2020年2月26日から3日間、開催された日本ものづくりワールドは、31回目となる設計・製造ソリューション展を軸に、製造業の開発、生産、品質向上、VA/VEといったコストダウンなどに関する企業や団体が出展する展示会です。6つの展示会をまとめた構成になっていて、今回の東京、大阪、名古屋で年に1回ずつ開催されてきました。
来場者の多くは、製造業の設計、開発、研究、生産技術、製造、生産管理、情報システム、経営企画、知的財産、品質管理、工場・設備管理、購買、人事部門ですが、今回は新型コロナウイルス感染症の影響で出展ブースも来場者も例年よりかなり少なくなっていました。展示会での営業活動に期待している企業にとって、かなり困った事態になっているようです。
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産業用ロボット向け高精度ハンドリングに対応したボールネジアクチュエーター
そんな状況の中で、情報収集のために出展していた黒田精工株式会社(神奈川県川崎市)に話を伺いました。
説明してくださった営業部営業企画課の斎藤剛(さいとう・たけし)リーダーによれば、最近になって需要が増えてきた機器のさらなる販路拡大のため、従来の用途の他の可能性を探ろうという動機があったそうです。
「モノをつかむチャックは以前からある技術ですが、昔は特殊用途だったものが最近になって汎用になるという事態が起きています。これはおそらくロボット産業からの技術的なリクエストの変化が影響しているのではないかと思います」(斎藤氏、以下同)
同社が出展していたのは、産業用ロボットがものをつかむチャックの一種です。ボールネジというネジが刻まれた軸とナット間でボールが転がることで動作する送りネジの一種を使い、左右からチャックが接近して把持するという技術です。
「左右から螺旋ネジで開閉動作をするのは、以前からあった技術です。そのため、新商品というわけではありませんが、左右のネジが移動し、±0.01mm以下という精度の高い正確な位置決めが可能で、かつ取り付け姿勢を問わないこととコンパクトなことで設計の自由度が上がっています。1台のモーター・アクチュエーターで開閉の把持のチャック機能を実現しています」
このタイプのアクチュエーターは当初、高精度でケーブルの被膜をむく用途に使われ始めていたそうですが、最近は高精度でモノをつかむことが産業用ロボットで増えてきているそうです。

「同じような機構のチャックとして空気圧がありますが、空気圧はあまり精度が高くありません。弊社のアクチュエーターは、位置決め精度が高いのが特徴なので需要が伸びているのではないかと思います。半年くらい前から需要の動きが出てきていますが、どういった目的で使われ始めているのかまだよくわかっていないので、今回の出展で顧客の動向を調べようと思っていました」
このアクチュエーターは、ボールネジが左右に切られているため、一つのモーターでセットとして左右対称の動きをします。
「2つのモーターを使うより、装置が複雑にならず、コストを抑え、コンパクトにすることができています。ただ、ボールネジで左ネジの需要は以前は多かったのですが、モーターの性能が上がって左ネジを使わなくてもモーターで制御できるようになったため、最近はあまり作られなくなっています。左右からそれぞれ右ネジ、左ネジで1本のボールネジにすることで、こうした長いストロークで動くグリッパーがあることはあまり知られていないようです」
ネジの切り方は左右対称ですが、左右でネジのピッチを変えれば、開閉のストロークや速度を変えることができると言います。
「位相の微調整は手動のハンドルによって行うことも可能です。つかむものはナーバスな対象にはいいかもしれません。このような1つのアクチュエーター、1本のボールネジで左右開閉する弊社の機構の存在を知らなかったお客様も多いのです」

こうしたアクチュエーターは、産業用ロボットでニーズが高まってきている、これからの技術的分野でしょう。
筋交い建材として開発された圧縮と引っ張りに対応できるスプリング
新たな顧客獲得と販路拡大のために出展したのが住宅資材の会社、株式会社ティ・カトウ(東京都千代田区)です。説明してくださった谷野文昭(たにの・ふみあき)ゼネラルマネージャーによれば、一部、内製で組み立てをしていますが、基本的にファブレスで建築部品などの開発製造販売をしているそうです。
「今回、出展しているのは、筋交いに使う伸縮する建材で、YOULENSというスプリングシステムです」(谷野氏、以下同)
これは油圧式の制震ダンパーに近い製品で、同社社長によって開発された製品だそうです。
「同じような機構はあるようですが、弊社の社長がひらめいたオリジナルのアイデアで特許も取得しています。従来の筋交いダンパー製品は、圧縮方向にしか対応できませんでしたが、弊社の製品の場合、圧縮と引っ張りのいろんな方向に対応できます」
同じような製品の場合、部品が多ければ多いほど筐体が大きくなり、従来の機構ではスプリングを2本使っているのでコストにも跳ね返ってくるそうです。こうした難点を解決するために開発し、多機能のわりに筐体が小さくできたため、結果として全体の数を減らすことができたと言います。

「普通のスプリングは、縮む方向へ圧力を設定していても、そこから伸びる方向へ圧力が転じるとマイナスの力になってしまいます。そのマイナスの力はロスになってしまいますが、この製品ではあらかじめ一定の圧力を決めておけば、ロスがなくなります。例えば、500kgの圧力を設定しておけば、筋交いの伸びる方向への力が加わっても圧縮の力が加わっても、500kgで対応できるということですし、この圧力設定は自由になります」

サイズを大きくすれば橋梁でも使える可能性があるそうですが、逆に小さくするのはストロークが短くなって難しいかもしれないといいます。
「現在は、自転車のサスペンションなどを考えています。建築用の筋交いからスタートして、そのほかの分野で使われる可能性をこの展示会で探ろうと考えて出展しました」
銀行やスーパーで利用される広角平面ミラー
見慣れた身近なものを出展していたのがコミー株式会社(埼玉県川口市)です。奥まで目の届きにくい旅客機の手荷物棚に貼ってある広角ミラーを見かけた人は多いと思いますが、説明してくださった営業部の山中春男(やまなか・はるお)氏によれば、これはFFミラーという製品だそうです。
「FFミラーのFFの意味は『不思議な平面(Fantastic Flat)』という意味です。その名の通り、形状は平面鏡なのに見え方が凸面のように広い範囲を見渡せます」(山中氏、以下同)
フラットなのに出っ張らないミラーだそうで、特許を取得しています。

「弊社はもともとサインなどの看板業で、お店のシャッターに文字を書くような仕事をしていました。コーヒーショップの店頭で回っているような回転看板も扱っていましたが、その回転装置にミラーを組み合わせたインテリアを考えつき、それを20年くらい前の展示会に出したところ、30台くらいいっぺんに購入してくださったお客様がいました」
調べてみると、そのお客様はスーパーマーケットの方で、いったい何に使うのかと疑問に思ったそうです。
「お客様に聞くと、それを万引き防止の防犯ミラーとして使っていたことがわかりました。そこから弊社はミラーをメインに業態転換しました。弊社の製品はいろいろな環境で使っていただいていますが、屋外のカーブミラーなどを手がけている会社は多い反面、屋内用としては弊社以外にはあまり手がけている会社はいないと思います」
FFミラーの原理や製造方法は企業秘密だそうですが、材料は割れにくい特殊プラスチックです。
「FFミラーは最初、百貨店などのエレベーターに昔よくいたエレベーターガールの方に外の様子をみてもらうために試してもらいました。その結果、とても喜んでもらえました。そこから航空機の手荷物棚、ガレージ、通路、ATMなどのバリエーションが増えていきました」

幕張メッセの広い会場にはあちこち出展を取りやめたブースが点在し、新型コロナウイルス感染症の影響の大きさがわかります。主催したリード エグジビション ジャパンによれば、出展社のスタッフや来場者には発熱センサーによる検査を実施し、受付にマスクを常備して対応しているそうです。
中小のものづくり企業にとって、展示会での営業、情報収集は欠かせない企業活動であるため、出展各社や主催者は、1日でも早く感染拡大が終息し、従来通りの展示会になることを祈っていると言っていました。
文/石田雅彦
参考情報
・FFミラーは、コミー株式会社の商標です。
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