前例がない新市場を開拓せよ、中東の砂漠から始まったソーラーパネル清掃ロボットの開発ストーリー

INTERVIEW

株式会社未来機械
代表取締役
三宅 徹

太陽光発電における課題とは、ソーラーパネルが「汚れる」こと。砂埃などが付着することによって、発電効率が下がるのです。雨がほとんど降らない乾燥地帯は日射量が豊富なため、太陽光発電の適地としてメガソーラーの開発が進んでいますが、雨が降らないために砂埃などの汚れが落ちないというデメリットがあります。常に効率的な発電をするためには、例えば週に1回程度の日常的な清掃が必要だそうです。
 
この問題を解決する、ソーラーパネルの清掃ロボットを提供するのが、香川県高松市のベンチャー、株式会社未来機械。同社が新たな市場を開拓した経緯とそれを可能にした技術の根幹を、代表取締役の三宅徹(みやけ・とおる)氏に伺いました。

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最初は窓拭きロボットを開発、しかし製品化に至らず

株式会社未来機械 代表取締役の三宅徹氏
株式会社未来機械 代表取締役の三宅徹氏


未来機械が製造するのは、太陽光発電に使うソーラーパネルの清掃ロボット。中東諸国をメインターゲットに開発されたもので、2020年初頭からドバイ(アラブ首長国連邦)に導入されています。
 
同社は2018年に四国電力やリアルテックファンドなどから約7億円の資金調達を実施しており、すでにほかの中東諸国への販売実績もあるなど、さらなる躍進が期待される企業です。
 
とはいえ未来機械は、初めからソーラーパネルの清掃ロボットを開発していたわけではありません。「日常のあらゆる場所で、ロボットが活躍する世界を実現させたい」という夢のために、大学院在学中の2004年に未来機械を設立した三宅氏。そこで彼が最初に開発したのは、ビルのメンテナンスに使用する窓拭きロボットでした。
 
これはノートパソコンくらいの大きさで、吸盤で窓に張り付いて走行する仕組み。拭き残しがないよう窓ガラスをくまなく走行し、水で窓を濡らしながら丁寧に拭きあげます。2005年の愛・地球博(2005年日本国際博覧会)に出展もされました。
 
「愛・地球博では、高所での人の作業を代替する未来のロボットとして展示され、2020年には実用化されることが謳われていましたが、製品化には至りませんでした。どうしてもわずかな拭き残しができてしまうことと、万が一ロボットが落下した際のリスクが高すぎることが主な要因です」(三宅氏、以下同)
 
メンテナンス業者での採用も検討されていた窓拭きロボットですが、結局実用化の目処は立たず。自社製品の開発に失敗した未来機械は、しばらく受託での開発を続けることになります。


次はソーラーパネル清掃ロボット、雨が降らない中東地域がメイン市場

未来機械のソーラーパネル清掃ロボットType2
未来機械のソーラーパネル清掃ロボットType2


未来機械に転機が訪れたのは、2008年。愛・地球博の展示を見た企業から、「窓拭きロボットの技術をソーラーパネルの清掃に使えないか」と打診されたのです。
 
突然の提案に驚きながらも、詳しい話を聞くことにした三宅氏は、このとき初めてアメリカ・アリゾナ州にあるメガソーラーを目にしたそうです。見学したメガソーラーは、1,000kW以上の発電規模を持つ大規模な太陽光発電システム。一般家庭の屋根に設置するパネルの100倍以上の発電規模を持つメガソーラーは主に産業用電力として使用されており、その面積はサッカー競技場の2倍(約2ヘクタール)以上になります。
 
日本でも太陽光発電は盛んですが、一般的にソーラーパネルの清掃はあまり行われていません。雨があまり降らない地域がソーラーパネル清掃のメインの市場です。なかでも中東地域では、輸出資源である石油を使わないクリーンな発電方法として太陽光発電が注目を集めており、2010年頃からアラブ首長国連邦などを中心に続々とメガソーラーが建設されています。
 
「日本ではソーラーパネルに積もった埃は雨水によって洗い流されますが、雨の少ない中東では掃除が欠かせません。1か月間パネルを放置すると発電量は約15%も低下してしまうため、これまでは定期的に人の手で掃除するのが一般的でした」
 
広大なメガソーラーのパネルを人の手ですべて掃除するのは、人員確保の面からも人件費の面からも現実的ではありません。ロボットがソーラーパネルを清掃することで、この課題を解決できないだろうか。窓拭きロボットの技術を活かして、屋根上設置パネル向けや地上設置メガソーラー向けなど、ソーラーパネルの大きさに応じた複数のモデルを自社開発してきました。
 
同社の挑戦は少しずつ話題を集め、2018年には四国電力やリアルテックファンドなどから約7億円の資金調達を実施。2020年にはドバイのメガソーラーへ導入を果たし、60台以上のロボットが数十万枚のソーラーパネルを清掃しています。
 
後発でイスラエルや中国の企業もソーラーパネル清掃ロボットの開発を始めており、ソーラーパネルの清掃市場は確実に形成されつつあります。


中東環境に最適な掃除機構、水掃除ではなくドライ掃除

メガソーラーで稼働する未来機械のソーラーパネル清掃ロボットType1
メガソーラーで稼働する未来機械のソーラーパネル清掃ロボットType1


未来機械のソーラーパネル清掃ロボットは、ソーラーパネルの端にロボットを置くだけで区画内のパネル上を自律的に走行し、掃除を行う仕組みです。センシングと自律制御の技術によってパネルとパネルの間にある段差や隙間を乗り越えることもできるため、複数のパネルが設置されたブロックの中をくまなく掃除できます。
 
他社のソーラーパネル清掃ロボットは、パネルに敷設されたレールの上を走行する機能しかもっておらず、持ち運びができないため、1ブロックあたりにロボットが1台必要になります。メガソーラー全体を清掃するためには相当の台数を導入しなければなりません。
 
一方、自由走行が可能な未来機械の清掃ロボットは、手で持ち運ぶことができ、清掃が終わったらロボットをほかのブロックに移し替えることができます。その作業だけを人が行えば、1台のロボットで多数のブロックの清掃が可能になります。そのため、清掃コストを他社製品の約半分以下にまで削減できるそうです。
 
他社と比べても唯一無二といえる独自性をもつ未来機械の清掃ロボットですが、開発の際に苦労した点もまさにそうした「前例がないこと」だと三宅氏は話します。
 
「私たちが開発を開始した時点では、そもそもソーラーパネル清掃ロボットという市場自体が存在しませんでした。参考にすべき先行製品が存在しない上に、顧客がどのようなスペックを求めているのかもわからず、すべてが手探り。太陽光発電を行う企業にヒアリングしながら、ロボットのコンセプトから設計まで、すべてをゼロから考えなければなりませんでした」
 
窓拭きロボットと大きく異なっていたのが、清掃機構です。窓拭きロボットは水拭きでしたが、ソーラーパネル清掃ロボットでは水を使用しません。ロボットの使用環境である中東では砂埃が多く、水拭きをすると汚れがさらに付着してしまうのです。砂の種類が地域によって違う点も考慮に入れなければなりません。
 
「最終的に、水を一切使わずブラシの回転のみを利用するドライ清掃を採用しました。ソーラーパネルの掃除は発電量を低下させないことが目的なので、窓拭きほどしっかりと綺麗にしなければならないわけではありません。それでも一定の清掃力をもち、なおかつパネルを傷つけないよう調整し、かつそのことを共同実験で証明するのは簡単ではなかったです。既存の掃除機のブラシをはじめ、あらゆる清掃器具をひたすら研究したこともありました」


前例がない新市場を開拓せよ、新しい発明は新しい市場で

未来機械のソーラーパネル清掃ロボットType4
未来機械のソーラーパネル清掃ロボットType4


未来機械は現在、中東の複数のメガソーラーへの清掃ロボット導入が控えています。三宅氏は15年以上にわたる会社経営を振り返り、躍進のキモは「新たなマーケットを開拓したこと」と話します。
 
「ロボットがもつ役割の一つに『人の作業を代替すること』があげられますが、現在のロボットができることには限りがあります。人の高度な作業を置き換えて収益化できる領域を見つけることは、我々のようなベンチャーにとっては決して簡単ではありません。であれば、既存の領域に挑戦するよりも、ゼロから市場をつくった方が効率的です」
 
新たなマーケットを切り開けたのは、海外の現場に注目できたことが大きな理由だと言います。三宅氏によれば、日本では不完全なものが受け入れられにくい空気があり、新たな発明を100%の完成度で仕上げなければ、なかなか世に出すことができません。
 
「一方、中国を筆頭とした海外では、とりあえず実装して徐々に完成度を高めることで、新たな発明を定着させる傾向にあります。新たな領域に挑戦したいなら、まず海外で実績をつくってから日本に逆輸入した方がいいかもしれませんね」
 
未来機械では、今後はソーラーパネル清掃ロボットの普及に尽力しつつ、新たな作業ロボットも発表していくとのこと。インフラ点検の現場などをターゲットに、すでに開発を進めているそうです。
 
「私が目指しているのは、人の作業が困難な屋外の現場でたくさんの様々なロボットが働いている、そんな光景を実現すること。今回の経験を活かして、なるべく早く次の新たな製品を世に送り出したいと考えています」
 


文/野口直希


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