低コストと高性能を両立!軽量透明断熱材のエアロゲルはいかにして生まれたのか?

INTERVIEW

ティエムファクトリ株式会社
代表取締役
山地 正洋

ティエムファクトリは、京都大学との共同研究で生み出したモノリスエアロゲルを「SUFA(R)(=Super Functional Air)」と名付け、現在、量産化に取り組んでいます。先日(2020年5月15日発表)、6.7億円の資金調達を実施するなど、注目度も上がってきています。
 
なぜ、ティエムファクトリは世界初の技術を発明することができたのか。また、SUFAの可能性をどう考えているのでしょうか? ティエムファクトリ株式会社 代表取締役の山地正洋(やまじ・まさひろ)氏に話を聞きました。


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 エアロゲルの作製には高価な装置が必要で現実的なコストでの生産が不可能だった

ティエムファクトリ株式会社 代表取締役の山地正洋氏
ティエムファクトリ株式会社 代表取締役の山地正洋氏


エアロゲルがこの世で初めて作製されたのは、今から80年以上前。1931年にスティーブン・キスラーによって発明されました。エアロゲルとは、「超臨界乾燥法」という高温高圧の特殊な流体によって溶媒を取り除き乾燥体となったゲルのことを指します。多孔性の材料で内部の空気の熱伝導が起きにくい構造のため、高い断熱効果を持つことが特長です。
 
また、成分の90%以上が空気で構成されていることから、「空気を固体にしたもの」「凍った煙」と言われています。1990年代にNASA(アメリカ航空宇宙局)が宇宙用途で実用化に成功したものの、それから30年近く経った今でもエアロゲルは一般の市場には出回らず、なかなか普及が進んでいません。その背景にはあるのが、コストの高さです。
 
なぜなら、エアロゲルは「超臨界乾燥装置」という高価な装置を用いなければ作製することができなかったため、 現実的なコストで生産できずにいました。実際、これまでに世界中で数十社のエアロゲルメーカーが設立されていますが、いずれのメーカーも高透明度で大きなエアロゲルは作製できず、パウダータイプや、二次加工品のみに限定されています。
 
そのため、省エネによるCO 2削減が世界的に求められているにもかかわらず、窓などの透明部分の断熱には真空ガラスや不活性ガス封入技術を用いるしかなく、世界で最も使われている断熱材は「グラスウール」となっているのです。


事業化への課題である強度を分子レベルの制御で克服

SUFAのサンプル。透明度が高く、空気のように軽い
SUFAのサンプル。透明度が高く、空気のように軽い


そうした中「これは世に出るべき素材だ」とエアロゲルに強い可能性を感じていたのが山地氏でした。もともと山地氏は京都大学でレーザーに関連する研究に従事していた人物ですが、研究の過程でエアロゲルに触れる機会があり、そこで素材の素晴らしさを感じました。一方で事業化するにあたってはある課題がありました。それが「強度」です。
 
「一般的にエアロゲルは少しでも曲げると割れる。研究室レベルでは強度よりも断熱性向上が最大のテーマですが、それでは建材としては使えません」(山地氏、以下同)
 
そこでティエムファクトリは、京都大学大学院の中西和樹准教授が開発したエアロゲルを超臨界ではなく「常圧」で乾かせる製法をもとに分子のネットワーク構造の制御を行い、構造の骨格柔軟性を向上させることで現実的なコストでモノリス(板状)のエアロゲルを生産できる技術を共同で開発しました。
 
ティエムファクトリは、このエアロゲルを「SUFA」と命名。ほぼ透明で、モノリスのエアロゲルを生産できる技術を保有するのは同社のみです。SUFAは生産コストを従来の1/60まで抑えることができるほか、断熱性や透明度、強度にも優れています。
 
実際、SUFAの熱伝導率はモノリスタイプで0.012W/m・K 程度と大変低く、断熱材としての性能は世界最高レベルです。
 
「また、SUFAはグラスウールの約3倍の断熱性能をもっています。従来の断熱性能を実現するための断熱材の厚さが1/3で済むため、ガラスにサンドイッチするだけでトリプルガラス以上の性能が得られます。超撥水性も特徴の一つで、水の接触角も140°となっており、水分によって断熱性能が劣化するといった問題も起きません」


自社の研究開発拠点を持つまで成長

2012年に創業したティエムファクトリは、2014年度には国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業である「スタートアップイノベーター(SUI)」に440社の中から選出されました。
 
年間数千万円の活動資金の提供のほか、著名な起業家のメンタリングによって山地氏はビジネスモデルをブラッシュアップし、知的財産権の確立などを行っていきました。
 
そして2017年4月には、YKK APとの協業を開始し、SUFAを使った窓ガラスの製品開発にも着手。2020年に発売予定のAIや顔認証システムを搭載した未来ドア「UPDATE GATE」の両袖部FIXガラス「断熱材エアロゲル入り高性能トリプルガラス」にはSUFAが採用されています。
 
「ただ単に素材を世に出すことがティエムファクトリの役割ではありません。断熱材メーカーというよりは、断熱ソリューションを提供する会社。SUFAを使って断熱をすると、どれだけの省エネ効果があるのかをいろんな企業に提案したいと思っていますし、実際に最終製品を開発するのも可能性としてあると思います。断熱は消費者には伝わりにくいので、モノとしてではなくコトとして提供しなきゃいけないと考えています」
 
現在SUFAには、モノリス(板状)タイプ、パウダー(粉状)タイプ、ブランケット(布状)タイプの3種類があります。ただしこれまでエアロゲルは大判の板が作れなかったため、主にパウダータイプを販売してきました。
 
そうした中、ティエムファクトリはSUFAの研究開発および、モノリスタイプの量産化に向けた研究環境の強化を図るべく、先日総額6.7億円の資金調達を実施。2020年4月28日には、SUFA モノリス(板状)に関する研究開発機能が集約された、「茨城ATC(エアロゲルテクノロジーセンター)」の建設が完了し、事業全体のスピードを加速させていこうとしています。


幅広い分野での活用を期待、サステナブルな社会実現への大きな意義を持って

SUFAはグラスウールの約3倍の断熱性能をもつ
SUFAはグラスウールの約3倍の断熱性能をもつ


モノリスタイプのSUFAは、現時点の設備で、最大300x300x10mmまで作製することができます。
 
「SUFAは家や自動車、家電など本当に幅広い用途で使えるので、量産化技術が確立され市場に出ればいろんな分野で省エネ効果が生まれる。貢献できる部分は大きいと思います。日本もCO 2の削減目標がある中で今後、家の基準も厳格化されますし、建築基準法も改正されるので断熱のニーズが増える。また電気自動車での活用も増えるはずです」
 
また、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、多くの企業がリモートワークを推進したことで在宅時間が増加。家の空間を快適にしよう、と考える人も多くなっています。
 
「新型コロナウイルスが引き起こした大きな変化は、会社にとって大きなチャンスだと思っています。在宅しやすい家も今後求められてくると思っているので、この騒動が落ち着いた頃には具体的な提案ができるようになっていたいですね」
 
モノリスタイプのSUFAはガラスや家、自動車のほか、スマートフォンやスマートウォッチのデバイス系、冷蔵庫、オーブンレンジなどの家電などでの活用が見込まれます。
 
「ほとんどの物に何らかの形で断熱材が使われています。高性能な断熱材を開発することであらゆる場面でのエネルギー消費量を低減することが可能となり、開発費に対する省エネ効果は絶大になります。今後、ガソリン自動車がすべて電気自動車に変わり、普通の住宅がSUFA搭載の住宅に代わったら、温室効果ガス排出量削減にはだいぶ貢献できると思っています。単純に事業を大きくしていくこともそうですが、“サステナブルな社会を実現する”という大きな意義を持って事業を進めていきたいですね」
 

文/新國翔大


参考情報
・SUFAは、ティエムファクトリ株式会社の登録商標です。



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