「アフターコロナ」に向けた新たな社会づくりを探る(2) (1/3)

浅羽 登志也(株式会社情報工場 シニア・エディター)
浅羽 登志也
株式会社情報工場 シニア・エディター

緊急事態宣言と自粛要請により、日本の新型コロナウイルス新規感染者数はいったんは押さえ込まれた。だが宣言を解除し、経済活動が再開され、人々が以前と同じ行動様式に戻ると、大都市を中心に感染が再び広がり始めたようだ。今後は経済活動を止めることなく、コロナウイルスと共生する社会への転換が急がれるが、そのためにも、人間とウイルスの関係性、特に社会のあり方や人々の行動様式が感染症拡大に及ぼす影響のメカニズムとの関係をよく理解する必要がある。

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人類と共生してきたウイルスは、なぜ感染症をもたらす「悪者」になったのか

『ウイルスの意味論』
-生命の定義を超えた存在


山内 一也 著
みすず書房
2018/12 280p 2,800円(税別)


ここまで拡散した新型コロナウイルスとは「共存」するしかない

新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)に収束の気配が見えない。2020年6月末には、世界の累計感染者数が1,000万人を超えた。

ここまで拡散したウイルスの根絶は難しい。なお人類が過去に根絶できたウイルスは、天然痘と牛疫だけだ。

したがって今後は、ウイルスとの共存を模索するしかないだろう。そのためには、そもそも「ウイルスとは何か」を理解する必要がある。

本書『ウイルスの意味論』は、ウイルスというものに共通する生態や挙動、人類との関わりの歴史などを解説。著者の山内一也・東京大学名誉教授は、北里研究所などで50年以上ウイルス研究に携わってきたウイルス学の第一人者だ。


ヒトの生殖を助けてきたウイルス由来の遺伝子

本書によると、2003年に完了したヒトゲノム解読の結果、ヒトの遺伝子のおよそ半分が、ウイルスに由来していることがわかっている。つまりウイルスは、すでに過去数百万年から数千万年もの間、人類と平和共存してきているのだ。

どういうことかというと、ウイルスはヒトの細胞に寄生して増殖する。その際、自分の遺伝子を、ヒトの遺伝子の中に滑り込ませるウイルスが存在する。そして、その細胞が生殖細胞(精子や卵子)だった場合は、ウイルスの遺伝子が子孫に受け継がれていくことになる。

さらに、そもそも人間が子孫を残してこれたのは、ウイルスのおかげだという。

父親の遺伝形質を受け継いだ胎児は、母親の身体にとっては異物だ。ヒトの免疫機能では、異物が体内に侵入しようすると、リンパ球がそれを排除する。ということは、通常通りであれば胎児は排除されてしまう。

しかし、ここでウイルス由来の遺伝子が、胎盤内にタンパク質の膜を生成する。その膜が母親のリンパ球から胎児を守るのだ。

もっといえば、私たちの大腸内や皮膚の表面には数兆個から数千兆個ものウイルスが生息している。これらのほとんどは、健康維持や病気予防に役立つ可能性のあるものばかりだという。


都市集中によって増殖しやすくなったウイルスが禍いをもたらす

では、そんな人類に益をもたらすウイルスが、感染症を引き起こすようになったのはなぜだろうか。

山内氏は、人類が都市集中型の生活を送るようになり、ウイルスが過剰に増殖するようになったからだと、本書が発表された2018年の時点ですでに指摘していた。人口過密の都市社会は、人から人へ移動するウイルスにとって、増殖しやすい環境にあるのだ。

今回の新型コロナウイルスはとくに、現代の都市集中の環境に適応しており、そのために感染が拡大したと考えられる。


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