次世代パワーデバイス材料「コランダム構造酸化ガリウム」開発ストーリー〜独自の結晶成長技術で低損失化と低コストを両立

INTERVIEW

株式会社FLOSFIA
代表取締役社長 人羅 俊実

京都大学
教授 藤田 静雄

画期的な次世代半導体材料として、ここ数年で急速に注目を集めている素材が、酸化ガリウムです。

エネルギー損失の度合いを表すバンドギャップは、シリコン(Si) 1.1eV、シリコンカーバイド(SiC) 3.3eV、窒化ガリウム(GaN) 3.4eVに対して、酸化ガリウム(Ga2O3)は5.3eVと高く(高い方が損失が小さい)、シリコン(Si)比6,000倍を超える材料物性(バリガ性能指数での比較)をもちます。

バンドギャップとは、結晶のバンド構造における、価電子帯と伝導帯の間に電子が存在しない禁制帯のエネルギー幅のことです。バンドギャップが大きいと絶縁破壊電圧が高くなり、高電圧を扱うデバイスでの利用に向いています。また高温動作を求める用途にも適しており、パワー半導体としてとても魅力的な存在になります。

2008年に、京都大学の藤田静雄(ふじた・しずお)教授は、同氏が生み出した結晶成長法である「ミストCVD(Chemical Vapor Deposition)法」を用い、天然に存在しない特殊な結晶構造「コランダム構造」を人工的に合成した「コランダム構造酸化ガリウム(α-Ga2O3)」を生み出しました。

この最先端の材料・プロセス技術を応用し、世界に先駆けてパワーデバイスの技術開発に取り組んでいるベンチャー企業が「FLOSFIA(フロスフィア)」です。ミストCVD法を深化させた「ミストドライ(R)法」という特殊なプロセスで、コランダム構造酸化ガリウム(α-Ga2O3)を合成し、それを半導体デバイスに作り込んでいきます。

すでに「GaO(R)」シリーズとしてサンプル出荷を開始しているほか、デンソーとの協業も発表しています。次世代のパワーデバイス向け半導体として期待される「コランダム構造酸化ガリウム(α-Ga2O3)」はいかにして生まれたのでしょうか?

 

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酸化ガリウム、Si製パワーデバイスより電力損失を劇的に低下

電力変換時に生じる電力損失。これが昨今、世界的な社会問題として認識されています。具体的にはAC(交流)からDC(直流)、DC(直流)からAC(交流)といった電力変換時における電力損失は全発電量の10%超を占める、と言われているほどです。

こうした電力損失を低減させる半導体として活用されているのが、インバーターやコンバーターなどの電力変換器に用いられる「パワーデバイス」ですが、現在主流のシリコン(Si)製パワーデバイスでは、シリコン(Si)自体が持つ材料物性の限界から、これ以上の電力損失の低減が困難な状況にあります。

そうした中、シリコンカーバイド(SiC)や窒化ガリウム(GaN)などの次世代のパワーデバイスが開発されていますが、さらに、電力損失を劇的に低下させる材料として期待されているのは「酸化ガリウム(Ga2O3)」です。

FLOSFIA代表取締役社長の人羅俊実(ひとら・としみ)氏は「酸化ガリウム(Ga2O3)はバンドギャップ値が5.3eVと高いほか、絶縁破壊電界強度が8MV/cmを超えるなど極めて良好な物性値をもっており、シリコン(Si)やシリコンカーバイド(SiC)と比較しても、それぞれ1/3400、1/10もの低損失化が期待できる材料」と語ります。

 

FLOSFIA代表取締役社長の人羅俊実氏
FLOSFIA代表取締役社長の人羅俊実氏

それほどまでに優れた特性を持つ酸化ガリウム(Ga2O3)ですが、これまでは製造方法が確立されていませんでした。

FLOSFIAは京都大学の藤田静雄教授らが生み出したコランダム構造の酸化ガリウム成膜法を活用することで、新たなパワーデバイス「GaO(R)パワーデバイス」の開発に取り組んでいます。すでにSBD(Schottky Barrier Diode)の実証試作を通じて世界最小(FLOSFIA調べ)のオン抵抗である0.1mΩcm2の実現や実装デバイスでの高速動作の確認、コンバーターでの変換効率アップなどに成功しています。

「現在、販売されている最新のシリコンカーバイド(SiC)製SBDのオン抵抗0.7mΩcm2と比較すると86%もの低減になっています」(人羅氏)

 

結晶成長は「サファイア基板」と「ミストCVD法」、高性能と低コストを実現

京都大学 藤田静雄教授
京都大学 藤田静雄教授

FLOSFIAのメイン事業である「GaO(R)パワーデバイス」を語る上で、欠かせない結晶成長技術が京都大学の藤田教授が開発した「ミストCVD法」です。このミストCVD法はミスト状態で原材料を投入し、ミストを加熱して少しずつ気化させ、化学反応によって成膜していく手法です。簡単で安価、かつ安全に金属酸化物の薄膜形成を可能にしてくれます。

「金属酸化物には多くの種類があり、半導体としての性質を示すものが多くあるものの、2000年頃までは、そうした応用にほとんど関心が示されていませんでした。その理由のひとつとして、酸化物は酸素欠損が本質的でダイオードやトランジスタといったデバイスへの応用が可能であるとは考えられなかったことがあげられます。

しかし、2000年頃から分子線エピタキシー法(MBE: Molecular Beam Epitaxy)や 有機金属気相成長法(MOCVD: Metal Organic Chemical Vapor Deposition)といった高度に制御された結晶成長技術を活用することで高品質の単結晶が得られるようになり、半導体デバイスへの応用に関心が向けられるようになりました。そうした中で、酸化物として大きな注目を集めているのが酸化ガリウム(Ga2O3)だったのです」(藤田氏)

藤田氏によれば、酸化ガリウム(Ga2O3)はいくつかの異なった結晶構造を取る材料として知られているそうで、「中でも熱的に最も安定しているものが斜方晶系の構造で、これはβ型あるいはβ-Ga2O3とよばれている」と言います。

「β-Ga2O3の大きな特徴はシリコン(Si)やサファイアと同じ融液法で大面積のバルク結晶が得られることです。つまり高品質の基板が安価に得られます。しかし、10年ほど前はβ-Ga2O3基板も開発途中で入手も困難だったため、私たちは安価で大面積のサファイア基板を使い、ミストCVD法で酸化ガリウム(Ga2O3)の結晶成長を行ってみることにしました。

そうすると、非常に結晶性の良い型の結晶『α-Ga2O3』が得られたのです。α型の結晶はコランダム型の結晶構造をとり、熱的には準安定。このような結晶が得られたのは、サファイア基板がコランダム構造の結晶であるため、それを引き継ぎ、酸化ガリウム(Ga2O3)が成長したからです。

サファイア基板は安価で大面積のものが入手でき、ミストCVD法は装置も原料も安価で、さらにスループットも高いことから、サファイア基板上のコランダム構造酸化ガリウム(α-Ga2O3)を用いたデバイスは,高い性能を低コストで実現でき、結果的にパワーデバイスの普及が加速されるのではないか、と思いました」(藤田氏)

 

半導体市場での需要を見込んで、大学で生み出された新材料を事業化へ

世界最小のオン抵抗(0.1mΩcm2)を有するFLOSFIAの「GaO(R)パワーデバイス」

 

このコランダム構造酸化ガリウム(α-Ga2O3)を用いたパワーデバイスの研究開発を事業にすべく、いち早く関心を示したのが、人羅氏でした。

人羅氏はこれまでに半導体領域でいくつか会社を興したことのあるシリアルアントレプレナー(連続起業家)です。2012年に代表取締役に就任後、事業領域をパワー半導体事業に変更し、「GaO(R)パワーデバイス」の開発に注力しています。

「電力損失は総発電量の10%を超えるといわれており、変換効率の改善、損失抑制ニーズが世界的に高まっているのは周知の事実です。それに伴い、電源・インバーターの低損失化、小型化の要求が高まり、さらに市場の急成長を支えるために高機能・低コストパワーデバイスの十分な提供が今後必要になってきます。高機能、省エネ、低コストの3条件を満たしたパワーデバイスを開発するにあたって、京都大学が生み出した新材料『コランダム構造酸化ガリウム(α-Ga2O3)』は非常に魅力的だと思ったんです」(人羅氏)

「GaO(R)パワーデバイス」を開発するにあたって、人羅氏はミストCVD法を独自に発展させ薄膜を原子層レベルで積層していく技術「ミストドライ(R)法」を開発。藤田教授の開発したミストCVD法をさらに進化させ、独自の技術として、半導体単結晶の高品質化(MIST EPITAXY(R)法)や金属膜(ミストドライ(R)めっき法)、有機膜の重合(ミストドライ(R)重合)などを実現しています。人羅氏は「プロセスや作製した膜に関連する特許出願は海外出願含めて400件を超えている」と言います。

 

ミストドライ(R)法のメカニズム。工程の流れは、(1)ミスト状態で原材料(反応溶液)を投入、(2)加熱によりミストが少しずつ気化、(3)ガス状態で化学反応、となる。
ミストドライ(R)法のメカニズム。工程の流れは、(1)ミスト状態で原材料(反応溶液)を投入、(2)加熱によりミストが少しずつ気化、(3)ガス状態で化学反応、となる。


FLOSFIAはMISTEPITAXY(R)を用いることで、サファイア基板上に直径4インチのコランダム構造酸化ガリウム(α-Ga2O3)半導体層を形成。極めて良質な単結晶を作ることに成功し、これまで問題であった炭素不純物の低減も実現したそうです。

「さらに、20μm以下のフィルム状に加工した酸化ガリウム(Ga2O3)フィルムを半導体ウエハの代わりに下地材料として用いることで、下地材料部分の抵抗を低減することにも成功しています。本フィルムは、市販のシリコンカーバイド(SiC)基板に比べて1/100程度まで抵抗を低減でき、また酸化ガリウム(Ga2O3)の欠点でもある“低い熱伝導率”という課題も解決できます」(人羅氏)

製造にかかるコストは、シリコンカーバイト(SiC)がシリコン(Si)の10倍ほどかかるのに対し、酸化ガリウム(Ga2O3)はシリコン(Si)と同程度と、低価格で作れるとのこと。

 

FLOSFIA製SBDを搭載した評価用ボード
FLOSFIA製SBDを搭載した評価用ボード


世界最小のオン抵抗である0.1mΩcm2の実現や実装デバイスでの高速動作の確認、コンバーターでの変換効率アップに成功。さらに2018年7月には、材料特性上不可能と考えられてきた FET(Field Effect Transistor,電界効果トランジスタ)のノーマリーオフ動作実証にも成功するなど、彼らはコランダム構造酸化ガリウム(α-Ga2O3)の可能性を次々と引き出しています。

「低オン抵抗なFLOSFIA製SBDの実現により、電力変換モジュールの効率化・小型化が期待できるほか、FLOSFIA製SBDは低コストで製造できるため、パソコン用ACアダプタの超小型化、IoT機器などのウェアラブル端末向け電源への応用など民生品への応用展開も可能です。まずは中耐圧市場から展開し、“置き換え需要”と“新規需要”の両方の市場を攻略していきつつ、今後はラインナップを拡充していけたらと考えています」(人羅氏)

また、FLOSFIAはコランダム構造酸化ガリウム(α-Ga2O3)を用いたノーマリーオフ動作するパワートランジスタ(MOSFET)において、先行する市販シリコンカーバイト(SiC)の特性を大幅に超えるチャネル移動度72cm2/Vsの実現にも成功しています。

「この成果は、今後FLOSFIAの『GaO(R)シリーズ』として2021年以降に量産予定で、さまざまな電力変換器への搭載を目指します。まずはエアコンや冷蔵庫、洗濯機、ACアダプタ、サーバーなど既存の電源の置き換えから、省エネルギーに貢献したいですね。そして今後は、電気自動車の燃費向上やロボットの高機能化、小型化、低コスト化、低環境負荷社会の実現に貢献していきたいと思っています」(人羅氏)

 

文/新國翔大

 

参考情報
・ミストドライは、FLOSFIAの登録商標です。
・GaOは、FLOSFIAの登録商標です。
・MIST EPITAXYは、FLOSFIAの登録商標です。

 

 

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