるようにするためには専用のNoC(Network-on-Chip)と呼ばれる回路スイッチ用のIPも登場している。最近のGPUや高速のICチップには欠かせない。

複雑なICを設計するためのソフトウエア・ハードウエアツールを提供するのがEDA (Electronic Design Automation:電子設計自動化ツール)ベンダーである。シノプシス(Synopsys)、ケイデンス(Cadence)、メンターグラフィックス(Mentor Graphics、現シーメンス(Siemens)の一部門)の3社がトップスリーと言われ強い。日本ではかろうじて図研がプリント配線基板のツールで生き残っている。

半導体のパッケージのピン配置や間隔などの寸法は、プリント回路基板のピン配置や間隔と共通する上に、IntelのCPUのようにプリント回路基板をパッケージとする製品も増えてきているため、半導体とプリント基板とは切っても切れない関係になっている。

半導体ファブレス(Fabless、工場を持たず設計などを行う企業)と一口に言っても、汎用のチップを開発し提供する半導体メーカーと、設計業務を請け負う企業がある。前者を単にファブレスといい、後者をデザインハウスと呼ぶことがある。

半導体設計では、RTL(Register Transfer Level)、ネットリスト、レイアウト配置配線の後、最後にフォトマスクを作り、製造部門に渡す必要がある。抽象的な記述の機能設計でRTLというフォーマットに出力し、基本回路ブロックの接続(配線)関係を示したコードであるネットリストの工程で回路の接続情報を含ませ、レイアウトでの配置・配線を行い、最終的にフォトマスクのパターンを出力するフォーマットに変換する。

それぞれの工程はやはり検証作業で、それぞれをチェックする。デジタル回路に特有のタイミング設計では、レイアウト後に性能を満足しているかどうかが求められるため、場合によってはRTLを出力する機能設計まで戻ることもある。それぞれは自動化設計をしているものの、設計ツールを使って設計情報を書き込むのはやはり人手になる。

こういった半導体設計工程で、デザインハウスは設計のすべてを扱うため、半導体設計の知識がなくても、こんなICが欲しい、こんな機能にしてほしい、というユーザーがいても半導体を設計してもらえる。昔は自分の半導体が欲しければ工場を作ることから始める必要があったが、分業がしっかり進んでいるため、デザインハウスに依頼すれば自分独自のICチップを設計できる。

設計を終えたデータをマスクメーカーに手渡せば、マスクセットができあがる。これをファウンドリ(Foundry,設計せずに顧客の設計データに基づいて製品作る会社)に手渡せば、半導体ウェーハを製造してくれる。GoogleやAmazon、Facebookなどの大手ITサービス業者が自分で半導体をもてるようになった背景がここにある。


半導体「製造」装置メーカーも水平分業へ

製造上でも、酸化、回路パターン形成(レジスト塗布、ベーク、リソグラフィ露光、ポストベーク、現像、洗浄)、エッチング、洗浄、CVD堆積など、さまざまな工程を繰り返していく。これらの各プロセスやそれらを統合するプロセスインテグレーションなどの分野に分かれた。各工程に使う装置は、かつては半導体メーカーが自作していたが、徐々に専門メーカーが手掛けるようになってきた。

東京エレクトロンはリソグラフィの露光を除くほとんどすべての工程を手掛けており、半導体製造装置の大手企業である。リソグラフィでは日本のニコンやキヤノンも製造しているが、最先端の装置はオランダのASML社が先頭を走っている。特に最近のEUV(Extreme UltraViolet:極端紫外線)光のリソグラフィ装置ではニコンもキヤノンも早々と撤退を決めたため、ASMLの独占となっている。

リソグラフィ以外の工程では、米国のアプライドマテリアルズ(Applied Materials)とラムリサーチ(Lam Research)が強く、東京エレクトロンはその中で頑張っているといえる。その他日立ハイテクもある。日立国際電気はファンドのKKRに売却された。

これらの分業化の進み具合を大きな流れとして、<図1>に示す。当初は半導体メーカーが行ってきた工程ばかりだが、複雑になるにつれ、さまざまな専門企業が増えてきた。


<図1> 半導体の分業化が進む
<図1> 半導体の分業化が進む


言い換えると半導体産業を頂点として、設計ツール、IP、検証ツール、設計請負、ファブレスなどのメーカー、マスクメーカー、マスク検査メーカー、ファウンドリ、製造装置メーカー、製造プロセスに使う材料メーカー、シリコン結晶メーカー、製造工程内で使う化学薬品メーカー、出来たシリコンウェーハからチップを切り出す装置メーカー、パッケージする後工程請負メーカー、テスト装置メーカー、パッケージするための装置メーカーなど、さまざまな企業が誕生した。

この結果、半導体関連企業が増え、半導体装置・材料の協会であるSEMI(Semiconductor Equipment and Materials International:国際半導体製造装置材料協会)が大きな力を持つようになった。


分業化に出遅れてしまった日本企業

「設計から製造までの一貫生産体制」にこだわった日本企業

このような分業化の中で最も遅れたのが日本だった。半導体の設計ツールは米国勢、ファブレス企業は米国を中心に誕生し成長してきた。その流れは日本で拒否され、台湾、最近では中国へと流れていったが、日本ではファブレス企業は成長できなかった。顧客の下請けの設計会社に留まり、その枠を突き破ることができなかったからだ。

日本の半導体企業は、設計から製造まで一貫して行うIDM(Integrated Device Manufacturer:垂直統合のデバイスメーカー)にこだわり続け、ファブレスもファウンドリもそれらのビジネスの本質を理解できないまま、没落していった。

今日残った売上額5,000億円以上の大手半導体メーカーは、東芝から独立したキオクシアとソニーセミコンダクタソリューションズ、そしてルネサスエレクトロニクスだけとなった。この内キオクシアとソニーはそれぞれメモリとCMOSイメージセンサという大量生産品で昔ながらの大量生産工場を持つ会社である。需要が続く限り、大量生産品は成長できるが、需要が落ち込み始めると危うくなる。


日本の得意分野は半導体製造装置と材料を残すのみ

日本が唯一得意な分野は、半導体を製造するための装置と材料である。半導体を製造するメーカーが弱くなったために、その製造を支援する製造装置メーカーは海外企業に向けて出荷を続けている。売上額の海外比率は極めて高い。半導体テスターのアドバンテスト社(旧タケダ理研工業)は、海外比率が95%くらいに達している。半導体製造は今や、米国と台湾、韓国が大きな市場となっている。

またウェーハ完成後、チップに切り出してからパッケージングするまでの後工程では、OSAT(Outsourced Semiconductor Assembly and Test)と呼ばれるパッケージ専門の請負業者がいる。ここでは、ウェーハからチップを切り出し、それをリードフレームと呼ばれるメタルの基板にチップを載せ、チップ上のパッドと呼ばれる電極部分とリードフレーム上の各配線端子との間をボンディングワイヤーでつなぐ。最後に樹脂で固めて封止する。最後にICが正常に動作するかどうかのテストを行う。

後工程での製造装置も日本が得意だ。ディスコ社はウェーハからチップを切り出すダイシング装置に強い。新川、カイジョー(旧海上電気)など比較的中小のメーカーが多い。プリント回路の実装に強かったヤマハ発動機がボンディング装置やマウンティング装置の新川と、モールディング装置のアピックヤマダを買収した。産業再編も活発になっている。



著者:津⽥建二(つだ・けんじ)
技術ジャーナリスト。東京⼯業⼤学理学部応⽤物理学科卒業後、⽇本電気(NEC)⼊社、半導体デバイスの開発等に従事。のち、⽇経マグロウヒル社(現在⽇経BP 社)⼊社、「⽇経エレクトロニクス」、「⽇経マイクロデバイス」、英⽂誌「Nikkei Electronics Asia」編集記者、副編集⻑、シニアエディター、アジア部⻑、国際部⻑など歴任。


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