12本の人工筋肉を使った汎用無線遠隔操縦ロボットはいかにして開発されたのか

INTERVIEW

コーワテック株式会社
設計部 顧問
大橋 啓史

建機の汎用無線遠隔操縦ロボット「アクティブロボSAM」を開発し、提供するコーワテック。2001年の創業からこれまで、特装車の製造事業を手がけてきた同社はなぜ、まったく異なる事業領域であるロボット開発に取り組むことになったのでしょうか? 開発の経緯について、設計部顧問の大橋啓史(おおはし・ひろし)氏に聞きました。

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12本の人工筋肉で、200メートル先の建機を遠隔操作

建機に搭載したアクティブロボSAM
建機に搭載したアクティブロボSAM

アクティブロボSAMの特徴は、ラバーチューブを空気圧で筋肉のように操れる「人工筋肉」。人工筋肉を合計12本備えており、建機の操縦者(オペレーター)は無線送信機(コントローラー)を使って人工筋肉を動かすことで、建機の無線操縦ができます。
 
現行の無線遠隔操縦建機は、建機の製造メーカーで無線制御装置が搭載された専用の「ラジコン建機」が市販されていますが、アクティブロボSAMは製造メーカーに関係なく既存の建機に後付けで搭載ができ(搭載時間は30分ほど)、200メートル程度離れても無線遠隔操作が可能です。
 
「アクティブロボSAMは、すでに所有している一般的な建機に取り付ければそのまま無線遠隔操縦ロボットになる。それが従来のラジコン機との大きな違いです。メーカー製のラジコン機は専用の建機ですが、アクティブロボSAMは建機(油圧ショベル)のメーカーや大きさ、年式などに関係なく対応可能。必要なときに取り付けて、必要なくなったら外せるので、非常に便利だと思います」(大橋氏、以下同)  
 
また、アクティブロボSAMの無線通信は周波数920MHzで、無線資格がなくても使用が可能です。さらに、オプションで標準のバケットの他に排土板やグラップルなどのアタッチメントの操縦や車載カメラと動画像伝送装置を取り付けることができ、現場事務所などからの無線による遠隔操縦も可能となっています。
 
全体重量は約50kgと軽量で、ロボットは3個に分解して輸送ができるため、宅配便を使って遠隔地の現場に送ることも可能。また最近では、東京電力福島第一原子力発電所の廃炉現場などでも活用されています。
 
コーワテックがアクティブロボSAMを開発するきっかけになったのが、2011年に発生した東日本大震災です。東京電力福島第一原子力発電所で津波による事故で放射能が漏れるなど甚大な被害が発生。強い放射線の影響などもあり復旧作業に立ち入ることができず、多くの無人操縦ロボットを投入することになりました。そうした状況で復旧作業をいち早く安全に行えるように、油圧ショベルの無線遠隔操縦ロボットの開発に至ったのです。

設計部顧問が語る「特装車造り」とは

コーワテック 設計部 顧問 大橋啓史氏
コーワテック 設計部 顧問 大橋啓史氏

アクティブロボSAMの開発顧問を務める大橋氏は、入社以来日産自動車とともに、開発から生産までを担う日産車体株式会社の開発部門で多くの車両開発に携わり、その後はカスタムカーや福祉車両、商用特装車の製作をする日産グループのオートワークス京都で定年を迎えたとのこと。
 
「日産車体ではスポーツカーのフェアレディの開発からエスカルゴなどの小型商用車(LCV)や、キャラバン、エルグランドなどの多目的乗用車(MPV)を経験。オートワークス京都では、マイクロバスや輸出向けの特装車両を製作してきました」
 
水陸両用バスや警察車両、防衛関係車両、衛星通信車などの特装車を製造するコーワテックとは、両社が所属する一般社団法人 日本自動車車体工業会の仲間でした。
 
「コーワテックは独立系の会社で、創業以来約50年間トラックをベースにした特装車(注:正式には特種車)に強みを持っており、荷台を改造して移動販売車やレントゲン車、移動電源車など数多くの特装車を製造。オートワークス京都とは特装車のジャンルが異なるので、事業でバッティングするわけでもなく、同じ事業領域の会社という認識でした」
 
定年を機に「コーワテックを手伝ってもらえないでしょうか?」と声をかけられ、コーワテックでお世話になりました。 
 
特装車造りは「収益性は別にして、それぞれのクライアントの要望とその機能や予算、また法規を満足させながらカタチにして、最終的には認可を取ってナンバーを付けて納車になります。特に経験のない仕様ではなにかと大変ですが、みんなでゼロからモノを造っていくところがおもしろいと思います」
 
そうした経緯で、大橋氏は2013年にコーワテックに入社し、設計部の顧問として、技術レベルの向上や品質向上などに取り組みました。
 
特装車の製造事業を手がけてきたコーワテックが、無線遠隔操縦ロボットの開発に至った理由を大橋氏はつぎのように語ります。
 
「コーワテックが製作する特装車は、災害時に出動する車も多くあるので、納車した後も災害や事故などのニュースを見ると、どうなったのかなと気になります。その際、特に残念に思うのは重機で救出作業をしたいが、二次災害の恐れがあり『救出に行きたくても行けない』という状況です。
 
以前あった中央高速道路のトンネル内の天井板が落下した事故現場も、二次災害の可能性があるので、重機による救出活動ができずどうにもできない。さらに、2011年の東京電力福島第一原子力発電所の事故では、放射線量という目に見えない重大な問題もあり、重機を使った工事ができない現実があるわけです。そうした状況下でも安全かつ迅速に救出や復旧作業を何とかできるようにできないか、と思ったんです」

初号機の大失敗から、国土交通省の実証試験での成功まで

アクティブロボSAMの無線送信機(コントローラー)
アクティブロボSAMの無線送信機(コントローラー)

すでに市販のラジコン機の選択肢もある中、なぜコーワテックは無線遠隔操縦ロボットのアイデアに行き着いたのでしょうか?
 
「“災害時の建機の無線遠隔操縦”という考え方は、かつて長崎県の雲仙普賢岳の火砕流による多くの被害があり、その教訓として国の行政機関の中で、実証実験を通じて広く公募をしていました。そこで社内で、二次災害等の危険性が伴う緊急時の現場の機械作業に、無人の無線遠隔操縦ロボットによる初動対応の必要性を認識しました。
 
当時はメーカー製のラジコン建機は市販化されていましたが、受注生産で発注後納車まで半年近くかかることや、あったとしても大型の建機ごと輸送する必要があって緊急時には間に合わないなどの問題がありました。世の中にないなら我々で造れないか!と。
 
建機は全国どこにでもある。我々には特装車を造る力がある。無線装置は市販品がある。メーカーや大きさ、年式に拘わらずどこの建機でも無線遠隔操縦ができるロボットを造ろう!となったわけです」
 
コーワテックが着目した空気圧による人工筋肉は、ゴム製のチューブ構造で輸入品がありました。この人工筋肉はロボットに内蔵のコンプレッサーで圧縮空気を作り、それぞれの人工筋肉にバルブを通じて出し入れして、操作力を生み出すもので、質量対出力比は電動モーター駆動より優れ、さらには、衝撃性や耐久性、防塵(ぼうじん)性などにも優れ、厳しい現場作業の建機でも十分に性能を発揮できると考えたのです。
 
「駆動方法で空気圧以外では油圧式や電動式がありますが、油圧式は建機メーカーが有利ですし、電動式では振動などの衝撃で耐久性に問題が生じたため、圧縮空気によるゴム人工筋肉を採用することにしたのです」
 
早速、図面を引き、開発に取り組んだものの、初号機は思うような動きができず大失敗でした。開発に協力していた重機メーカーや、アタッチメントの開発会社から「何だ!動かないぞ……!」とあきられる始末でしたが、その後も開発を進めました。ロボットの動きやスペースの改善のため駆動系のレイアウトを全面的に変更したり、空圧制御のソフトウエアの見直しやゴム人工筋肉の細径化など、ほとんどを造り直ししました。
 
しかし試験をする場所がなく、生活支援ロボットの実用化と普及に取り組む神奈川県の「さがみロボット産業特区」の認定を受け、廃校を実験場として提供を受けました。こうしてロボットの試作開発が進んでいく中、2013年と2014年に国土交通省が災害や事故時の応急復旧ロボットの実証試験の公募があり応募しました。この試験は過去に噴火があった雲仙普賢岳の復興管理地を使い、次世代社会インフラ用災害応急復旧ロボットとしての実証実験を、ユーザーの立場で国交省が評価を行う、というプロジェクトでした。評価のキーワードは「現場で使えるロボットか?」でした。
 
このプロジェクトに応募し、採択され、実証実験では、国交省の油圧ショベルで、遠隔操縦も国交省の係員が行い、一般的な掘削作業などのほか、より高度なフェラーバンチャによる材木の破砕、切断、輸送などの操縦性や効率性、安全性などの商品性の検証を行いました。
 
「このカテゴリの試験には、大手メーカーを含め4社がエントリーしましたが、我々のアクティブロボSAMは致命的な大きなミスもなく終えました。この報告は後日、国交省から公開されています」

商品化の壁となった、人工筋肉のレスポンス問題

12本の人工筋肉によって微妙な操作も可能
12本の人工筋肉によって微妙な操作も可能

アイデアの着想から試作ロボットによる実証試験を繰り返すことで着実に商品改善が進んでいったアクティブロボSAMの開発。しかし、商品化にあたって思わぬ壁にぶつかります。それが操縦レバーの動きに直結する人工筋肉のレスポンスです。
 
「ゴム製の人工筋肉に空気を入れて動かす機構で、どうしても送信機のスティック操作が建機の操縦レバーを動かすまでのタイムラグが生じてしまう。特にベテランのオペレーターになると数秒/100レベルで操作感覚が判り、実際の使用では『このレベルでは使えないよ!』と指摘されました」
 
衝撃に強く、壊れにくい──そうした理由からゴム人工筋肉を活用したものの、それが結果的にレスポンスが遅く、建機の無線遠隔操縦には致命的な課題であることが発覚しました。
 
その課題を解決すべく、設計者は人工筋肉を20mm径から10mm径にし、エアバルブの変更や動作部のフリクション(摩擦)の低減化、さらにロボット本体の固定方法をより確実な方法へと工夫を重ねていきました。
 
「ベテランのオペレーターにはスティック操作に個人差があり、例えば微細な操作が必要な時と大きな操作でスピードを重視する時などスティックの操作性を簡単に変えられるようにしました。また油圧ショベルは標準のバケットのほか、材木をつかむのに便利なグラップルやコンクリートを砕くブレーカーなどのアタッチメント交換作業やその遠隔操縦が簡単にできるよう工夫しました。こうした工夫の積み重ねで、国内で販売されてるどのメーカー製の油圧ショベルでも、大きさや年式に関係なく、現場でも簡単に取付けができるようにしました」
 
こうして開発から約2年が経った2015年5月に商品の営業開始を発表。以降、さまざまな現場で使われるようになりました。例えば、直近の例では福島の除染廃棄物を処理する施設で作業者の被ばく防止のためアクティブロボSAMが採用されました。
 
今後は、アクティブロボSAMの導入先を増やすためにも、応急復旧作業だけでなく、危険性のある土木現場や伐採の林業現場、粉塵など環境の悪い工場現場などに使えるようにと言います。
 
「将来的には作業現場で必要なことは省人化でしょう。日常のルーティン的な作業であれば、オペレーターが不要なアクティブロボSAMを目指したい。そのために位置情報や画像処理、5G通信などを取り入れた人工知能を使ったSAMの商品開発を進めていきます」
 
 
文/新國翔大

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