大人向け付録のものづくりの原点~科学実験雑誌『大人の科学マガジン』から学ぶ(前編)

INTERVIEW

学研『大人の科学マガジン』
統括編集長/科学創造研究所所長
西村 俊之

テルミン、二眼レフカメラ、トイ・レコードメーカー……。学研の科学実験雑誌『大人の科学』は男女問わず人気です。かつて多くの小学生が楽しみにしていた付録つき雑誌『科学』と『学習』のように、大人が心を躍らせています。アイデアと独自性が詰まった付録を作りあげるまでの苦労やこだわりについて、大人の科学マガジン統括編集長で科学創造研究所所長の西村俊之氏に伺いました。

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お化けヒット付録「プラネタリウム」が誕生するまで

『大人の科学マガジン』は学研が2003年から刊行している付録つきの科学雑誌です。小学生向けに毎月刊行していた『科学』『学習』の読者である、かつての少年少女たちに喜んでもらおうと作られました。西村氏は、『4年の科学』『5年の科学』『6年の科学』の編集長、『大人の科学マガジン』では副編集長、編集長を歴任してきました。

取材は、東京都品川区の学研本社の地下1階で行われました。これまでの雑誌の付録がズラッと壁いっぱいに広がるショーケースに並んでいます。

『大人の科学マガジン』のラインナップをあげると、第1号のポンポン船ジェットボート、第2号の探偵スパイセット、第3号のピンホールカメラ現像セット、第4号の鉱石・ダイオード付きラジオキット……。最新の今年3月に発売されたトイ・レコードメーカーまで46冊に及んでいます。これまでの売り上げのベスト3は上位からプラネタリウム、テルミン、二眼レフカメラになります。


プラネタリウム、二眼レフカメラ(左から)など人気の付録を前にする西村俊之統括編集長
プラネタリウム、二眼レフカメラ(左から)など人気の付録を前にする西村俊之統括編集長


特に1位のプラネタリウム(ピンホール式プラネタリウム)は2005年に刊行され、50万部と爆発的に売れました。2013年には天の川も投影できる「新型ピンホール式プラネタリウム」が生まれ、2018年発売の旧版と新版の中間系の復刻版は今も売れ続けており、シリーズトータルで60万部を超えるお化けヒットになっています。

「『大人の科学マガジン』が始まる約2年前に、キットだけの製品版が始まりました。その当時、僕はまだ学年誌におり、おもしろいことを始めたなぁと見ていました。そこでちょうど、『4年の科学』でプラネタリウムの付録を作るときにお世話になった、プラネタリウム・クリエーターとして知られる大平貴之氏が開発・発明した光学式プラネタリウム・メガスターを『大人の科学』の当時の編集部に紹介したんです。恵比寿の専門学校の屋上にあるドームを借りて、そこにメガスターを持ってきてもらい、大人の科学にピッタリじゃないですかと紹介しました。自分が大人の科学に配属されて担当するとは、夢にも思っていませんでした」(西村氏、以下同)

(初代)プラネタリウムが誕生するまで約3年の年月がかかります。12面体のピンホール式であること、天井だけではなく壁にも星空を投影できること、肉眼では見えない7等星までもが、正確な座標データを基に投影されることです。その星の数は約1万個。恒星原板はPET素材にシルク印刷ですが、その精度を出すのに一苦労したそうです。改良版となる「新型」からは、天の川も再現できるようになりました。すべて大平氏が監修し、星のデータを制作しています。


人気のプラネタリウム。ピンホール式で室内にいて降ってくるような星空を楽しめる(提供:学研)
人気のプラネタリウム。ピンホール式で室内にいて降ってくるような星空を楽しめる(提供:学研)


「2005年は、プラネタリウム年でした。偶然が重なったのですが、大平さんが同じく監修したセガトイズの家庭用光学式プラネタリスム『ホームスター』が発売され、大平さんの半生を描いたテレビドラマも放映されました。歌手の大塚愛、BUMP OF CHICKENというバンドも『プラネタリウム』という楽曲をリリースしました」
 
ただ、マガジンが順調に売れ続け、大ヒットになったわけではありません。
2003年のスタートのとき、第1号は「そこそこ」(西村氏)売れましたが、2号目で伸び悩み、3号目の売れ行き次第では続けるかどうかを決めるという瀬戸際だったそうです。
原価率も関係します。

付録は自由度が高いプラスチックがメイン素材のため、毎回成形のための金型が必要になりますが、金型には数百万円のコストがかかり、初期のロットとしては最低でも4~5万個が必要になります。またコストとして大きいのはこの金型だけではなく、雑誌も100ページもあるため編集費や原稿料などが大きくかかります。

「幸い3号目が売れて、その後も売れたり売れなかったりを繰り返して、9号がプラネタリウムです。それがドカンと売れてくれました。かといって安泰というわけではなく、その後もテーマによっては売れたり売れなかったりするので、常に廃刊の危機と背中合わせです」と西村氏は明かします。


「テルミン」、発想の転換から課題を克服し製品化へ

第2位の人気のテルミンは、発明者たるロシアの物理学者レフ・テルミン博士の名前がついた世界最初の電子楽器です。本体から水平と垂直の2本のアンテナが伸びており、一方のアンテナが音程、もう一方が音量を操作するためのものです。手を近づけたり離したりすることで音の高さや大きさを変えて演奏します。

世界最初の電子楽器テルミンの付録(提供:学研)
世界最初の電子楽器テルミンの付録(提供:学研)


「テルミンは2002年ごろ、製品版での企画としてスタートしたものです。当時、テルミンの実物を入手するのも苦労しました。米国からテルミンのキットを輸入していた新宿の楽器店を探し当て、組み立て途中のテルミンを購入して構造を研究しました。アナログ回路に強い同僚に回路設計を依頼しましたが、音程用の回路と音量用の回路の干渉を消しきれず、しばらく開発が止まっていました。約5年後、当時の編集長がテルミンを企画したいと相談にきました」

編集長の提案は、テルミンの音量の調整をやめるということでした。2つの回路は干渉に行き詰っていたので、片方はやめて1つにしてしまうというのは「発想の転換」でした。それなら付録にできると、企画は走りだし、製品化にいたります。

『大人の科学マガジン』26号のミニエレキ。アンプとスピーカーも内蔵されている(提供:学研)
『大人の科学マガジン』26号のミニエレキ。アンプとスピーカーも内蔵されている(提供:学研)


「のちに2009年に発売したエレキギターのミニチュア版では弦の数を減らしました。テルミンから学んだ結果です」

テルミンは、演奏の点でハードルがありました。音程をとるのが難しく、音程を再現するのは至難の業なのです。
しかし、テルミニストから「正しい音程かどうかではなく、自分が出した音を基本の“ド”と考えればいい。合奏するのでなければ問題ない」と教えられ、「テルミンを演奏するハードルが一気に下がりました」と言う。



若い女性に響いた「小さな活版印刷機」とは

組み立て模型など男性のイメージが強い『大人の科学』ですが、20代~30代の女性にもっとも響いた付録が2017年の「小さな活版印刷機」です。

「世界の三大発明(羅針盤、火薬、印刷機)というのは付録にならないものかと考えたことがありました。しかし、火薬の使用は不可能だし、羅針盤も大人向け付録のイメージがわかない。グーテンベルクの活版印刷機は言ってみればプレス機です。活字に工夫すれば何とかなるかもと思って検討にとりかかったのが小さな活版印刷機です」
 
新聞の印刷などで使っているUV硬化樹脂でオフセット印刷用の版を作ることを考え、ドイツから輸入もしましたがコストの面で商品として成立しません。何年も眠っていた企画だったと言います。

ブレイクスルーは、ほしおさなえさんの小説『活版印刷三日月堂』だったといいます。小説の中にでてきた「手キン」とよばれる簡易な活版印刷機です。動きや機構もおもしろい、この仕組みの印刷機をミニチュアで再現することになります。

「一つのハンドルの動きでインクを練って活字に塗り、紙に写し取ります。無骨なデザインですが小さくなってかわいくなり、印刷のすべての構造と機構が組み込まれて小型化されています」

2017年12月に発売された小さな活版印刷機(提供:学研)
2017年12月に発売された小さな活版印刷機(提供:学研)


人気ベスト3の「二眼レフカメラ」も女性に人気でした。
「難しいのは、ヒットを狙って女性をターゲットに付録を作ると、従来の男性がメインの『大人の科学』ファンが離れてしまいます。こうして考えると迷路にはまってしまいます」と苦笑いします。

しかし、共通しているのは独自性、そして知る楽しみ。技術は進化していきますが、「ものづくり」というおもしろさは変わっていないのです。

文・人物写真/杉浦美香


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