3Dプリンターの装置だけではなく、3Dプリンターで使える材料も日々進化し、種類もどんどん増え、機械特性も高度なものが登場しています。ただし造形手法により、材料のバリエーションは異なってきます。ここではFDM(熱溶解積層)と粉末焼結積層造形の3Dプリンターで、かつ装置を限定せず使える汎用材料の開発動向を紹介していきます。
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造形の難しさを解消するFDM向け新材料とは

FDMは熱可塑性樹脂を扱うことから、装置純正のもの以外にも、汎用材料が多く流通しています。また材料メーカーの新たな参入も目立つ分野です。
理論的には、材料が熱で溶解できて、かつ細いノズルを通過でき、ワーク上に乗った場合に自然放熱で固化できるものであれば、造形材料としてなんでも使えます。しかし、造形がうまくできるかどうかは別の話になります。
造形の難易度は、材料が固化した時の収縮率の大きさが影響します。収縮率の大きな素材は造形が難しいと言えます。また、射出成形でよく使われるガラス繊維など混ぜた材料は、FDMでの造形はリスクがあります。ノズルを詰まらせたり、傷つけたりする原因になるためです。
こうした問題をクリアするため、従来は機器側で解決するしかありませんでした。素材の収縮率や特性を計算に入れながら造形することが重要で、従来、完成品を図面通りに作るためには、装置の制御技術によるところが大きいというのが現実でした。
しかし昨今、こうした問題を解決するために、改良された新材料が発売されてきています。どのような材料があるのか見ていきましょう。
ポチコン(R)、反りが少なく優れた剛性あり
大塚化学は、チタン酸カリウム繊維の「ティスモ」を配合させた「ポチコン」という樹脂複合材料を用いたフィラメントを開発しました。結晶性の造形の反りを軽減することに成功しています。また、ティスモがとても極小な繊維のためノズルを詰まらせたり、傷つけたりしづらくなっているとのことです。その上、ポチコンには優れた剛性も備えます。ベース樹脂としては、PEEK(Poly Ether Ether Ketone)やPPS(Poly Phenylene Sulfide Resin)、植物由来ポリアミドがあります。
テラマック(R)、折れづらく透明度が高いPLA
FDMの廉価な装置で、PLA(ポリ乳酸)がよく使われます。比較的安全性が高く、造形がしやすく、「3Dプリンターの初心者向け」とよく言われる材料です。しかし、折れやすいという弱点がありました。また材料色は半透明で、透明度はそれほど高くありませんでした。
ユニチカのバイオマス素材「テラマック」を使ったPLAフィラメントは透明度が高く、折れにくくなっています。その上、有害な重金属類を含まず、さらに人体に無害であるとしています。例えば子どもが手に触れる可能性があるおもちゃなどには有効でしょう。

提供:ユニチカ
テナック(R)、添加剤含まず食品加工工程にも使えるPOM
POM(ポリアセタール)は強度が高く、摩耗にも強い材料です。工業部品や治具ではとても多用される材料です。しかし、FDMでの造形に使うには難しいと言われてきました。
そうした中、旭化成はFDMにも対応する独自のPOM製品「テナック」を使ったフィラメントを開発しています。このフィラメントには添加剤を含まないため、食品加工工程にも使えるとのこと。ただし武藤工業の「MF-2500EP II」専用になります。融点の高いPOMを溶解させるため、装置が高温に耐えられるヘッドを備えています。
3D magic、収縮率を抑えたPP
ナノダックスは、POMと同様にFDMでは扱うことが難しいとされてきたPPのフィラメントの開発に成功しています。ナノダックスの「3D magic」は、PP(ポリプロピレン)に柔軟で極細なグラスウール製の樹脂強化フィラーを混ぜ込んで収縮率をおさえるということです。
HPフィラメント(R)、低価FDM機でも使用可能な軟質材のフィラメント
ホッティーポリマーはFDM向けに軟質フィラメントの「HPフィラメント」を開発しています。造形前のフィラメントは剛性が高くて芯(しん)があり、縦方向に伸びにくくなっています。FDMでは安定した造形が難しいとされた軟質材料の造形で品質が高められるようになりました。ホッティーポリマーはフィラメント供給用チューブも製作しています。
軟質な材料は高級なFDM機でないと使えませんでしたが、こちらは安い装置でも安定した造形が可能です。
導電性樹脂のフィラメントを複数社が開発
樹脂は普通、導電性がありません。工業向けプラスチックでは、導電性を付加した材料が登場していますが、FDMのフィラメントにもあります。超電導素材のグラフェンやカーボン、ポリウレタンベースの素材など、各社が開発しています。電気を通す特性を使って導電体を作って、さまざまな電気部品が作れます。
MOWIFLEX(R)、水溶性のサポートフィラメント
クラレは、生分解性と水溶性を特徴とするポリビニルアルコール(PVOH、ポバール)樹脂「MOWIFLEX」のフィラメントを開発しています。こちらはFDMのサポート向けの材料です。PLA、PA(ポリアミド)、PVB(ポリビニルブチラール)、TPU(熱可塑性ポリウレタン)などの材料の接着性を向上させたということです。
水溶性のサポートはバケツを張った水に付けるだけではがせるため、除去が容易です。MOWIFLEXのサポートは空気中では湿気が吸いづらく、冷水の中では溶けやすくなっています。
造形材料とサポート材料は別々のノズルか出さないといけないので、装置側に2つ以上のノズルがないとサポート材料は使えません。
粉末焼結積層造形向け樹脂材料の多様化
従来の粉末焼結積層造形は、樹脂材料のバリエーションがあまり多くありませんでした。それが最近は、いろいろな樹脂が使えるようになってきています。
Windform(R) FR2、難燃性・絶縁性を備えたカーボン複合材
イタリアの材料メーカーであるCRP Technologyは、粉末焼結積層向け材料として、難燃性のカーボン複合材「Windform FR2」を開発しました。さらに絶縁性も備えています。材料色はオフホワイトです。航空宇宙系や自動車などの分野の部品に適しています。

提供:CRP Technology
トレミル(R)PPS、粉末焼結積層造形ができるPPS
粉末焼結積層造形の樹脂材料といえば、従来はナイロンだけでした。しかしナイロンは耐熱性や強度に課題がありました。東レは3Dプリンター向けのPPSの粉末材料「トレミルPPS」を開発しています。
PPSは強度が高く、耐熱性や耐薬品性、難燃性に優れた素材です。航空・宇宙や自動車関連の、金属部品の代替としても有効であるとしています。
エンプラファインパウダー、パウダー化したエンプラ
ポリプラスチックスは粉末焼結積層造形の材料としても使えるパウダー化したエンジニアリングプラスチック「エンプラファインパウダー」を開発しました。従来、成形前のエンジニアリングプラスチックはペレット状態であり、強度の高さから粉末化は困難とされてきました。
同社では既に、「ジュラコン(R)POM(アセタールコポリマー)」、「ジュラネックス(R)PBT(ポリブチレンテレフタレート)」、「ジュラファイド(R)PPS(ポリフェニレンサルファイド)」、「ラペロス(R)LCP(液晶ポリマー)」、「トパスCOC(環状オレフィンコポリマー)」の粉末化に成功しているとのことです。
著者:小林由美(こばやしゆみ)
エンジニア、⼤⼿メディアの製造業専⾨サイトのシニアエディターを経て、2019 年に株式会社プロノハーツに⼊社。現在は、広報、マーケティング、イベント企画、技術者コミュニティー運営など幅広く携わる。技術系ライターとしても活動。
参考情報
・ポチコンは、大塚化学株式会社の登録商標です。
・テラマックは、ユニチカ株式会社の登録商標です。
・テナックは、旭化成株式会社の登録商標です。
・HPフィラメントは、ホッティーポリマー株式会社の登録商標です。
・MOWIFLEXは、株式会社クラレの登録商標です。
・Windform は、CRP Technologyの登録商標です。
・トレミルは、東レの登録商標です。
・ジュラコンは、ポリプラスチックスの登録商標です。
・ジュラネックスは、ポリプラスチックスの登録商標です。
・ジュラファイドは、ポリプラスチックスの登録商標です。
・ラペロスは、ポリプラスチックスの登録商標です。
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