GAFAなど大手IT企業が自社向け半導体の開発に力を入れるわけとは~半導体入門講座(1)

半導体なくして、私たちの生活で欠かせないコンピュータが世に広まることはありませんでした。そして現在、大手IT企業であるGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)だけでなく、通信事業者やソフトウェア企業も自社向け半導体の開発に力を入れています。本連載では、半導体の基礎を解説していきますが、今回は半導体を巡る現状について具体的な事例を用いてご紹介します。

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自社向け半導体を持つようになったGAFA

今や、米国では政治問題にまで発展しているGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)はITサービス業者だ。Google、Amazon、Facebook、Apple全て最近、自分で半導体を持つようになった。中でも最初に自社の半導体を持ったのがAppleだ。Appleは、2007年最初のiPhoneとiPod touchに自社開発のアプリケーションプロセッサを搭載した。ここにはArm11のCPUコアが集積されている。

Amazonもイスラエルの新しいスタートアップ企業Annapurna Lab(アナピューナ研究所)を買収、半導体設計技術を手に入れた。FacebookもAIチップを開発することを表明している。NVIDIAの持つような汎用のGPUをAIチップに応用したものではなく、自社設計の専用AIチップを持つことで消費電力をケタ違いに下げ、性能を上げるためだ。


CiscoやNokia、Microsoftも自社向け半導体開発へ

新たに半導体チップを自分で開発するようになったのはGAFAだけではない。ハードウェアメーカーあるいはハードも持っているソフトウェアベンダーも半導体チップを設計している。通信機器のNokiaやCisco、ゲーム機というハードウェアも持つMicrosoftも自分のチップを準備中だ。特にNokiaは基地局向けのオリジナルチップを古くから開発してきた。

最近のCisco(インドで半導体設計を2000年に開始)は2019年12月、FacebookやMicrosoftにスイッチ用半導体(写真1)を供給し始めた(参考情報1)。Ciscoはインターネットのハードウェアを作っている企業ではあるが、最近はソフトウェアにも力を入れている。Ciscoは、ITベンダーの中では半導体参入の新顔である。

Ciscoが開発した半導体チップSilicon Oneは、データセンターや大型コンピュータシステムなどで使うネットワークプロセッサ半導体である。製品シリーズ名はSilicon Oneだが、今回出荷し始めた個別の製品名はQ100という(参考情報2)。


<写真1>CiscoのネットワークプロセッサCisco Silicon One
<写真1>CiscoのネットワークプロセッサCisco Silicon One


Ciscoはこの新型ネットワークプロセッサSilicon Oneを自社のルーター8000に使用しており、この専用ネットワークプロセッサをFacebookやMicrosoft向けにも販売する。ルーター8000は400Gbpsをサポートしている。自社チップの開発によって、チップのバンド幅はこれまでの2倍、性能は3倍以上、電力効率は2倍以上だという。

CiscoがSilicon Oneを持てるようになったのは、数年前から半導体部門を強化しており、2016年にはイスラエルのスタートアップLeaba Semiconductorを3億2,000万ドルで買収したからだ(参考情報3)。どうやら、今回はこの成果のようだ。

Microsoftは、データセンター用のチップをまだ外から購入しているようだ。IoTの総合プラットフォームAzure Sphereには、セキュリティを堅固にするため、ハードウェアで専用のチップをパートナーから購入している。ソフトウェアだけのセキュリティだけではなくハードウェア、特に半導体チップ(認証用チップ)を通らなければ内部に入れない。Azure Sphereのセキュリティを非常に堅固にしているといえそうだ。

Microsoftは自社でも半導体を持つため、大量の半導体エンジニアを望んでいる(参考情報4)。Googleの後を追いかけ自社製AIチップを作ろうとしている。Microsoftは、以前自社製のチップを持っていたが、ユーザーが自由に構成を変えられるものではなかった。ユーザーは、カスタマイズして他社と区別したい。そのための半導体チップなのだが、うまくいかなかったようだ。


工場を持たなくても設計技術だけで自社向け半導体は手に入る

なぜ半導体チップを持つのか? 自社のハードウェアやソフトウェアの性能を上げ、消費電力を下げて、他社との差別化を図りたいからだ。自社製チップがあれば、性能を優先するのか、消費電力を優先するのか、はたまたセキュリティを優先するのか、自分で方針を決めることができる。

しかも今は、工場を持たなくても半導体を作れる時代だ。半導体産業そのものも製造工場を持たないファブレス半導体企業が力を持つようになってきたからだ。QualcommやBroadcom、Xilinx(ザイリンクス)などファブレスで力のある半導体専業企業は成功している。

かつての日本でも半導体に参入してきた他業種があった。新日本製鉄や神戸製鋼などの鉄鋼関係とミネベアミツミのような機械部品メーカーだった。彼らはITエレクトロニクス産業を目指し、半導体が成長産業だと信じ、工場を作って運用することに価値を見出していた。

しかし、彼らが半導体を欲しがった頃から、「どうやって作るか」から「何を作るか」へと時代は移っており、工場に価値はなくなりつつあり、ことごとく失敗した。半導体を製造することが目的で、半導体で何をすべきか、という視点が抜けていたからだ。ファブレス半導体企業が成功できるのは、半導体で何をするのかその目的が明確だからである。

一方で、台湾のTSMCやUMCのようなファウンドリ(foundry,設計せずに顧客の設計データに基づいて製品作る会社)ビジネスも出てきたが、ムーアの法則に乗って微細化を進める投資に耐え切れなくなり、日本は脱落した。しかも日本は半導体を作る製造に重きを置きすぎたため、顧客が持つ半導体設計の要求を拾うことをしてこなかった。

たまに民生機器メーカーが量産チップの製造を依頼すると、日本の半導体メーカーは自分たちのラインが空いていたら作ってやる、という態度であったため、顧客は離れていった。設計者の要求を聞き入れ、製造ラインを整備しながら、自分のプロセスに合うように設計を合わせてもらうようにPDK(プロセス開発キット)を提供し、さまざまな分野の顧客を獲得し成功を収めたのが台湾のファウンドリメーカーだった。


巨大なデータセンターを有する企業が自社向け半導体を手に入れたメリットとは

Googleが半導体チップを開発、TPU(Tensor Processing Unit)と名付けた機械学習チップを発表したのは2016年、その1年前にチップを自社のデータセンターで使い始めていた。機械学習は絵や写真、テキスト、音声、翻訳などさまざまなデータを学習させておき、次に別の絵が入力されたとき、この絵は何を示すのかを認識できるようになる。まさにAIだ。その絵と同じような過去に入力し学習した絵を検索してウェブ上で表示する。

検索エンジンに強いGoogleは、音声認識にも対応している。「OK、グーグル」といえば音声認識の機能が動作を開始する。キーボードを打たなくても音声だけで入力できるのだ。この音声認識技術は、2016年にMicrosoftが単語エラー率5.9%(認識率だと94.1%)とこれまでの最も低いエラー率を実証した時から最近のAIブームが始まったというAI研究者もいる。

GoogleがAI分野でビジネスを広げたり、自動運転車でビジネスを始めたりすることができるのは、実はアルファベットと名付けた持ち株会社制を導入したためである。持ち株制度だと、新しいビジネスに参入する場合でも新たに定款を書き直す必要がなくなる上に、スタートアップ部門が最初の数年間たとえ赤字でもアルファベットとしてみれば、利益が大きすぎることがなくなり、節税になるというメリットもある。アルファベットはこの先、ITサービスを提供するさまざまなビジネスに乗り出せる体制である。

Amazonはもはや単なるeコマースの企業ではない。今やパブリッククラウドを提供するサービス業者で、巨大なデータセンターを持っている。やはりGoogle同様のデータセンターで使うコンピュータ用のチップを独自に作るために、イスラエルの新しいスタートアップ企業アナピューナ研究所(Annapurna Lab)を買収した。

GoogleやAmazonなどデータセンターを所有する企業は消費電力を削減するための努力が求められている。なにせ巨大なデータセンターには原子力発電機が1基いると言われるくらい電力を消費するため、少しでも消費電力を削減したい。すでに2014年にAmazonは、100%再生可能エネルギーを使うことを表明している。


データセンターの莫大な消費電力を自社向け半導体で削減へ

GoogleのAIチップであるTPUを導入したことによって、従来のGPUと比べ性能は99%とほんのわずか減ったものの消費電力が1/10と大きく減った。これによってデータセンターの消費電力も大きく減ったという。消費電力を下げれば前述した原発は必要なくなる。

データセンターはコンピュータサーバーやストレージデバイスを大量に並べた場所である。大量のコンピュータは冷却しなければ熱暴走を起こしてしまう恐れがある。それを抑えるため、コンピュータを冷却するのだ。ところが、データセンターやスーパーコンピュータなどでは、サーバーに搭載されている半導体演算チップが出す熱(消費電力)よりも冷却するためのファンや液冷ポンプなどの消費電力の方が大きい、という問題がある。このため少しでも半導体チップの消費電力を小さくしたい。

さもなければ発電所が必要になってしまう。インターネットプロバイダーのさくらインターネット社が涼しい北海道の石狩地方にデータセンターを設置したのは、冷却用の電力を少しでも削減できるからだった。AI専用チップだと、消費電力を削減できるというメリットがある。



クラウド化によって成長するデータセンターとその成長によって高まる半導体の需要

近年のデータセンターはクラウドの進展で、大きく成長してきている。データセンターではコンピュータサーバーを大量に並べ演算・制御する。物理的にどのサーバーをどの顧客に割り当てるということはしない。まるで巨大な1台のコンピュータのように取り扱う。

その際、重要な技術となるのが仮想化技術だ。仮想化技術は1台のコンピュータを、まるで複数台のコンピュータがさまざまなOSやミドルウエアを使っているかのように見せかける技術である。ハイパーバイザーがそれぞれの仮想コンピュータ(VM:Virtual Machine)を割り当てたり制御したりする。コンピュータを使うユーザーの規模を増やし、たくさんの企業や団体が使えるようにサーバーやストレージシステムを増やしていく。

クラウド化で顧客を増やすためにはコンピュータサーバーを増やしていくことになる。コンピュータサーバーが大量に必要になることは、それを支える半導体を増やしていくことに他ならない。だから、クラウドが成長すればするほど、半導体の数量は増えていく。

サーバー1台に使われる半導体は、基本的にCPU(中央処理ユニット)とベクトル演算専用のGPU(グラフィックプロセッサ)が使われてきたが、最近では機械学習向けにAIチップも使うようになりつつある。つまり、汎用のソフトウェアでの演算にはCPU、数値計算や行列計算などの演算専用にはGPU、ニューラルネットワークの並列演算専用のAIチップという3種類の半導体チップをアプリケーションによって使い分けるのだ。

当然メモリも必要になる。CPUやGPU、AIチップにはDRAMの容量を増やすだけではなく、大量のデータを一度にどっと読み出すアプリケーションが増えてきているため、高速性も求められる。

さらにストレージシステムでは、従来はHDD(ハードディスク装置)が大量に使われてきたが、HDDでは読出しが遅すぎる、という声が金融関係から出ており、高速トレーディングに使うためにNANDフラッシュ半導体を使ったSSD(半導体ディスク)に置き換えるという動きもある。もちろん、全てのHDDがSSDに置き換わるわけではないが、高速処理にはSSDを使われ始めている。

著者:津⽥建二(つだ・けんじ)
技術ジャーナリスト。東京⼯業⼤学理学部応⽤物理学科卒業後、⽇本電気(NEC)⼊社、半導体デバイスの開発等に従事。のち、⽇経マグロウヒル社(現在⽇経BP 社)⼊社、「⽇経エレクトロニクス」、「⽇経マイクロデバイス」、英⽂誌「Nikkei Electronics Asia」編集記者、副編集⻑、シニアエディター、アジア部⻑、国際部⻑など歴任。


参考情報

▽半導体入門講座

 

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