3Dプリンターの「限界」とそれを乗り越えようとする3つの取り組み〜樹脂3Dプリンター入門講座(10)

3Dプリンターは、自由自在な形状が実現できることや、従来の工法では複数の部品を組み合わせる必要があったパーツを一体で造形できるなど、さまざまな利点があります。
一方、「限界」もあります。どのようなものでしょうか。


▽樹脂3Dプリンター入門講座

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現在の3Dプリンターの「限界」

3Dプリンターの限界は以下です。
 
 ・大きさに制限がある。造形物の大きさは現在、最大で2m角程度
 ・造形に時間がかかり、生産数は射出成形には及ばない
 ・採用可能な材料が限定的である
 ・材料費が高めである
 ・従来加工法と比較すれば精度はよくない
 
 
少しずつ材料を積み上げ固化させていくため、どうしても造形スピードには限界があります。造形スピードについては、特に光造形系の装置では、1,000個程度の量産なら対応可能な造形スピードに対応する機種も登場していますが、やはり射出成形のように1万個レベルの量産となると厳しくなります。
 
また、大きな造形物を作るには、大きなワークと、大量な材料が必要です。また、上記の量産の話と同じで、生産性の問題もあります。仮に、ワークサイズが大きくできたとしても、材料費が安くなければ、到底現実的ではない価格の制作費用になってしまいますし、造形時間もたくさんかかってしまいます。
 
3Dプリンターで採用できる材料は、世の中のすべての材料というわけにはいきません。ハイエンドな機種を中心にして、採用できる材料の種類は増えてきていますが、射出成形や切削加工などと比べたら、まだまだ限定的です。材料の耐熱性や強度を備えた造形材料は高価で、工業用のエンジニアリングプラスチック以上に高くなります。
 
加工精度については、やはり1層1層積み上げるというプロセスであるため、いくら層を薄くしようとも、微細な筋ができます。積層跡を残さない造形法もありますが、それでもやはり射出成形や切削加工の部品のようにはいきません。


造形時間、生産数及び精度〜限界を乗り越えようとする取り組み①

もちろん、機械そのものの性能を高めたり、新しい造形材料を開発したりなど、メーカー各社が努力を続けています。装置や材料そのものの高度化というアプローチ以外で、限界を乗り越えようとする仕組みも開発されています。
 

1.3Dプリンターを何台もつなげる

生産性を高める工夫については、3Dプリンターを並列させて処理させるシステムが登場しています。発想は単純で、1台の生産性に限界があるというなら、たくさん装置を用意して、同時に生産すればいいわけです。
 
この実現には、まず1台1台の価格が安くなったことや、筐体サイズが小型化したことなどが寄与しています。かつてのように1台数千万円もするような装置を何台もというわけにはいきません。
 
さらに、装置同士が接続して連携していなければなりません。その点は、今日のソフトウェア制御やインターネットの技術が生きています。
 
制御ソフトがインターネット上で動けば、3Dプリンターをたくさん置く広いスペースを確保しなくてもよくなります。各地に点在している拠点の3Dプリンターを、インターネット経由で連携させればいいのです。例えば、各地の空いている装置を選定して生産にあてることで、生産数を効率よく増やすことも可能です。


2.加工技術を組み合わせる

複数の加工技術を組み合わせてものづくりを行う技術も発展しています。
 
金属の3Dプリンターでは、粉末焼結積層造形の3Dプリンターと、切削加工と複合させた装置があります。基本は積層で形状を作り上げ、精度が欲しいところには切削加工が施されるようになっています。「3Dプリンター複合機」などと呼ばれ、どちらかというとマシニングセンターなどの加工機の立ち位置に近い存在になります。樹脂を使うタイプの装置では現状、このような複合機は見られません。樹脂の造形物の場合は、別途、切削加工機で後加工をするのが普通です。
 
3Dプリンターで型を作り、それを射出成形やプレス成形で活用する方法もよく使われています。金型の代わりに樹脂型を用いることになるため、造形材料は耐熱性や硬度が要求されます。成形加工に耐え得る材料が扱えるレベルの3Dプリンターが必要になります。射出成型機については特別な仕様のものは必要ありません。
 
3Dプリンター製の型にする利点としては、まず設計者が設計をしたその場で型製作ができる点です。また型が樹脂であるため切削がしやすく、追加工が比較的楽に行えます。当然、金属性の型よりは耐久性は劣りますが、1つの型で1,000ショット程度は打てるようです。射出成形なので、一般的な工業材料が扱えます。また型自身も、金属と3Dプリンター製とを複合させて、型の耐久性の部分の課題をクリアする取り組みもはじまっています。


造形物の大きさ〜限界を乗り越えようとする取り組み②

例えば3Dプリンターで大きな部品を作りたい場合で、所有している装置の最大造形サイズが超えてしまうような場合には、パーツ分割して貼り合わせるしかありません。これでは部品に十分な強度が確保できない可能性があります。そうなると強度が必要な製品には適用できませんし、分割面を目立たないようにする工夫も必要になります。
 
産業向けの3Dプリンターの開発トレンドとしては、やはり「大型化」が目立ちます。大型化は、3Dプリンターユーザーからの要望が特に多いとも言われます。メートル単位の造形物が作れれば、大型装置の外装関連やフレーム関連、自動車部品、建築関係など、3Dプリンターの適用範囲がより広がることになります。
 
現状、市場に出ている製品においては、最大造形サイズ2m角程度のものが限界になっています。格段に造形サイズを大きくするということは、なかなかの難題であることがうかがえます。
 
装置自身の機構の大型化の課題もあります。造形サイズをフルに使うような造形は非常に時間がかかり、造形単価も100万円近くなります。そして積層ピッチも大きいなりに粗くなります。
 
特に自動車や航空機などは大型部品製造のニーズが高いため、シーメンスやGE、三菱重工といったメーカーが金属3Dプリンターの大型化に積極的に取り組んでいます。


材料の種類と材料費〜限界を乗り越えようとする取り組み③

3Dプリンターは一部の専業メーカーの独占的ともいえる市場が長く続いたことから、造形材料も装置の純正品を使うことが一般的で、過去には汎用材料があまり発展してきませんでした。
 
専業メーカーたちが所有していた3Dプリンターの主要特許の失効がきっかけでメーカーが多様化し、機種もたくさん増えた現在では、一般工業用プラスチックや金属材料を開発する材料メーカーによる汎用材料も増えてきました。一般の工業用プラスチックのペレットを使えるようにした装置も登場しているため、今後ますます、3Dプリンターの汎用材料は増えていくと見られます。汎用材料が増えるということは、価格競争が起こることにもなります。
 
HPは、紙を印刷するプリンターを長年開発してきましたが、3Dプリンター業界においては後発の企業です。同社の3Dプリンターで市場に出ている機種は、現状ではまだ同社が開発した純正材料しか使えないのですが、今は外部の材料メーカーとの協業を積極的に進めており、サードパーティー材料のバリエーションを増やしていく計画になっています。
 
HPとしては、同社が長年やってきたインクなどの消耗品と似たビジネス構造を作りたいという目論見があるようです。3Dプリンターの造形材料は、過去には専業メーカーの純正品が多く、材料に関する標準規格も特にありませんでした。そのため、かつて材料価格は一部の専業メーカーのコントロール下にもあるともいえる状況でした。そのような状況を変え、造形材料のコストを落としていくことを狙っているとのことです。



10回にわたって連載してきました「樹脂3Dプリンター入門講座」は今回が最終回になります。現在、3Dプリンターを取り巻く環境も日々変化しています。3Dプリンター入門プリンターによる医療製品の開発や、新しい生活様式の中で生きるための雑貨などの開発も盛んにおこなわれています。今後は、3Dプリンターのニーズや存在価値はますます高くなるのではないでしょうか。 社会的なブームとしては既に落ち着いている3Dプリンターですが、今後もその進化や発展に、大いに注目していきたいと思います。
 



著者:小林由美(こばやしゆみ)
エンジニア、⼤⼿メディアの製造業専⾨サイトのシニアエディターを経て、2019 年に株式会社プロノハーツに⼊社。現在は、広報、マーケティング、イベント企画、技術者コミュニティー運営など幅広く携わる。技術系ライターとしても活動。

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