量産試作のための基礎知識(2)~正解はひとつでない、試作における最適な加工方法

前回は、製品の量産前に行う試作には大きく分けて3段階の工程があると説明しました(以下)。
  
  ・段階1. 「原理試作」
  ・段階2. 「デザイン試作」
  ・段階3. 「量産前試作」
  
今回は、試作でよく使われる加工方法について解説します。その前に……、ちょっと考えてみていただきたいことがあります。

▽量産試作のための基礎知識

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CAE、解析シミュレーションの利点とその限界

3D CADはいまや無料でも利用できる時代です。さらにCAE(Computer Aided Engineering)、いわゆる解析シミュレーションの進化は著しく、最近は低価格なCAEソフトウェアまで登場しています。画面上で仮想的なテストをすることのハードルはかなり低くなったといえます。
  
モノを一切作らずに、コンピュータの中のシミュレーションですべてクリアできるのは理想かもしれません。しかしながら現実には、それで量産を行うことには高いリスクがあります。動作のシミュレーションできれいに動いていたモノが、実際に作ってみたらうまく動かないということも、実はよくあります。また「思ったより大きい」「思ったより硬い」といった数値と人の感覚のズレ、組み立ててみたら「非常に組み立てづらい」「メンテナンス性が悪い」など生産性の悪さなども、やはり実際にモノを作ってみないと判断できないこともあります。
  
もちろんシミュレーションを否定しているわけではありません。むしろコスト削減や、製造リスクの軽減などの視点から、シミュレーションの活用は有効なのです。十分なシミュレーションをこなした上で、試作をしていくことで、試作回数を減らしてコストダウンするといったやり方も可能です。


試作といえば3Dプリンター、そのメリットとデメリット

「試作」というと、真先に浮かぶのは3Dプリンターだという人もいるでしょう。実際問題、3Dプリンターの存在は、今やモノを作る過程で欠かすことのできない存在かもしれません。3Dプリンターの代表的な造形手法として、「素材を一層ずつ積み上げていくタイプ」と「素材を必要な部分だけ硬化させていくタイプ」があります。それぞれ次のような方式があります。


  ・「素材を一層ずつ積み上げていくタイプ」:熱溶解積層法(FDM方式)、インクジェット法など
  ・「素材を必要な部分だけ硬化させていくタイプ」:光造形法、粉末焼結法、粉末固着法など

<図1>3Dプリンターの体表的な造形手法、左側が素材を一層ずつ積み上げていくタイプ、右側が素材を必要な部分だけ硬化させていくタイプ
<図1>3Dプリンターの体表的な造形手法、左側が素材を一層ずつ積み上げていくタイプ、右側が素材を必要な部分だけ硬化させていくタイプ



特に熱可塑性樹脂を積層していくタイプのFDM方式3Dプリンターは3万円以下という非常に低価格で入手することができるようになりました。最近は、値段の割にはよい精度で出力できる装置が増えました。
  
UVレジン(紫外線硬化樹脂)に紫外線を照射し、必要な形状に硬化させる光造形方式の3Dプリンターはかつて高価でしたが、最近では非常に低価格な装置が登場しました。
  
上記のいずれのタイプも、ネット通販で気軽に購入できるようになりました。たとえ3Dプリンター本体がない場合でも、3Dデータさえ用意できれば、出力(プリント、造形)を請け負ってくれるサービスもあります。
  
3Dプリンターを使うためには、3Dデータが必要で、それを用意するためには3D CADや3D CGソフトが使えなければいけません。そのようなソフトウェアも低価格で、かつ操作習得も簡単になってきており、3Dプリンターに対するハードルは非常に下がったといえます。
  
では、試作といえば、「3Dプリンター一択」なのかといえば、決してそんなことはありません。3Dプリンターには欠点がたくさんあります。例えばFDM方式の場合だと、樹脂を一層ずつ重ねていくため、以下のようなデメリットがあります。
  
  ・製作に時間がかかる
  ・高い寸法精度が出せない
  ・あまり強度がない
  
これらの欠点を承知のうえで、3Dプリンターを使用するのか? それとも別の方法で試作を進めるのか? よく検討して選択する必要があります。


3Dプリンター以外の試作方法

3Dプリンター以外の試作の方法は、非常に多岐にわたります。皆さんにシンプルにお伝えするために、ここでは多少強引なまとめ方をしてしまいますが、以下のように3つに分類できます。
  
  ・切る、貼る
  ・削る
  ・溶かす、固める

切る・貼る:レーザーカッター、カッター

「切って、貼る」は一番アナログですが間違いなく一番手軽な方法です。例えば、リンク機構の動きだけを見る場合であれば、わざわざ時間をかけて3Dプリンターを使う必要がないのです。レーザーカッターなどで板材をカットして製作した方がはるかに安くてすみます。レーザーカッターが使用できる環境になければ、厚紙をはさみやカッターなどでカットして組み立てても十分である場合もあります。


<図2>リンク機構の例
<図2>リンク機構の例



削る:切削加工

形状によっては3Dプリンターによる「積層」で作るより「削る」方が早い場合があります。例えば、板材やブロックに穴や単純な溝が1つ開いているだけのような形状であれば、3Dプリンターで積層するより、板材を購入して切削加工をした方がはるかに速いです。
  
また、試作品で強度試験などを行う場合は、削って製作する方が一般的です。積層造形で作る3Dプリンターは強度的に弱くなるため向いていません。


溶かす・固める:成形加工

3Dプリンターも「溶かす、固める」方法であるのですが……。それとはほかの方法として型を製作して成形する方法があります。
  
型に関しては射出成形が最も一般的ですが、ほかにも真空注型やブロー成形、回転成形などさまざまな方法があり、試作に限らず量産(最終製品)でも使われる加工方法です。
  
量産で、金型を作って射出成形することを想定している場合、量産に限りなく近い条件で、量産前の最終試作を行うことで、量産本番での失敗をなくします。
  
ここでは本番の型とは違う、試作型を製作します。試作型の作り方は、構造や型材料などを工夫して、低価格になるようにします。とはいえ、金型ですので、ほかの試作方法と比べれば、当然、コストは非常にかかります。しかし最終確認の試作においては、量産に限りなく近い条件で試作することに大きな意味があります。それ以前に、ほかの加工方法による試作で洗い出せる課題をつぶしておくようにするのです。
  
また、サイズの大きな製品の場合は、3Dプリンターでは時間もコストもたくさんかかってしまいます。そのような場合、真空成形で成形を行う場合もあります。真空成形はプラスチックシートを加熱して軟化させ、それを型に密着させて成形する方法のことです。シートから形状を出すため、表裏同じ形状になってしまいます。射出成形型が上下型必要なのに対して、真空成形型は片面のみを用意すればいいので、安くすみます。



<図3>真空成形の流れ
<図3>真空成形の流れ


試作においてどのような加工方法が最適なのかといえば、正解は1つではありません。形状や用途、コスト、工期など、さまざまな要因から、最適な方法を選択する必要があります。そのためには「どのような方法があるのか?」「それはどのようなメリットやデメリットがあるのか?」など把握しておくことが必要です。
  
おもちゃの組み立てブロックなど、身近なものを使用して試作をする方法もあります。特に初期の原理試作段階ではこれで十分な場合が結構あります。
  


  
文/落合孝明
大学卒業後、2年間の会社勤めを経て、モールドテックに入社。2010年から同社の代表取締役に就任。現在に至る。樹脂およびダイカスト金型の設計を軸に、製品の企画・デザインから手配まで一貫して請け負う。著書に、「金型設計者1年目の教科書」「すぐに使える射出成形金型設計者のための公式・ポイント集」(日刊工業新聞社刊)がある。


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