地域産業と人を結び活性化する「完全地産」の取り組みとは~伊那発デジタルものづくり(前編)

INTERVIEW

有限会社スワニー
代表取締役社長
橋爪 良博

国内の中小製造業は、顧客から依頼される仕事をこなすのが得意で、自ら新しい商品やサービスを開発して事業化することについては不得手であると言われてきました。しかし台湾、韓国、中国などアジア圏の製造業がかつての日本に匹敵する技術力をもちはじめていると言われる今、自社商品を企画・開発して事業化していく必要に迫られているのではないでしょうか。

中小製造業は、地元の行政や教育機関とも協力したりしながら、生き残りの道をそれぞれ模索している状況です。長野県伊那市でデジタルモールド(R)という新しい技術で地域にイノベーションを起こそうとしているスワニーの橋爪良博(はしづめ・よしひろ)社長に、お話を伺いました。

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伊那市企業が取り組む「完全地産」とは

有限会社スワニーの橋爪良博社長
有限会社スワニーの橋爪良博社長


伊那市は、伊那谷という長野県南部の盆地の北部に位置する地方都市です。アルプスの山々と天竜川に囲まれた自然が豊かな地域で稲作や耕作など農業が盛んである一方、その恵まれた環境から電子機器や精密機械、食品製造の企業が多数集まる工業地帯としての一面ももち「伊那テクノバレー」とも称されます。観光名所としては、コヒガンザクラという桜で知られる高遠城址公園が有名です。
 
そんな伊那市内の製造業も、他の地域と違わず国内のメーカーのグローバル化と共に産業の空洞化が進んできました。そんな中、「再びモノづくりを日本へ」「MADE IN JAPANの価値を再び高めたい」と、地元の産業を活性化することを目指し2013年に伊那市や商工会議所、地元企業が団結して立ち上げたのが「製造業ご当地お土産プロジェクト」です。
 
「従来の製造業のように、“お客さま仕事(下請け)”ばかりでは、取引先次第で経営自体が大きく左右されることにもなりかねません。そこで、地元企業それぞれがもつモノづくりの技術を活かし地域を盛り上げるお土産となる製品を自ら企画して作り、そこから仕事を広げていこうと「完全地産」の取り組みを開始しました」とスワニーの橋爪氏は言います。伊那にまつわる玩具やお菓子などさまざまな製品を企画、製造し販売してきました。
 
この取り組みのなかで最初に企画したのが、高遠城址公園のサクラをモチーフにした「花開くサクラコマ」と、伊那市のイメージキャラクター「イーナちゃん」を使用した玩具「とことこイーナちゃん」です。サクラコマは静止中にはつぼみの状態ですが、回転すると遠心力で花弁が開くというユニークなコマ。「サクラサク」ということで、桜の時期はもちろん、受験生や競技者にも高い人気を持つ製品です。

「完全地産 MADE IN INA」サイトの「花開くサクラコマ」
「完全地産 MADE IN INA」サイトの「花開くサクラコマ」


もう一つの「とことこイーナちゃん」は、電気部品などは使用せず振り子の原理だけを利用してキャラクターが坂道をとことこ歩くというかわいらしいものです。このようなユニークなお土産を企画して販売することで話題作りを行い、伊那市の製造業と観光業それぞれの活性化を支援しています。
 
さらにこのプロジェクトでは、伊那市民や地域の障がい者就労施設で働く人たちにも組み立てや梱包などの工程で協力してもらうことで伊那市内の活性化をするという一面ももっていました。その取り組みから生まれたのが「内職ワークスペース」です。

地方都市で特有の空洞化や高齢化という課題がありますが、伊那市もそれは同様です。そこで市内の商店街の空き店舗を活用し作業スペースを開設。そこに事前登録した伊那市に住む主婦や高齢者、障がい者が集まり、このプロジェクトの作業をみんなで行うのです。これなら雇用を生み出し、かつ空き店舗の活性にもなって一石二鳥です。
 
またこの事業に関連する取り組みとして、伊那市内の子どもたち向けにサクラコマなどの組み立てからパッケージングまでの工程を体験できるワークショップも開催。伊那市の製造業に興味をもってもらおうと、モノづくりの楽しさを存分に体感してもらえる機会も提供しています。
 
この取り組みの発案者、いわば“言い出しっぺ”であり、リーダーシップを取っているのが同じく伊那市内に拠点を置く設計会社、有限会社スワニーです。


内職ワークスペースの様子
内職ワークスペースの様子


スワニー、設計から加工まで一気通貫で行える集団

スワニーの3代目社長である橋爪氏は、伊那市で生まれ育ち、進学や就職で一時は県外に出ましたが、2010年に先代である父親が経営していた会社を継承しました。2代目である先代はスワニー精機製作所として大手メーカーの下請けとして弱電機器製造を主に手掛けていましたが、橋爪氏の継承を機に大きく事業変換、設計会社として受託設計や試作を主とするビジネスへとシフトしました。
 
現在のスワニーは、3D CAD設計などデジタルツールと従来工法とを駆使したモノづくりを得意としています。自社内には、3D CADや3Dモデリングソフトウェアのほか3Dスキャナや3Dプリンターなどのデジタルツール、射出成形機、切削加工機などの加工設備をひととおり備え、設計から試作、オンデマンドや小ロット生産まで社内で迅速かつ一気通貫で対応できるようになっています。
 
社内の設計スタッフはもちろん、橋爪氏も机上の設計業務だけではなく、自ら手を動かして試作品や金型、成形などモノづくりを行います。新しく入社してきたスタッフには、「たくさん失敗を繰り返し実際に経験しながら、仕事を覚えてもらう」と橋爪氏。CAD画面というバーチャルな空間に向かうだけではなく、実際にモノをどんどん作らせる方が、設計の上達も格段に早いと言います。
 
かく言う橋爪氏自身も、さまざまな実体験を通じてスキルを身に付けてきました。スワニーを継ぐ前、機械設計者でありながら、射出成形や金型設計も経験しています。メーカーに勤めていた時代には、「とにかく、首を突っ込めるところは、突っ込んで挑戦した」と言います。
 
実際にスワニーでは、設計から部品加工まで一気通貫で行える人材が多く育っています。興味深いのはこういった現場にいるスタッフは、もともとは営業、CADトレーサー、漫画家などそのバックグラウンドは本当に多様で、設計未経験から設計を始めた人も多いとのことです。
 
スワニーはその他、日本全国の製造業が小さなケンカコマで競う大会「全日本製造業コマ大戦」への参戦や、様々なパートナー企業との連携などの取り組みを通じて、長野県内・外との製造業との交流も積極的に行い、日々、日本製造業の活性化に向けた活動にも取り組んでいます。


デジタルモールド技術で設計から成形までをスピーディーに

デジタルモールドによってつくられた臓器モデル
デジタルモールドによってつくられた臓器モデル


こうして事業転換をしてきたスワニーも、社内の仕事の多くが顧客から依頼される受託仕事が大部分を占めており、自社独自のサービスや製品を模索してきたと言います。そんな中で生まれたものの一つが「デジタルモールド」であり、自社がもともと所有していた3Dプリンターと自社のノウハウを活かして開発をしてきたスワニーの特許技術です。
 
デジタルモールドとは、3Dプリンター製の樹脂型を用いて射出成形や金属プレスを行うという技術です。そこで、なぜ樹脂製の型が射出成形機で使えるのかという疑問をもつ方は多いでしょう。デジタルモールドは、ABS樹脂の機械的特性を模した高耐熱性の紫外線硬化樹脂を用いて3Dプリンターで造形しています。この材料は、成形材料として使用されるのは熱可塑性樹脂のように熱で溶解しないという特質があるため、熱で溶解した熱可塑性樹脂が樹脂型の中に流れ込んでも溶解することがないというのが理由です。
 
デジタルモールドの大きなメリットはそのスピードです。製品の設計データが完成すれば、すぐに型設計に取り掛かり、3Dプリンターでその日のうちに金型の製作、成形までを行うことができます。かつスワニー独自のコンパクトモールドシステムを活用することで、コストも大幅に抑えて量産材料で成形を行うことが可能です。
 
例えば、スワニーに訪れる外部からのお客は、訪問当日朝から設計を始めて型製作してさらに成形まで行い、夕方帰途につくときには10個程度の部品をもち帰ることがあるそうです。また「3D CADで機械設計ができる人であれば、使ってもらいながらレクチャーをすれば問題なく使えるようになる」と橋爪氏は話します。
 
また、3Dプリンターでは透明材料を使用することもできます。型部を透過(透明)部材で作ることも可能なので、材料が射出されて固化する様子を観察することも可能だそうで、射出成形をよく知らない人には良い教材になるとのことです。
 
3Dプリンターとその樹脂材料特有のデメリットももちろんあります。例えば積層跡や精度などの課題があります。これについては、ケミカルウッドや樹脂を削る卓上切削機でも表面加工を施すことで切削品質に近づけることができます。また、当然金属の金型よりは強度や耐久性は劣るため、通常の量産型のように何千、何万ショットと打てるわけではありません。
 
それでも形状や使用する量産材料によっては数百〜1,000ショット程度まで成形することは可能です。スピーディに小ロットで、量産材料での試作や生産を可能にするというニーズにおいては、大きな価値をもたらします。
 

地元の大学でデジタルモールドを実践しものづくり人材を育成

スワニーは人材育成という面でも、デジタルモールドを通じて活動を行っています。地元の南信工科短期大学の学生たち向けに、デジタルモールドを使った射出成形についての講義やワークショップを開催し、射出成形の工程を学ぶ機会も提供しています。こういった取り組みを通じ、2017年には同校ではデジタルモールドを取り入れたカリキュラムも世界で初めて導入されました。
 
射出成形を体験して覚えた卒業生たちが地元のメーカーに入社すると、「モノづくりのスキルの高さに現場の人たちが驚いています」と橋爪氏は言います。3D CADでの設計製図の他、金型や射出成形のことまで身につけている新卒社員はそうそういません。やはり机上の勉強だけではなく、時には失敗も繰り返しながら「楽しく実践する」ことがスキル習得の近道だといえます。こういった人材育成ツールとしても、デジタルモールドは最適なのです。
 
デジタルモールドは、設計者にとって使い勝手が良く効率的な設計・生産支援に関連するサービスとして提供していますが、スワニーの自社製品づくりでも活用されています。前述での製造業ご当地お土産プロジェクトから生まれた製品の試作や製造にも活かされ、カタチになったこれらの製品は自社のECサイトで販売しています。
 
必要な量だけ必要な時に迅速にカタチにする。大量生産のように在庫や流通のリスクを払拭することができるため、本業の設計業を圧迫せず、無理なくマイペースに独自製品の販売を実現できる仕組みになっています。最近では、新型コロナウイルスの感染症対策問題を受け、作業用フェイスシールドやマスクストラップなども自社で企画・製造し、販売しています。
 
このように製造シーンで幅広く活用されているデジタルモールド技術は、さらに医療業界でも活用され始めています。それがデジタルモールドの特性とスワニーのデジタル技術、さらには地元企業の持つ技術を活かし臓器模型を製作するという「デジタルモールド・メディカル」です。
 
自社の技術を活かす新たなニーズを模索する中でスワニーが出会ったのが、同社のほど近くにある伊那食品工業と伊那中央病院でした。次回は、スワニーと異業種企業との連携による臓器模型製作の取り組みについてご紹介します。
  

文/小林由美
エンジニア、⼤⼿メディアの製造業専⾨サイトのシニアエディターを経て、2019 年に株式会社プロノハーツに⼊社。現在は、広報、マーケティング、イベント企画、技術者コミュニティー運営など幅広く携わる。技術系ライターとしても活動。
  


参考情報
・デジタルモールドは、有限会社スワニーの登録商標です。


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