半導体材料の開発動向とMOSトランジスタの進化~半導体入門講座(7)

半導体という言葉は、トランジスタの工業化が始まったころは、ゲルマニウム(Ge)やシリコン(Si)結晶といった材料そのものを指していましたが、今は集積回路(IC)や半導体デバイスのことをいうようになりました。今回は、シリコン(Si)から始まり青色LEDなどをつくる化合物半導体へと用途が広がる半導体材料の開発動向と、バイポーラ型からCMOSまでの集積回路(IC)の変遷をふまえたMOSトランジスタの進化についてご紹介します。

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バイポーラ型トランジスタで用いられる半導体結晶

半導体という言葉は、トランジスタの工業化が始まったころは、ゲルマニウム(Ge)やシリコン(Si)結晶のことを指したが、今は集積回路(Integrated Circuit:IC)や半導体デバイスのことを単に半導体というようになった。ここでは単に半導体という時は半導体デバイスや集積回路(IC)を指す。

ベル研究所がトランジスタを発明した時の半導体結晶はゲルマニウム(Ge)であり、1950年代〜1960年代はじめまではゲルマニウム(Ge)のバイポーラ型トランジスタが製品の主流だった。しかし、ゲルマニウム(Ge)は、高温に弱く、せいぜい70℃程度までしか使えなかった。このため150℃程度まで使えるシリコン(Si)に取って代わられた。以来、シリコン(Si)半導体が本流となり、半導体のことを単に「シリコン」ということもある。


青色LEDやパワー半導体で欠かせない化合物半導体

シリコン(Si)は現在でも主流ではあり、今後も主流になり続けるが、半導体はシリコン(Si)だけではない。ただ、半導体は元素の周期律表で4価の元素からなる、とすでに述べたが、レーザーや通信用の光ファイバーに使われる発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)用半導体には、ガリウムヒ素(GaAs)やインジウムリン(InP)などの化合物半導体材料が使われている。

ガリウムヒ素(GaAs)は、3価のガリウム(Ga)と5価のヒ素(As)を1対1で混ぜ合わせ、ちょうど4価になるように調整した半導体結晶である。シリコン(Si)よりももっと高温で使える上に、pn接合を作り電流を流すと光る。インジウムリン(InP)も同様に光る。ただし、赤外線の波長の光なので目には見えない。

目に見えるような光を出すためにはもっと短い波長の光を出すようにしなければならない。赤色や黄色、緑色の光は、ガリウムヒ素リン (GaAsP) 、アルミニウムガリウムヒ素(AlGaAs)、ガリウムリン(GaP)などの半導体材料で得られていたが、青色は長い間実現されなかった。1990年代になって日亜化学工業と名古屋大学/豊田合成が窒化ガリウム(GaN)半導体結晶を使った、実用的な青色LEDをほぼ同時に発明し、2014年にノーベル賞を受賞したことは記憶に新しい。

青色LEDは黄色い蛍光塗料をLEDチップの上に塗ることで、青い光と黄色い光で白色光を出すことができた。この白色LEDは照明にもなり、黄色の蛍光塗料の成分を微妙に変えることで明るい色やたそがれ時の色、ややピンクがかった色、暖色系など、職場や自宅などの環境に適した色や安らぎの色などを変えられるようにして照明産業に大きなインパクトを与えた。

もう一つ、注目を集めている化合物半導体はパワートランジスタとしての炭化ケイ素(SiC)と窒化ガリウム(GaN)トランジスタである。共に高温まで動作する上に、絶縁破壊電圧がシリコン(Si)よりも10倍高い。シリコン(Si)の大電力のパワートランジスタはIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)と呼ばれるMOS型トランジスタにバイポーラ動作を加えた大電力用のパワートランジスタが使われているが、高速動作に弱い、という弱点がある。

これに対して、炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)は高速動作が可能で、しかも高温で使えることで、周辺回路に使われるコイルとコンデンサを小型にできるため、電源やインバータ(直流/交流変換器)などの装置を小型にできる。将来の電気自動車の駆動部分を小型・軽量にできるため航行距離を長くできることが期待されている。


「バイポーラ型」で使われる論理回路から始まった〜 MOSトランジスタの進化①

話をシリコン(Si)に戻して、シリコン(Si)の集積回路(IC)は、当初バイポーラのTTL(Transistor-Transistor Logic)回路でANDやOR、XORやNOTなど論理回路を表現していた。論理回路が目指したのはコンピュータだった。コンピュータのCPU(Central Processing Unit、中央演算処理装置)にはTTLでALU(Arithmetic Logic Unit、算術演算論理装置)や、フリップフロップ回路でレジスタ(一時記憶)や小規模なメモリを構成した。半導体の大きな用途がコンピュータだった。

1970年にインテル社が4ビットのマイクロプロセッサと1KビットのメモリをシリコンゲートのMOS型トランジスタで作った時は、マイクロプロセッサよりもメモリが注目された。それまでは磁気によるコアメモリが主流だったが、速度が遅かったからだ。アクセス時間が速い半導体メモリはコンピュータ産業が採用し始めた。当時のマイクロプロセッサは、汎用電卓用の集積回路(IC)としての位置づけしかなかった。いわば、おもちゃに近かった。

1970年代はTTLで世界半導体の頂点に立っていたのはテキサス・インスツルメンツ(TI)社だった。TIは、汎用のTTLをコンピュータメーカーに納め、コンピュータメーカーはTTLでCPUボードを構成していた。

しかし、TTLではコンピュータの演算速度が不十分だったため、バイポーラ型トランジスタを使ったECL(Emitter-Coupled Logic、エミッタ結合論理)という基本ロジックを使った。ECLは一種の差動回路を基本とし、入力端子は二つあり、どちらかの入力に電流が流れると1、別の入力に電流が流れると0を表現していた。入力に加える電圧の差が小さくて済むため、高速に1と0を切り替えることができた。このためIBMのようなメインフレームコンピュータにはECLが採用されていた。

ただ、ECLは1でも0でも常時電流を流す論理回路だったため、消費電力は常に大きかった。このため多くのトランジスタを集積する集積回路(IC)の集積度を上げていくのには無理があった。


「n-MOS型」によって集積度の向上を実現〜MOSトランジスタの進化②

そこで集積度を上げる用途ではnチャンネルMOS回路が主流になっていった。例えば、集積度を上げたい半導体メモリは、nチャンネルMOSが主流になった。実は、インテルがDRAMメモリを発明した時は、1個のメモリセルには3個のトランジスタを使っていたが、現在のDRAMに使われている1トランジスタ/セルは、TIが発明した。

メモリは、DRAMが最初に開発され、インテルはSRAMや不揮発性のEPROMやEEPROMなども開発し、さまざまなメモリを模索し続けた。

動作速度の点では、pチャンネルMOSではなくnチャンネルMOSがメモリの主流になっていた。メモリはやがて1Kから4Kビット、16Kビットへと4倍ずつ集積度を上げてきた。インテルは、4ビットの4004から8ビットの8080、さらに16ビットの8086、80286へと進んだ。

IBMがPCに8086を採用するようになり、80286で多くのパソコンメーカーが採用するようになった。そして32ビットの386、さらに486、そしてPentiumプロセッサへとパソコン時代へと突入した。Pentium IIIころからパソコンだけではなく、サーバー向けにもItaniumプロセッサを提供するようになった。Pentium 4やXeon、Coreシリーズ、マルチコアなど進化を続け、今日の第10世代Core iシリーズへと進んできた。


Intel i486 SX (80486SX) プロセッサ
Intel i486 SX (80486SX) プロセッサ


メモリは、1985年ごろにフラッシュメモリが誕生した。それまでのEPROMは紫外線を当てなければ消去できなかった。またEEPROMはチップ面積が大きくなりすぎた。フラッシュメモリはEPROM並みのチップ面積で電気的に消去できるという画期的なメモリだった。当初はBIOSのメモリとしてNORフラッシュが使われたが、携帯電話や写真のメモリとして大容量が望まれるようになると、速度よりも容量が優先されNANDフラッシュが大きく成長した。


現在では省電力性に優れた「CMOS」が主流に〜MOSトランジスタの進化③

ロジック集積回路(IC)もメモリ集積回路(IC)もnチャンネルMOSが主流だったが、プロセッサが32ビットになり機能を豊富に集積するようになると、集積回路(IC)の持つ回路から出す熱が問題になってきた。nチャンネルMOS型トランジスタで作るANDやORなどの基本ロジックは0では電流が流れなくても1の状態では常に電流が流れていた。この電流による発熱が無駄になり、無駄な消費電力が発生していた。

そこで、0でも1でもどちらかの状態にいる時には電流が流れないCMOS(Complementary MOS)構成でロジック集積回路(IC)を組むようになった。CMOSとはnチャンネルMOS型トランジスタにpチャンネルトランジスタを直列に接続した構造を持つ。図1の上側のトランジスタがpチャンネルMOSで下側がnチャンネルMOSであり、共にドレイン端子を共通に持つ。


CMOSの基本構成
CMOSの基本構成


入力電圧Vinが0(接地)の時は、下のnチャンネルMOSには電流が流れず、上のpチャンネルMOSに電流が流れる。この結果、出力電圧Voutは電源電圧Vddになる。入力電圧が1の時は、下のnチャンネルMOSに電流が流れ,上のpチャンネルMOSには電流は流れない。この結果、出力電圧Voutはゼロになる。つまり、CMOS回路では1でも0でも電流は流れない。これがCMOSの最大の特長である。

ただし、1から0へ、あるいはその逆に切り替わるような遷移時には、電流が流れる。出力Voutの負荷はほとんどの場合、容量性であるため負荷にも電流は流れないが、切り替えるスイッチ状態が頻繁に行われるようになると電流は流れ続けることになる。つまりスイッチの頻度、すなわち周波数に比例して消費電流が増えていくという特性がある。

そこで、CMOS集積回路(IC)では、スイッチに相当するクロックの周波数を下げることで消費電力を抑えることができる。もちろん、クロック周波数が高ければ高いほど、処理性能は高くなる。そこで、大規模な集積回路(IC)では、よく使う回路はクロック周波数を上げ、時々しか使わない回路の周波数を下げる、といった工夫が行われている。

現在主流の集積回路(IC)は、CMOS回路を基本としている。マイクロプロセッサやメモリはもちろん、FPGA(後の回で紹介)などのロジック集積回路(IC)やアナログ集積回路(IC)でさえも基本素子にはCMOS回路を使っている。



著者:津⽥建二(つだ・けんじ)
技術ジャーナリスト。東京⼯業⼤学理学部応⽤物理学科卒業後、⽇本電気(NEC)⼊社、半導体デバイスの開発等に従事。のち、⽇経マグロウヒル社(現在⽇経BP 社)⼊社、「⽇経エレクトロニクス」、「⽇経マイクロデバイス」、英⽂誌「Nikkei Electronics Asia」編集記者、副編集⻑、シニアエディター、アジア部⻑、国際部⻑など歴任。


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